医学界新聞

 

あなたの患者になりたい

「患者様」と患者の椅子 その2

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


 以前,「患者様」という呼び方と実際に患者さんが座る極端にお粗末な椅子を例にとりあげ,患者さんが医療でどのように扱われているのかを考えてみましたが,各方面から貴重なご意見とご感想をいただきました。
 「患者様」より「患者さん」のほうが自然だと思う,診察に便利なように丸椅子にしている,という声が大半でした。私は「患者様」がいいと書いたわけではなく,むしろもっとふつうに「患者さん」と「お医者さん」「看護師さん」と声をかけあえる関係であればいいなと感じています。
 また,例にとりあげたのは,本当に直径30センチほどの小さなプラスチック円板を乗せただけの椅子で,軽量パイプの4本脚ですから回転しません。私は,ごく低い背もたれがついていて安定感があり,診察にも便利な丸椅子に何度も座ったことがありますので,その差に驚いたわけです。
 さて,ご意見をくださった方に共通してお見受けするのは,病院づくりに後輩育てに尽力していらっしゃる熱意です。もっと患者さんから信頼されたい,少しでも前進したいという思いが強く伝わってきました。また,お目にかかって「こんなにやっているということを理解してほしい」と少し悔しげに言われることもありました。そして私はなんとなくわかったのです。
 頑張っていることが誰にも評価されないのは寂しいことです。どこかで誰かが必ず見ているのですが,何年やっても誰にも何にも言われない状態が続くとむなしくなることもあるでしょう。あるいは,きちんとやっているのに,やっていないと一方的に言われると腹が立ちます。勝手な想像ですが,私のコラムが,ぎりぎりまで力を振り絞っているのに,まだ足りないと非難しているように聞こえたとしても不思議ではないと思います。

医療者も正当に評価されるべき

 これからは,医療者が「患者様」などとよそよそしく気を遣うのではなく「こういうことがよかった」「あれはもう少しこんなふうに……」ともっと率直に伝えあえる雰囲気が必要なのではないかと思います。「患者中心の医療」は,医療者が尊重されない医療とは違うと思います。患者さんが語ることができ医療者と患者さんが協働作業する,ここまでは一般に考えられていることです。しかし私は,医療者が正当に評価され患者さんも医療者もお互いが豊かになることまで考えたいと思います。
 SP実習はあくまでシミュレーションですが,それでもSPからの感想を聞いて少しだけ元気なお顔になる医療者を拝見していますと,もっとふだんからこんな機会があればいいのに,と思ってしまいます。