医学界新聞

 

 〔連載〕ChatBooth

 裏方のススメ

 栗原知女


 A課長とB課長は,次期部長のイスをねらうライバル同士だ。営業第1課のA課長は,バリバリのヤリ手。常に目立つ業績を上げ,上役へアピールする。部下に対しては「お前らがダメだから,オレががんばらねば」が口ぐせだ。一方,営業第2課のB課長は地味なタイプだが,部下たちの成績は上り調子だ。トータルで第1課をしのぐ月もある。
 次期部長に決まるのは,どちらであろうか。A課長が選ばれたとしたら,その会社は伸びる見込みがない。マネジャーとしての最大の使命は,部下の育成である。その点,A課長は失格だ。自分で仕事のおいしいところを独占し,部下に与えようとしない。一方,B課長は部下たちにどんどん権限委譲し,常に実力以上の仕事にチャレンジさせながら能力を引き出している。
 さて,ナースの世界ではA課長タイプとB課長タイプ,どちらが多いか教えてほしい。私がこれまでに接してきた範囲では,Aタイプが多いかも。使命感が人一倍強く,すこぶる優秀である半面,仕事を手放すのが下手である。「抱え込み願望」が強すぎるのだ。
 特に訪問看護ステーションの所長にそういうタイプが多いように見える。訪問看護,ケアマネ,ステーションの管理者,下手をするとヘルパーステーションの管理者まで兼ねる人もいる。
 「患者全員の状態が頭に入っているから,夜間は私1人で対応している。家で風呂に入る時も携帯電話が聞こえるようにしている」という言葉には驚いた。そんなことでは,いずれ燃え尽きてしまう。
 対照的な例を紹介しよう。「リエゾン心理士」というスペシャリストに会った。患者と面接し心理療法を行なう他,病棟ナースとの連携に力を入れている点で従来の心理士とは異なる。入院患者のメンタルケアは,日常的に接しているナースほどの適任者はいないと彼女は考える。
 ナースを舞台上の役者にたとえれば,リエゾン心理士は演出家,時には脚本家の役目を果たす。心理的な問題を抱えた患者に対し,どのタイミングに,どのような言葉で,コミュニケーションをとればよいのか,時には模範演技を示し,セリフの指導を行なう。特にうつの症状が出ている患者への対応は,彼女のような専門家の助言が貴重であろう。ナースの「アンチョコ」用に,セリフの例を書いて目につく場所に貼って指導したこともあるそうだ。
 「ナースに手柄を立てさせるのも,私の仕事」と言う。
 現場からあえて身を引き,離れたところからプレーヤーの動きを観察して初めて問題が見えてくる。マネジャー的な立場の人は,いったん表舞台から下り,裏方の視点で見ることをおススメしたい。