医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


先輩から後輩医師へ伝授する外来診療のコツを満載

《総合診療ブックス》
総合外来 初診の心得21か条

福井次矢,小泉俊三,伴 信太郎 監修/松村真司,北西史直,川畑雅照 編集

《書 評》松下 明(奈義ファミリークリニック所長)

総合診療をめざす若い医師に必携

 本書は,総合診療をめざす若い医師が,外来に出る際に必携すべき1冊である。外来を担当して間もない研修医やレジデントが,あたかも指導医から外来指導を受けるような内容である。総合診療の領域で活躍している卒後10―15年目医師が中心となって執筆した本書は,先輩医師から後輩医師へ伝授する外来診療のコツが満載されている。
 「総論」として総合外来初診の心得から始まり,「医療面接」,「診察方法」,「問題解決方法」,「こころの問題」とこれまでの類書にない章立てで,総合外来に必要な臨床技能をまとめている。次いで「各論」として,「上気道炎症状」,「発熱」,「発疹」,「腰痛」,「腹痛」,「めまい」,「胸部不快」,「しびれ」,「不眠」,「倦怠感」,「頭痛」,「動悸」,「便秘」,「食欲不振」,「頻尿」,「浮腫」,「リンパ節腫大」と総合診療初診で出会う可能性の高い症状に対するアプローチがその頻度とともに提示される。
 特筆すべきは,総合診療医の思考プロセスとも言える疾患の鑑別を,(1)緊急性の高い疾患,(2)見逃せない疾患,(3)よくある疾患に分けて整理している点である。何を聞くか,何を診るか,何を考えるか,初期診療の進め方,コンサルトのタイミングという流れの中で総合診療に必要とされる枠組みを得られる構成になっている。

期待できる自らの診療の見直しと卒前・卒後教育への活用

 私は現在,人口7000人の町で家庭医・プライマリケア医として診療と卒前・卒後教育にかかわっているが,自らの診療の見直しとともに医学生・研修医教育に大いに活用していきたい1冊である。私自身が受けた外来診療の教育は,プレセプターと呼ばれる指導医に相談したり,複数の医師でカルテの内容を確認し指導を受けるというものであったが,症例に出会うたびに本書の「各論」にあたることで,そのような外来教育に近い効果が期待できそうである。
 本書には,「付録」として「総合外来を把握するための10の質問」と題した座談会の記録がある。ここで繰り広げられる会話を通して,日本における総合診療の過去・現在・未来を知ることができる点もおもしろい。
A5・頁316 定価(本体4,000円+税)医学書院


コンパクトに集約された皮膚疾患診療のエッセンス

今日の皮膚疾患治療指針 第3版
斎田俊明,塩原哲夫,宮地良樹,渡辺晋一 編集

《書 評》藤本 亘(川崎医大教授・皮膚科学)

拡大する社会の疾病構造の変化に伴う皮膚科の治療対象

 このたび,『今日の皮膚疾患治療指針』の第3版が,第2版の出版から6年ぶりに全面改訂され刊行された。この6年という年月の間,皮膚科学の進歩・発展にはめざましいものがある。新しい検査法・治療法が,次々と登場してきたばかりではなく(ダーモスコピー,デスモグレインELISAからタクロリムス外用剤・ビタミンD外用剤,光線化学療法,sentinel node biopsy,ケミカルピーリングまで),これまであいまいであった病態が,新しい視点から解明されるようになり(種痘様水泡症からdrug-induced hypersensitivity syndromeまで),新知見の集積に伴い疾患分類がより詳細になるとともに皮膚科が治療の対象とする疾患も,社会の疾病構造の変化に伴って拡大し続けている(NK細胞リンパ腫から緩和ケア,褥瘡,しみ,しわ,まで)。1人の皮膚科医がそのすべての領域に精通しているという時代は,とっくに終わっているように筆者には思えるが,良医たらんと欲すれば,無責任な経験主義ではなく,根拠のある診断法や治療法を用いて診療を行なうべきであろう。そのための「指針」が今回,新たな4名の編集担当者によって本書に提示されていると思う。

ソフトカバーでハンディに

 第3版を手にして驚いたのは,B5判ハードカバーからA5判ソフトカバーのハンディサイズに変わったことである。実際,PC,周辺機器とその他もろもろの書類で占められた机の上に広げてみると,大きな本でないほうが都合がよいことがわかる。
 頁をめくってみる。「プライマリケアのための鑑別診断のポイント」は,144枚にもおよぶ皮膚疾患のカラー写真を使って鑑別疾患を解説してあり,皮膚科研修医や皮膚科を専門としてはいないが,「真摯に」皮膚科を勉強しようという他科の医師に重宝するであろう。「鑑別診断」に続く「検査法」には,生検,ダーモスコピー,コンピュータ利用法,分子生物学的検査法などの項目が新たに追加され,「治療法」にも保湿外用剤,BRM,サイトカイン,皮膚悪性腫瘍の効果判定基準,美容的理学療法など新しい項目が登場している。

EBMが要求される診療現場を想定した心憎い配慮

 疾患別の項目を読み進んでみると,ちまたに氾濫する「マニュアル本」とは異なり,実践的な検査・治療に力点をおいた「皮膚科の教科書」をめざしたと思われる編者らのスタンスがみえてくる。すなわち,最新のサイエンスの成果が圧縮された[病因・発生機序]に続き,[必要な検査],[診断のポイントと治療方針]など診療に際して留意すべき点が解説された後に,[治療法]が示されている。さらに多くの疾患において[患者説明のポイント]をつけるなど,インフォームド・コンセント,EBMが要求される診療の現場を想定した心憎いまでの配慮がほどこされている。
 薬疹は独立した章を設けられ,重症薬疹やdrug-induced hypersensitivity syndromeの記載が充実しているのはうれしい。色素性乾皮症が専門医レベルの記載となっているのは,この数年の進歩の著しいことを物語っている。もっともステロイド剤内服による治療の際には,ビスフォスフォネートによる骨粗鬆症の治療にも触れてほしい,腫瘍性紅皮症があって腫瘍随伴性天疱瘡の記載がない,など細かな点で補足したいことがないわけではない。しかし,それらを差し引いても,やはり座右の書として買っておきたい本であることに変わりはない。
A5・頁832 定価(本体16,000円+税)医学書院


臨床現場における決断を助けるツールを身につけるために

臨床決断のエッセンス
不確実な臨床現場で最善の選択をするために

今井裕一 訳/秋田大学医学部EBM研究会 協力

《書 評》玉腰暁子(名大大学院助教授・医学推計・判断学)

医療現場でのEBM

 EBM(Evidence-Based Medicine)流行の昨今,医学生,医師であれば,EBMあるいは臨床疫学という言葉はよく耳にされるであろう。しかし,EBMは論文を批判的に読むことだと誤解したり,臨床疫学は研究だから普通の臨床現場では関係がないと思われることも少なくないようである。
 医療の現場では,日々刻々と判断を迫られる。患者が受診する都度,ゆっくり教科書を開き,論文を検索している余裕はないのが現状であろう。
 何らかの症状を訴えて受診した患者に対して必要な究極の判断は,どのような治療が必要か(不必要か)である。その判断を下すために確実に診断をつけたいと考え,多くの検査がオーダーされる。しかし,そもそも医療現場で確実なことはあまり多く存在しない。人という存在そのものがファジーだとも言えるかもしれないし,検査をすることで不確実性がむしろ増すこともあろう。

医師にとって必要な臨床決断-無意識下の作業の意識化

 確実ではなくても,患者に対して何らかの判断を迫られるのが臨床である。目の前の患者がある疾患に罹患している可能性はどの程度か,どのような状況下でどのような検査が求められるのか,どのような治療が必要かを,常に意識をしている医師を受診した患者は幸せである。本書は何故そのような判断が求められるのか,どのようなプロセスで判断にたどりつけばよいのか,わかりやすい言葉,事例を用いて書かれている。
 もちろん当然のことながら,この本を読んだからといって,目の前の患者がある疾患にかかっている確率はわからない。また必要な検査について述べられているわけでもない。しかし,多くの臨床の教科書にはそれぞれの疾患の頻度や分布が示されているし,感染症であればIT化の進んだ現在,流行状況は簡単に調べることができる。また,ある検査の感度,特異度(→陽性尤度比,陰性尤度比)も教科書や論文にあたることで得ることができる。そのような情報に加え,医師としての経験,患者の背景などを考慮して,いかに判断を下すのか,その流れを理解し,臨床現場における判断を助けるツールを身につけるために本書をお勧めしたい。
 多くの医師は特に意識することなく,毎日の臨床においてそのようなプロセスを経ているであろう。それでもあえて本書を読まれることで,無意識下の作業を意識していただくことは,決して無駄にはならないと信じる。また,用語集はEBM,臨床疫学について書かれた教科書,論文を今後新たに読み進む助けになろう。
A5・頁152 定価(本体2,200円+税)医学書院


実地医家向け膝関節疾患ガイドの誕生

膝MRI
新津 守 著

《書 評》史野根生〔大阪府立看護大医療技術短大教授
  /阪大整形外科学(スポーツクリニック)〕

 筆者が,膝関節を中心としたスポーツ整形の分野を志して,早や20余年の歳月が流れてしまった。その間,どのような進歩があったであろうか。骨損傷を伴わない外傷性膝関節傷害は膝内障と総称され,「よくわからないもの」と考えられていた。十字靭帯や半月など関節内軟部組織がよく損傷をきたすのに,その傷害部位を特定できる非侵襲的診断法が確立されていなかったからである。「関節切開手術より痛い」と言われた関節造影は,余りに診断的価値が低く,関節鏡は小手術とも言うべきものであり,到底非侵襲的診断法とは言えなかった。
 1980年代の中頃であろうか,米国の学会でみたMRI画像は,衝撃以外の何者でもなかった。あの,関節切開や関節鏡を施行しなければわからないと言われた十字靭帯や半月が,見事に描写されているではないか。やがて,ようやく本邦でもMRI画像が撮れるようになり,筆者は造影をやめてしまった。つまり,MRIは膝の構造体を描写する,最高の非侵襲的手段と断言できる。

うかがい知る著者のスポーツ障害に対する造詣の重さ

 さて,本書『膝MRI』である。まず,書名の単刀直入さ通り,画像,シェーマ,箇条書きの本文からなり,非常にわかりやすく整理されている。つぎに,表紙の写真である。前十字靭帯の矢状断スライスが大きく掲載されている。これで,著者の前十字靭帯損傷を中心とするスポーツ傷害に対する造詣の深さがうかがい知れる。
 第1,2章では,解剖,撮像の具体的方法,注意点や,描写しがたい軟骨の撮影法などが要領よく述べられている。しかし,白眉は,第3章であろう。単に前十字靭帯損傷の診断法のみならず,再建術の基本,移植靱帯の再構築過程,再建靭帯のMRI評価にまで言及されている。つまり,診断のプロとしての放射線科医師としてでなく,MRIを通じて患者治療やその予後に関心を寄せる“熱い心”を持った医療チームの医師の1人としての姿勢で,記載が貫かれている。したがって,随所に疫学,病因論,治療の原則などが要領よくちりばめられている。以下の最終章まで,この姿勢はずっと貫かれている。
 また,めずらしいBlount病や,アミロイド関節症なども記載され,本書はMRIを中心とした膝関節疾患図譜としても,秀逸と言える。さらに,特筆すべきは,掲載されている画像の鮮烈さであろう。これは,表紙に始まり,最終の頁までずっと一貫している。
 本邦にこのような実地医家向けのすばらしい膝関節疾患ガイドが誕生したことを,心から喜びたい。
B5・頁160 定価(本体5,200円+税)医学書院


医学生を麻酔科学の虜にする内容と編者の意気込み

標準麻酔科学 第4版
吉村 望 監修/熊澤光生,弓削孟文,古家 仁 編集

《書 評》槇田浩史(東医歯大大学院教授・心肺統御麻酔学)

 本書は,15年前に初版が出版され,このたび第4版が出版された。初版は3刷,第2版は2刷,第3版は4刷と増刷された実績は,日本麻酔科学のまさに標準的教科書となったことを証明している。本書は,医学部学生および研修医のために書かれた教科書であるが,麻酔科専門医試験の基礎的勉強にも耐えうるような充実内容に書かれている。

全力で応えた内容

 「教科書というものは,やはり医学生が最初にその学問を学ぼうとして繙く書である。その教科書を開いた医学生が深くその学問の虜になってしまうほどの魅力を満載したものでなければ,世に出す意味がない」という高い目標をかかげた編集者の意味込みに,執筆陣が紙面の許す限り全力で応えた内容である。基本的事項を網羅してあるのは当然のこと,ガイドライン2000を踏まえた新しい心肺蘇生法などの最新の知見と,今後日本で発売され普及していくことが予想される新しい麻酔薬の動向まで記載されている。さらに,「麻酔深度評価」,「臓器移植の麻酔」,「日帰り麻酔」,「緩和医療」などは新たな章を設けて記述してあり,本書は当分の間新鮮な教科書であり続けると思われる。呼吸,循環,体液平衡,および神経系の生理学は,麻酔科学を学び実践する者にとって重要な基本的知識である。これらについては,特に十分な紙面を使ってわかりやすく,しかも詳しく書かれている点が心強い。麻酔科関連領域の「ペインクリニック」,「緩和医療」,「集中治療」,「救急医療」,「中毒」なども章を設けて解説してあるので,関連領域の学習も本書1冊でカバーすることができる。

読みやすく理解しやすい体裁

 本書の大きな特徴として,写真と図による視覚教材を多く取り入れ,読者が理解しやすいように工夫してあることがあげられる。図と表はただ単に数が多いだけでなく,理解と知識の整理のために有効に使われている。またTea Timeコーナーという囲み記事を設けることによって,興味を引く146項目の話題が簡潔に記載されており,息抜きをしながら勉強できるような配慮もなされている。第4版より2色刷りとなったのは他書に見られない大きな特徴である。これによって図のほとんどが2色刷りとなったために非常に見やすくなり,また2色刷りをうまく利用した小見出しによって本文の体裁も整理整頓された印象を受ける。以上の特長すべてが,比較的大著にもかかわらず本書が読みやすくなっていることに貢献している。
 編者が意図するように,本書を手にした医学生や臨床研修医が麻酔科学の魅力にとりつかれ,麻酔科に進路希望することになれば,単に知識を伝授する教科書以上の価値があることになる。本書はそのような教科書である。
B5・頁576 定価(本体6,500円+税)医学書院


強迫性障害に取り組んできた著者30年の治療の道標

強迫性障害 病態と治療
成田善弘 著

《書 評》川谷大治(川谷医院長)

豊富な経験による強迫性障害治療のすべてを開陳

 評者が,この数年間もっとも関心があるのが「強迫」である。その理由は,精神科診療所には強迫患者の受診が多いからである。年間に平均10名は,新患として診ている。しかし,新来患者数400で割るとわずか2.5%に過ぎない数である。当院から徒歩で10分のところには,行動療法で有名なN先生も精神科クリニックを開業している。N先生(年間新来患者数約40名)に比べると,年間10名は少ないかもしれない。にもかかわらず彼らの存在感は大きい。それは私がうつ病,分裂病,ボーダーライン,家庭内暴力や引きこもり青年,摂食障害,アルコール依存症,病的浪費(借金)の患者たちの中に強迫を見ているからかもしれない。それとも強迫者と肌が合うから?
 必要に迫られて強迫の治療を模索している時に,成田先生のこれまでの強迫に関す論文は治療の道標となった。その成田先生の約30年間の強迫の研究を,コンパクトに収めたのが本書である。そのため診療の合間に手にすることができる。しかも文献紹介も約200編にもおよび原典に当たれてうれしいし,強迫について知りたいことがすべて網羅されている。治療の項目には約30%もの紙面を割き,わかりやすく説いてある。はじめて強迫性障害と出会うであろう研修医から,時々彼らの対応を迫られる開業医まで十分に満足させてくれる内容である。受診しない患者や家族への援助は欠かせないし,初回面接の大切さを重視しているのは臨床家だからこそ書ける構成である。精神療法のストラテジーと薬物療法の項目は,実践的で成田先生の経験の豊富さと人柄を反映している。

現代の若者の理解にもつながる見解

 これは私の関心ごとの1つであるが,強迫性障害やその関連疾患の治療をしていると,強迫の中核を想定したくなってくる。行動療法は,精神分析と違って症状には意味がないと考えるが,成田先生は強迫の成因を一臨床家の立場,それは実に治療過程でもある,から以下のように考えている。強迫の中核に「尊大な自己像」を仮定し,彼らの自己愛を脅かす状況で「彼らは強迫的防衛機制を発動させ,自分がすべてをコントロールしうるという幻想を存続させ,尊大な自己像を保とうとする」と述べている。非常に臨床的かつ現代の若者の理解の糸口にもつながる見解である。
 最後に,本書は精神療法をめざす精神科医の必読書である土井健郎の『方法としての面接』(医学書院)に匹敵する良書である。診察室にふさわしい本である。
A5・頁168 定価(本体2,800円+税)医学書院