医学界新聞

 

第37回日本理学療法学術大会が開催

「医療環境の変化と理学療法」をテーマに




 さる7月4-6日,第37回日本理学療法学術大会が,石井俊夫会長(中伊豆リハビリテーションセンター)のもと,静岡市の静岡県コンベンションアーツセンター「グランシップ」で開催された。
 本学術大会では,石井氏による会長講演の他,下條信輔氏(カリフォルニア工科大)による特別講演「認知神経科学の基礎と動向-理学療法への応用を探る」や,教育講演は「21世紀初頭の医療制度改革・介護保険とリハビリテーション(以下,リハ)」(日本福祉大 二木立氏),(2)脳梗塞のクリティカルパス(済生会熊本病院脳卒中センター米原敏郎氏),(3)「リハ工学の現状と展望」(慶大理工学部 冨田豊氏)の3題,さらにシンポジウム「理学療法(士)を取り巻く環境変化-利用者中心のサービスへ」(司会=埼玉県立大 溝呂木忠氏),7部門の専門領域研究会と連携したワークショップ「理学療法の効果:その検証法を語る」7題,セミナーなどが企画され,多数の参加者を集めた。
 また,同会場で開かれた市民公開講座では,自身も脳梗塞を発症して,闘病生活を送る栗本慎一郎氏(帝京大)による講演「前向きに取り組むリハの奨め」が開催された。


変化しつつある理学療法士の役割

 「医療環境の変化-理学療法(士)の対応を探る」と題した会長講演の中で石井氏は,近年の理学療法士を取り巻く環境変化に (1)疾病構造,(2)社会情勢,(3)介護保険法の施行,(4)回復期リハビリテーション病棟の創設,(5)診療報酬の改定,(6)理学療法士の職域の拡大,の6点を指摘。その中で,介護支援専門員(ケアマネジャー)と,サービス利用者およびその家族に,在宅生活における理学療法士の役割について検討すべくアンケート調査を施行。その結果から,在宅支援のために理学療法士は,在宅に携わる理学療法士数の充足,多職種との情報交換,リハ前置主義の確立や利用者や周囲へのリハ概念の啓蒙が必要と述べた。さらに訪問リハでは,訪問リハプログラムの確立や,EBM・クリニカルパスの作成・導入,訪問リハステーション(仮)の設置を,また通所リハでは通所介護との差別化や効果判定,チームアプローチのモデル作りなどが必要になるだろうとした。

利用者中心のサービスの構築

 シンポジウム「理学療法(士)を取り巻く環境変化-利用者中心のサービスへ」(司会=溝呂木氏)では,理学療法士の急増,社会的体制・労働環境の変化などに伴うさまざまな環境の変化に焦点を当て,利用者,理学療法士,看護師それぞれの立場から語られた。
 最初に,患者(利用者)の立場から辻本好子氏(ささえあい医療人権センターCOML代表)が,「利用者との関わり方の変化」と題してビデオによる講演を行なった。COMLが実践する医療電話相談を通して,世代によって利用者としての姿勢の違いを痛感することから,患者の多様なニーズに応えるために,医療者は利用者とどのようにコミュニケーションを取るのかは,今後の大きな問題と指摘。「医療者はコミュニケーション能力をもっと上げてほしい」と訴えた。また,「医療はサービスというよりホスピタリティではないか」という視点から,「患者自身がこの病院に,このスタッフに自分は支えられていると思える医療であってほしい」と医療への期待を述べて講演を結んだ。

理学療法サービスの提供

 理学療法士の立場から,永井将太氏(藤田保衛大七栗サナトリウムリハセンター)は,自施設で展開する「統合的高密度リハビリ病棟」プログラム(the Full-time Integrated Treatment program:FIT program)について概説した。これはリハ科入院患者の実訓練日数は入院中の約65%以下と低率であることから,365日体制による毎日訓練と,訓練室と一体となった病棟を特色とするプログラム。訓練は療法士3人1組で,1人の患者を2名の療法士が受け持つ複数担当制を採用することで,継続的に訓練を提供でき,さらに若手とベテランを組み合わせることで療法士の卒後教育にも役立つなどのメリットを説明。また看護職と療法士との連携による訓練室一体型病棟では,両者の協力により「生活そのものの訓練化」が可能であると述べた。さらに本プログラム導入により,脳卒中片麻痺患者の治療成績が向上したことを報告した。
 続いて酒井桂太氏(YMCA米子医療福祉専門学校)は,国内で唯一海外での臨床実習(場所=アメリカ・ハワイ州 Rehabilitation Hospital of The Pacific)を採用している立場からその効果を報告。毎年10名前後の学生が参加し,内容は,病院内で理学療法士または作業療法士の実習指導者について,患者の評価および治療の実習を英語で学ぶもの。学生と指導者の相互評価を行なうなど研修病院としての機能が確立され,体験者の満足度も高く,指導者は学生のよきロールモデルとなることから,理想に近い臨床実習教育が可能とした。最後に,現時点で養成校卒業レベルでは理学療法士として十分ではない状況にあり,教育者として卒後に自分自身を磨く意欲を向上させる手だてを提供することが大切,として結んだ。

関連職種から理学療法への期待

 看護職の立場から山崎摩耶氏(日本看護協会常任理事)は,医療環境の変化を看護の視点から読み解き,その中で,「利用者中心」という言葉の意味を,「(1)個々の異なる価値観・意向・ニーズに基づいた個別ケアの提供,(2)ニーズに柔軟な対応とそのためのサービス,(3)心理的サポート・意思決定に参加して利用者と対等な二人三脚を,(4)本人や家族だけでなく,取り巻く友人などへのサポート」などをあげて説明。さらに,これからの理学療法士に期待することとして,(1)基礎研究の充実,(2)人間(生活者)を看る教育,(3)Evidence-based Practiceの集積,(4)看護・介護などとの連携・協働,(5)リハ専門職としての生活支援技術の開発の5点を示した。
 最後に指定発言として「利用者中心の理学療法サービスのあり方を考える」をテーマに,牧田光代氏(新潟医療福祉大)が登壇し,今後の理学療法(士)のあるべき姿を模索。(1)在宅対象者に対する姿勢として,医学モデルからの脱却し,在宅利用者の生活状況や社会生活を全体として把握,(2)急性期医療施設と在宅医療(ケア)との相互の流れを円滑にする,(3)在宅ケアに向けた理学療法関連サービス供給量の増大,(4)在宅に必要な理学療法-生活そのもののがゴールであり,より質の高い生活を求める対象者とともにゴールが変化するという認識,(5)理学療法周辺のサービスの充実,の5点がその鍵になるだろうと述べた。