医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護実践のもとになる理論構築のために

理論にもとづく看護実践
心理学・社会学の理論の応用

シャーリー M. ジーグラー 著/竹尾惠子 監訳

《書 評》山西文子(国立国際医療センター看護部長)

 看護をしている者が,書店でこの本を見ると,すぐ手にとって内容を確認したくなる書名である。近年,変化の激しい看護の状況の中で,日々の看護実践に追われている者は,実践のもとになる理論に自信がないのである。臨床の現場は,患者様が1人ひとり異なっており,厳密に言えばケアの方法も皆同一ではないからであろう。看護師国家試験は,わが国のその道の専門家が叡智をしぼって問題を作成し,検討を重ねて模範解答を出しているととらえている。しかし,公開されていくと臨床家からは模範解答が1つだけではなく,複数あるといった反応がある。このように学問と現場との乖離がこのような結果を呈するという1つの例である。

看護現場に必要な理論とは

 確かに学問を追究する立場にある者は,先端の理論を追い,一方,現場の者は,現実的な問題を解決するのに追われ,理論的に行動しようとしても,とっさに動かなくては命に影響するなどから,指示を優先したり,終わってから考えて理論構成したりする。また,先輩の行なっている看護を見聞きしても,はっとしたり,じっくり振り返ってその中に潜んでいる法則性を発見することがまれである。私自身を含めて現場にいる者は,どちらかというと論理的な思考や理論的な取り組みに弱く,その反対に感覚的な鋭さや感性は非常に豊かである。したがって,ケアの回数を重ねていると,以前体験したことが活用できるのではないかと経験則で実践を行ない,うまくいくとまた,次のケースに当てはめ,よい結果を出していることのほうが多い。
 研究的な取り組みも,現場においてはそれを実施する能力が不足しているうえに,莫大な時間をさいて研究に取り組むことは至難の業と言えるのである。したがって,看護管理者としては,無理な取り組みを強要しないで,研究的な資質を持って意欲のある者を援助していくことの方がよいのではないかと考えている。
 以上のような状況の中で,少しでもよい方向に変えていく方法として,看護実践に潜む理論をできるだけ実践家に教え,意識的なかかわりや行動ができるようにしたほうがよいと考えている。つまり,多くの実践家が多くの理論があることを知り(多くの知識を得て),研究者の研究結果から得られる多くの理論を得,看護の実践を通して理論を消化し,問題解決に活用できるよう教育・訓練することが臨床家として必要なことであると認識している。理論もあらゆる学問分野から,時代時代に変化している理論,現場の状況にマッチしたものを選択していける能力を養いながら実践家を育てなくてはならないと思う。そのことが,臨床の看護の質の向上に即結びつくと思うからである。

看護実践家の教育訓練用テキストとして最適

 今回,この本を読み終えた時,この考えを確信したところである。実践家の教育訓練その時のテキストとして用いるのには最適であろう。理論を応用,活用した具体的な事例を紹介して,解説されていることが最大のポイントである。なぜかと思われる方は,まずこの本を読んでいただきたい。きっと私の言っていることが理解できるであろう。
 本書で取り上げている理論は,以下のとおりである。
 (1)危機介入に関するアギュララとメズイックの理論,(2)バンデューラの社会的認知理論,(3)抑うつ症に関するベックノ認知理論,(4)ボーエンの家族理論,(5)エリクソンによる心理社会的発達理論,(6)ラザラスのコーピング理論,(7)不安に重点を置いたペプロウ理論,(8)レヴィンの変化に焦点をおいた場の理論,(9)トーマスの葛藤理論である。各理論,「ケース」紹介に始まって,「この事例から得られる手がかりの整理」,「関連する理論の選択」,「○○○理論とは」,「○○○理論の臨床実践への応用」,「ケースに対する○○○理論にもとづく看護ケア」,「まとめ」というプロセスで進んでおり,臨床家にとってスムーズに入っていく思考プロセスである。
 最後には,「理論にもとづく看護実践の方法」が解説してあり,付録として「看護過程に関する用語」,「理論に関する用語集」,「理論レベルと理論選定の根拠」がある。
 ベテラン実践家は,自分の行なってきた看護に自信をつけるために,また,臨床に入って間もない人には1つのお手本として,看護管理者には施設内看護の質をレベルアップするためのスタッフ研修テキストとして活用してみてはいかがかと思う。さらに発展して,わが国においてもこのような理論の応用事例集が,一刻も早く出版できることを願っている。
A5・頁312 定価(本体3,200円+税)医学書院


事例から学ぶ臨床看護の知

『困ったときの○○看護』シリーズ
困ったときの消化器疾患患者の看護
花田妙子 編集
困ったときの呼吸器疾患患者の看護
花田妙子 編集
困ったときのリハビリテーション看護
泉 キヨ子 編集
困ったときの心疾患患者の看護
花田妙子 編集
困ったときの糖尿病患者の看護
貴田岡正史,菅野一男 監修/
西東京糖尿病療養指導研究会 編集

《書 評》冨重佐智子(日本看護研究支援センター所長)

ベテラン看護師の「臨床の知」

 本年度より日本看護研究支援センターを開設し,今まで以上に臨床看護師と看護や研究について語る機会を得た。そんな中,最も活気があるはずのベテラン看護師にいまひとつ活気がないことに一抹の不安を抱いた。どうも彼らは,看護研究や看護理論といった昨今の看護の趨勢に,日常的な看護の重要性を実感できなくなっているようであった。
 しかし実際に彼らの看護を垣間見ると,コミュニケーションを駆使しながら,細やかに観察し,知識と勘を総動員して瞬時に問題の本質に迫ってしまう。彼らのほとんどがこのようなすばらしい能力(臨床の知)を持っているのである。また,この能力の背景には,「患者の回復を心より願うねばり強さ」など,看護師自身の強い信念や意気込みが感じられる。そしてこの信念や意気込みこそが,真に患者を癒すものではないかとさえ思われた。残念なことにベテラン看護師の多くは,この「臨床の知」を当たり前のこととして扱い,特別なこととして他者に論じてこなかった。「臨床の知」の中にこそ,看護理論では表現しきれない,生き生きとした「看護の原点」が存在するといっても過言ではないのに。

「臨床の知」を言語化したシリーズ

 『困ったときの○○看護』シリーズの最大の特徴は,これまであまり論じられてこなかった看護師の「臨床の知」を,事例を通して余すことなく言語化した点にある。「困ったときの○○」のタイトルにあるように,事例はどれも1度は病棟カンファレンスで取り上げられるような身近なものばかりである。これらの事例の1つひとつをみると,どれもが科学的であり,情熱的である。すなわち看護師たちが,科学的かつ丹念な情報収集をもとに問題の本質を絞り込み,他職種や患者の家族と連携をとりながらねばり強く看護を繰り返していった様子がありありと示されているのである。紹介されている事例は,「問題解決」に到達したものばかりではない。「問題解決」をめざしながら,患者の死によって終わってしまった事例もある。しかしどちらの事例も,同じような事例に悩む看護師に,さまざまな課題を提起する力強い余韻を持っている。
 このシリーズの第2の特徴は,事例を理解する上での病態生理や各病期の患者の問題点・看護の基本原則など,基礎知識に関わる資料が充実していることである。それらは,すぐにでも実践に役立つように整理されており,学校で教えられる内容とは性質を異にする。これらの基礎知識は,ケースカンファレンスや学習会で活用されることによって,個々の看護師の臨床判断を鍛えるのに大いに役立つことだろう。現在のところ,シリーズは,『消化器疾患患者の看護』,『心疾患患者の看護』,『呼吸器疾患患者の看護』,『糖尿病患者の看護』,『リハビリテーション看護』の5つが出版され,いずれも好評である。
 このシリーズを特に読んでほしい対象に,経験の浅い看護師があげられる。最近はローテーションの影響で,特定領域のベテラン看護師が少なくなり,経験の浅い看護師が,彼らから「臨床の知」を継承する機会が激減してしまった。しかしこのシリーズが,その機会を補う役割を果たしてくれるのではないかと考える。また,ベテラン看護師にもぜひ読むことを勧めたい。このシリーズは,ベテラン看護師たちの日頃の実践に自信と価値を与え,自らの「臨床の知」を生き生きと表現するきっかけを与えてくれることだろう。

困ったときの消化器疾患患者の看護
A5・頁236 定価(本体2,400円+税)
困ったときの心疾患患者の看護
A5・頁264 定価(本体2,400円+税)
困ったときの呼吸器疾患患者の看護
A5・頁216 定価(本体2,300円+税)
困ったときの糖尿病患者の看護
A5・頁208 定価(本体2,500円+税)
困ったときのリハビリテーション看護
A5・頁252 定価(本体2,800円+税)医学書院