医学界新聞

 

【緊急報告】「看護人員不足は生命に関わる」JAMA掲載記事より

阿部俊子(東京医科歯科大学大学院保健衛生学研究科)


適正人員を配置していないリスク

 「看護人員不足は31%の生命のリスク増加になる」
 USA Todayの10月23日号がこのようなタイトルで記事を掲載したが,それはペンシルバニア大学のLinda H. AikenらによるJAMA(Journal of American Medical Association)Vol. 288. No. 16紙上で発表された研究結果である。米国のテレビでは,即日その研究を取り上げていた。JAMAの緊急報告を聞いたのは,米国アメリカ看護協会で,米国のナースの適正人員配置に関してヒヤリングをしている最中であった。
 この研究結果は,危険の少ないはずの一般的な手術で,病院が適正人員配置を行なっていない場合のリスクである。ペンシルバニア大学が,168病院で1万人以上のナースを対象として調査を行なった。さらに,23万2342名の外科と整形外科の一般的手術の医療カルテを調査した。病院におけるナースの適正人員配置は患者4対ナース1である。担当患者が1名増える(5名になる)と,一般的な手術で患者が死亡する率は7%上昇する,という調査結果となった。担当患者の増加にしたがって,ナースの疲労は増加して,危険なミスを生じる段階である。最大で1名のナースが8名担当しているケースもあった。米国の平均在院日数は5日くらいである。したがって,患者の重症度も日本と比較すると非常に高い。

看護は何を守らないといけないのか

 米国全体のナース不足もあって,超過勤務も増加している。16時間のシフトになる場合もあって,このような疲労常態では,死亡に至るような合併症も見逃す可能性があるとAikenは言及している。このような過重労働は,ナースのバーンアウト(燃え尽き症候群)で,見逃しも増えるとAikenは言う。ちなみに米国におけるナースの平均年齢は44歳くらいである。米国看護協会の話では,「米国全体のナースが不足しているのでなくて,急性期のナース不足が深刻である」とのことであった。
 病院は,ナースの人件費削減をコスト削減の最初の標的とする。この研究結果に反して,米国病院協会の看護担当者は,費用削減ではなくて,ナース不足で十分な人員が雇用できない,非常勤ナースの雇用でケアの質は保とうとしている,とコメントしている。さらには,Aikenの研究は想定予測でしかないので,患者の重症率などが考慮されていないと,米国病院教会ではコメントしている。
 米国では9万8000人が医療ミスで死亡しているとされるが,2万人が看護の過重労働で死亡していると推定された。これは医療ミスの5番目になる。看護レベルの低下と患者ケアを調査したものだが,米国におけるナース不足と,病院におけるコスト低下のための看護人員削減で,標準ケア以下のケアしか提供できない人員までになっている場合もある。米国看護協会会長のBarbara Blakeneyは「危機的状況」と表明している。
 もしナース1対患者4名の場合に100名の患者が死亡すると仮定すると,1対5では107人,1対6では114名,1対7では123名,1対8では131名死亡するという研究結果となっている。しかしながら,ここで言われている人員配置とは,病棟全体ではなく,シフトごとの必要人員である。
 日本における人員配置と米国の事情は大きく異なる。第1に患者の平均在院日数と急性期が異なる。第2に看護の職務範囲が異なる。最後に,医療の標準化の問題もある。この同じ研究を日本で行なっても前述の理由で結果は出ない。しかしながら,この研究で提言されているのは,医療を取り巻く環境の変化の中で,今後の変遷を鑑みて,看護がどのようなアクションを起こしていかないといけないのか,ということである。
 すなわち,医療費の削減で看護は何を守らないといけないのかを,看護以外の職種に提言していくための方法論を明確にしていく必要があるということであろう。