医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


編集意図が明確な最新腎臓病学教科書

標準腎臓病学
菱田 明,槙野博史 編集

《書 評》荒川正昭(新潟大名誉教授)

日本の腎臓病学の第一線の執筆陣

 『標準腎臓病学』は,医学書院の標準教科書シリーズの1つでありますが,「標準」の意味するところは,現時点においておよそ正しいと認識されている知見について,基本となるべき必須の部分を,医学生や若い研修医に示すことであると思います。
 このたび発刊された本書は,その意味においてよくできていると感じました。編集を担当された菱田教授(浜松医大)と槇野教授(岡山大)は,現在わが国の腎臓病の臨床,研究,教育をリードしている新進気鋭の学究であり,執筆者の皆さんもいわゆる若手と呼ばれる,第一線で活躍している方々であります。各項目とも,限られた紙数の中で,いかにして重要なメッセージを若者に伝えようかと考えた,執筆者の努力が感じられます。

疾患と病態がバランスよく解説-腎臓病学入門書として最適

 本書は,「総論」と「各論I・II」に大きく分けられていますが,「総論」では重要な事項がきわめてわかりやすく述べられています。本書の特徴の1つは,臨床的にもっとも重要な病態である,ネフローゼ症候群,急性腎不全,慢性腎不全の3病態を,「各論I」で特に取り上げていることで,ここに編集担当の両教授の意図がはっきりと表われています。「各論II」の中には,腎疾患全般にわたって,学生にとって重要な疾患,病態がバランスよく解説されています。病理組織写真については,各項目ごとに配置され,特に重要なものは巻頭カラー頁に再掲されており,学生への配慮がうかがわれます。また,各項目の最後に最小限の参考文献と学習のためのチェックポイントを示していることも,勉学の参考になると思います。
 私の個人的な感想をあえて申しあげますと,糸球体腎炎症候群の臨床症候分類(WHO)のうち,反復または持続性血尿症候群と慢性糸球体腎炎症候群をより詳しく解説してほしいこと,病理組織分類(WHO)では,一次性糸球体疾患だけでも,光顕,蛍光抗体法,電顕の写真を揃えて示してほしいこと,本書全体の参考文献として欧米の優れた成書を紹介してほしいことなど,次回の改訂に期待したいと思います。
 結論として,本書は学生に対する腎臓病学の入門書として推薦できるものであると考えます。
B5・頁376 定価(本体5,500円+税)医学書院


名著中の名著と言える大腸疾患診断書

内視鏡所見のよみ方と鑑別診断
下部消化管

多田正大,大川清孝,三戸岡英樹,清水誠治

《書 評》武藤徹一郎(癌研究会附属病院長)

 大腸疾患に関する内視鏡の成書はすでに数多く出版されており,それぞれに個性と特色に満ちた名著が多い。しかし,本書はその中でも飛び切りの個性と内容に富んだ,名著中の名著と言って過言ではない。それは28年間,140回に及ぶ大阪の「大腸疾患研究会」の例会を通して,選び抜かれた症例の経験が本書に集約されているからに他ならない。まだ大腸疾患に注意が払われていなかった1973年に,この研究会を立ち上げて以来,弛むことなく症例の検討と集積を継続してこられた,執筆者代表の多田正大博士をはじめとする同志の方々の努力と炯眼に,心より敬意を表したい。

群をぬく症例の量と質の凄さ

 本書は4章から構成されているが,第3章「腫瘍性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」,第4章の「炎症性疾患の内視鏡所見のよみ方と鑑別診断」の2章が全体の90%を占めている。各章の前半10%はそれぞれ内視鏡診断に必要な腫瘍性疾患と炎症性疾患に関する基礎的事項が要約されているが,これが実に簡潔にして必要十分な情報を含んでいて,他に類を見ないほどである。偽茎(pseudopedicle)を有茎として提示されている報告例が決して少なくない中で,本書では,きちんとその鑑別の要点が記されており感心させられた。しかし,本書の圧巻は,何と言っても鑑別診断に提示されている症例の量と質の凄さであろう。見開き2頁の左側に基本スタイルとして4症例,各症例2枚のカラー写真が呈示されている。
 腫瘍性疾患の章では,「分葉のある病変」とか「陥凹を主体とする病変」のごとく,マクロ的な形態的特徴のあるものばかりが選ばれており,その中に必ず1例の癌が含まれている。2枚の写真ではしっかりと違う情報が提供されており,その横に必要にして十分な臨床データならびに内視鏡所見が箇条書きにまとめられている。右頁には各症例の確定診断,必要に応じて組織像,拡大観察像,エコー像などが提示され,病変に関する解説,鑑別診断のポイントまでが,箇条書きで簡潔にまとめられている。少なく見積もっても150症例300枚の見事なカラー写真が掲載されており,読者は一頁一頁の4症例を比較することによって,早期癌との鑑別診断を学ぶことができるようになっている。
 炎症性疾患についても腫瘍性疾患と構成は同様であり,「発赤」,「アフタ様病変」,「縦走潰瘍」などの所見別に,さまざまな炎症性疾患の内視鏡所見が提示されている。アフタ様病変や縦走潰瘍が多彩な形態を呈するばかりでなく,さまざまな疾患が同名の所見を呈しうるという事実を,これほど見事に成書に顕した本は例をみない。病原性大腸菌O-157腸炎,クラミジア直腸炎などのめずらしい例も提示されており,150症例300枚以上のカラー写真を一頁一頁,各症例ごとに鑑別診断を考えていけば,自然に炎症性腸疾患の知識を増すことが可能である。百聞は一見に如かず,ぜひ手に取って写真を眺めることを勧めたい。
 このようにマクロ的な内視鏡所見に基づいた症例の鑑別診断は,正に内視鏡医が日々直面していることである。症例提示による具体的な鑑別診断書が多田博士らによって,ここに完成されたことは喜びにたえず,どれだけ多くの医師ならびに患者さんが恩恵を受けるか計り知れないであろう。

「感動した!」,世界に発信できる名著

 著者が内視鏡検査も診断のための1つの手段であり,X線との協調がなければ確定診断までに無駄な回り道をたどると述べているのは,まことに正論である。「本書を通して大腸診断学の精神を看破してほしい」という著者のメッセージに内視鏡への熱い情熱を感じるのは,筆者だけではあるまい。本書を通覧して「感動した!」というのが,筆者の第一印象であった。本書は経験者と未経験者とを問わず,すべての内視鏡医に推薦したい名著である。最後に,これだけの内容のものはぜひとも英文出版され,臨床的に有用な貴重な経験を世界に発信されることを期待したい。
B5・頁208 定価(本体12,000円+税)医学書院


本当に頼りになる頭頸部画像診断の好著

頭頸部のCT・MRI
多田信平,黒崎喜久 編集

《書 評》蜂屋順一(杏林大教授・放射線医学)

 頭頸部の画像診断は,耳鼻科医,眼科医,外科医,放射線科医など多くの医師が関係する分野であるにもかかわらず,本当に頼りになるcomprehensiveな教科書がほとんどなかったのは不思議なことである。わずかにMosby社からPeter SomとHugh Curtinの編集で出版された『Head & Neck Imaging』第3版(1996年)があるのみで,日本語で書かれた本格的な書は,思い浮かばないのが現状であった。このたび,多田信平,黒崎喜久両先生の編集で『頭頸部のCT・MRI』が上梓されたのは,この意味で誠に時宜にかなったものと言えよう。
 頭頸部は,頭部(神経放射線領域)と躯幹部(胸部放射線領域)との中間に位置し,そのいずれとも関連があるが,画像診断の立場からは明らかに独立した専門分野である。この領域の画像診断を専門とする医師は国際的にみても多くはないが,国内ではまた一段と少ないのが現状である。編者のお2人と本書の執筆陣に名前を連ねておられる方々は,本邦の数少ない頭頸部画像診断医の中の主力メンバーである。

きめ細かな配慮に裏づけされた頭頸部画像診断のすべて

 本書で取り上げられた内容は,頭頸部の画像診断に際して必要なことのすべてを網羅していると言って過言でない。まさに,頭頸部画像診断の百科事典的性格を備えている。すなわち,「頭蓋底と側頭骨」,「眼窩」,「鼻副鼻腔」,「顎関節」,「下顎骨」,「頸部筋膜間隙」,「上咽頭」,「中咽頭・口腔」,「下咽頭」,「喉頭」,「頸部リンパ節」,「頸部嚢胞性腫瘤」,「唾液腺」,「甲状腺・副甲状腺」,「interventional radiology」の各章ごとに詳しい記述と画像が盛られており,全体で700頁に及ぶ大作でこのシリーズのテキストとしては,かなり分厚いものになっている。
 最新の知見が,平易に解説され,高分解能CT画像,鮮明な最近のMRI画像,またこれらの3次元表示画像など適切な画像が数多く使用されているほか,わかりやすいシェーマによる補助や重要事項のBOX形式での整理などのきめ細かな配慮があり,結果的にきわめて読みやすいかたちになっている。
 この領域に関係されるすべての医師に,自信を持って推薦できる近来まれにみる好著である。
B5・頁704 定価(本体14,000円+税)MEDSi


広汎な神経科学の選ばれた研究の解説

ブレインサイエンス・レビュー2001
(財)ブレインサイエンス振興財団,伊藤正男,川合述史 編集

《書 評》井手千束(京大大学院教授・機能微細形態学)

 このレビュー誌は,ブレインサイエンス振興財団の研究助成受賞者と塚原仲晃賞受賞者の研究紹介である。片寄らない分野から受賞者が選ばれるように配慮されており,本書の内容も神経科学の広い分野を網羅している。項目ごとの内容は,次のとおりである。
 (1)神経発生と分化:オリゴデンドロサイトは最近注目されてきたが,本書では培養系におけるオリゴデンドロサイトの接着因子,および発生におけるオリゴデンドロサイトの移動という興味深いテーマが扱われている。また,シグナル伝達系のレドックス制御,ニューロンにおける極性の変化のメカニズムが紹介されている。
 (2)神経細胞の化学信号伝達:グルタミン酸受容体は中枢神経機能の解明のポイントの1つであるが,本書では受容体のサブユニット機能,およびノックアウトマウスの作成によるトランスポーターの機能が論じられている。また,G蛋白質調節因子RGS(regulator of G protein signaling),副腎における低酸素受容機構などおもしろい研究がある。
 (3)神経回路の構造と機能:伝達物質の放出に伴うシナプス前膜の微細形態の変化は形態学的に重要で,原子間力顕微鏡での観察は新しい挑戦であろう。孤束核ニューロンの活動パターン,嗅球の免疫組織化学を基礎にした定量的解析,および大脳皮質の局所的ニューロン結合の解析など,多彩なテーマである。
 (4)脳機能の発現:サーカディアンリズム,歩行リズムの生成,小脳における上肢の動きの学習機構の3つのテーマである。特に,運動に関する脳機能の発現は,重要な分野と思われる。
 (5)神経疾患と遺伝子:アルツハイマー病のApoE蛋白,神経変性疾患でのGAPDH(glyceraldehyde 3-phosphate dehydrogenase)の関与,およびアンジェルマン症候群など,興味深い内容がある。

参考になる日本での新しい研究の芽の探索

 本書は,トピックスというよりは選ばれた研究の解説である。専門でない分野の研究には普段接しないものであるが,本書は広い分野から選ばれた研究で,現在の神経科学の動向を知ると同時に,日本での新しい研究の芽とも言えるものがどのあたりにあるかという観点からも大いに参考になり,教えられるところが大きい。
 なお,写真は白黒であるが,レーザー顕微鏡の時代となり,今後はカラー印刷が望まれる。
A5・頁304 定価(本体3,500円+税)医学書院


見事に結晶化されている聴診法の大切さ

心疾患の視診・触診・聴診 CD付
心エコー・ドプラ所見との対比による新しい考え方

大木 崇 監修/福田信夫 著

《書 評》坂本二哉(Journal of Cardiology創立編集長)

 これは近来稀にみる力作である。一瞥して私がそう感じるのは,何も私がステトスコピスト,つまり普段首から聴診器をはずさず,すべての患者を毎度聴診し,腹部疾患患者もその例外ではないという医師だからだけではない。本のタイトルにも明記されているように,心エコー・ドプラ所見との対比による新しい考え方が何といっても魅力的であり,そして更に嬉しいことは,その対比によって旧来の,しばしば古典的といわれる方法に科学的根拠が与えられているということである。そして更に付け加えれば,著者は若干遠慮して明言しないが,「聴診器さえあれば……」という気概が随所に見られることである。読者は著者が紙背に秘めたその信念を見逃さずに本書を読まなくてはならない。
 実際,歴史が物語っているように,Laennecによる聴診器の発明(1816年)以来,聴診法は何度も臨床の窓際族に追いやられては又復活するという道を辿っている。そして現在,各種の高踏的な方法論に踏み潰されそうになりながら,いつもそうであるように,それらを利用し,救われ,更に前進した聴診法が今また復活しようとしている。快哉を叫びたくなるのはあながち私だけではあるまい。
 福田信夫君は聴診や心音図学に対して強固な信念と哲学を持ち続ける才人である。決して場当たり的な,単に世に迎合するような学者ではない。彼がよく口にする言葉に,「心エコーより聴診の方が大切です」というのがある。今の世にそれを公言できる人は少ないし,それだけ彼の言葉には重みがあり,それはこの本に見事に結晶されている。

期待できる著者の臨床の息吹

 本書の全体像は視診・触診・聴診の基本に関する第1章,心音・心雑音(第2章),各種心機図(第3章)に続き,本書の主体を占める各論の全5章から成る。頁を繰って感嘆するのは先ずその図の美しさである。私はかねてからgraphic studyは図が美しいことが第一であると主張し,Tavelや師匠のLuisadaと口論したものだが(因みにTavelは少し汚れていても専門家には問題がないとその著の中で書きしるしており,またLuisadaの心音図学書の掲載図中,美麗なものはすべて私が記録したものである),この著作のグラフはそれを上回っており,心機図を同記していることや,心エコー図の同時掲載など,従来の書より大きく抜きんでている。これは日本人の手先の器用さのなせる術で,Leathamでさえ,心音図は日本人に敵わないと感嘆していた。本書を見れば更に驚くことだろう。
 本文の記載は煩に走らず粗に落ちず,中庸を得たエッセンス中心の文章である。10ばかりの項を熟読してみたが,その感を深くするとともに,常に臨床から遊離せず,しかも科学的に記載が進められており,引用文献もまず十全であるほか,索引も詳しく利便性の高さが保たれている。C型WPW症候群の項では目からうろこが落ちる思いがした。
 86種類の実例を収めたCDはこの種の中でも大変優れたもので,負荷法まで収録してあるのには,その努力に感心した。
 福田先生の講義を受けることのできる学生は幸せであるが,それが可能でない方は,本書によって先生の息吹を感じとってほしい。臨床の世界が現在以上に広く開かれて来ることを期待できるだろう。廉価であることも又本書の利点である。手沢の書たらんことを切望する次第である。
B5・頁287 定価(本体9,000円+税)医学書院


EBM時代における症例報告の重要性と価値を解説

EBM時代の症例報告
Milos Jenicek 著/西 信雄,川村 孝 訳

《書 評》井村 洋(飯塚病院・総合診療科)

 『EBM時代の症例報告』というタイトルから,EBMと症例報告を無理やり結びつけたEBM便乗本かもしれない,と反射的に感じてしまった。しかし,著者の経歴は,あのEBM総本山のカナダ・マックマスター大学教授である。何かがありそうだ,という好奇心で本書を読み進める内に,「エビデンスとは大規模臨床試験からのみ得られるものではない,症例報告によってしか得られないものもある」という事実を忘れていたことに気づいた。私のような読者がたくさんいることを想定して,著者は全編を通してメッセージを送り続けている。「臨床家ならば真剣な症例報告者であれ。エビデンスとなりうる症例報告を行なえ。その方法は本書に示してあるから心配するな」と。
 なんといっても本書の特徴は,症例報告の方法が57頁にわたって割かれていることであろう。特に,学術論文としての症例報告の方法について十分な説明が行なわれている。症例報告の理由や動機,要約,緒言,症例提示,考察という構成要素の,それぞれの意義と記載するべきことについての指針が示されており,ここを利用するだけでも症例報告の内容が格段によくなるような気がしてくる。初めて学会報告を担当する人には,強くお勧めする。幸いにも,著者は学会報告や症例記述に迫られた医師が,途中の章から読むことを想定して記載している。また,著者の厳密な要求基準を満たした実際の論文(食道食物嵌頓における心臓虚血を示唆する心電図変化)を全編提示していることは,本書のユニークな点である。しかも,その論文の症例報告における優れた要素についての注釈が,読者の理解を助けてくれる。症例報告を発表した経験のない者でも,著者の提示した方法をなぞらえることで質の高い報告を作れそうな気持ちにしてくれる。学会報告や論文執筆に限らず,退院時サマリーを書く際にも参考にするべきヒントがたくさん含まれていることは,ありがたい。

価値を生み出す症例報告の作り方を伝授

 このような具体的な方法についての説明をはさむようにして,EBM時代における症例報告の重要性と,症例報告の価値と研究への可能性についての提言が述べられている。そこでは,「大半の臨床医は,コホート研究や症例対象研究あるいは複雑な診療試験を行なうことは決してないだろう。それでも最大限熟練した症例報告者ではあるべきである」に代表される刺激的で率直な意見が,豊富に散りばめられている。
 2001年11月「JAMA」誌上に,生物テロに関連した肺炭疽症の症例報告が2編掲載された。あの時期,最前線に立つ臨床医にとって,これほど公表価値が明白な論文はなかったであろう。予言とも言える本書の提言が,まさしく実証されたケースであった。本書の価値は,序文の推薦文がすべてを言い表している。「症例報告は,真剣に学問的に考慮する値があり,著者は症例報告に受けてしかるべき光を当てたのである」。価値を生みだす症例報告を作りたいすべての人に,本書をお勧めいたします。
A5・頁224 定価(本体3,500円+税)医学書院