医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


簡潔な文体と豊富なシェーマでIVRテクニックを解説

IVRマニュアル
打田日出夫,山田龍作 監修/栗林幸夫,中村健治,廣田省三,吉岡哲也 編集

《書 評》岡崎正敏(福岡大教授・放射線医学/日本血管造影IVR学会理事長)

 臨床の現場でInterventional Radiology(以下IVR)は,重要な近代医療部門として内外で認知されるところまできている。
 本邦における全国レベルでのIVR勉強会は,1982年の日本血管造影IVR研究会発足以来,1995年に学会と移行し,20年が経過している。
 20年前からIVR研究会・学会の際,最先端のIVR,症例数,成績,適応,技術,新しいdivice,基礎実験,術前・術中・術後管理などの発表,討論の中心となったのは関西のIVRistたちであった。IVR学会関西地方会の延長が,全国のIVR学会であるというような感じを持つ人も少なくなかった。本書『IVRマニュアル』の監修者である打田日出夫IVR学会前理事長,山田龍作前理事のお2方のスーパーマン的リーダーシップによるところ大である。

現場に即したIVR経験の集大成

 本書は,この20数年来の本邦,特に関西地区のIVR経験の集大成ともいえるプラクティカルなIVRマニュアルである。本書の特徴について,以下箇条書きに述べさせてもらうこととする。
 (1)出身母体の異なる編集者お4方(栗林幸夫,中村健治,廣田省三,吉岡哲也の各氏)の忌憚のない意見交換による執筆者の選択や編集が,内容の向上に最大の貢献をしたものと考えられる。出身大学や医局講座の壁を越えた従来にないマニュアルといえる。
 (2)執筆者陣は,大御所から新進気鋭の関西地区若手医師まで多岐にわたっているが,適材適所の人選で,臨床の現場に即したIVR全域を網羅したマニュアルである。
 (3)非常に簡潔な文章とわかりやすいシェーマとが相まって,IVR現場でマニュアルを参考にしながらIVRを施行する機会も多いものと考えられる。
 (4)IVR手技を熟練して初めてわかる解剖や手技のシェーマが適材適所にちりばめられているのも読者の心を和ませ,IVR意欲をかきたてるものと言えよう。
 (5)IVRがチームプレイであり,医師・放射線技師・看護師の三位一体の重要性も考慮した新しい企画と言える。コメディカルの方々にも大変勉強になるマニュアルである。
 (6)現在IVRに直接従事されていない医療従事者にも,ぜひ読んでいただきたい書物である。カンファレンスやインフォームド・コンセントを得る際,きわめて利用価値のある書物と考える。
 最後に,このような臨床の現場で有用なマニュアルを執筆してくださったIVRistに感謝するとともに,次は日本全国レベルでのマニュアル作製に向かって,皆で努力できる態勢を作りたいものである。
A5・頁348 定価(本体5,800円+税)医学書院


医学の王道 内科はたしかな教科書で

新臨床内科学 第8版
高久史麿,尾形悦郎,黒川 清,矢崎義雄 監修

《書 評》瀬戸口雅彦(東医歯大医学部6年)

歴史的転換期の『新臨床内科学』第8版の出版

 2002年は日本内科学会創立100年目にあたり,また京都で「第26回国際内科学会議」が開催されるなど,日本の内科学界にとって,大きな節目となる年となった。また,コア・カリキュラムや臨床実習前共用試験の導入,卒後臨床研修必修化も決定されるなど,医学教育の分野でも大きな変化が起こっている。そのような医学界にとって歴史的な時期に,内容,装丁を新たにした『新臨床内科学』第8版(以下,第8版と略す)が出版された。
 内科学の教科書はすでに複数の出版社から刊行されているが,今回出版された第8版は,既刊の内科学教科書では使いにくかった点が改善されており,とても使いやすい画期的なものになった。第8版が,どのような特色をもっているかを述べてみたいと思う。

大幅に充実した内容,最新2001(平成13)年版国試ガイドラインに準拠

 かつてある高名な大学教授が仰ったとおり,「教科書に書かれたことは過去の医学である」かもしれないけれども,われわれのような医学を学び始めて間もない学生は,まず「過去の医学」を吸収することから始めなければならない。そのために,まず疾患概念や病態生理を理解し,これを土台にして臨床所見,検査,診断,治療を論理的に導きだせるようになることが1つの目標となってくるが,第8版では疾患概念,病態生理,検査,診断,治療法も,表や図をふんだんに用いてわかりやすく書かれているので,この目標が達成されることは難しいことではないだろう。さらに,本文は,読んだ後にも大変印象に残りやすい2色刷りが採用され,また以前は「口絵参照」か「白黒写真」だったものが,今回初めて本文中にカラー写真を掲載するなど,改訂前と比べて内容の質・量とも,大幅に充実したものとなった。定価が類書に比べて格段にリーズナブルな点も,学生にとっては大変ありがたい。
 もちろん,教科書に書かれたものが「過去の医学」であっても,内容は最新のものが望ましいのは言うまでもない。第8版は,どの既刊の内科学の教科書よりも断然内容が新しい。ここ数年に起こった疾患概念の変化や新しい診断法,治療法なども盛り込まれている。また,現在出版されている内科学教科書のほとんどが1997(平成9)年版医師国家試験ガイドラインに準拠しているのに対して,第8版では最新の2001(平成13)年版ガイドラインに準拠しているため,大学で初めて内科学を学ぶ学生でも安心して使うことができる。最新情報は常にon-lineで検索するという学生ですらも,一読する価値のある内容であろう。

読者にやさしい多数の「仕掛け」

 学生の間は,「調べる」,「書く」,「発表する」という作業を,何度も繰り返し行なうことになる。それは図書館の中だったり,教室の中だったり,仲間との勉強会の時だったり,臨床実習中ならば医局の中でだったり,さまざまな場所でこの作業は行なわれる。このような時に教科書を利用する場合,持ち運びに便利であるということと,索引のできという2点が重要になってくる。第8版では,長年の学生の要望に答える形で,内容的にも過不足のない3分冊版となった。さらに,各巻ごとに総索引,参考資料がついており,必要としている情報にすばやくたどり着ける読者にやさしい「仕掛け」が随所にちりばめられている。特に,総索引が別冊でなく,各巻末についているという配慮は,日頃書物を持ち歩くことの多い学生にとってどんなに助かることか!
 医学に限ったことではないが,学問を修める場合,どのような書物にあたって知識を習得するかということは,師匠選びと同様に重要なことである。また,「すべての臨床医学の基礎たる内科学」,「医学の王道は内科である」と言われるように,内科学は臨床医学の骨格をなしている。このことは,内科学を最初に学習すれば他の臨床科目の理解が容易になるという事実から,学の浅いわれわれ学生ですら痛感するところである。したがって,どの書物を使って内科学を勉強するかということは非常に重要と言える。『新臨床内科学』第8版を核として内科学の勉強を進めていけば,まず間違いはないだろう。
〔1冊本〕
B5・頁2234 定価(本体20,000円+税)医学書院
〔3分冊版〕
B5・頁2552 定価(本体20,000円+税)医学書院


本作りの達人の妙がさえる救急画像CT診断

ここまでわかる 急性腹症のCT
荒木 力 著

《書 評》中島康雄(聖マリアンナ医大教授・放射線医学)

 教科書作りの達人,荒木力先生の『ここまでわかる 急性腹症のCT』を紹介する。
 構成は総論が省かれ,症例中心の各論でまとめられている。つまり,ヘルニア,虫垂炎,腸管虚血,イレウスなど日常遭遇する頻度が高く,かつ画像診断が有効に働く領域を症例ごとにまとめて提示している。症例提示はクイズ形式で年齢,性別に続いて簡単な臨床像が示され,キーとなるCT画像がならんでいる。引き続いてCT所見,臨床診断が示された後,治療方針が記載され,最後に疾患について説明が加えられている。クイズは必ずしも症例の診断名だけでなく,治療方針や診断プロセスについても尋ねられているので,臨床現場で放射線科医がコンサルタントとして知っておくべき知識の整理にもつながる。

群を抜く解明なCT画像とわかりやすい解説

 ここまででもCT画像の鮮明さや解説のわかりやすさは群を抜いているが,この教科書で特筆すべきはここからである。提示された各症例に関連して日ごろ疑問に思っている解剖学的事項やトピックス的内容が,クイズ形式あるいはノートという形で紹介されいる。挿入されているシェーマもポイントをついた内容であり,画像解剖の復習に役立つ。このあたりの構成は,まさに達人の妙である。
 多列検出器ヘリカルCT(MDCT)などの導入により,急性腹症におけるCT診断の精度は飛躍的に向上し,その詳細な読影は患者の予後を直接左右する。このような時期に,わかりやすい教科書の出現はまさに時宜にかなうものである。特に放射線科医にとっては,救急医療への入り口として急性腹症は最も適した領域である。そのような意味で,本書は救急医療に携わる医師,研修医に有益であるばかりでなく,ふだん救急疾患にあまり遭遇していない放射線科医に特に通読をお勧めする。そして本書を通して,救急画像診断に興味を持つ若手医師が増えることを期待している。
B5・頁252 定価(本体6,800円+税)MEDSi


良医の評価は,主訴への対応できまる

耳鼻咽喉科オフィスクリニック
主訴への対応編

小田 恂 編集

《書 評》藤森春樹(藤森病院長)

高まるプライマリケアの重要性

 今回発行された『耳鼻咽喉科オフィスクリニック-主訴への対応編』の書評を開業医の立場から述べたい。
 現在,大病院指向がよく言われているが,日常最もよく遭遇する耳鼻咽喉科領域での疼痛,出血,呼吸障害,感覚障害などは,まず開業医を訪れることが多い。それだけにプライマリケアの重要性は,どの開業医の方々も十分認識しておられることで,その主訴をいかに早く取り除くかによってその医師の評価が決まってくる。
 開業医にとってつぎつぎと訪れる患者を目の前において,ゆっくりと主訴を聞いている時間的余裕がなく,つい問診表に書かれた主訴に目を通して,それに基づいて検査を進め,診断を下し,治療を行なうようになってしまいがちである。本来,医療というものは主訴のみでなく,その由来した背景をみつめながら診療を進めなければならない。よく言われるように,「大医は病を癒すのみでなく心をも癒す,中医は病のみを癒す,小医は病を癒さずかえって悪くする」。主訴をいかにとらえるかによって,良医は決まってくるものである。
 現在数多くの耳鼻咽喉科に関する図書が発刊されており,学会での図書展示を見ているとまったく多彩で,それぞれに特徴があり毎回数冊を買い求めるが,座右においていつも参考にしているのは,2-3冊に過ぎない。座右における必要条件としては,(1)平易に書かれて読みやすい,(2)図解などが多くわかりやすい,(3)新しい知見が盛り込まれている,(4)あまり嵩ばらないなどがあげられる。これらの条件を本書は,十分に満たしている。
 本書には,主訴から考えられる疾患が数多くあり,そのため詳しい病歴の聴取,視診,触診,解剖学的特殊性などをいつも考慮に入れて診断を下す上で参考になる。本書は,開業医としての初期治療において重宝なことがよくわかる。

役立つ患者への治療説明

 最近では,医学にかんする情報がマスコミを通じてかなり詳しく報道されているため,患者の医学的知識も結構豊富になり,それが正しく理解されるとよいのだが,生半可な知識となっているため,本書は,患者に適切な説明を行ない治療を進める上にも大変役立つ。随所に挿入されたcoffee breakの項も誠に日常臨床上の参考になり,ユニークな編集と感心させられる。
 主訴の分析が十分でなかったため,医事紛争に巻き込まれるおそれもある最近の風潮の中で,本書はこの点から座右において繰り返し読まれることをお勧めしたい。
B5・頁228 定価(本体8,000円+税)医学書院


「わかる!」ためのポイントを伝授する心電図入門書

はじめての心電図 第2版
兼本成斌 著

《書 評》大江 透(岡山大大学院教授・循環器内科学)

 この本は,(1)心電図の基本(第1章 心電図の基本を学ぶ),(2)虚血性心疾患の心電図(第1章の「ST-T波の異常」,第2章の「心筋梗塞と心電図」),(3)不整脈心電図(第4章 不整脈心電図を読む),(4)QT間隔,T波,U波の異常(第3章 電解質・薬剤の影響を理解する),(5)不整脈治療(第4章 不整脈心電図を読む),(6)運動負荷試験とホルター心電図(第5章 その他の心電図検査・人工ペースメーカー)などを中心に5章にまとめて構成されている。

具体的でわかりやすい記述内容

 「第1章 心電図の基本を学ぶ」では,正しい心電図のとりかた,心電波形の呼びかた,心電図の誘導法,心筋の興奮と心電曲線,正常心電図,の順序に解説し,心電図を初めて学ぶ人が直面するいろいろの疑問に対して順番に答えてくれる内容になっている。異常波形の診断として,P波異常(右房負荷,左房負荷,両房負荷,陰性負荷,両房負荷,陰性P波),QRS波形の異常(左室肥大,右室肥大,両室肥大,低電位),STの異常(ST上昇・下降)の診断と代表的な病気や病態を解説している。
 「第2章 心筋梗塞と心電図」では,最も重要な循環器疾患の1つである心筋梗塞の心電図所見を詳細に解説している。ここでは,心筋梗塞の典型的な心電図の説明のほか,診断根拠となるQ波やST上昇の機序を図を用いてわかりやすく説明している。
 「第3章 電解質・薬剤の影響を理解する」では,低カリウム血症,高カリウム血症,低カルシウム血症,高カルシウム血症の特徴的な心電図所見を説明し,ジギタリスによる心電図変化と中毒に伴って起こるいろいろの不整脈を解説している。ジギタリス中毒の臨床症状を心電図とあわせ表示して,ジギタリス中毒の診断基準を解説している。他の薬剤による心電図変化は,第1章の「QT間隔の異常」の項で説明している。
 「第4章 不整脈心電図を読む」では,洞調律の異常(洞房ブロック,洞停止,洞不全症候群),伝導障害(房室ブロック,心室内伝導障害,脚ブロック),早期収縮(上室性,心室性),心房粗細動,発作性上室性頻拍,発作性心室性頻拍,と重要な不整脈を網羅している。特に,初心者にとって難解な補充収縮・補充調律をわかりやすく説明している。また,副伝導路(WPW症候群)が関与する不整脈と緊急を有する危険な不整脈(Wide QRS頻拍心室頻拍,心室細動,両脚ブロック)を特別に取り扱ってその診断の重要性を強調している。さらに,最近,若年の男性の突然死として注目されているBrugada症候群の病態と心電図の特徴を解説している。不整脈の治療は,緊急時の治療,薬剤治療,非薬剤治療に分けて説明している。ここの記述は具体的に図で解説してあり,実際の治療に役立つように記述されている。

心電図をこれから勉強していく人には絶好の手引き書

 「第5章 その他の心電図検査・人工ペースメーカー」では,実際の器具が呈示されており,具体的でわかりやすい。
 この本で呈示されている心電図は,波形が大きく見やすい。また,P波,QRS波形,PR間隔,ST上昇,ST下降,QT間隔などの計測方法が具体的に示してあり,実際に初心者が心電図を読むのに役立つ。「考え方のポイント」と「診断のクライテリア」が大きい見出しで各項ごとに記載されているのは,心電図を初めて読む人にはわかりやすい。また,セルフチェックとセルフアセスメントが各項ごとにあるのは,読者が自分の理解度を知るのに大いに有益と考える。その意味でこの本は,著者が意図している心電図をこれから勉強していく人には,よい手引き書になると考える。
B5・頁340 定価(本体4,500円+税)医学書院


ひらいてくれる内因性精神病の全体的視野

内因性精神病の分類
Helmut Beckmann 著/福田哲雄,岩波 明,林 拓二 監訳

《書 評》岩井一正(東女医大教授・精神医学)

内分性精神病分類の歴史的風景

 Kraepelinの疾病単位設立へのあくなき努力を,Hocheは「幻に向かう徒労」と批判した。Kraepelinはこの批判に譲歩を示したものの,そこからあらたに踏み出すことは適わなかった。対案たるHocheの症候群学説も歴史上に実を結ぶことはなく,Kraepelin自らが暫定的とみなしたその分類はいまもそのままの姿で余脈を保っている。二分法に対する批判として浮かび上がった諸概念は,理念としては脈々と続いていても,個々の概念はわずかなものを除いて死屍累々というのが内因性精神病分類の歴史的風景である。近年の分類の眼目であった分裂感情病も,DSM-IVでは自らのエッセンスを気分障害に奪われた抜け殻と化した。
 これらDSMに列挙された小カテゴリーは,いわば大精神病間のすきまをうめ,その厳密な境界づけに供されるとしても,精神分裂病そのものに自らを限定する力がなく,心理社会的水準を援用し,他のカテゴリーからの鑑別的境界づけに依存している限り,本来の分類からはほど遠い。早発性痴呆の成立から100年をすぎた内因性精神病分類の今の姿は,元の要請を満たしていない。
 Kraepelinの意図の形骸化に対して,Kraepelinの対抗者WernickeからKleistにいたる脳病理学的想定を背景にした疾病学的構図は,Leonhardに元の内実をとどめている。その後の発展の具体的な形がまだみえない現在,LeonhardをKraepelinをも含めた精神医学の疾病学の保管者としてみるべきであろう。彼の代表作である本著作から容易に気がつくのは,DSMのリストとは対照的な整然さである。統計的な傑出度を犠牲にした全体の整然さと個々の病型の精密度において,さながら曼陀羅に対しているような錯覚をおぼえるのは筆者ばかりではなかろう。

長年の熱意の労作

 症状とならぶ経過・結末の重視は,病型ごとの縦断的記述を自らに課した結果であり,分類の分類たるゆえんをなしている。もっとも症例記述のみに拠って病型を再認することは,視点を異にする者には必ずしも容易でない。しかし,病型の多彩さと相互の連関と鑑別への言及において,また病型における主症状と副次症状のめりはりにおいて,また経過における病像変遷の記述において,本著作は内因性精神病の全体的視野をもう一度ひらいてくれる。単一精神病を視点とおく者にとっても,類循環病ならびに,長期経過的にはより重要と思われる非系統的精神分裂病を用いて,いわゆる中間領域をさらに区分し,硬直化した二分への拘束を軽やかに脱したことにおいて,尊敬おかざるを得ない。
 最後に症例記載の多い本著作を統一性をそこなわずに訳し得た諸氏と,とりわけ監修者の熱意とここにいたる長年の労を多としたい。
B5・頁240 定価(本体6,500円+税)医学書院