医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


さあどうする? 循環器系ナースのバイブル

困ったときの心疾患患者の看護
花田妙子 編集

《書 評》桑子嘉美(順天堂医療短大)

心疾患患者のわかりにくさを解消

 「先生,心不全患者の看護ってなんだかよくわかりません」。臨床実習で学生がよく口にする言葉である。そのつど,自分が行なった心機能障害患者の看護の授業内容や構成に自信をなくす。けれども気を取りなおして,学生と一緒に病態や精神状態を情報から分析し,今患者に何が必要かを考えていくうちに,学生の理解が深まっていくことを実感する。では,心不全患者の看護において何がわかりにくいのだろうか。
 まず,患者に自覚症状がない場合,心機能が低下しているという事実がわかりにくい。そして,心機能をどのように評価して心不全というのか,その視点と程度,根拠がわかりにくい。さらに,実際の援助活動を,患者の自立度やセルフケア能力を考えて立案しても,心機能に見合っていないと指摘される,など。
 このようなわかりにくさの解消に役立つのが,本書である。本書は心機能や病態生理をビジュアル的に関連図などで説明しているのではない。けれども,それらは数々出ているその専門書に任せればよい。本書は,とにかく患者の状況や問題,そしてその具体的な援助がイメージできる著書である。

心疾患患者の看護の道しるべ

 構成としては,章ごとにいくつかの状況設定があり,その状況から起こりうる問題点と要因,その対策を要点ごとにまとめている。その後に患者のありのままの状況と看護介入のあり方を,具体的に紹介している。患者は実際にどのような発言をして,どのような行動をしたのか,その結果どのような問題に発展していくのか。看護師は,それらにどのような態度や言葉で対応をしたのか。その判断と行動のプロセスが,手にとるように解説されている。

「臨床看護の知」がいっぱい

 「臨床の知」とは,直感と経験と類推の積み重ねからなっているので,経験が大きな働きをし,大きな意味を持つとされている。まさに,本書は編者が序で著しているように,ベテランナースが多くの経験の中から得た,巧みな看護技術を言語化している。それはケアを積み重ね,その効果を実証してきたものである。それゆえ,「臨床における看護の知」にあふれていて,「心疾患患者の看護」が玉手箱のようにくり広げられている。
 ビジュアル的な部分が少なく,ていねいに書かれている分,文章が多くとっつきにくい感はある。しかし,内容が豊富でさまざまな看護場面で生じる倫理的な問題に関しても,示唆を与えてくれる。学生はもちろん,新人ナース,循環器系の病棟に初めて配属されたナースのバイブルとなるだろう。また,ベテランナースにおいても自分の看護を振り返るうえで役立つ1冊としてお勧めしたい。
A5・頁264 定価(本体2,400円+税)医学書院


動作介助法に多彩な選択肢を提供するマニュアル

腰痛を防ぐらくらく動作介助マニュアル
動画ハイブリッドCD-ROM付

山本康稔,加藤宗規,中村惠子 著

《書 評》園田 茂(藤田保衛大七栗サナトリウム教授・リハビリテーション医学)

 この本は,いくつかの点でユニークである。ひとつは,動作介助法そのもの,もうひとつは動作を付録のCD-ROM内の動画で見ることができる点である。動作介助法のユニークさは,時に取っつきにくさにも通じるため,実際に見せて納得させる方法は非常に大切である。リハビリテーション分野の知識は,実行できて初めて意味をもつことが多く,その意味でもこのような出版形態が望ましい。
 本書は11章からなり,動作介助の意義,動作介助の原則,寝返り,起き上がり,立ち上がり,トランスファー(移乗),動作介助における力学,腰痛とその予防,各種姿勢,ベッド・車イスなどの福祉用具,まとめ,と続く各章はていねいに書かれている。前半の各章に写真が多いのも好感が持てるし,気をつけるべきポイントも上手に記載されている。類書よりわかりやすい。欲を言えば,写真自体に入れてある矢印の根本にコメントを書き込んであればさらに明確になるであろう。
 力学以下の各章は,前半の内容に直結しているとは言い難く,おまけ,の印象を免れない。
 この本には,両手腋窩パターンや両手肩甲パターン,スライド法,2人で行なう方法など,多彩な移乗方法が具体的に掲載されている。従来の運動学において,移乗方法には,立ち上がり終わってから回る方法と,立ち切らずに一気に回る方法とが記載されている。この本に示されている一人介助の移乗方法は,基本的には後者であろう。前者は,エネルギー的に損であるが安定した方法である。後者は,エネルギー的に得をするが,回り足りなかったり回りすぎたりすることによりバランスを崩すことがある,とされている。この本で著者らが主張している方法が,バランスの悪さという欠点をカバーできたのかどうかは,理論的には判然としない。何らかのエビデンスが欲しいところである。
 著者らは本書の中で,「トランスファーとは,従来の『上に持ち上げる』(Lifting)やり方から,『横方向へ移動させる』(Sifting)技法へと進化すべきであること」(あとがき)を提唱し,立ち上がり,移乗介助の際,介助者を軸に回らないで,被介助者を軸にすることで被介助者の負担を軽減できる,と繰り返し述べられている。おもしろい着眼点である。
 同じスピードで振り回すとすれば,著者らの主張は正しいであろう。動画ではかなり速く振り回すことで被介助者が落下しないようにしているふしがあり,そうであれば被介助者の負担はあまりかわらない。なお,介助時に介助者が踵立ち状態になっているが,慣れないと安定を欠くかもしれない。
 全介助患者の移乗法の中で,介助者の大腿部を座面にしてしまうスライド法はユニークである。この方法は被介助者が拘縮(関節が固くなって,動く範囲が狭くなった状態)や痙縮(筋緊張が高くなり,筋の他動的な引き伸ばしに対する抵抗が強まること)の強い状態で可能なのかが疑問であるが,療法士が試した上で移乗法を選択できる環境なら,ぜひ試してみたい。実際に拘縮や痙縮を持つ患者での移乗動作をビデオ撮影し,掲載してあればさらに参考になったであろう。
 以上より,この本はわれわれに,立ち上がり・移乗などの動作介助方法に多彩な選択肢を提供してくれる,と結論することができよう。
B5・頁216 定価(本体3,600円+税)医学書院


グループワークを理解するのに最適な1冊

「グループ」という方法
武井麻子 著

《書 評》藤井博之(健和会臨床疫学研・医師)

集団としての患者に注目する

 医療に限らず人がひとを援助するには,「個別」と「グループ」という2つの方法があります。例えば,社会福祉,教育,保育,行政の市民サービスあるいは国際協力の場面などの分野で,経験と訓練を積んだ働き手は,この2つを必要に応じて使い分けています。どちらに重きを置くかはさまざまです。わたしのような第一線臨床医は,もっぱら個別の患者を対象とし,グループワークには縁が薄いと言えます。
 それでも,糖尿病患者のグループワークは,よく行なわれています。「糖尿病教室」に参加した患者同士は,実際的な闘病のノウハウを語り合い,合併症の怖さを共有し,病気と長期につき合っていく覚悟を培います。だがここで「治療効果」がもたらされるメカニズムや,グループワークを進める方法について,一般臨床医の認識は深くありません。
 考えてみれば,半日に数十人を診察室に迎える内科の外来や,専門分化され医学的に共通点のある患者が集まる病棟で,集団としての患者に対する技術が注目されないことは,不自然とも言えます。臨床家,すなわち対人援助の働き手としては,大きな偏りです。ところが,いざグループワークのことを学ぼうとすると,精神科や社会福祉援助論などの専門書を読む必要があります。一般臨床医にとってこれらは,読みこなすのが簡単とは言えません。
 本書もまた,「精神看護」誌に創刊号から15回にわたって連載され,まとめられたものです。著者,武井麻子さんは,精神科の看護師,ソーシャルワーカーとしてのキャリアを持つ方です。
 簡潔にまとめられた17章で構成された本書は,精神衛生を専門としない読者にも読みやすく書かれています。
 例えば,看護師の多くは,学生時代にさんざんやらされてきた「グループワーク」にうんざりしていること,日本人が特に馴らされている集団行動が持つ全体主義の危険性など,身近なあるいは一般的な問題が冒頭で紹介されます。グループワークを敬遠し,否定的にみる傾向とこれらは,関係があるのです。
 集団か個別かの二者択一と考えるべきではなく,個人あっての集団であると同時に,集団がなくては個人もなりたたないことを,著者は指摘しています。

対人援助に関わる人々をグループワークへいざなう

 また,グループ・サイコセラピーは内科で始まり,1905年ボストンの内科医ジョゼフ・プラットが重症の結核患者を対象に行なったのが最初という記述があります。抗結核剤が開発される以前,自暴自棄になりがちだった患者たちが,定期的に集まって語り合うことで,「結核患者特有の孤立無援感やうつ状態」が改善していったと言うのです。
 これらの興味深い事実に導かれて,「グループの雰囲気」,「グループの大きさ」,「グループを観察する方法」など,実際的で深い内容に読者は案内されていきます。
 登場する患者の多くが分裂病者であることも,精神科を専門としない読者にとって縁遠い感じは与えません。むしろこの病気の人々について理解を深め,グループワークの本質を考える助けとなるように思われます。
 評者の経験で恐縮ですが,対人援助の共通言葉を探るための学際的な研究集会を,先頃持ちました。作業療法学,看護学の教官,小学校教師,国際保健分野のNGO運動家の4人でパネル・ディスカッションを行ない,そこでも個別と集団という2つの方法が話題になりました。これらの違いと特質,共通性を理解することは,援助のどの分野にとっても重要なテーマなのです。
 医療・保健にとどまらず対人援助に関わるより広い範囲の人々にとって,本書は共有財産の1つとなるでしょう。
A5・頁192 定価(本体1,900円+税)医学書院