医学界新聞

 

BOOK REVIEW


「医者」という職業の意味を発見する100の物語

医者が心をひらくとき(上・下)
A Piece of My Mind
ロクサーヌ K.ヤング 編集/李 啓充 訳

《書 評》鈴木荘一(日本プライマリ・ケア学会副会長/鈴木内科医院長)

 本書の意義については,ノースウェスタン大学医学部「倫理と人間性の価値についてのプログラム」キャスリン・モントゴメリ博士が序文に的確に述べておられる。その序文の内容をほんの要点だけを以下に紹介してみたい。
●本書は,JAMA(アメリカ医師会誌)のコラム『A Piece of My Mind』から編まれた主に医師,時に患者らによって書かれた100篇のエッセイ集である。
●本書は,医学生臨床教育の話で始まり,おそらくベテランの教育者である医師が,絶望的な病気で自分が若い医師の患者となる話で終わる。
●著者たちは世界に挑戦したり病気を征服しようという「白衣の戦士」ではない。患者とその家族をケアしながら,常にさまざまな考えや思いを抱える人々であり,恐怖や嫌悪感を克服しながら,自分たちの職業の意味を発見する。
●長い1日の終わりに,ほっとするような体験話も読むことができる。
●そして何よりも,経験豊富な医師たちが身につけた知恵について語られるだけでなく,そのような知恵を身につけることがどれだけ困難で苦痛を伴うものであるか,いかにして死と対峙し,どのようにして医師としての感情を制御するのか,生き残るためにはどうすべきか,そして,医の一生にはどのような報償が待っているのかという,これまでに語られることのなかったカリキュラムが明らかにされている。

精神風土の違いを越え感動を呼びさます

 したがってこの本は,医師を主とした医療人の体験した患者との心の物語である。米国という多民族国家の中で,医師らの心の内が告白され,それが,異なる精神風土の中で活動している私たちにも感動を呼びさますのは,翻訳された李啓充氏が,「あとがき」に述べているように,どなたも「人間の顔」を向いて,かなり文学的に書かれているからだと思う。まさに「心のケーススタディ100例」であり,それぞれの「物語」を通じて医療とは何かを考える機会となる。
 永年にわたり「人間の医学」そして究極の医学として「プライマリ・ケア」を主張してきた,同じ医療に携わる者として私は,この書を大いにお勧めしたい。医学生,研修医のみならず,多くの臨床医,そして看護師ら医療人にもぜひお読みいただきたい。李啓充氏は,豊富な語学力を駆使して翻訳され,これら物語の中の特殊用語の解説も加えている。

〈上巻〉四六判・頁314 定価(本体2,000円+税)
〈下巻〉四六判・頁330 定価(本体2,000円+税)
医学書院