医学界新聞

 

〔体験記〕川崎医大夏期家庭医療集中セミナー


■「家庭医的視点」を忘れず研修を続けたい

浅野 直(川崎医大附属病院救急部研修医)

「家庭医」への興味

 学生時代に川崎医大総合診療部の先生方より「家庭医」の存在およびその特徴を教えていただき,非常に興味を持っていました。
 当時,臨床実習で大学病院での専門医療にいくつかの疑問を抱いていたからでしょうか,患者さんを身体的なことだけではなくその心理・社会的な側面(患者背景や解釈モデルなど)まで診ていくという家庭医のスタンスに感銘を受け,「将来こういった医療に携わりたい」「家庭医になりたい」と考えるようになりました。
 このような経緯もあり,救急部所属のレジデントでありながら,本年2月から3月にかけて岡山県勝田郡奈義町にある奈義ファミリークリニックで院外研修するチャンスを得ました。初期研修中に家庭医のロールモデルとなる先生方の診療を肌で感じることができ,現在の救急部での研修と,「将来家庭医になる」という目標が1本の線で結びついたように思います。

新たな目標が与えられた

 今回のセミナーでは全国各地より家庭医療に興味を持った医師,学生が集まり,ミシガン大学家庭医療科臨床助教授でいらっしゃる佐野先生をはじめ,広島より田坂先生,奈義より松下先生をお招きし,「家庭医とは?」から始まり,「家庭医にはどういった臨床能力が必要とされるのか?」「どのような研修を行なっていくべきなのか?」など,研修すべき診療科や知っておくべき疾患だけでなく,具体的に,人形を使っての婦人科的内診や耳鏡,鼻鏡を用いて診察技法なども教えていただきました。
 最後の討論(質疑応答)では活発な意見が交わされ,将来家庭医療に携わりたいと考える自分にとって,これからの日々にまた新たな目標とモチベーションを高く保つきっかけをいただいたように思います。
 私自身,進路を選択する時点でひょんなことから救急を選択しましたが,歩いて救急外来を訪れる患者さんから,高度救命救急センターに搬送されてくる重傷者まで,家庭医的視点を忘れずに対応し,臨床研修を継続していきたいと思います。当面は「救急家庭医」を目指そうと考えています。

■家庭医療の「開拓者」に

溝尾 妙子(福井医大5年)

 「患者さんの体も心も人生まるごと診られる医師になりたい」という思いがずっと心の中にあり,この春,診療所を見学したことをきっかけに家庭医をめざすことを決意しました。

想像より厳しい「家庭医への道」

 今回のセミナーでは,ロールモデルとなるパワフルな先生方から,専門としての家庭医の真のあり方をしっかり植え付けていただきました。知識の広さ(全科)+深さ(70%)と人間性が求められる家庭医は,想像よりもはるかに厳しい道だと実感しました。しかしそれ以上に,患者さんとより近い距離で人間同士の温かさに触れ,喜びも悲しみも分かち合いながら共に歩むことのできる最高の分野であることに改めて魅了されました。また,患者さんのあらゆるニーズを敏感に察知するためにも,常に医学以外の世界にもアンテナを張って,幅広い視野を持つ必要性も感じました。
 家庭医の認知度はまだ低いですが,今回,同じ志を持つ仲間みんなでこれから日本の家庭医療を開拓していこうという気持ちが1つになったと感じています。私も開拓者の1人として,多くの仲間と共に,自分の求める医師像を信じて進んでいきたいです。

■現代の医療の一面に触れた

日野 智子(川崎医大3年)

 「家庭医とは何をする医師なのか?」それを知りたくてこのセミナーに参加し,家庭医とは,心理・社会的な病因にも目を向けて病気の予防と治療を助ける者だということや,今は研修施設が整っていないこと,複数意見があり定義が統一されていないことなどを聞きました。

いろいろなことを考えるきっかけに

 家庭医として幅広い分野にわたって的確な診断・治療をするには,あらゆる分野でたくさんの経験を積み重ねる必要があるでしょう。ならば学生のうちからより踏み込んだ臨床実習を行なわなければ,戦力となる家庭医の平均年齢は上がってしまいます。また,心理・社会的病因に踏み込むことも考えるなら,社会の制度改革がどうしても必要になってくるでしょう。
 このセミナーは,いろいろなことを考えるきっかけになりました。熱意あふれる先生方に囲まれて,現代の医療の一面に触れることもできました。今までの開業医と家庭医との関係を考えると,「家庭医」が含む新しい考え方は,昔からある日本の開業医の長所を活かしつつ,私たちがこれから世に問うていくものなのだと思いました。