医学界新聞

 

OSCEなんてこわくない

-医学生・研修医のための診察教室
 監修:松岡 健〔東京医科大学(霞ヶ浦病院)第5内科教授〕


第15回 小児の診察

河島 尚志(東京医科大学講師・小児科)
星加 明徳(東京医科大学教授・小児科)


2503号よりつづく

《診察のポイント》
 子どもは変化し,成長し,成熟し,発達する。そのため,診察方法は子どもの年齢により異なり,新生児(生後1か月まで),乳児(1か月から1歳),幼児(1歳から就学前),学童(就学後)と分けて考えなければならない。各年齢の特徴をつかんでの診察が必要となる。首が座っていない子どもの診察が学童と同じわけではない(ここでは乳児の診察を中心に述べる。写真のモデルは8か月児である)。

■手順

(1)視診

*肌の色,呼吸,活発性などを確認する

(2)頭頸部

*貧血の有無
*大泉門の触知 など

(3)胸部の診察

*聴診器にて心雑音,呼吸音の異常の有無を確認

(4)腹部の診察

*肝臓,脾臓の触診

(5)神経学的所見

*深部腱反射,髄膜刺激症状など

(6)咽頭の観察

*咽頭,舌,扁桃の観察

■解説

(1)病歴

 母親とよい関係を確立することが肝要である。
 母親のほうを呼ぶところから始める。名前の確認や自己紹介などをしたのち,インタビューを開始する。
 主訴を聞くこと,いつから,どのように,どうしてかを詳しく聞く,さらに病状にそっての詳しい質問や解釈モデルや言い忘れの確認などが大事である。
1.インタビューの進め方
 (1)自己紹介,(2)患者の名前の確認,(3)最初に患者(あるいは,母親)に話をしてもらう,(4)適切な視線,(5)要約を述べ経過を確認など。
2.疾患に関する情報について
 各疾患ごとにまったく異なるが,解釈モデルとして普遍的に重要なのは(1)母親は何が心配で,何を希望しているのか,(2)言い忘れのないことを確認するの2点である。
 症状に関しては,(1)発熱の有無,(2)咳き込みの性状,(3)近所の感染者,(4)既往歴,ワクチン歴,(5)家族歴アレルギー他,(6)発達歴などに加え,各疾患の鑑別を考え質問する。

◆OSCEでは
 母親役の模擬患者(SP)からの病歴聴取を行なう場合がある。各机に課題が提示され,筆記用具などが置いてある。病歴聴取ではSPによる評価がなされることもあり,i)共感的態度を感じたか,ii)信頼できる態度でしたか,iii)言いたいことが十分言えるインタビューだったか(不安な気持ち,解釈モデル),iv)病歴を十分聞いてもらえたと感じたか,v)専門用語を使わずわかりやすい話し方でしたかなどで評価し,これに試験官の評価と合計点で判定する。

(2)視診

 すぐに近づかず必ず見るところから始める。肌色,呼吸数,胸部の動き(左右対照か),胸郭の形,鼻翼呼吸の有無など,各種の奇形つまり顔貌の異常や,翼状頚,手指の異常や四肢の動きや歩行の仕方などをみて評価する。

(3)頭頚部の診察

 眼瞼の浮腫や結膜の貧血や球結膜の黄疸の有無を,大泉門の触知などを行なう。頚部では斜頚の有無や頚部リンパ節の触知などを正確に評価する。


大泉門の触知-座位で行なう

(4)胸部の診察

 聴診器にて心雑音,呼吸音の異常を別々に評価する。心雑音では無害性心雑音と病的雑音との差が重要である。  病的雑音ではどの部位が最強点で収縮期か拡張期か,II音の亢進はなどを見極める。呼吸音では湿性ラ音と乾性ラ音を聞き分ける。呼気の延長にも注意する。

(5)腹部の診察

 肝臓,脾臓の触診を行なうが,膝を曲げることは忘れないこと。肝臓は正常でも触れ,2―3歳までは,右肋骨縁下1―2cmの肝臓は正常と考えられる。辺縁は軟らかく,呼吸とともに下方へ動く。
 肝臓を触診するときは突いてはならない。腹筋が硬くなってしまう。人差し指の側面を使って指をそっと腹部におき,呼吸運動によって肝臓が指に当たるようにする。脾臓の触知の時も突いてはならない。


腹部の触診-下から触ってゆく

(6)神経学的所見

 確認すべき主なポイントは以下の通り。
・追視はできるか?
・モロー反射はきえたか?
・首の座りはできるか(引き起こし反射)?
・お座りはできるか?
・ハイハイはできるか?
・パラシュート反射は陽性か?
・つかまり立ちはできるか?
・髄膜刺激症状は?
・深部反射亢進はあるか?


追視

モロー反射-頭部を15cmほど挙上し下げると,手を開き上肢が外排する(写真は8か月児で,この反射は消失している)

引き起こし反射-手を握って行なう

お座り

腹臥位-頭部挙上しハイハイする

パラシュート反射-抱き上げた乳児を支えて前方に落下させると両腕を伸ばし手を開く

(7)咽頭の観察

 咽頭の観察は最後に行なう(いやがることは最後にする)。
 舌,口腔粘膜,咽頭,扁桃を詳しくみる。苺舌などの病的意義も知らなければならない。

◆OSCEでは
 一般に小児のOSCEの対象としては新生児から乳児期が対象となり,人形等を用いて行なう。
 診察では最初から全身すべてを診察するOSCEは少なく,いくつかの課題,例えば腹部の診察,首の座りや引き起こし反射,髄膜刺激症状などいくつかの課題が設定されその技術を試験監督が評価する。

●先輩からのアドバイス

 病歴聴取がもっとも難関です。話を遮らず,視線をよく合わせ,共感的態度をとること,慌てずに。話に詰まった時は今までの話を整理し,もう一度確認しましょう。疾患群を思い浮かべてゆっくり聴取します。発達歴やワクチン歴などの発育歴の中に診断に重要なキーがあります。



OSCE-落とし穴はここだ

 病歴聴取では,専門用語の使用を避ける。氏名を姓名と共に確認する。視線を適切に合わせる。話を遮らないなどで評価されることが多い。
 理学的所見では,大泉門の触知はまっすぐに座っているときにそっと行なう。モロー反射や首の座り,お座り,ハイハイ,つかまり立ちなどはいつからできるかは試験官より診察中に質問される。髄膜刺激症状の項部強直やKernig徴候はポイントとなる。無害性心雑音と病的心雑音の区別も質問されるポイントである。



調べておこう-今回のチェック項目

 乳児の発達(追視,モロー反射,頚定,頚座,ハイハイなど)と一般的な下記のような主訴をきたす疾患群の特徴は再チェック
□発熱(髄膜炎,突発性発疹などの特徴)
□痙攣(熱性痙攣とてんかん)
□咳(気管支喘息,百日咳など)
□発疹(麻疹,風疹,川崎病)
□体重増加不良(心疾患,下痢,便秘など)
□下痢(白色便性下痢症,サルモネラ,食中毒など)
□黄疸(原疾患により出現時期の差など)