医学界新聞

 

プラクティ・メッド ジャパン2002開催

「医学診断と治療の進歩」をテーマに


 聖ルカ・ライフサイエンス研究所とHarvard Medical International(HMI)の共同主催による,プライマリ・ケアの普及と向上を目的としたミーティング,プラクティ・メッド ジャパン2002が,「医学診断と治療の進歩」をテーマとして,東京・中央区の聖路加看護大学において開催され,会場には350名を超える参加者が集まった。
 セッションに入る前に,櫻井健司氏(聖路加国際病院長)による開会挨拶,日野原重明氏(聖ルカ・ライフサイエンス研究所理事長),Harvey Makadon氏(HMI)による総論があり,セッションでは,プライマリ・ケア医にとって関心の深いそれぞれの具体的なテーマについて,海外から招聘した講師による講演と,国内からのパネリストを交えてのケースディスカッションが行なわれた。
 なお,今回用意されたテーマは,(1)「循環器疾患の予防と治療における進歩」(NEJM Associate editor Thomas Lee氏,東京医大 山科章氏,高尾クリニック 高尾信廣氏),(2)「上気道感染症に対する抗生物質の適正使用」(HMI Edward O'Rourke氏,舞鶴市民病院 松村理司氏,生坂医院 生坂正臣氏),(3)「喘息のコントロール治療」(NEJM Editor in Chief Jeffrey Drazen氏,聖マリアンナ医大 中川武正氏,弘前大 吉田聡氏),(4)「プライマリ・ケアにおけるうつ病」(ブラウン大 Raymond Powrie氏,東邦大 中野弘一氏,名大 伴信太郎氏)の4セッション。最終プログラムとして,パネルディスカッション「新知識の統合―コスト,クオリティおよび患者ニーズのバランスに向けて」(座長=Lee氏,京大 福井次矢氏)が企画された。


抗生剤の処方は慎重に

 セッション(2)「上気道感染症に対する抗生物質の適正使用」でO'Rourke氏は,「抗生剤処方における一番の理由となっている疾患は感冒,急性気管支炎,中耳炎,副鼻腔炎である」と指摘。米国ではこれらの疾患に対する処方が実に年間1000万処方にものぼると紹介し,こうした背景から,「抗生剤への耐性を持った細菌の出現率が世界的に増加している」と述べた。さらに氏は,これらの疾患の合理的治療に対する問題点として,本当に抗生剤の処方が必要かを鑑別できているのかという「診断の不確実性」や,不適切な抗生剤治療を期待し要求する患者などに対して,本当は教育すべきところを「治療」してしまっているのではないかという「治療におけるプライオリティ」などがあると指摘した。
 氏は小児の副鼻腔炎治療,急性中耳炎の耳痛,普通感冒のそれぞれについて,抗生剤使用時と不使用時の症状改善までにかかった日数を示したグラフを提示し,結果にほとんど差が見られないことを示した。その上で,「滲出性中耳炎の初期治療は抗生剤の適応にならない」,「粘液性・膿性の鼻汁は10―14日以上持続するのでなければ抗生剤使用の適応にならない」など,それぞれの疾患に対する抗生剤の適正使用の原則を紹介。高い確率で細菌感染症を疑う患者にのみ抗生剤の処方をするための実際的な臨床診断のガイドラインが発表されており,ガイドラインに基づいた慎重な判断に基づいた抗生剤使用によって耐性菌の出現率を下げることができると指摘した。
 また,抗生剤の適正処方を促進するために,医師に対しては適正使用の原則を教育し,一般市民に対しても教材やマスコミを利用して正しい知識を広めるキャンペーンが各国で行なわれており,抗生剤の適正使用と耐性菌の減少による成功が示されているとした。

EBM実践への障壁が浮き彫りに

 パネルディスカッション「新知識の統合―コスト,クオリティおよび患者ニーズのバランスに向けて」には,パネリストとして伴氏,中川氏,松村氏,Drazen氏に加え,福原俊一氏(京大)が登壇。座長の福井氏による「日本では新しいエビデンスが話題になることが少なく,新診療へのアクセスがあまりよくない」との指摘に対して,福原氏は「EBM実践のための最大の困難は英語にある」との厚生労働省の調査結果を報告し,さらに,特に「『治療しないほうがよい』エビデンス」について「やりにくい」とする医師の心性を指摘。また,医局制が医療の標準化を妨げている点についても言及した。
 この問題について松村氏は,「エビデンスを『作る』作業が非常に困難である」といった日本の状況から,「若い医師が情報に敏感であるのに対し,医師のMajorityにとっては自分たちで作ったものではないエビデンスを好まない傾向があり,両者の間に確執が生じることもある」と指摘した。一方座長のLee氏は,「米国でも同じように世代間で情報に対する反応が異なるという問題があり,すべての医師が新しいインフラを使いこなせることに期待する部分が出てきている」と述べた。
 また,会場内からは「開業医が紹介先の病院から診療法を理解してもらえないことも多い」との声も上がり,EBM実践が困難になっている背景があることを示唆する議論となった。
 福井氏は,ディスカッションのまとめにあたり,「今後もこのような会が日本中でより多く開かれれば」との期待を述べた。