医学界新聞

 

救急看護明日への挑戦-再考と変革

第4回日本救急看護学会が開催される




 第4回日本救急看護学会が,さる11月21-22日の両日,田口吉子会長(日医大第二病院)のもと,「救急看護明日への挑戦-再考と変革」をメインテーマに,東京・文京区の文京シビックセンターで開催された。
 今学会では,会長講演「救急看護の質保証におけるリスクマネジメント」や招聘講演「切に生きる」(瀬戸内寂聴氏)をはじめ,教育講演が「生物兵器とテロの歴史から見た21世紀の対策」(日医大高度救命救急センター長 山本保博氏)の他2題,シンポジウムⅠ「救急看護領域における基礎教育と現任教育の連携」,同Ⅱ「救急・重症集中ケアにおける家族看護」,パネルディスカッションⅠ「プレホスピタルケアの現状と今後の課題」,同Ⅱ「救急看護とIT」を企画。また,ACLSをテーマとしたワークショップや「救急認定看護師活動5年間の実績と今後の課題」をめぐるラウンドテーブルディスカッション,救急領域におけるクリティカルパスや情報開示に向けた看護記録の書き方をテーマとした交流集会,救急看護認定看護師によるセミナー「循環のフィジカルアセスメント」も開かれた。なお,一般演題は88題が発表された。

最も多いニアミス発生要因は「思いこみ」

 会長講演で田口氏は,「看護業務を『医師の診療補助』と『患者の療養上の世話』に分けると,看護師によるミスの2/3が診療補助業務において発生している。一刻の猶予も許されない状況の中で複雑な業務をこなす救急領域では,類似の医薬品や,形態・用法が似通った医療材料,医療機器などをより安全にリスクを回避しながら業務をこなす必要がある」として,救急看護の安全性を追究すべく救急領域に勤務する看護師181名を対象に,ヒヤリ・ハット体験についてのアンケート調査を実施。対象となった施設は関東近郊の救命救急センターを有する5大学病院で,3交替勤務と2交替勤務に分けて「経験年数とニアミスの回数」「ニアミスの原因」「事故防止の取り組み」などの視点から分析し報告した。
 氏はその結果から,「明け方のミス発生が最も多い」と述べ,ニアミス発生の要因について,最も多い順から(1)思いこみ(うっかり,慣れ,気のゆるみ,手順の逸脱など),(2)タイムプレッシャー(焦り),(3)作業(看護行為,準備,実施)の中断,(4)医師とのコミュニケーション不足をあげた。その上で氏は,「救急救命士による気管内挿管や除細動が実施されようとしている。また看護師の静脈注射も看護業務に加えられ,ますます専門職としての責務が問われるようになった。1人ひとりがリスクにひるむことなく看護を見据え,より新しい課題に挑戦できることを期待したい」とまとめた。

基礎教育と現任教育の連携

 シンポジウム I(司会=青森県立保健大中村恵子氏)では,基礎教育領域から明石惠子氏(三重大),石川ふみよ氏(都立保健科学大),坂口桃子氏(国際医療福祉大)の3名,現任教育の立場から安田美佳氏(北里大救命救急センター),宮沢育子氏(信州大病院)の2名が登壇。
 明石氏は三重大が実施している救急看護に関する教育について,「クリティカルケア」や「救急看護コース」の実習概要,学習成果などから紹介した。また,基礎教育が抱える問題について,現行カリキュラムや看護師国家試験出題基準からみた「教育課程における問題」や,教員の資質・実習場所の確保などの「教授における問題」の2つの視点から分析し報告。「救急看護の指導者不足」も指摘した。また石川氏は,4年次の総合臨地看護学実習で,救急車の同乗実習を行なっていることを報告するとともに,臨床との連携の重要性を説いた。さらに坂口氏は,救急初療業務の実態調査の結果から,認定看護師の雇用状況が施設規模や実態によって格差が大きく,救急看護の基準は一定ではないこと。また基礎教育においては,重症集中治療看護と救急看護学を区別して教育している教育機関はわずかであったこと,などを報告した。
 一方安田氏は,北里大病院看護部の「クリニカルラダーシステム」を紹介し,その利点に「動機づけに役立つ」や「個人目標の明確化」などをあげ,欠点としては「優先順位が不明」,「指導段階を把握できない」,「評価に格差が生じる」と指摘。氏は,それらを考慮した上での新人教育に活用できる「チェックリスト」を2001年から開発実施していることを報告した。また宮沢氏は,救急医療に従事する看護者の現任教育のあり方を検討するために実態調査を行なった結果,現任教育で最も重視されている項目因子は「安全な医療提供」に属するものであり,後回しにされている項目は「生命感と医療人の責務」と「自律した看護者」であったことを報告した。