医学界新聞

 

〔レポート〕

活躍中の家庭医と将来を語る
家庭医療学研究会 医学生・研修医のための夏期セミナー

寺澤富久恵(家庭医療学研究会学生・研修医部会代表,筑波大学医学専門学群5年)


 本年も第14回家庭医療学研究会主催学生・研修医のための夏期セミナーが8月に行なわれました。今年は,学生・研修医部会がスタッフを務め企画運営を担当し,研究会の先生に講師としてご協力いただく形となり,より充実したセミナーになったように感じています。年々家庭医に興味を持つ学生・研修医は増加してきており,今年のセミナーは,学生90名,研修医60名,講師・世話人の先生方を含め合計190名が参加するという大規模なものとなり,熱い2泊3日のセミナーとなりました。個人的には3度目の参加となりましたが,リピーターであることを感じることがないほど,すべてが新鮮で発見と感動に満ちていました。

家庭医はcommon diseaseのエキスパート

 初日の企画「家庭医の現在と未来」では5名の講師の先生に,「マクロ未来予想図」と題して家庭医療にまつわるお話をいただきました。
 亀田総合病院のDr. Pollockがお話になった「家庭医とは,日々の暮らしが健康につながるように手伝いをしている」「work where you needed, hospitals, clinic, home, schools, city hall」。人々が健康に暮らせるように,その健康に関する問題をお手伝いする,というのが,私の理想的な医療だったので,これらの言葉はとても心に響きました。同時に,この会場にはこの言葉にともに感動している仲間が少なからずいるのだな,と心強く思いました。
 また,「no boundaries」(no limitではなく)という言葉はとても素敵な表現だと思いました。ありふれた事がありふれて起こる,家庭医はそのcommon diseaseのエキスパート,というお話は感動的でした。とかく,専門医と比較されると「浅い」といわれる家庭医ですが,そのように考えると,広さと深さが感じられるのではないでしょうか。

患者に合わせる医療

 作手村の名郷直樹先生の講演では,「患者に合わせる医療」という一言が非常に心に残りました。家庭医は,人々の生活のお手伝いをしているにすぎず,けれど,そのお手伝いはとても大事なお手伝いなのだ,と感じました。東京医療センター総合診療部の尾藤誠司先生には忘れられないキーワードを教えていただきました。「ニーズ志向」:ニーズをこちらから積極的に見つけて行く,自分のフィールドを自分だけで設定しない。「現場志向」:どれだけ役に立てたかが大切。「アウトカム志向」。「まだ足りない自分志向」:専門家とは成長することをあきらめた人たちのことを言う。このように,自分のコアに残るフレーズというのは,これから研修などをしていく上でも,苦しいときの助けになると思います。
 筑波大学の前野哲博先生の講演で,私が一番好きだった場面は,カエルの絵のスライドで,「これは何という動物ですか? カエルという言葉は使わずに友達に伝えてください」というものです。家庭医というのは,友達にその魅力などを伝えるのがとても難しいのですが,「写真を送るよ! 見ればわかるから!!」という一言は,とても心に残りました。家庭医療に興味を持った方はぜひ,PCFMネットなどを使って,実際に家庭医を見に行ってみてください。(http://www.shonan.ne.jp/~uchiyama/PCFM.html)
 2日目は家庭医に必要な基本技能の習得のためのセッションが開かれました。低学年から研修医まで参加者のレベルはさまざまでしたが,講師の先生方の工夫により参加者の満足度は非常に高かったようです。特に,豚足を使って実際に縫合の練習をする小外科実習,実技を重視したACLS,EBMの全貌をわかりやすく説明したEBM初級編が特に人気でした。また,臨床倫理4分割法を用いた症例分析は,なかなか大学では学べない内容とあって,選択者から好評でした。みなさんにも佐賀県三瀬村診療所の白浜先生のHPをご覧になっていただきたいです。(三瀬村国保診療所白浜雅司先生の臨床倫理の討論のページhttp://square.umin.ac.jp/masashi/

活躍中の家庭医と語り合う

 3日目は「家庭医になるために ミクロ近未来予想図」「世界で活躍する家庭医」「家庭医の家庭」の3つのセッションが開かれました。ミクロ予想図では,パネリストが家庭医を目指すために日々どんな努力をしているかが話され,それをもとに,身近な疑問についてのスモールディスカッションが白熱しました。「世界で活躍する家庭医」では,オーストラリア・アメリカなどで活躍する家庭医の様子についてパネリストが話し,参加者からは「日本で期待される家庭医像をイメージするきっかけになった」などの意見が聞かれました。「家庭医の家庭」では,家庭医の職業生活と家庭生活には,開始・発展・分散・独立・交替という共通した諸段階があるという概論的な話や実話エピソードのプレゼンテーションもあり,家庭医の家庭をのぞかせていただいた貴重な体験となりました。
 セミナーのメインはエンドレス懇親会……という裏話もあるほどの恒例の懇親会。初めは席を移動するのを恥ずかしがる方もいらっしゃったようですが,夜もふけるに従い会場の盛り上がりはエンドレスになってゆきました。実際にご活躍の先生方とざっくばらんに将来像について話したり,メーリングリストだけでしか知らない人と実際会えたり,議論したり,進路に関する情報を交換できたりして非常に有意義でした。普段他大学の学生とは交流のない方も多く,同じ夢を持ったもの同士が語らい,熱のこもった夜が2夜続いたのでした。
 家庭医療学研究会学生・研修医部会では,夏期セミナーの企画の他にもメーリングリストでの意見交換・MLマガジン「家庭医を目指す君たちへ」などを発信し,家庭医として実際ご活躍の先生方の後輩を思う温かい気持ちと熱い熱意を学生に伝える場づくりをめざしています。

<参考URL>
家庭医療学研究会
 http://www.medic.mie-u.ac.jp/jafm/
American Academy of Family Physicians
 http://www.aafp.org/