医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


腹腔鏡下大腸手術の標準化をめざすガイドブック

腹腔鏡下大腸手術
アプローチ&スタンダードテクニック

腹腔鏡下大腸切除研究会 編集

《書 評》白水和雄(久留米大教授・外科学)

 腹腔鏡下大腸切除術が施行されるようになってから,欧米では11年,本邦では9年の年月が経過し,腹腔鏡手術は大腸の良性疾患のみならず悪性疾患に対する手術にも欠くことができない低侵襲手術術式として定着してきている。腹腔鏡手術を行なうことにより,術創が小さく術後の疼痛が少なく,また術後の癒着性イレウスが少ない特徴もある。
 腹腔鏡下大腸切除研究会編集の『腹腔鏡下大腸手術-アプローチ&スタンダードテクニック』は,大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術式の手技を標準化することを目的として,わが国におけるこの領域のエキスパートによって共同執筆された単行書である。

安全で確実な腹腔鏡下大腸手術の普及のための好書

 大腸癌に対する腹腔鏡下大腸切除術式のこれまでの発展過程と変遷,超音波凝固切開装置など技術面での発展,手術適応の変遷,技術的な問題点,術中術後合併症,トレーニング方法などの「総論」から始まり,「各論」では実際の手術における体位,および手術場のセットアップ,ポート設置部位,さらにはアプローチの方法,すなわち内側アプローチ,外側アプローチ,後腹膜アプローチのそれぞれの利点,欠点が詳細に述べられているだけでなく,さらには病変の部位に分けて腹腔鏡下手術に特有な解剖学的事項をふまえた手術方法が述べてある。早期大腸癌に対するD1-2郭清術式から低位直腸癌の側方郭清を除いた進行大腸癌に対する主幹動脈根部までのD3郭清術式も,ほぼ確立された術式と考えられる。
 大腸癌に対してこれから腹腔鏡下大腸切除を始めようとするビギナーのみならず,専門医への安全で確実な手術を行なうためのガイドブックとして勧められる好書である。
B5・頁118 定価(本体8,000円+税)医学書院


待望の出版,激増する児童虐待対応のバイブル

子ども保護のためのワーキング・トゥギャザー
児童虐待対応のイギリス政府ガイドライン

イギリス保健省・内務省・教育雇用省 著/松本伊智朗,屋代通子 訳

《書 評》柳川敏彦(和歌山医大・小児科学)

児童虐待対応先進国(イギリス)の政府ガイドラインの全訳

 本書は,児童虐待対応の先進国であるイギリスの1999年政府ガイドラインの全訳である。1991年政府ガイドラインは,イギリスで子どもの虐待問題に関係している人々のバイブルとし広く活用されており,「ワーキング・トゥギャザー(Working Together)」という呼称は,説明がいらないほど浸透している。イギリスの児童虐待問題の関係者が,他国からの研究者に対しても,通読しておくべき参考リストとして必ず本書の存在をあげる入門書で,1999年改訂版日本語訳の出版は,まさしく待望の書である。
 原本訳としては,異例の長文の解説で始まる。この解説こそ,本書を有効に活用するために不可欠な指針が盛り込まれている。松本先生のすばらしい人柄を感じさせる文体で,一気に25頁が過ぎるとともに,虐待対応制度の概要がつかめる。時間のない方は,この前文の解説を熟読するだけでもよいかと思えるほどである。小生は,1998年11月から半年間イギリスに留学する機会を得たが,松本先生から留学前に貴重なアドバイスをいただいた。1991年初版の本書の存在とともに,政府刊行物が手に入る書店を教えていただき,ロンドン到着後,真っ先に地下鉄ホルボーン駅のすぐ前にあるStationery Office Bookshopに行ったことが思い出される。また,留学中に先生がイギリスに聞き取り調査にこられた際,学校などの教育機関の何か所かをご一緒させていただいたが,それぞれの現場での専門家が自信を持って取り組んでいる姿を強く感じた。つまり,機関連携が有機的に働くためには,それぞれの分野で専門性の基礎があってこそ成り立つことを認識した。本書は,政府ガイドラインとしての位置づけであるが,単なるマニュアル,あるいはハウツー本でなく虐待に対する理念がきっちりと書き込まれている。この特徴こそ,イギリスにおいてバイブルとして利用されている理由であるし,日本の専門家も分野を問わず,ぜひ通読していただきたいポイントである。

虐待に対する本書の理念とは

 根底は1989年,「子どもは単なる保護」の対象ではなく,「権利を行使する主体である」と言うことを高らかに謳った国連「子どもの権利条約」であり,1989年イギリスの児童法(Children Act 1989)である。「傷つきやすい子ども」を保護するための虐待防止の手順は,広く「援助を必要とする子ども(Children in Need)」に向けられ,「子ども保護(Child Protection)」と言う総合的概念が理念の1つになっている。
 第1章の「子どもと家族を支援するための機関連携」では,家族への介入は,子どもと家族への援助とサービスが目的であること,第5章の「個別事例の扱い-その具体的手順」では,子どもと家族の総合的で,継続的なアセスメントを重視している。そのための裁判所による調査命令や保護命令について,また保護ケース会議に子どもと家族が参加するパートナーシップなど一連の具体例にも,常に一貫した「子どもの利益に立つ」という理念が感じられる。日本で2000年11月から施行されている児童虐待防止法の,施行3年後の改正にもぜひとも参考にしたい。
 9章からなる本書には,本書理解のために本文左欄外に訳注がつけられている。例えば,ガーデアン・アド・リテムは,「子ども保護にかかわる法廷での後見人・代弁者として関わること(後略)」など,日本では見られない役割を持つ人などについても詳しく説明されている。医療保健サービスのところでは,機関や制度についての説明などもわかりやすく解説されるなど,訳注もまた本書の財産である。
 9章すべての本文訳は,非常に受け入れやすい,すばらしい文体であるとともに,日本にない制度や職種などの訳語は,訳注で補われることで,むしろこれからの日本が必要とする制度や職種として理解すると,活用度が広まる。また,付録での,援助の必要な子どもとその家族の判定(アセスメント)枠組み(付録1),ケース対応フローチャート(付録5)は,実用面で役立つものとして,個人的に活用している。
 子どもに焦点をあて,家族を中心に置き,地域を基盤にした虐待防止の総合的ガイドラインといったことばがふさわしい本書をぜひお勧めしたい。
B5・頁184 定価(本体2,400円+税)医学書院


腎不全患者を扱う医療関係者に必携の1冊

腎機能低下患者への薬の使い方
富野康日己 編集

《書 評》斉藤喬雄(福岡大教授・腎臓内科学)

 一般に薬剤の代謝過程において,腎臓は肝臓とともに重要な排泄経路である。特に腎臓では,糸球体濾過の他に尿細管における再吸収・分泌というメカニズムが排泄を複雑にしており,薬剤によって排泄の実態が異なっていると考えられる。したがって,専門医といえる私たちでも,十分理解していない点が少なくない。

常に念頭に置く必要がある腎機能と薬剤情報

 腎で排泄される薬剤については,腎機能低下とともに血中濃度が異常に上昇し,副作用を引き起こす危険があることや,排泄の過程で主に尿細管・間質系に障害を及ぼす恐れについて考慮しなければならない。最近,このような問題が重視されており,実際の診療において薬剤の投与量を定める場合,常に念頭に置く必要が出てきた。このため,各薬剤ごとに,腎機能と投与量の関係を示した成書もいくつか出版されている。しかし,これらでは詳細な内容は示されずに,単に投与量を羅列するに終わっていることも多い。また,新しい薬剤についての記載が少なく,使用したい薬剤の情報がしばしば得られない。
 今回,富野教授の編集により刊行された『腎機能低下患者への薬の使い方』では,このような問題点を十分に考慮し,保存期および透析期腎不全の治療を行なうにあたって,実際的な薬剤の使い方を述べている。使用頻度が高い薬剤を中心に,副作用や相互作用などとともに処方例がのせられており,医療現場において,迷うことなく処方用量を定められるという利点を持つ。特に,現場で遭遇する状況を想定してその対処法を説明したワンポイントアドバイスは,きわめて有用であろう。使用される場を考慮して小型化してサイズも好ましい。
 一方,なぜこのような投与量にしなければならないのか,腎機能低下時における薬物動態や薬物投与設計について,薬理学の植松俊彦岐阜大学名誉教授により詳しく解説がなされている。したがって,本書に記載されていない薬剤を投与する必要がある場合に,投与量を決定する参考となるし,腎機能低下時の薬剤投与法をよく理解し知識をまとめる際に役に立つ。現場を離れて十分な時間がある時など,腎臓の役割を認識する上からも好著である。以上のような点から,本書は腎や透析の専門医だけでなく,腎不全患者を扱う医師に広く勧めたい。
B6変・頁292 定価(本体3,800円+税)医学書院


腎臓専門医をめざす若い医師にとって有用なガイドライン

専門医のための腎臓病学
下条文武,内山 聖,富野康日己 編集

《書 評》川口良人(神奈川県衛生看護専門学校附属病院長)

今,腎臓専門医に求められる資質とは何か

 腎臓専門医に求められる資質とは,腎生理のしくみ,免疫機構,生体制御機構などを理解し,科学的基盤にたって腎臓病の診断,治療を実施できる知識と技能を取得することである。無論,腎移植を例にあげるまでもなく手術に関する技能については専門医全員が獲得することは要求できないが,臓器移植免疫の知識,ドナー,レシピエントの選択手段,実際に行なわれる術式に関する知識,患者管理のポイントについては,すべての専門医が取得しなければならない事項である。
 本書をこのような観点から評価した感想を述べる。
 症候論から本書が開始されているのは,最初に患者が腎臓専門医を訪れるのは何らかの徴候を有している場合が多いから,きわめて妥当である。しかしなぜ,腎生検が次に記述されているか理解できない。特に腎臓病の診断治療にとり腎生検で得られる情報が,いかに大切かを解いている内容からして,蛋白尿の中項目に包含される記述ではないと思われる。
 症候論の次に中項目をたてて腎生検と独立させたほうが理解しやすいのでは。構成に一工夫ほしかった。
 参考文献の引用も濃淡があり,この種のテキストでは,さらに理解を深めるための専門書ないし総説を記載すべきである。こまごまとした最近の研究報告を引用論文として掲載するのはそぐわない。
 例えば,低リン血症の個所をあげてみよう。古い論文であるが,今までに最も充実した,また,さまざまな臨床徴候をきたす重症低リン血症についてのバイブルとも見なされ,多くの教科書にほとんど引用されている総説「The pathophysiology and clinical characteristics of severe hypophosphatemia. Arch Intern Med 1977;137:203-220」などがある。このように古くても理解を深めるために“further reading”として取り上げるべき総説に限定して参考文献を置くべきである。研究成果のimplicationと同様な論文引用スタイルをとるのは,このテキストの目的としているところから逸脱しており,そのような項目も散見される。なぜなら腎臓研究者を対象としたテキストとは異なるのであるから。また基本的に理解していなければならないCa,Pi代謝異常の頁数に比較して,Mg代謝異常は長すぎる。この例にみるごとく,各項目について書き込みの深度に統一性がない。minimum requirement+up-to-date+問題点のある事象,治療法という記述スタイルを採用すべきではなかったか。編集者は分担執筆者に一任せずに,これらの点に配慮すべきであった。

腎臓専門医資格の取得を基準においた内容

 各論については,上に述べた点を除き理解しやすい記述であり,腎臓専門医資格の取得を基準においた内容である。特に各病態について小児領域からの見解と解説がなされていることは,腎臓専門医の資質としてすべての年齢層における腎疾患が対象となるというコンセプトから有用である。あえて不足する点をあげるならば,全体的に典型的な教科書的記載が多く,up-to-dateな病態を取りあげていない項目もある。例えば,急性腎不全のところでは,最近話題のvascular intervention後に発症するembolic acute renal failureにはまったく触れられていない。高Ca血症についても活性型vit D製剤による医原性のものがきわめて多く,Ca血症に直面した場合に最初に確認すべき項目は薬歴であることは,日常臨床において誰もが認識していることである。このような最近のトレンドを紹介し強調していただきたかった。また腎代行療法renal replacement therapyにおいては総論の項目を設定し,治療法の選択,それぞれの方法についての利点,不利な点,治療を行なわないという判断,治療からの撤退(中断)についてコンセンサスは確立されていないものの,少なくとも考える資料となるさまざまな見解について記述していただきたかった。これら研修医がしばしば直面し,苦悩する点がまったく省略されているのは残念である。さらに社会の中の腎臓病学という点からすれば現在適応可能な,さまざまな治療における公的補助制度についても基本的な記載がほしかった。
 総合的評価として,今日,腎臓専門医をめざす若い医師にとって有用なガイドラインとも言うべきテキストである。さらに本書を基盤として知識を拡大していく努力が,読者には要求されるであろう。
B5・頁536 定価(本体15,000円+税)医学書院


診療所での日常臨床に役立つコツを開陳

耳鼻咽喉科オフィスクリニック
主訴への対応編

小田 恂 編集

《書 評》神崎 仁(慶大名誉教授・耳鼻咽喉科学)

 このたび,小田恂東邦大学教授の編集による『耳鼻咽喉科オフィスクリニック-主訴への対応編』が出版された。この本は同名の『診察・検査編』の姉妹編であるので,あわせて読まれるとさらに理解を深められるものと思う。内容は耳疾患,鼻疾患,口腔疾患,喉頭疾患,頸部疾患の中で,頻度の高い主訴への対応について記載されている。

第一線で活躍中の執筆者による地に足がついた内容

 著者の大部分は新進気鋭の教授,助教授,講師であり第一線で活躍されているので,記載の内容は地に足がついた書き方になっている。また,耳介血管腫の項の「私のコツ」はオフィスの手技として追試したいものである。
 編者も序文で述べておられるように,医療の原点は救急医療であり,本書にはそれにふさわしい項目が取りあげられている。執筆者によって記載の仕方,構成が違うのは内容の点からやむを得ないものであろう。問診のところでは,執筆者によって問診の「要点」であったり,「ポイント」あるいは「コツ」とされていて統一されていないが,本質的なことではない。
 編者もおそらく迷われたと思うが,タイトルを「主訴への対応」とされたにもかかわらず,項目に疾患名がいくつか入っている点が若干気になる人もいるかもしれない。例えば,急性副鼻腔炎の主訴はいくつもあるので疾患名として独立させたのだとも考えられるが,「頭痛」の項目や「頬部痛」の項目に入れることもできたと思われる。同様に急性喉頭蓋炎や急性声門下喉頭炎は呼吸困難の項目に入れることも可能ではなかったか。本書には頭痛,呼吸困難の項目が作られていなかったのは残念であった。
 しかし,これらの点はそれぞれの記載の内容の問題ではない。内容は執筆者の個性が出ており,診療所での日常臨床に十分役に立つものであり,推薦に値するものである。したがって,診療所の医師のみならず,病院勤務の若手医師,看護婦さん方にも一読をお勧めしたい。
B5・頁228 定価(本体8,000円+税)医学書院