医学界新聞

 

全国医学生ゼミナール in 鳥取開催


鳥取医ゼミで発見した 「いのち」を考えていくことの大切さ

原田真吾(全国実行委員長,香川医科大学6年) 

 今年も8月9日から12日にかけて,鳥取大学医学部学生会の主管のもと「第45回全国医学生ゼミナールin鳥取(以下,鳥取医ゼミ)」が開催され,全国から山陰・米子に約500名の参加者が集いました。
 今年の医ゼミのメインテーマを「いのちを見つめ直す-人間観と倫理観の探究の中で」として,現代社会に存在するさまざまな「いのち」を軽視する現状を一度立ち止まって考え直してみようという医ゼミでした。昨(2001)年の9月にアメリカで起こった同時多発テロを皮切りに,狂牛病事件や薬害ヤコブ裁判,医療保険改革などことあるごとに問われる「いのち」の大切さ・尊さが今年の医ゼミを準備する中でも大きな影響を与えました。
 こういった社会情勢・医療情勢の下で開催される医ゼミだからこそ,ただその社会の出来事を知って終わり,というものでなく,「どんな情勢の下でもたじろがずに力強く医療活動ができる医療従事者に成長するモチベーション」「鳥取医ゼミで学んだことは10年後も役に立つ」といったことを参加者が持ち帰れるような医ゼミにしようと準備をすすめました。

「いのち」を考えるさまざまな企画

 医ゼミ当日の企画では,全国企画(1)「現代社会といのち」と題して,国境なき医師団の医師として活躍中の貫戸朋子氏をお招きしての講演会を行ないました。貫戸氏は講演の中で,ご自身の国境なき医師団の活動の経験を通して,私たちの生きる現代社会の中で危険にさらされている「いのち」について,現場の生々しさのままを語りました。
 全国企画(2)「生命科学といのち」では,大阪大学微生物病研究所の仲野徹氏をお招きし,日進月歩の発展をとげる最先端の科学技術の中で再定義されつつある「生命」について,私たち医学生・医系学生は何を考えればいいのか,についてディスカッションもしながら考えました。この最先端医療の中での「いのち」に対する考え方はまさに「10年後も役に立つ」ものでなければ今年の医ゼミのテーマにはふさわしくありません。技術の各論を学ぶだけでなく,最先端の医学・医療を切り拓いていく科学者が身につけていなければならない姿勢や態度などを明らかにしました。
 そして,メイン企画では薬害ヤコブ病原告団長の谷三一氏や経済学者の藤田安一氏に薬害と医療制度改革を題材にして,経済性優先社会における医学・医療の中でゆがめられる「いのち」の実情について考えました。

参加者1人ひとりがテーマに挑戦し思いをめぐらす

 その他にも参加者自身が出展する40を超える分科会や交流会などさまざまな企画が用意され,それぞれの参加者が有意義な4日間を過ごしました。参加者からは「今回のテーマである“いのち”はとても漠然とした大きなもので,医ゼミがはじまるまではよくわからなかったのですが,メイン企画や参加者同士のディスカッションを通して理解を深めることができました。また,学習したことを頭の中でそのままにしておくのではなく,実践の中でさらに深めていかないといけないとも思いました」「いろんな学生がそれぞれの目標に向かって努力していることを実感できる集まりでした。今後も参加していきたい」「いろいろなことを話せる仲間を作ることの重要性を感じました」などの感想が寄せられました。
 参加者1人ひとりが「いのち」というやや難解なテーマに挑戦し,思い思いに考えをめぐらせた医ゼミだった思います。この夏それぞれが考えたことは将来の医療のフィールドで必ずや威力を発揮することでしょう。またその日に向かって多くの学生が新たな一歩を踏み出した,そんな医ゼミではなかったかと思っています。


●鳥取医ゼミを終えて

 高橋賢史(鳥取大学4年)

 今年の医ゼミは,私にとって特別な意味合いを持つものでした。それは,今回初めて鳥取大学主管で開催され,その歴史的な一歩を開催現地の学生として迎えられたからです。思えば,大学に入学して1年生の時に初めて医ゼミに参加して,「ぜひ鳥取大学で医ゼミを開催したい」と思ってから数年が経過していました。それだけに,自大学で開催できるという喜びも一入でした。

私にとっての鳥取医ゼミ

 鳥取医ゼミ本番は8月9-12日の4日間行なわれ,それまでの約2週間が準備期間(全国準備期間:“全準”と呼んでいます)に当てられました。その間は全国各地から集まるスタッフが合宿生活のような感じで,学習を通じて当日の企画を練り,発表するレポートを作成したり,立て看板等のデコをみんなで作ったりと,まさに医ゼミをつくっていく期間です。全体的にすごくよい雰囲気で,スタッフ誰もが楽しそうに自分の仕事を行なっていました。その中で私は「メイン企画」の作成に加わりました。
 今年のメイン企画:「いのちを見つめ直す-人間観と倫理観の探究の中で」は,人間を生物学的な存在としてだけでなく個人の生活・社会背景を抱えた社会的な存在として捉え,私たち1人ひとりがより人間としての尊厳を追求していける医学・医療,そして社会とはどうあるべきなのかを考えました。私が担当した各論の第1章「医療制度改革」では,健康の定義として有名なアルマアタ宣言から,健康を維持すること・医療を受けることも基本的人権として認められるのではないかという分析をし,その観点からも,患者負担増を求め受診抑制を加速させる今回の医療制度改革は道理がないのではないか,という解明を行ないました。この経験を通じて社会保障論について考えることができました。内容を深めるために議論を重ねたことも,締め切り直前にほぼ徹夜で書いたレポート作成もよい思い出だし,自分にとって大きな経験になりました。
 もちろんその他の企画も,ひと言では表せないほどものすごくよい内容でした。当日参加の人から好評な感想を耳にすると,自分が携わった企画でなくとも大変嬉しく思います。

開催できて本当によかった

 今回,鳥取(米子)で医ゼミが開催できて本当によかったと思います。やはり全国からこれだけの数の医学生・医系学生が集まる自主的な学術文化交流集会は他にありません。医ゼミは,医学生・医系学生の「医学・医療のことを自主的に学びたい。全国の仲間と交流したい」という想いにまさに応えるものであり,私自身も医ゼミを通じて学び得たものは大きく,新旧の交流を暖めることができて大変楽しかったです。全国に広がる他大学の友人や,今まで知らなかった鳥取大学の後輩など,多くの仲間と知り合えました。通常の学生生活の中では,学年を越えて何かを一緒につくっていった仲間というのはなかなかできません。こうしたすばらしい仲間と出会えるのも医ゼミの大きな魅力です。自分が参加した中で今までで一番よかったと思える医ゼミになりました。
 医ゼミは何度参加してもその度ごとに新鮮な感動を味わえます。それは45回を数える医ゼミの経験の積み重ねが,次の医ゼミをよりよいものへとしていくからです。次回でのさらなる発展に期待し,1人でも多くの医学生・医系学生が医ゼミに来て学び,交流を楽しんでほしいと思います。ぜひ来年の医ゼミを今年以上に盛り上げていきましょう!