医学界新聞

 

ロービジョンケアの体制を求めて

第3回日本ロービジョン学会が開催される




 第3回日本ロービジョン学会が,さる10月13-14日の両日,山縣浩会長(宮城教育大)のもと,仙台市の仙台市青年文化センターで開催された。
 今学会では,特別講演 I「豊かなコミュニケーションを求めて」(東大最先端科学技術研究センター 福島智氏)や同 II「難治性眼疾患に対する治療研究の現状」(弘前大中澤満氏)をはじめ,招待講演「中国特殊教育の現状と未来」(中国・東北師範大 張明氏),シンポジウム「理想のロービジョンケア体制を求めて」(司会=兵庫医大 山縣祥隆氏,千葉県医療技術大学校 工藤良子氏)が企画された他,学術展示・一般演題系27題の発表が行なわれた。


特別講演・招待講演から

 特別講演 I を行なった福島氏は,盲聾の障害を持ち「日本のヘレンケラー的存在」として知られるが,視覚・聴覚障害による生活の中から見出した「指点字」について解説。指点字は,両手の指を使って信号として言語伝達をするもので,点字タイプなどより速報性があり,コミュニケーションがとりやすい。ただし手話とは違い,両手をつなぎ,握り合っているように見えるため,誤解を受けることも多いこと。病院で点滴,血圧測定を受ける時やX線写真をとる際の重複障害ゆえの不自由さ,外のトイレに女性通訳者(介護者)が入って来られない不便さなどを,自身のエピソードを交えて語った。また,指文字を使うことで人とのコミュニケーションが復活し,生きる上での基礎的手段となったことを述べるとともに,介護者には「サポートする時には,あせらず落ち着いてほしい」との要望も呈した。
 また特別講演 II を行なった中澤氏は,2001年1-12月の弘前大病院眼科でのロービジョン患者77例のアンケートから,40%が自殺を考えたことなどを報告するとともに,難治性眼疾患に将来有効と考えられる治療法として,(1)薬物療法,(2)遺伝子療法,(3)人工網膜,(4)網膜移植,(5)再生医療をあげ,それぞれについて解説した。
 さらに,招待講演で張氏は,中国の「特殊教育(special education)」は,主に「心身に欠陥のある児童の教育」を指すが,広義の解釈では「天才児」を含める,と前置きし,1874年にはじまるその歴史や関連機関,法律と規定などを解説。障害児の現状については,2000年人口12億人で推算し,6500万人(0-18歳:1300万人,6-14歳:750万人)であり,基礎教育における特殊教育学校数は1531校(在校生徒:38万6400人,専任教員数:3万1000人),盲,聾,精神薄弱児の平均総就学率は約60%であると報告した。なお,障害児者を受け入れている大学は9校とのこと。特殊教育の未来への課題として,(1)政府の重視と民衆の認識,(2)最低限の生活保障,(3)就学率の増加,(4)障害者の素質の向上,(5)就職のための職業訓練をあげた。

ロービジョンケアの課題解決に向けて

 「分野,職種間のバリアについて考えよう」と企画されたシンポジウム(写真)には,眼科医の立場から安藤伸朗氏(済生会新潟第二病院),視能訓練士の立場では渋谷政子氏(岩手県立中央病院),教育からは小田浩一氏(東女大),福祉の立場からは篠島永一氏(日本盲人職能開発センター),行政からは坂本洋一氏(厚生労働省社会援護局)の5氏が登壇。
 安藤氏からは,ロービジョンケアに対しての眼科医の理解不足が指摘され,その要因として「医師は病人のcureには関心があるが,障害者のcareにはあまり興味がないこと。保険点数化されていないためにお金にならない。医学部教育の中に組みこまれていない」をあげた。また氏は,「こんな医師に診てもらいたくない」とのアンケート結果から,「十分な説明をしてくれない。専門用語で話す」を筆頭に,スタッフとの雑談,スタッフを怒鳴る,20歳代の医師,研修医,もあったことを報告した。
 さらに,「ロービジョンケアは眼科医だけでは対応できない」として,多くのサポーターによるアプローチの必要性とともに,情報のネットワークが重要になると指摘。その上で,現実の問題解決に向けて,ロービジョンケアの保険点数化,他業種との連携,教育の普及,医療・福祉のネットワーク化の実行を促した。