医学界新聞

 

対談

アメリカ医学教育の日常を語る

日米の教育を体験した滞米レジデントとの対話

   
高階經和氏
高階国際クリニック院長・
阪大講師・名大講師・
社団法人臨床心臓病学教育研究会会長
      Kamal Ramani氏
ニューヨークメディカルカレッジ大学病院・
内科レジデント


「Ethics」を学び,「Computer Medicine」を専攻する

高階 Ramani先生,今日はお忙しいところをありがとうございます。先生のご出身は神戸のカナディアン・アカデミーとうかがっています。日本の大学へ進もうというお気持ちはなかったのですか。
Ramani カナディアン・アカデミーはインターナショナルスクールでしたので,すべてアメリカ式でした。ヨーロッパへ行けるシステムもありましたが,アメリカのほうが行きやすいと思いました。
高階 どのようにアプリケーション(願書)を出されたのですか。
Ramani 学校にはカレッジ・カウンセラーがいて,進路などの相談を受けます。アメリカの大学へ入る時には,成績だけではなく,スポーツやクラブ活動などの校外の行動をすべて願書に書き入れます。カウンセラーに,アメリカの東海岸に行きたいと希望したら薦められたのです。
高階 成績だけで評価しないことはよいことだと思います。日本では偏差値だけの評価ですので,そこに問題があるような気がします。ところで,アメリカでは4年制大学を卒業してから医学部に進むわけですから,日本の学生に比べると少し年齢が上になりますね。
Ramani アメリカでは4年間大学へ行き,それから医学を専攻するかどうかを決めます。以前は直接医学部に進む人が多かったのですが,現在は医科大学に進む前に別のことをする人たちもいます。私は大学を卒業してから2年間は,「Computer Medicine」を学んで修士号を取りました。最初はComputer方面へ進もう考えたのですが,Computer Medicineを専攻したことから医科大学へ進むことに決めたのです。大学では「化学」と「哲学」を勉強しました。
高階 どのような哲学ですか。
Ramani 私が専攻したのはEthicsです。
高階 そうですか。医師,特に臨床医には倫理観が不可欠ですから,先生が哲学を勉強されたのは非常によいことだと思います。残念ながら,「現代の日本の医学教育には哲学がない」とよく言われています。

「インターンシップ」の日常

高階 現在はどのようなことをなさっているのでしょうか。
Ramani アメリカでは医科大学を卒業した後に「レジデンシー」があります。期間は科によって異なりますが,私が専攻している内科は3年間です。その3年間のうち,1年目を「インターンシップ」と言います。私は現在,インターンシップを終えてレジデンシーの2年生です。
高階 現在のトレーニング内容を教えていただけますか。
Ramani 最初の1年間のインターンシップが一番大変で,毎日入院患者さんの手当をしました。例えば,依頼する検査の種類や,どのような薬がよいかということを自分で判断しなければなりません。ただし,1年生2人に1人の2年生のレジデントがスーパーバイズして,1年生がきちんとやっているかどうかを見ることになります。
 3年生になると1か月単位で,循環器,呼吸器,消化器という,さらに専門的な勉強を始めますから,1年生と3年生が一緒に仕事をすることはほとんどありません。
 私の病院では,1年生は全員朝7時に集まって「モーニング・レポート」を行ないます。夜勤の先生方が帰るので,30分ぐらい全員で夜勤の先生たちから話を聞きます。普通は7時半から9時頃までの間に自分の患者さんを見回り,今日はどう治療したらよいか決めます。そして,9時から11時頃まで,「ティーチング・ラウンド」があります。教授と一緒に全員の患者さんを巡回して,アテンディングと相談しながら治療方針などを議論し,助言をもらったりします。次に,午後1時から1時間のレクチャーがあります。ここには,月曜から金曜まで毎日異なる科の先生がきます。
 それが終わると,30分ぐらい昼休みを取り,再び自分の科に戻って,朝の間に決めた検査やCT,レントゲンなどをオーダーします。そしてもう一度患者さんを回診し,今日の患者さんの状態をノート,カルテにプログレスノートとして書きます。

「グランド・ラウンド」について

高階 ランチョン・パネルはあるのでしょうか。 Ramani おそらく11時から始まるレクチャーがそれに当たると思います。時々,外部から先生が来たり,製薬会社が呼んでくれたりすることもあります。
 また週に1回,水曜日の朝8時から2時間,「グランド・ラウンド」があります。そのため,水曜日のティーチング・ラウンドは午後からになります。
 グランド・ラウンドはレジデントのためだけではなく,内科医全員のためのもので,多くの場合は外部から専門の先生を呼んで行なわれます。新しいことを教えてくれるので大変勉強になります。
高階 そこへ出てこられる講師の先生は,おそらく最近の文献をすべて読んでおられるのでしょうね。
Ramani そうですね。ほとんどの先生が,多くの文献を読んでおられます。私たちも読んだほうがよいと言われます。
 1年生は時間があまりないので読めませんが,2年目のレジデントはほとんどが『New England Journal of Medicine』や『JAMA』などを読んでいます。
高階 日本の大学では,回診の時に教授は「このケースに関しては,こういうジャーナルを読むとよい」というようなことはあまりおっしゃらないのではないでしょうか。そこが大きな差だと思います。
Ramani 私の病院でも毎日レクチャーがありますが,例えば糖尿病のマネジメントについてならば,その時先生は最新のジャーナルの記事をコピーして持って来て話されます。日々,ジャーナルから情報をもらっています。また1年生のレジデントには,先生がよいと思うものをコピーして私たちに渡してくださいます。
高階 それはよい方法だと思いますね。

「教える」ことは,「勉強する」こと

Ramani 私は今2年目のレジデントになり,学生がついていますので,今度はこちらも教えなければいけない立場に立たされます。インターン1人に生徒1人がついて一緒に学びます。1年間に4週間の休みがありますから,実質11か月のうち,5-6か月間は学生がいました。学生は手伝ってくれますが,教えなければなりません。
 そういう責任がありますから,こちらもさらに勉強しなければなりません。
 私は本やジャーナルなどを調べて,最新の記事をコピーして学生たちに渡していました。他のインターンと4人のチームでしたので,週に1度交代で月曜日に20分ほど講義しました。学ぶだけではなく,教えることの勉強にもなります。
高階 人に教えることは,自分の勉強にもなりますね。
Ramani 私がインターンの時には,1人平均8-12人の患者さんを持ち,そのうちで簡単なケースを2人ぐらい学生に担当させます。もちろん,私が毎日学生のノートを見ます。もし私がわからなかったら,2年生のレジデントに聞いたり,毎日のラウンドでアテンディングに相談します。そのようにして,全員が学べるシステムになっています。

4年間の医学教育の内容

高階 ところで,日本でも最近,「臨床教授」というシステムができました。これまで大学の教授は,教育,研究,臨床をすべてやらなければならなかったのです。大病院の先生が大学に教えに来ることはあまりなかったのです。最近になって,少しずつ状況は変わりつつありますが,アメリカのようなシステムにはなっていません。学生の時から実際に患者さんを診るようにしないと駄目だと思います。
Ramani アメリカの医学校では,最初の2年間は読む勉強,いわゆる「アカデミック・ラーニング」ばかりで,解剖学や生化学,薬理学を勉強しますが,3-4年になると「クリニカル・トレーニング」と言って,すべてを病院で学びます。内科が12週,外科が12週,小児科と産婦人科で6週,最後に精神科が6週あります。それが3年生の時のコア・カリキュラムで,4年生になると4週ずつになります。私の場合,Cardiology,Neurology,Endocrinology,Radiologyがそれぞれ4週でした。すべてはできませんので選択性です。
高階 内科系か外科系かの希望は4年生の時に決めるわけですか。
Ramani ほとんどの学生は3年の終わりには決めます。例えば内科に進路を決めたら,その後は外科に移ることはできません。
 先ほど言いましたように,私は現在レジデンシーをしていますが,3年終了時に試験に通らなければなりません。これはAmerican Medical AssociationのBoard Exam.ですが,これに通って初めてボードに認められた(Board certified)内科の先生になります。その後に,もし小児科を専攻したいと思えば,小児科のレジデンシーをやり直さなければなりません。進路を変える人もいますが,レジデンシーをし直すのは大変ですから少数です。進路を決めていない人のためには,「コンバインド・プログラム」があります。コンバインされているのは内科と小児科,内科と精神科ぐらいで,後はすべて別々です。
高階 「外科」には,「整形外科」も入るのですか。
Ramani 「外科」は5年間で,それが終わってから2年間,整形外科だけをやることになります。
高階 私がいた頃から,外科の先生たちは時間がかかって大変だと思いました。
Ramani レジデンシーを終える時には,30代半ばか終わり頃になると思います。
 私の場合,内科のレジデンシーが終わるとフェローシップ,つまり専門科に進みます。Cardiologyやoncologyをはじめとしてほとんど3年ですが,スポーツ内科などのように1年だけという科もあり,選択科によって年数が違います。Interventional cardiologyを勉強したいのであれば,もう1年プラスされます。

「身体所見」について

高階 アメリカの場合,3年生の時にヒストリー・テイキングを始めるでしょう。日本の場合,それを十分にしないで,いきなりハイテクを駆使したCTやMRIといった診断法にいく傾向があります。
Ramani 実は,私はアメリカでの医科大学での4年間のうち,1年半はポーランドのワルシャワへ留学しました。東ヨーロッパで勉強したかった理由の1つは,クリニカル・トレーニングが簡単で,CTやレントゲンをあまり使わず,病歴や身体所見だけで患者さんを診断しているからです。
 アメリカでは,保険会社のプレッシャーもありますが,先生が結果を見たいというだけではなく,CTや心電図やレントゲンで,ここが変わったということを保険会社も見たがるのです。検査で証明した結果,保険会社が払うという手続きを取ることになりますから,医師が「これで退院してもよい」と思っても,最後に撮ったレントゲンがクリアでなければ,もう一度撮らなければいけないということが起こります。

「民間保険制度」について

高階 少し話題が飛びますが,お話しにありますように,アメリカでは民間保険会社のプレッシャーが相当大きいようですね。それについて少しお聞かせいただけますか。アメリカで一番問題になっているのは経済面のプレッシャーで本来のよさが失われつつあると言われていますが。
Ramani それが大きな問題になっています。入院,または退院できないということが保険会社によって決められます。
高階 日本でも健康保険の問題が大きく変わりつつあります。医療過誤や事故で訴える件数も増加しています。もちろんアメリカに比べれば,まだ件数は少ないですが。
Ramani 日本で育った私がアメリカへ行って,日本のほうがよいと思ったことの1つは,日本の健康保険システムがとても簡単なことです。日本では,健康保険を持っていればどの病院へも行けますし,どの先生にも診てもらうことができますが,アメリカで医師にかかる時に一番先に聞かれるのは,「どの保険か」ということです。保険によっては,診てもらえる場合とそうでない場合が生じるます。また,保険会社にもよりますが,最初から先生が決まっていて,この先生以外のところには行ってはいけないと言われてしまいます。
高階 保険会社が決めてしまうのですね。
Ramani そうです。例えば,私の姉はマイアミに住んでおり,最初の子どもはマイアミのマウントサイナイ病院で産みました。その後,弁護士をしている旦那さんが別の事務所に移り,その事務所の保険プランは別のものだったために,2番目の子どもを産む時には,同じ先生のところには行けなかったので,別の病院で産みました。
高階 それはおかしな話ですね。保険会社が医師のすべてをコントロールしてしまうことで,本来アメリカにあった医療のよい面が損なわれているようです。保険会社に提出するための事務処理も多いでしょう。

「9.11テロ」に遭遇して

高階 ところで,昨年9月11日の同時多発テロ事件に遭遇されたそうですが。
Ramani あの時はたまたま両親がアメリカに遊びに来ており,私は休みをとってマンハッタンのスペイン大使館に両親と一緒に行っていました。というのも,両親が結婚40年の記念にヨーロッパに旅行したいというので,私たち子ども3人でプレゼントし,そのビザを取るためだったのです。
 大使館に着く直前に姉から電話で,「ワールドトレードセンターに飛行機が突っ込んで来たので,早くマンハッタンから出ろ」と言ってきました。最初は何のことだかわかりませんでしたが,やがて黒い煙,雨が降るような黒い煙が見えました。地下鉄が使えませんので,ダウンタウンのほうから人が大勢急ぎ足で歩いてきて,北のアップタウンに向かっていました。私は両親を車に乗せて,姉の家があるニュージャージーへ向かいました。途中でニューヨーク市内の学校に通っている姉の子どもたちを乗せたりして,普段は30分の道のりで済むのですが,11時間ぐらいかかりました。
 その時,私は神戸の震災の時のことを思い出しました。あの時もたまたま冬休みで日本に帰っていたので,震災直後は,親や友だちを連れて車で大阪まで10時間かけて行きました。
高階 神戸大震災も体験されたのですか。
Ramani ええ。9月11日の話に戻りますと,私は姉のところへ戻ってから病院へ電話をかけ,忙しいかどうか聞きましたが,「混乱していてわからない」と言うので,病院へ行くことにしました。
 マンハッタンへ行くための橋やトンネルは,すべて通行止めにされていましたが,私は医師のIDを見せて通りました。病院には思ったほど患者さんはいませんでした。ほとんどの人は現場で亡くなっていたからだと思います。病院に来たのは,現場で作業に当たった警察官と消防隊の人たちばかりでした。1日中爆心地にいて煙を吸ったり,ケガをしたりという人です。私はその時,インターンシップの期間で,1か月間ERに当たっていましたので,その人たちを診察したり,また縫合をしたり,smoke inhalationの人にネブライザーを渡したりして大変忙しかったです。ほとんど全員が日中は爆心地で作業をしている人たちでしたから,夜が大変でした。警察官や消防隊員は,夜,病院で手当てし,また次の朝は現場へ戻るという状態でした。
 私は夜勤でしたが,手当をしている時に,警察の人が現場で撮った写真を見せてくれたりしました。私自身は現場に出ることはありませんでしたが,ERや内科の先生が出ていました。患者さんはほとんどいなく,することといえば死体を運んだり,遺体の部分を拾ってバケツに収めることだけだったそうです。
 その時期に爆心地に行けたのは,警察官と消防士と医師だけでした。死体などを見ることになりますから,一般のボランティアは行かないほうがよいという判断だったようです。私の住まいは爆心地から2キロもないくらいでしたので,1週間ほどアパートへ帰れませんでしたから,両親と一緒に姉のところに寝泊りしました。
高階 大変な経験をなさいましたね。私も友人がいるので,あの時はメールを送りましたが,すぐに「大丈夫だ」という返事がありました。
Ramani 私も世界中の友人や親戚からメールや電話をもらいました。正直言いまして,こんなに大勢の人が心配してくれたのかと実感して,非常に嬉しかったですね。
高階 あの事件以降,アメリカが団結したように感じましたがいかがでしょうか。
Ramani ご存知のように,ひと口にアメリカ人と言っても,アメリカで生まれ,アメリカで育った人だけではありません。世界中の異なった国から夢を持ってアメリカに,はるばるやって来て,それを実現した人たちがたくさんいます。アメリカに対して感謝の気持ちを持っている人は多いでしょう。私もそのうちの1人です。アメリカへ行って医師になれ,おそらく世界で一番よい医学教育を受けていると思います。それは,アメリカに渡ったからできることだと思います。たぶんその感謝の思いは,多くのアメリカ人以外のアメリカにいる人たちが持っているものだと思います。
高階 他の国へ行って自分の夢を実現させることはよいことだと思います。もう何十年も前ですが,私もアメリカで内科のトレーニングを受けた時に,そのよさを日本の人たちに伝えていきたいと思いました。それは現在も変わりません。私たちがアメリカでよくしてもらったので,それを次の世代の人に伝えたいと思うからです。それが今の私のresponsibilityだと思います。きっと時代を経ても変わらないものですね。
Ramani 英語に「Land of opportunity」というイディアムがありますが,そのままです。アメリカにあるopportunityはどこにでもあるというものではないと思います。
高階 そういう意味では,他の国ではなかなか経験できないことを常に経験されているわけですね。

アメリカの医学教育を体験して思うこと

高階 ところで,先生がこれまでどうやって勉強なさってきたのかをうかがいましたが,日本の学生のバックグラウンドとはずいぶん違うものだと感じましたが,実際に体験なさってどのようにお感じですか。
Ramani まず第一に,日本では高校を終わるとすぐに医学部へ進みますが,17-18歳で進路を決めてしまうのは早すぎると思います。まだ勉強らしい勉強もしていないし,人生経験と言えるほどの経験も積んでいないと思います。私は医学部に進む前にコーネル大学にいましたが,その時にボランティアとして病院に行き,将来何をしたいかを一生懸命考えました。最初に言いましたが,Computer Medicineを勉強していた時にも,神戸大学の第一内科で3か月間研修を受けました。そういうことがあって,医師になることを決めました。
 高校生の頃にはなかなかそういう決断はできなかったと思います。
高階 おっしゃるように,人生経験を積むことと,常識を持つことが必要でしょう。
Ramani アメリカで過ごした4年間,独り暮らしを経験して,新しい友だちをたくさん作りました。コーネル大学には世界中から生徒が来ています。神戸にいた時は,私は成績がよかったのですが,大学では全員私より上でした(笑)。
 神戸にいた時のクラスは80人でしたが,コーネル大学はアイビーリーグで一番大きな学校ですので,全学科を合わせると1学年で4千人ということもあります。そこで出会った人たちからは,授業のことだけでなく,人生や世界のできごとについていろいろ学びました。私にとっては,それはかけがえのないことだったと思います。
高階 いま言われたことが,今日の対談の結論になると思いますが,先生がこれから医学部の勉強ではこうしたらよいと思われることは他にありますか
Ramani 今申し上げたことが1つです。それから,試験だけで決めるのもよくないです。医師になる人は,勉強ができるだけとでは十分ではありません。アメリカで言う「リーダーシップ」がなければ絶対に駄目です。患者さんからみれば,やはり医師がリーダーですから,そういうパーソナリティを持っている人が最適だと思います。もちろん勉強はできなければいけないと思いますが,野球チームのキャプテンをしたり,クラブのプレジデントを務めたりする経験が大切だと思います。
高階 やはり,実際に行動しないといけませんね。リサーチワークをしている人は別として,臨床医はアクティブに患者のために動かなければ駄目だと思います。

ある状況下での日米における意識の差について

高階 話は変わりますが,現在ニューヨークで腫瘍学専門家として開業している,私の後輩のドクター・高が,今年の春に淀川キリスト教病院で「日米の医療事情の現状」という話をされました。
Ramani 現在,私と同じニューヨークにおられるのですね。
高階 ええ。その時の話なのですが,ドクター・高が腫瘍学を専攻する前に心理学のテストを受けたというのです。その内容は,次のようなものだったそうです。
 「幅はそれほど広くないが,急流の川が流れている。その川の手前にAという人がいて,対岸にいるBが好きなのでどうしても会いたいと思っている。BもAに早く川を小舟に乗って渡ってくるように言うのですが,Aは1人で急流を渡る自信がない。たまたま横を見ると,Cという人がいる。そこで,AはCに『何とかBのところに連れて行ってくれないか?』と頼んだ。CはAに相当の手数料を請求したが,その結果,AはCの助けで川を渡りBのところに行くこができた。ところが,BはAに『一人で来れないような力のない人には会いたくない』と言って,その場を立ち去った。途方に暮れたAは,少し離れたところに立っていたDにことの一部始終を話した。Dはすべての状況を聞き,Aに同情した」
 話はここまでなのです,とドクター・高は言われました。
Ramani それからどうなるのですか?
高階 ドクター・高は続けて,「今お話しをした状況下に4人の人がいます。この中のABCDのどの人間にみなさんは人間的魅力を感じるでしょうか?」と問いかけました。Ramani先生だったら,どの人間に魅力を感じますか?
Ramani 私はCだと思います。アメリカだったらきっと皆そう考えるでしょう。
高階 ところが,淀川キリスト教病院のドクターの多くはDと答えました。
Ramani なるほど,それは意味がありますね。かつて湾岸戦争の時に,日本が経済支援を行なっただけで,実際には国際的支援活動をしなかったと批判されました。日米では考え方にもこんなに差が出るのですから。しかし,私は日本でもいろんな意見の方がおられると思います。
高階 日本にも昔から4つの人間の行動パターンとして,「有言実行」「有言不実行」「不言実行」「不言不実行」というものがありますが,ドクター・高の言われたABCD型人間とは相通じるものがあります。
Ramani 面白い話ですね。

「医学領域におけるグローバリゼーション」と「生涯教育」

高階 ところで,最近は「グローバリゼーション」ということがどの分野でも話題になっています。そして,「医学領域におけるグローバリゼーション」ということが問題にされます。どの国でも同じレベルの臨床の力を持つべきだと言っている方がいますが,これについてはどう思われますか。
Ramani 私は研修生として,日本でもヨーロッパでも勉強していますが,正直申し上げて,アメリカの教え方が最も進んでいると思います。そういう経験をする僥倖を得ましたので,できれば将来はアメリカで学んだことを日本で教えたいと思います。
高階 実は私が17年ほど前から思い描いてきた「Asian Heart House」のコンセプトは,その意味でまさに日本のドクターだけに対してではなくて,近隣諸国の人たちと同じように勉強ができる場を作りたいというものです。私がいままで一番気になっていたことは,ベーシックのトレーニングを教える人が日本にはいないということです。その指導医を作ることが私の仕事ではないかと思います。そのために「Cardiology Patient Simulator」の『イチロー』を作りましたが,臨床手技の修得に大変メリットがあります。日本でも,やがて国家試験にOSCE(客観的臨床能力試験)が導入されるとあって,この3-4年間で200台ぐらい出たようです。
Ramani 私は2年目のレジデントでして,まだ学んでいるところなのですが,10年後,20年後に教える側になっても,ずっと学んでいきたいと思います。
 先ほども言いましたように,私の大学のグランド・ラウンドでは60代,70代の先生たちが来られますが,その方々も毎週新しいことを学んでいます。そういう考え方は大切だと思います。医師は大学を卒業したら勉強はそれで終わりというのではなく,生涯にわたって学び続けていかなければいけないと思います。
 アメリカではレジデンシーが終れば試験を受けますが,それにパスした後にもrecertificationがあって,10年ごとに試験に通らなければなりませんので,卒業したら教育・学習はそこで終わりということはありません。教えるだけでなく学び,学ぶだけでなく教えることは大切だと思います。
 アメリカでは,勉強しないと若い先生たちに負けてしまいます。それが恐いから,すべての先生が勉強します。年が上であることも,経験年数が上であることにも関係なく,一番できる人が一番上に立ちます。ですから,アメリカでは人に負けないように皆頑張って,仕事をしながら勉強を続けています。日本はそうではなくて,年功序列ですね。そこが一番違う点だと思います。
高階 生涯を通じたmedical educationが大事だということですね。
 「言うは易く,行なうは難し」と言われるように,生涯教育は口では簡単に言えても,実際の診療で毎日忙しい先生にできるのかとなると,それは大変難しい。思うようにできない人もいますね。
Ramani もちろんそう思います。
高階 しかし,私はやはりいつでも新しいことを学びたいですね。その気持ちをずっと持ち続けていきたいと思っています。
 今日はどうもありがとうございました。
(おわり)






【Kamal Ramani氏プロフィール】
1978~1991:Canadian Academy International School(Japan)
1991~1995:Cornell University(USA)
1995/9~12:Columbia Univeisity(USA)
1996~97:New York University(USA)
1997~2001:Medical Academy of Lublin(Poland)
2001~New York Medical College(USA)