医学界新聞

 

「医学教育-改革の波」を基調テーマに

第34回日本医学教育学会開催


 第34回日本医学教育学会が,片桐 敬会長(昭和大医学部長)のもとで,さる7月26-27日の両日,東京・品川区の昭和大学において開催された。
 今回は基調テーマ「医学教育-改革の波」のもとに,特別講演は卒前教育の国際化をテーマに(1)「医学教育の国際比較」(東女医大・神津忠彦氏),(2)「海外での学生実習」(東邦大・内山利満氏)の2題,シンポジウム(1)「卒後臨床研修必修化への期待」,(2)「歯学・薬学・看護学教育の改革と医学教育の連携」,ミニ・シンポジウム「医学教育とPersonal drugの考え方(どのように治療薬剤を選択し処方するか)」,ワークショップ(1)「医学教育プログラム評価のサイエンス」,(2)「共用試験でのOSCE(客観的臨床技能試験)の実際」の他,「医学教育者とSPの語らいの夕べ」,ならびに「OSCE」「コア・カリキュラム」「卒前教育の国際交流」「卒前教育」「教育システム」「テュートリアル(PBL)」「卒後教育」「クリニカルクラークシップ」「医学教育と薬学教育」「看護とコ・メディカルの教育」などのテーマをめぐって157題にのぼる一般演題が企画・発表された(関連記事)。


 シンポジウム(1)「卒後臨床研修必修化への期待」(司会=聖マリアンナ医大 齋藤宣彦氏,昭和大 中島宏昭氏)では,現在,厚生労働省の新医師臨床研修制度検討ワーキンググループの3つの小委員会(「処遇」,「研修プログラム」,「施設基準」)で具体的な検討が進みつつある,2004年に必修化される卒後臨床研修について,6人のシンポジストがそれぞれの立場から発言を行なった。
 まず,司会者の1人である齋藤氏は,インターン制度廃止から今回の臨床研修必修化に至る,議論の歴史的な流れを概説し,現在の論点が大きく分けて「プライマリ・ケア修得の研修プログラム」,「研修の評価」,「処遇」にあることを示した。

臨床研修必修化と大学病院

 続いて,大学病院の立場から発言した福井次矢氏(京大)は,1948年のインターン制度時の「不安定な身分」,「無給」,「研修プログラムの不在(質の保証の欠如)」という3点が,今日の必修化の議論の中でもいまだ大学が直面する未解決の課題であると指摘。特に研修プログラムについては,一般目標,行動目標からそれを達成するために必要な研修内容が検討されるべきであり,「行動目標抜きにどことどこをローテーションすればよいというような議論は不毛である」と昨今の議論の流れに警鐘を鳴らした。
 一方,福井氏は自身も委員として参加する,全国医学部長病院長会議の卒後臨床研修制度ワーキンググループによる「提言」を紹介。「卒後臨床研修センターによる一元的なマネジメント」,「コアローテーションおよび選択的なカリキュラムからなる多様なローテーションプログラム」,「臨床研修の場としての病院群」,「マッチングシステム」,「第3者評価機関」など,その内容を示した。
 さらに,福井氏は必修化による「大学の期待(不安)」について,短期的には「幅広い基本的診療能力を獲得するための期間の確保(専門を学ぶ期間の短縮)」,「講座に所属しない2年間(講座関連人事の停滞)」などを指摘しつつ,長期的には「医学教育へのアカデミックな取り組み」,「実力主義による医師の流動化(学閥主義の緩和)」,「ヘルスケアアウトカム,患者満足度の向上」,「効率的な医療」に繋がるとの期待を述べた。

臨床研修病院の問題点と改革への道筋

 「臨床研修病院の立場から」と題して,口演した畑尾正彦氏(日赤武蔵野短大)は卒後臨床研修必修化の狙いは,まず「医師としての基本を身につけること」にあるが,その目標自体は以前より唱えられているにもかかわらず,実態として,実効があがっていないと述べ,現在の臨床研修病院での研修上の問題点を以下のように示した。
 (1)研修プログラムと実際に行なわれている研修との間にギャップがある。(2)ローテーションするのは,幅広い基本的臨床能力の獲得というより,専門的診療能力にとって有利と考えられがちである。(3)臨床研修病院は,大学の講座・医局の関連病院として位置づけられ,大学のストレート研修の一端を担っている場合が多い。(4)研修医の育成という視点が乏しく,それぞれの専門領域や診療科を支える人材として扱われている。(5)研修医が研修病院を選択する幅が狭く,大学病院かあるいは限られた臨床研修病院での研修になりがちである。(6)大学病院は特定機能病院であり,関連病院がプライマリ・ケアの研修を委ねられることがあるが,そのプログラムが一貫していない。(7)臨床研修病院における指導体制(指導医の数・質)が,診療に追われて不十分になりがちである。
 その上で,畑尾氏は研修プログラムについては,研修医ならびに指導医が研修目標を認識すること,実効のあがる研修プログラムであることの検証が重要であるとし,第3者による評価の必要性を指摘した。
 また,現場の指導医にとっては,指導していることを「病院が,社会が,そしてみんながそれを認めているということが大切ではないか」と述べるとともに,研修医の処遇等については,「研修への専念」,「アルバイトの禁止」,「生活の保証」が必要であり,それらを実現するには,研修医の給与を各病院で捻出するのではなく,国として財源を確保し,保証すること,そして指導体制の充実に対しても配慮が必要であるとの考えを示した。

プライマリ・ケア修得に何が必要か

 「臨床研修医の状況」を口演した倉本秋氏(高知医大)は,研修医が講座を支えるための労働力として活用されてきたこと,また,専門診療科での研修に偏り,自分の専門でないと診れない医師が育ってきたことなど,従来の臨床研修の問題点を指摘。臨床研修の必修化に伴い,プライマリ・ケアを重視した研修が強調されつつあるが,「単にローテート研修を導入するだけで,プライマリ・ケアの知識と技能が修得できる保証はなく,全科の研修医に共通のプログラムが必要」との持論を展開した。
 倉本氏は,各講座まかせではなく,病院全体として1年間を通した全研修医共通のプログラムを2000年より実施している高知医大附属病院の取り組みを紹介しつつ,「旧来のやり方ではだめだが,工夫すれば大学病院でも初期診療能力を身につけることはできる」と述べた。

研修の質を確保しつつ多様な施設で

 一方,行政の立場から「必修化への期待」と題して口演した中島正治氏(厚生労働省医事課長)は,これまでの厚生労働省の審議会での議論,および6月より続けられている新医師臨床研修制度検討ワーキンググループでの制度の具体的内容を詰める作業の進み具合について概説した。その中で中島氏は,「研修の質を確保しつつ,多様な施設で」という研修施設についての基本的な考えを示し,「施設の認定とプログラムの認定は別個に考えれば,フレキシブルにできる」との見解を述べた。また,「各研修施設が9月から準備に入り,来年1月からは新基準で施設認定を行ない,5月から臨床研修医の募集が始められるように,作業を進めたい」と今後の大まかなスケジュールを示した。
 そして,最後に登壇した司会の中島宏昭氏は,「研修修了の認定に対する要望」と題して特別発言を行ない,「新しい臨床研修制度が国民の信頼を得るためには,評価が適切にしかも厳然と行なわれることがどうしても必要である」と指摘。修了認定に際しては,(1)最終評価に必ず部外者を加える(医療者,マスコミ,地域住民),(2)部外者の一部に医学教育学会が認定した者を加えること,(3)最終評価を行なった者の氏名を公開すること,(4)将来は第3者機関で最終評価をすること,を提案した。


第34回日本医学教育学会の話題から

教育プログラム評価についての理解深める


 第1日目の午後に行なわれたワークショップ I「医学教育プログラム評価のサイエンス」(コーディネータ=イリノイ大 大西弘高氏,東医大 林省吾氏)では,コーディネータが提示した教育プログラム例に対して,参加者がグループに分かれてディスカッションを行ない,教育プログラム評価についての理解を深めた。

評価のフォーマット

 冒頭の小講義で大西氏は,教育プログラムの評価の目的とタイプについて,次回の同プログラムへのフィードバックのための「形成的評価」や,そのプログラムの有用性の判断材料になる「統括的評価」があるとし,目的に応じて信頼性の必要度や内容妥当性の範囲は変化すると述べた。
 また,教育目標と評価のプロセスを,(1)教育プログラム開発時に一般目標(Goal),個別目標(Objectives)を設定,(2)個別目標の達成度を測定,(3)個々の学習者の達成度やプログラム全体における達成度のデータが得られる,と3段階で説明。教育目標の分類については,(1)認知領域(想起,解釈,問題解決等のレベル),(2)情意領域,(3)精神運動領域(スキル,パフォーマンスのレベル)の3つを挙げ,それぞれの目的に合った教育法,評価法を選択する必要があるとした。その上で,個別の目標と教育方法との対応について説明し,一般的に用いられる評価デザインの例を示した。
 小講義の締めくくりには,プログラム評価のフォーマットとして,(1)教育目標と教育方略の確認,(2)評価の目標の設定,(3)評価デザインと評価手法の決定,(4)評価する内容が教育目標に合ったものになっているかどうかの突き合わせ,(5)潜在的カリキュラムの問題を考慮,の5つのプロセスを提示した。

グループディスカッションで理解を深める

 小講義に引き続いて大西氏は,臨床前教育,卒前臨床教育,卒後初期臨床教育の3つのケースを提示。参加者はそれぞれのグループに分かれ,与えられたケースについての評価案作成に向けて議論した。それぞれのグループにはプレゼンテーションの機会が2回与えられ,前半のプレゼンテーションではそれぞれのケースについての評価目的までを発表。この段階ではディスカッションの方向が見えにくいと漏らすグループもあったが,会場内から出された活発な意見や,その後のコーディネータによるサポートによって,後半のプレゼンテーションではすべてのグループが評価案を提示できた。
 プレゼンテーションの後で大西氏は,それぞれのケースについての評価案の例を示し,さらに今回のワークショップでのねらいでもあった,(1)教育プログラム評価の意義の認識,(2)学習者評価とプログラム評価の関係の把握,(3)形成的評価と総括的評価を区別,(4)教育目標と評価との関連性の理解,(5)教育プログラム評価の多様性の認識といった5つの項目を改めて提示し,まとめとした。