医学界新聞

 

連載(全5回)

院内感染対策のストラテジー

第2回 米国の院内感染対策システム
五味晴美ジョンズ・ホプキンス大学公衆衛生大学院
日本医師会総合政策研究機構在米研究員


2493号よりつづく

米国で行なわれている現在の院内感染対策システム

 現在,米国では,図1に示すような組織で,院内の感染対策が実施されている。各病院には,院内感染を担当する実働部隊が設置されている。この実働部隊は,院内感染対策チーム(Infection Control Team:ICT)と呼ばれる。ICTは,院内感染に関する訓練を受けた人たちで構成されており,院内で生じるあらゆる感染症に関連する問題に対処する。図1に示すように,米国の病院では,院内の各部署がそれぞれの専門性に基づき対処する。
 ICTを中心に,さまざまな部署が院内感染問題を協力して検討しているが,この合同の委員会をICC(Infection Control Committee:院内感染対策委員会)と呼んでいる。
 次に政府や学会と個々の病院との関係は,どのようになっているのであろう。図2は,マクロ的に米国の政府関連機関,学会などの学術団体と,各病院などの関係を示す。図2のように,政府あるいは学会が共同で院内感染対策に関連するガイドラインを作成,推進する。院内感染対策のガイドラインの例として,CDC(米国疾病管理センター)のウェブサイト
http://www.cdc.gov/ncidod/hip/Guide/guide.htm)を参照されたい。
 各病院は,その病院に合うような形で,さまざまなガイドラインを実行するよう努力する。政府あるいは学術団体作成のガイドラインに強制力はないが,通常,この内容をできるだけ満たすよう病院では努力する。強制力のある基準は,米国病院評価機構が優良病院の認定に必要とする基準である。この基準は,非常に強い強制力を持ち,メディケアの保険給付と直接に関連している。JCAHO(米国病院評価機構)は,各医療機関が提供する医療の質が低下しないように,各種のガイドラインも含め,見張り役を果たしているといえる。
 各医療機関では,ICTが,院内で作成したガイドラインを院内スタッフに周知させ,確実に実行してもらうよう教育や指導にあたる。ガイドラインの実施や,いろいろな対策には予算が必要であるため,病院経営,管理部門ともICTは頻繁に連絡を取り,予算を配分してもらうよう交渉する。一方,“おふれ”を言い渡された院内スタッフは,現場で現実性があるのかどうか,実行してみて即座にフィードバックしたり,学術的に効果判定のための臨床試験を行なったりする。このように,米国の院内感染対策は,院内の各部署がそれぞれに専門性を発揮しながら,かつ国家レベルでもある程度統一された基準を満たすように計画,実行されている。


感染制御担当官の歴史と呼称

 ここでは,米国で院内の感染制御に携わる担当官について述べる。は,日米の感染制御担当官(Infection Control Professionals:ICP)の歴史について比較したものである。
 のように,米国では,1963年に院内感染に携わる担当官を各医療機関に設置することがCDCにより決定された。1968年には,そのためのトレーニングもCDCで実施されるようになった。このトレーニングは,現在,CDCとSHEA(Society for Healthcare Epidemiology of America:米国病院疫学学会)とが共同で,毎年4日間の短期集中コースとなっている。1970年には,第1回連載(本紙2493号)で述べたように国家レベルでの院内感染のデータベースの構築が開始された。最近では,1999年にCDCにより,米国内の耐性菌に対する国家レベルの対策プランが公式発表された。
 一方,日本では,1997年に世界で初のバンコマイシンに耐性を示すメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(VISA)が報告され,また同じころ,大腸菌O157による集団感染が各地で発生した。これらを受け,1999年に,日本の12の感染症関連学会の主導で,Infection Control Doctor(ICD)の認定制度を開始した。また,2000年7月より,厚生労働省による院内感染のサーベイランスが開始された。
 感染制御担当官の呼び方であるが,以下のようにその人の保有する資格で分けられる呼び方と,担当官の総称が存在する。
(1)担当者が医師の場合,
 Infection Control Doctor:ICD
(2)担当者がナースの場合,
 Infection Control Nurse:ICN
(3)その他の資格を保有,あるいは,担当者を総称して呼ぶ場合,
 Infection Control Professionalsまたは,
 Practitioners:ICP
 日本で現在,ICDの認定を取得するには,
1.ICD制度協議会に加盟している学会の会員である
2.医師歴が5年以上の医師,または,博士号取得5年以上のPh.D.であり,かつ,院内感染対策にかかわる活動実績があり,所属施設長の推薦がある
3.1の所属学会からの推薦があること
 と,ICD制度暫定規則(1999年2月20日現在)により定められている。
つづく