医学界新聞

 

ネットワークの具体化を推進

第4回日本災害看護学会が開催される


 第4回日本災害看護学会が,さる9月28日に,石井トク会長(岩手県立大)のもと,「災害看護学の実践-ネットワークの具体化」をメインテーマに,岩手県の岩手県立大学で開催された(写真,同学会総会より)。
 今学会では,会長講演「災害看護と倫理-ネットワークとプライバシーの保護」(石井氏)をはじめ,シンポジウム「地域に密着したネットワーク-行政・医療・市民の連携」(座長=北海道医療大 高橋章子氏)の他,岩手県で過去に起きた津波災害などをテーマとした4つのワークショップを企画。また,一般演題発表は,「災害看護とネットワーク」などをテーマに,示説・口演合わせて8群40題の発表が行なわれた。


「プライバシーの保護」を前提に

 会長講演を行なった石井氏は,医療情報伝達に関して「(1)患者の個人情報はどの範囲で,誰と誰が共有すべきか,(2)秘密は誰と誰が守秘するか,(3)前記の情報伝達の方法と,プライバシー保護の方法は適切か」を見きわめることが原則として,プライバシー保護の重要性,法律制定の必要性などを解説した。また,これまでの「災害弱者」という名称を,「救援優先者」へと変更するよう提唱。その定義を「災害時に自力で生命を守ることができない,あるいは心身が低下しているため被災による侵襲が大きい人」とし,対象となる身体的・社会的に弱い立場の「子ども,老人,妊産婦・母子,身体障害者,在宅医療の受益者,慢性疾患患者」へのプライバシーの保護に留意しなければならないことを強調した。
 さらに,「プライバシーの保護」を前提とした災害ネットワークの倫理モデルを提示。「(1)健康医療情報の制限,(2)取り扱い者の制限(守秘義務,倫理綱領の遵守),(3)伝達内容の制限・オンライン接続の禁止,が被災市町村の管轄には必要」とし,「最終的には住民当事者が決定する」という意識の改革の必要性を訴えた。

「津波」の思わぬ怖さ

 ワークショップでは,(1)「災害図上訓練-岩手山の噴火を想定して」,(2)「災害時に支援優先度が高い人への看護」,(3)「有珠山噴火災害から学ぶ」,(4)「岩手の津波から水害を学ぶ」の4テーマが取り上げられ,それぞれ会場には多くの参加者が詰めかけた。なお,これまでに津波による大きな被害を受けている岩手県の特徴をとらえた同(4)(プレゼンテーター=岩手県立大総合政策学部 首藤伸夫氏,コーディネーター=岩手県立大 細越幸子氏)では,首藤氏が津波の発生のメカニズムや三陸のリアス式海岸の持つ景観とは裏面を呈し被害を招く特性などを解説。明治三陸大津波(1896年6月)や,チリ津波(1960年5月)時の救援医療を中心に,その現状と被災状況などを報告するとともに,津波の進む速度・大きさは発生源の深さが大きく影響し,「水深1000mでは新幹線より速い時速360km程度,4000mの太平洋上で起きた場合は720km程度と推定され,ジェット機より速い」と述べた。氏は,発生時には「とにかく20m以上の高台に逃げること」が最優先されることを強調した。

岩手県における「災害ネットワーク」

 一方シンポジウムでは,岩手県における「防災災害ネットワークの現状」を駿河勉氏(岩手県総務部)が報告。氏は,「本年7月に襲った台風6号の被害は705億円と,全国一であった」と述べた。その上で,医療保険計画では,災害発生時の初動医療体制として医師,看護師,運転手などで構成される医療班を県下で136チーム編成。また有事の際には,65の民間業界団体と,医薬品,食料などの資材供給を行なう協定を78種締結している実態も紹介した。
 また,1998年に臨時火山情報が出された岩手山の火山防災に関しては,齋藤徳美氏(岩手大工学部)が,現在の状況を報告。「噴火は防げないが,災害は軽減できる。必要な対策をできるところから実行し,『火山と共生』する『防災先進地域』をめざすこと」が基本理念とする「岩手山火山防災ガイドライン」を紹介し,産学官で構成する「岩手山ネットワークシステム」には,ライフラインとしてのJR,NTT,東北電力をはじめ,地元TV局などがメンバーとして参加していることも明らかとした。
 また,2000年3月の有珠山噴火で被害にあった,北海道虻田町の里和子氏(現北海道足寄町福祉課)は,「有珠山噴火保健医療救護センター」を組織するなど,「これまでの経験があったことから関連各機関との連携は支援体制,対策ともに対応が迅速であった」と紹介。また,井伊久美子氏(兵庫県立看護大)は,日本災害看護学会が2001年1月から,「災害時における看護のニーズの調査を行なうために,日本全国の拠点組織を連携する『災害看護ネットワーク』を設ける」などを目的として開始したネットワーク活動を報告。さらに,村田千代氏(岩手看護協会長)は,地元看護協会の立場から,重点事業として計画され,地域に密着した「災害看護支援ネットワーク」の構築に関して,同協会と岩手県立大災害看護プロジェクトとの合同による連絡協議会の活動を報告した。
 なお,明年開催の次回学会(8月29-30日,会長=聖路加国際病院 井部俊子氏,会場=東京)からは,会員増加や参加者の増加に伴いこれまでの会期を1日延ばし2日間とすることが総会の場で報告された。