医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


小児の画像診断の実践的なテキスト

必修 小児の画像診断
Hans Blickman 著/相原敏則 監訳

《書 評》大澤 忠(自治医大名誉教授)

バランスのとれた診断医になるために

 上梓が待たれていた〈The Requisitesシリーズ〉の『小児の画像診断』がとどいた。北米では,放射線診断のレジデントは,将来バランスがとれた診断医になるように,subspecialtyを選ぶ前にgeneral radiologyを研修しなければならない。その中で,専門医受験資格取得のため12週間の小児放射線診断が義務づけられている。本書は,それらレジデントやフェローの「必修書,requisites」の1つとして愛用されてきたもので,もちろんDr. Caffey G,Dr. Kirks DR,Dr. Swischuk LEらの大著とは基本的に違う。
 12週間の研修に入る前に,数日でまず通読し,その後毎日の仕事の中で再読し,再認識しながら小児の画像診断が身につくようになっている。実践的なテキストであるが,系統的,基礎的な知識整理にも役立つように,項目立ては症候対応ではなく臓器別の7章からなっている。「子どもは,小さな大人ではない」は繰り返して言われながら,よく理解されていない言葉の1つである。本書では適切な診断法や検査法の選択,適応の判断,結果の解釈などは小児と大人とでは違うのが当たり前であることが無理なく納得させられる。さらに子どもの画像所見の成り立ちを理解するため,各章のはじめに小児特有の解剖,発生,生理,正常変異などが簡潔に述べられている。また,小児画像診断では単純X線写真の重要性が高いが,CT,MRI,超音波など断層画像の相補的あるいは問題解決型適用についてもバランスよく取り入れられている。
 本書は,英文を単純に日本文に移し換えた翻訳ではない。監訳者らの臨床経験や哲学に裏づけられた原著の適切な敷衍,訳註が読者の理解を深めてくれる。監訳者は,「general radiology」の適当な訳語がないことを嘆いているが,まったく同感である。評者は30年前自治医大が開設された時に,general radiologyをベースとしたsubspecialtiesを持つ放射線診断をめざした。茨の道であったが,目標を同じにする人々と努力した日々を想い出している。監訳者は当時の優秀なレジデントの1人であり,現在わが国の小児画像診断の実力ナンバーワンである。

小児の画像診断に携わる機会の多い臨床家に最適

 放射線診断学も,臨床の他分野と同じように専門の細分化が進んでいる。それだけに狭い範囲のスーパースペシャリストをめざす前に,全身を診ることができる,また数多い画像診断法の位置づけを冷静に判断できる放射線医学的常識,教養を持つgeneral radiologistが一層必要とされ,求められていると考える。本書が放射線診断の研修医や日頃小児を診る機会が少ないgeneral radiologistのrequisiteとして,また相談できる小児放射線診断医が身近にいない小児科医の座右の書になることを期待して推薦する。
A4変・頁360 定価(本体11,000円+税)MEDSi


画期的な触診による体表解剖書

触診解剖アトラス 頸部・体幹・上肢
Serge Tixa 著/奈良 勲 監訳/川口浩太郎,金子文成,藤村昌彦,佐藤春彦 訳

《書 評》石川 朗(札幌医大保健医療学部助教授・理学療法学)

触診法の理解を進める写真と構成

 本書『触診解剖アトラス 頸部・体幹・上肢』は,スイスOsteopathyローザンヌ校Serge Tixa教授によって著され,医学書院よりすでに翻訳出版されている『触診解剖アトラス 下肢』の続編である。したがって,下肢の実践的な触診法の理解に高い評価を得ている『触診解剖アトラス 下肢』と,同様の構成となっている。
 228頁からなるこの本には,頸,体幹,上肢について390枚の写真が用いられ,「頸部」,「体幹・仙骨」,「肩」,「上腕」,「肘関節」,「前腕」および「手関節・手」と言う7つの章に分かれている。また,それぞれが骨学,筋学(筋,腱),神経および血管の項目からなっている。
 本書は,徒手的または視覚的な手段を用いた体表解剖学の検査法を,具体的で明瞭な写真によって解説している。ここに,著者の意向が,本書を詳細な解剖学書の代用とするのではなく,体表解剖書として頸部,体幹,上肢の主な筋,神経,靱帯,腱などを触診によって確認することにあると感じられる。

教育・臨床の場でともに有効

 筆者は,大学にて呼吸障害に対する理学療法について教育を行なっている。すでに,解剖学の講義が終了している学生が対象であるが,呼吸に関連する解剖を整理させると,系統立てた理解ができていないことが多い。この場合,最初に実施することは頸部や体幹の触診であり,触診により胸郭を構成している骨や呼吸筋の理解につながる。しかし,現行の体表解剖書では,これらの自己学習は困難であった。
 これに対し本書は,等尺性収縮により筋を浮き上がらせるなど,基本的な触診の方法をわかりやすく説明している。さらに学生にとっては,巻末の和文索引と欧文索引,また解剖学用語へのルビなど,解剖学の履修や解剖学習書,触診の実習において辞書としても使えるように配慮されている。
 本書は理学療法学課程,作業療法学課程の学生はもとより,すでに臨床に携わっておられる医療関連職種の方々にとってもたいへん有効であり,ぜひお勧めしたい1冊である。
B5・頁228 定価(本体4,800円+税)医学書院


女性を診るすべての医師に必要な情報とスキルを満載

《Ladies Medicine Today》
婦人科検査マニュアル
データの読み方から評価まで

倉智博久 編集

《書 評》堤 治(東大大学院教授・産科婦人科学)

重視されるようになったEBM

 医学の進歩は日進月歩で,遺伝子診断を含めて新たな検査法が次々に開発され,より迅速に正確な診断が可能になってきている。その反面,多くの検査法の中から無駄を省き,要領よく必要な検査を選択し,得られたデータを正しく評価する必要が高まっている。また,臨床の場でEvidence-based Medicine(EBM)の重要性が認識され,検査値の解釈やそれに基づく診断や治療においてもEBMが重視されるようになった。
 婦人科領域もさまざまな分野がより専門化あるいは高度化し,一般臨床において実施する検査の数は,特殊なものを含め急増している。このたび倉智博久教授が編集された『婦人科検査マニュアル-データの読み方から評価まで』は,従来からの必須な検査から最近開発され臨床に不可欠となった検査までを,EBMを重視し,わかりやすく,活用しやすいマニュアルにまとめたものである。婦人科領域の分野ごとに,「第1章婦人科腫瘍の検査」,「第2章生殖生理の検査」,「第3章女性内科の検査」,「第4章感染症の検査」からなっている。
 婦人科腫瘍の検査は,細胞診からはじまる。本書は,できるだけ実際の診療に役立つようにという工夫が随所にみられるが,研修医が読んでも自分で行なうことができるように,細胞診の検体採取法が詳しく記されている。内視鏡,画像診断も,専門家が初心の者を手をとって教えるようにわかりやすい。「ここがポイント」の項も大変役に立つ。遺伝子診断はアップツーデートな項目で,パピローマウイルスや癌遺伝子なども取り入れられている。具体的な方法や,原理から検査結果の評価を平易に解説されているのがうれしい。
 生殖生理の検査は,倉智教授の専門分野だけに,不妊症や内分泌疾患の診断や評価に必要な検査が網羅されている。特に内分泌機能検査は,各種ホルモン測定とホルモン負荷テストが具体的に述べられ,測定値の評価もそれぞれの専門家の説明がわかりやすい。婦人科でも必要性が増している男性不妊の検査も詳しく取り上げられている。
 女性内科の検査は,「閉経後女性の健康」に関連する部門を特にまとめ,充実させたもので,その視点は本書の特徴の1つということができる。コレステロール,トリグリセライドという血中脂質値や動脈硬化の評価など,今後,婦人科医が女性を長いスパンでトータルに診ていく上で欠くことのできない知識である。
 感染症の検査では,スタンダードな細菌検査はもちろん,最近需要が増えているウイルス検査の意義や具体的な方法が述べられている。血清学的検査,遺伝子検査は比較的最近の応用面までが評価されている。

臨床の場で座右に置いて活用するにふさわしいマニュアル

 書評を依頼され,本書を一気に通読した。本書は,女性を診るすべての医師に必要な情報とスキルが満載され,的確な診断のためのムダのない検査オーダーをするために,臨床の場で座右に置いて活用するのにふさわしいマニュアルである。同時に,各分野における最新の考え方をアップデートできる世代を超えた臨床医の読み物としても推薦できるものである。
A5・頁232 定価(本体7,800円+税)医学書院


ユニークで有用な周産期の病理学テキスト

目でみる胎盤病理
中山雅弘 著

《書 評》仁志田博司(東女医大母子総合医療センター所長)

記念すべき周産期病理学書

 世界にはアメリカのNaeyeや,イギリスのWillingworthなど,周産期を専門とする病理学者が,産科学や新生児学および母子の医療の進歩に重要な情報を提供してくれていた。ようやく日本においても,まさに歴史の1頁を開くとも言える記念すべき本書が発行されたことは,この分野に携わるものとして,大きな喜びを感ずるものである。
 中山博士は,1981年に日本で最初かつ現在でも世界第一流の周産期センターである大阪府立母子保健総合医療センターの設立当時から,病理学者として深く臨床医とのかかわりを持ちながら,その発展に寄与してきた。中山博士が序に述べているごとく,この20年間に集積された膨大な病理と臨床のデータが,開設当初からコンピュータ化されファイルされていた,大阪府立母子保健医療センターを立ち上げた先駆者たちの慧眼に敬意を表する。それによって臨床と病理のリエゾン化が可能となり,このきわめてユニークかつ有用な周産期の病理学のテキストとなる本が作り出されたのである。
 一読すると,本書が単に病理学者の専門的なテキストとして書かれたものではなく,実際の産科と新生児を中心とした周産期医療に携わる人たちを対象とし,「臨床に役立つ病理学」という視点から書かれたものであることが読みとれる。一般に病理学のような専門の分野からの本は,一般の臨床家にとってなじみにくい面を持つのがむしろその特徴と思われていたが,本書はその柔らかい語り口の文章に加え,説得力のある図表に平易な言葉で説明が加えられている。また,選び抜かれた病理組織の写真からは,中山博士の自分たちの持っている知識と経験を,ぜひ臨床に応用してほしいという熱いメッセージのような意図がひしひしと伝わってくる。

期待される臨床と病理の共同作業による成果

 当然のことながら専門書であり,平易な文章で書かれながらも,その学問的な内容は深く選び抜かれた適切な引用文献が各章にのせられていることからも読みとれる。そのともすると硬くなりがちな文章の流れの中に,オアシスのような息抜きの箇所として「パソロジー・ラボから」と称する一口メモのようなコーナーが,何か所かに散りばめられているのも,病理という基礎分野と臨床の共存を願う中山博士の1つの工夫と読みとれる。
 周産期の病理部門から臨床への中山博士の数多い貢献の中で,最も有名なものの1つは,Wilson-Mikity症候群と絨毛膜羊膜炎の関係であろう。この仕事は,現院長の藤村正哲博士の臨床家としての鋭い目と,病理学者としての中山博士のプロの直感が結びついた結果生まれたものと評価されており,世界に日本から発信しつつある学問的成果の1つである。この研究を含めたさらなる臨床と病理の共同作業から,新たな成果が次々と生まれることが期待されている。
 本の大きさも手頃であり,どの周産期医療に携わる医療施設にも常備されるべき本であるとともに,検査科の病理医師のみならず,周産期医療に携わる臨床家も一度手にとって見るべき,きわめて価値のある重要な本であることはその論を待たない。
B5・頁120 定価(本体10,000円+税)医学書院