医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


待望の膝MRI診断学テキストの完成

膝MRI
新津 守 著

《書 評》福田国彦(慈恵医大教授・放射線医学)

 MRIの出現は,骨関節領域の画像診断アルゴリズムに大きな変革をもたらした。現在では,MRIなしにこの領域の診療は成り立たない,と言っても過言ではない。骨関節の中では,膝は脊椎についでMRI検査の依頼が多いにもかかわらず,本邦では膝MRIのテキストはなかった。待望の膝MRI診断学テキストの完成と言える。

膝MRI診断の格好の入門書

 本書には,いくつか特徴がある。
 まず第1に,非常に読みやすいレイアウトで構成されていることが目を引く。質の高いMR画像と,適切に描かれた図が多用されており視覚的な理解を容易にしている。文章は,すべて箇条書きである。また,参考文献は章末一括でなく該当部位に挿入されている。短時間に内容を理解し,必要に応じて頁をめくることなく引用文献が確認できるように工夫されている。
 第2は,MRI検査と診断のポイントが,簡潔かつ明確に示されていることである。MRIの原理は,臨床的に必要な点に絞っており,むしろ撮像時の膝の固定法,撮像断面の決め方,ACLの描出能をあげるための工夫など,いかにしたら良質な画像を得られるかを具体的に解説している。また,読影にあたっての注意点についても,誤りやすい点など具体的な指摘がある。
 第3は,筆者の膝MRI診断に対する考えが,コラム覧を中心に随所に示されていることである。例えば,半月板内部の高信号に対するgrading分類については,その分類自体を知らなければ臨床現場では役に立たないので,このような実態のないgradingは,もう使うことはよそうと提案している。
 このように,本書は膝のMRI診断にこだわりながらこれまで診療されてきた著者の,いわばシークレット診療メモの集大成と言える。
 本書は,整形外科医と放射線診断医にとって,膝MRI診断の格好の入門書であると同時に,すでに膝を専門とする医師にとっても,あいまいであったMRI診断の知識を短時間で系統的に整理するのに大いに役立つと考える。また,リファレンスブックとして診察室や読影室に,必ず常備すべき本として本書を推奨する。
B5・頁160 定価(本体5,200円+税)医学書院


冠動脈インターベンショナリストのための画期的アトラス

PCI治療戦略に活かす
PTCA・ステントの病理カラーアトラス

延吉正清 監修/井上勝美 著

《書 評》堀江俊伸(埼玉県立循環器・呼吸器病センター院長)

世界に誇りうる豊富な症例の検討結果

 このたび,医学書院から井上勝美先生による『PCI治療戦略に活かすPTCA・ステントの病理カラーアトラス』が出版された。井上勝美先生は病理学の基礎を学んだ後,臨床医として心臓カテーテルにも携わってきた,本邦では非常に貴重な循環器内科医でもある。冠血管インターベンションについては,小倉記念病院という本邦だけでなく世界にも誇りうる豊富な症例を活かし,冠動脈造影と冠動脈の病理組織像が,詳細に対比検討されている。
 本書は,「PTCAの病理」と「ステントの病理」の2章に分かれている。「PTCAの病理」の項では,PTCA施行後の冠動脈病理像の経時的変化と題し,「なぜPTCA後1年を経過すると再狭窄は減少するのか」という疑問に対して,PTCA施行後1年以上経過しても内腔がよく開存している例では,平滑筋細胞がむしろ小型化し,これがPTCA後1年以上経過すると,むしろ再狭窄が減少することを病理学的立場から実例で示している。病理像からみたPTCA施行部位の長期予後の項では,「症状発現を伴わない再狭窄部にインターベンションは必要か」との問題に対して,病理組織像からみて特に症状発現を伴わない程度の再狭窄病変は,しだいに退縮傾向を示し,さらにインターベンションの追加を行なわなくても,重篤な心血管イベントには至らないという臨床報告の裏づけをしている。

他に類をみないステントの病理の症例

 現在では,虚血性心疾患の治療としてステントが,非常に大きな役割を果たしていることは言うまでもない。しかし,ステント挿入例に対して,臨床的な立場からみた疑問点に答えてくれる成書は,ほとんどないと言っても過言ではない。しかし,本書では,臨床における疑問点・問題点を少しずつ明らかにしてくれる。おそらくステントの病理についての豊富な症例は,他には類をみないだろう。特に「ステント植え込み後の長期予後はどうなるのか」との疑問に対しては,ステント植え込み後3年を経過した例を呈示し,新生内膜においては平滑筋細胞は著明に減少するが,ステントストラット周囲の異物巨細胞の反応が明瞭に観察され,その周囲に泡沫細胞群が集まっている像を認めている。これらの所見は,PTCAとは異なり,マクロファージをはじめとする炎症細胞が長期にわたって認められ,異物反応は持続して生じるという。
 以上のように本書では,臨床の現場で遭遇するいろいろの疑問点を実際の症例を呈示しながら,詳細に検討された病理学的所見とともに解説がなされている。PTCAやステント植え込み後にどのような病変が起こっているのか,参考になると思われる。冠血管インターベンションに従事する循環器内科医はもちろんのこと,放射線技師や臨床工学技士の方々にもぜひ参考にしていただきたい。しかし,本書でもっとすばらしいことは,ステント挿入部の病理組織像を詳細に検討することは,並大抵の努力では到底できない。この成書の裏に隠れた何十倍もの多大の労力に対して,敬意を表するとともに読者にもその努力を読みとっていただきたい。
A4・頁100 定価(本体9,500円+税)医学書院


タイムリーなバイオインフォマティクスの教科書登場

バイオインフォマティクス
ゲノム配列から機能解析へ

David W. Mount 著/岡崎康司,坊農秀雅 監訳

《書 評》菅野純夫(東大医科研ヒトゲノム解析センター助教授・ゲノム構造解析)

 本書は,Mount博士によって書かれた『Bioinformatics-Sequence and Genome Analysis』(Cold Spring Harbor Laboratory Press)の日本語訳であり,非常にタイムリーな教科書の登場である。
 医学生物学におけるバイオインフォマティクスの重要性は,言われて久しい。しかしながら,バイオインフォマティクスはゲノム研究の一部ととらえられ,医学生物学全体に関わるものとはとらえられていなかったのが,これまでの実態であった。それを反映して,これまでに出版されたバイオインフォマティクス関係の本は,ゲノム研究者向けのノウハウ本か,ゲノム解析とは無縁な研究者に対する啓蒙書が多かった。
 このような状況が,ヒトゲノムのドラフト配列が決定され,昨年,論文が発表されたあたりから変化し始めたのである。今聞くところによると,バイオインフォマティクス関連のセミナーは,満員盛況だという。ヒトゲノムの持つ豊かな情報が,ゲノム研究という専門の枠を越え,医学生物学に関係する多くの人々に,バイオインフォマティクスの重要性・必要性を気づかせたためと言えよう。そして,そこに登場した初めての本格的な教科書が本書なのである。

バイオインフォマティクスの学問の神髄に迫る

 バイオインフォマティクスは,医学生物学と情報学のまさに境界領域であり,どちらに軸足をおいて教科書を書くかが一応問題となる。本書は,医学生物学を学んだ人のための教科書ということを明記している。ある程度,医学生物学の「教養」を読者が持っていることを期待しているということであろう。しかしながら,分厚いアメリカ流教科書の例に漏れず,説明はていねいであり,ほとんど予備知識を必要とせずに,いままでは専門家以外あまり触れることができなかった奥深いところまで,バイオインフォマティクスを理解させてくれる。実際,本書によって私が日常何気なく使っているプログラムの陰に,高度の分子生物学の知識,進化学の知識,統計学の知識,アルゴリズムとプログラミングの知識があることを知ることができた。能書きや抽象的なかけ声ではなく,実物に対するていねいな説明の積み重ねで学問の神髄に迫るのが,アメリカ流教科書のよいところであろう。また,それは優れて実践的でもある。
 バイオインフォマティクスをめぐる状況の変化をいち早く感じ取り,本書をすばやく翻訳された監訳者の岡崎先生,坊農先生の先見性と努力に敬意を表したい。本書の翻訳には,理化研を中心に多くのバイオインフォマティシャンが参加している。彼らは,実は日本のバイオインフォマティクスの中核を担っている人々である。ない時間をやりくりして翻訳されたことと思う。そこにも,現在のバイオインフォマティクスを取り巻いている熱気と使命感が感じられるのである。
A4変・頁592 定価(本体9,500円+税)MEDSi


多くの示唆を与えてくれる内因性精神病分類の翻訳書

内因性精神病の分類
Helmut Beckmann 著/福田哲雄,岩波 明,林 拓二 監訳

《書 評》金 吉晴(国立精神・神経センター精保研部長・成人病精神保健部)

 Leonhardと言えば,精神医学を志すもので知らぬ者はない。内因性精神病分類の大家であり,Wernicke, Kleistに連なるその学説は,ヨーロッパ精神医学の重要な潮流をなしている。その影響は,満田らの労作を通して日本にも早くから届いていたが,しだいに優勢となった英米圏の実証的精神医学の中では,その学の全貌はなかなか一般に知られるところとはならなかった。その一因は,彼が旧東ドイツ圏のフンボルト大学の教授であり,いわゆる西側との交流が制限されていたためでもあろう。とはいえフンボルト大学こそは,ドイツにおける大学の名門であり,彼が伝統的なドイツアカデミズムの中心に座していたことには変わりはない。また近年では,Wernicke-Kleist-Leonhard学会も設立され,その学説が再び注目を集めている。

日本精神医学界に貴重な1冊

 「内因性精神病の分類」はLeonhardの代表作であり,彼の学説はほぼこの1冊に網羅されていると言っても過言ではない。かねてからこの学説に造詣の深い,福田,岩波,林氏による監訳により,日本の精神医学界に貴重な1冊が加わることとなったのは,大変に意義深いことである。評者は,今回の翻訳の手引きとなった英訳本を手許に持たないが,ドイツ語原文と何か所かを比べてみても,とてもわかりやすい訳であると感じた。2か国語のテキストを参照しつつ,術後の訳を検討されたであろう監訳者のご苦労は並々ならぬものがあったと推測される。
 今日の診断分類の原則は,信頼性の向上であるが,そのために診断概念の内実は貧困になり,例えばschizophreniaについては,多くの者がheterogeneityを仮定していながら,簡便な診断基準の呪縛から抜けることができない。このstagnationを抜け出すためには,将来の生物学的なbreak throughに期待するのもよいが,どのような所見も臨床現象と対応しない限りは無意味であり,その意味でもより精緻な症候論,分類原理が求められるはずである。Leonhardの提唱する,循環性,系統性などの分類原理,また,疾患概念に含まれる記述の豊かさは,こうした要請に応えてあまりある。
 本書にあげられた分類概念は,確かにcategoryなのかdimensionなのか,症候なのか疾患なのかという議論を一部には呼び起こすかもしれない。しかし本書には,かつての精神医学が持っていた記述と概念構成の豊かさがあふれており,それは,schizophreniaに関して,たかだか30症状を組み合わせているに過ぎないDSMの遠く及ばないところである。さらに重要なことは,この分類の根幹は,抗精神病薬の導入以前の経過観察に基づいて作られたということである。DSM-III以降のschizophrenia研究が再考されつつある現在,このような背景を持つ本書が翻訳されたことは,私たちに多くの示唆を与えるものと思う。
B5・頁240 定価(本体6,500円+税)医学書院


整形外科を学ぶにあたってまさに「標準」の教科書

標準整形外科学 第8版
石井清一,平澤泰介 監修/鳥巣岳彦,国分正一,中村利孝,松野丈夫 編集

《書 評》久保俊一(京府医大教授・整形外科学)

カラー化されより使いやすく,より実践的に

 従来から『標準整形外科学』は,整形外科を学ぶにあたって欠くことのできない,まさに「標準」の教科書であった。これまでも改訂のたびに,単なる記述の更新にとどまらず,より使いやすく,より実践的なものへと改められてきた。その中でも,今回の第8版では,大幅なカラー化によって格段に読みやすくなるとともに,「疾患総論」,「疾患各論」,「外傷およびリハビリテーション」の各編において各章の始めに「診療の手順」として実践的なチェック項目が新設された。これまでも定評のある「主訴・主症状から想定すべき疾患一覧表」もカラー化されたいへん見やすくなっている。そして,この2項目とその正当な利用方法が,実習の虎の巻と題した別冊付録「整形外科臨床実習の手引き」にまとめられており,一通り本書を勉強した読者が実習,研修の場で必要な知識を再確認する,という使い方が想定されている。
 実際どの章においても,コンパクトながらまさに痒いところに手が届く,という内容で,すでに第一線で臨床に従事する整形外科医師にとっても知識を再確認するのに役立つものである。また,コア・カリキュラムとして学ぶべき必修事項と,高度な参考事項とを活字の大きさで区別してあるのも,読者がレベルに応じて効率よく学習するのにたいへん親切である。和文・英文に分かれた索引には,それぞれ和英・英和辞典としての機能も兼ねている。

初版から貫ぬかれている編集方針

 こうした使い勝手のよさとともに,どの部分をみても各分野のエキスパートがアップツーデートな記述をしており,その内容もすばらしい。ともすると分担執筆の場合,全体のバランスに問題を生じる傾向があるが,本書では記述内容・レベルが統一されている。さらに解剖,生理,生化,病理,さらにバイオメカなどの基礎的事項が充実しており,読者がそれぞれの疾患を考え一歩進んだ理解をすることができるよう配慮されている。この点は,初版から重点とされた編集方針であるが,第8版にいたるまで見事に受けつがれている。適宜挿入されている「サイドメモ」などは,日常診療のみでなく,専門学会での発表や議論を理解する上においても有用な内容となっている。このようにかなり高度な内容までカバーされているが,カラー化された適切かつ豊富な図版により容易に理解ができるよう工夫されている。
 本書は,じっくりと読んで学ぶにも,あわただしい臨床実習や研修の場で知識を再確認するにも,さらに用語集としてもすぐれた書である。随所に監修・編集および執筆の各先生の,よりよい医療人を育てようという並々ならぬ意欲が感じられ,医学生,研修医はもとより,第一線の整形外科医師,理学療法士,作業療法士,看護師などの医療スタッフにも自信を持って薦めることができる必携の教科書である。ぜひ一度,実際に本書を手に取ってご覧いただきたい。そして1人でも多くの医療関係者が,本書から最新の情報を学び,よりよい整形外科医療を患者さんに提供していただくことを希望する。
B5・頁872 定価(本体9,200円+税)医学書院


みとり教育の不毛をおぎなう基本技能を呈示

〈総合診療ブックス〉
死をみとる1週間

柏木哲夫,今中孝信 監修/林 章敏,池永昌之 編集

《書 評》小川道雄(熊本大副学長)

 研修医から「今日はじめて人が死ぬところに立ち会いました」と聞いたことがある。核家族化の進んだ現在,若い医療者が人の死に立ち会う機会は極端に減っている。卒業して医療者になってはじめて,人の死の場に出会うことも決して稀ではない。
 さらに今日でも,死をどのようにみとるか,残された家族のケアをどうするかについて学ぶ機会はほとんどないし,それについてまとめた書物もなかった。これに応えたのが本書で,死が目前に迫った患者さんを前にして,医療者としてどのように対応するかが具体的に示されている。
 一読して,これまでにまったくないすばらしい本だと思った。導入部で,編者の1人の林章敏氏が,医療者の基本的な態度として,「みとりの場の主役は患者さんと家族である」,「1人の人格を持った人であることを忘れない」,「それまでの人生を肯定する姿勢をもつ」をあげている。この基本的態度はこの本全体に貫かれており,本書が25人の著者の共著であることも忘れさせる。監修者,編者の目がすみずみまでいき届いていることを感じる。

大切な「みとり」の内容が豊富に

 本書には,まずガイドラインがあり,つづいて本文は,「みとりの基本」,「様々な環境(地域病院,ホスピス,救急外科,介護老人保健施設,自宅)における死」,「死後のフォローアップ」,「いのちを癒す」からなる。それぞれの章は,「知っていますか?-緩和医療とみとりの基礎知識」と「緩和医療とみとりの質を高める」の2頁にはじまる。これまでの知識を整理し,正しい対応を知るためのチェックリストで,読者ははじめに,そして本文を読んでからもう一度,それぞれのキーセンテンスをチェックして,自分の知識を判断し,それを深めることができる。
 その後ケース・スタディ,そして簡潔でよくまとまった本文,ケースの教訓と続き,さらに臨床の場でしばしば抱く疑問に対するメール・アドバイスがある。
 いままでにこのような書物はなかったし,例えば,「死にゆく人々を支えるスタッフのケア」とか「遺族が病棟に挨拶に来られた時-遺族のケア」などという内容は,これからも見過ごされてあまり取り上げられることがないのではなかろうか。
 巻末には,座談会「スピリチュアルケアを学ぶ人へのアドバイス10」があり,さらに「リビングウィルの取り扱い」,「死亡診断書の書き方」まで掲載されている。
 大切であることはわかっていても,見よう見真似でしか学べなかった「みとり」が,このような豊富な内容の,しかもコンパクトな書物を通して学べるようになったことは誠に喜ばしい。
 編者の林章敏,池永昌之両氏の労を多とし,すべての若い医療者が専門家の言葉に耳を傾ける絶好の機会として,本書を熟読されることを強く希望する。それとともに,すでにスペシャリストとして日夜ターミナルケアにあたる医療者にも,もう一度知識を整理する意味で,一読をお勧めしたい。
A5・頁180 定価(本体3,700円+税)医学書院