医学界新聞

 

必修化で臨床研修の中身は本当によくなるのか?

臨床研修必修化めぐり 医学連がシンポジウム開催


 さる10月12日,東京の野口英世記念会館で,医学連(全日本医学生自治会連合)主催による「必修化目前!!卒後研修を考える大集会」が開催され,全国から医学生を中心に約200名が参集した。
 本号では,その中から藤崎和彦氏(岐阜大助教授)による講演およびシンポジウムの様子を紹介する。


 「卒後研修基礎講座」と題して講演した藤崎氏は,まず,「コモン・ディジーズ」「患者の抱えるプロブレム」「初期救急」への日本の医師の対応には問題があり,現在の教育では不十分であると指摘。それを改善するためにも,「必修化後のプライマリケア重視は必要だが,ローテート研修では,各医局で処方箋や検査伝票の書き方,カンファレンスの持ち方も異なるのが現状であり,各科の専門医が教えたいことと研修医が学びたいことにズレが生じやすい」などの問題点をあげた。
 さらに,藤崎氏は臨床研修の改革を実りあるものにするためには,「指導医の体制づくり」「教育の中身の充実」「患者の負担増とは別の財源の確保」「マッチングなどの情報を短い期間でいかに周知するか」などが重要になるとの考えを述べ,講演を結んだ。
 続いて行なわれたシンポジウムでは,4名の演者が登壇。まず,厚生労働省で必修化を担当する田原克志氏(医事課課長補佐)は必修化後の制度設計を概説した。その中で,マッチングについては「うまくいくように準備を進めている。実施にあたり,説明の機会を設ける」,指導医については「養成の講習会をできるだけ受けてもらい,その上で指導していただく」と述べた。特に,いまだ結論を得ていない「処遇」と「マッチング」については,議論を公開し情報を提供していきたいとした。

実りある研修は実現するか

 次に発言した北村聖氏(東大教授)は厚労省新医師臨床研修制度ワーキンググループのメンバーの立場から,これまでの議論の経過を紹介。その中で,小児科,産婦人科,精神科などが必修科目とされたことについて触れ,「連合や経団連の委員などの意見が説得力を持った。子どもや女性の健康,心の病への対応など,国民が医師に求めるものは,われわれの考えているものよりも高い」と述べ,医学・医療界がそれに応える必要性を示唆した。その一方で,研修内容に多様性を持たせること,研修の修了の認定を全国レベルのスタンダード・体制で行なうことの必要性を主張した。最後に,北村氏は「医師の教育は2年の研修で終わりではない。常にいつまでも学ぶ姿勢を持ってほしい」と参加者に訴えかけた。
 地域で優れたプライマリケア研修を行なっていることで知られる舞鶴市民病院の松村理司氏(副院長)は,優れた臨床教育能力を持つ外国人指導医を定期的に招聘する同院の取組み(弊社刊『大リーガー医に学ぶ』に詳しい)を紹介しつつ,日本の研修現場には,「お手本になるようなロールモデルが欠けている」と指摘。また,必修化により,大病院から中小病院へ研修場所のシフトが起きている現状については,「その施設で本当にプライマリケアの研修を受けることができるのか真剣に考えなければならない」と述べた。
 最後にかつて医学連委員長も務めた中野治氏(奄美中央病院医師)は,「研修を受ける主体側の運動として医学連は社会的に注目されている」「必修化が実のある形で実現していくか,評価していくことが必要だ」などと述べた。