第2495号 2002年7月22日


あなたの患者になりたい

「患者様」と患者の椅子

佐伯晴子(東京SP研究会・模擬患者コーディネーター)


気になる「世間の視線」

 臨床参加型実習に出る前に,基本的な態度と臨床技能ができているかを試すOSCEと,コアカリキュラムで規定された知識の到達度をみるCBTをあわせた共用試験がいよいよ始まろうとしています。コアカリキュラムの実効性を担保することと,学生の能力を社会に保証するのが目的とのことで,一般社会からの期待と要請が背景にあるのは確かです。
 患者や家族のみならず,現在健康な人を含めた世間一般の視線を,医療および医学教育は意識せざるを得ない時代になってきました。専門家にはぜひよい仕事をしてもらいたいと誰もが思います。自分の家を建てるなら腕のいい建築家に,子どもの教育はよい教師に,晴れの日の衣装は仕立てのよいものにしたい。日常のことなら便利であればそこそこで満足する人でも,一生に一度,かけがえのない人やことがらのためなら,奮発するでしょう。
 ましてや,取替えの不可能な自分のからだです。医療費の負担も増えましたので,1回の受診コストに見合ったものをぜひいただきたいと思うのは自然なことです。コストには,金銭だけでなく,時間,労力,心身の負担がすべて含まれます。気持ちよく迎えられて,率直にお話ができて,一緒に考えてもらえて,わかりやすい説明が得られるのならばいいですね。

教育と現実の乖離

 ところが,迎えられてという最初の段階から,どうも居心地が悪いのです。壁の張り紙やパンフレットなどには,「患者様……」という文字が大きく書かれています。「患者さん」ではなく「患者様」です。例えば「お母さん」より「お母様」のほうが尊敬の念がより感じられます。親しい関係というより一歩さがって相手をうやまって「様」と言います。
 その「患者様」表示の診察室で患者が座る椅子はどうだったでしょう? 昔のラーメン屋,と言うとラーメン屋さんに怒られますね,パイプの脚に平たい円座が乗っただけの軽いお粗末な,今どきまだ売っていたのか,と驚くような「椅子」でした。その椅子しかない,と言われるので,仕方なくOSCEの模擬患者として座ってもらいましたが,大事な模擬患者のほうが転倒してケガでもされたらどうしよう,と私は気が気ではありませんでした。
 その椅子に「患者様」はいつも座らされているのか,と私はなんとも言えない無力感に打ちのめされていました。教育はある程度,理想を語るものであることは承知しています。しかし,これほど現実と乖離しているのでは,共用試験やコアカリキュラムの教育が語っていることが実行されるのか,心もとなくなってくるのです。
 おそらく学生さんも同じ思いではないでしょうか。挨拶や自己紹介,患者を尊重して話を聴く,という姿勢や態度が,現場では誰も行なっていないのを見るとどんな気分になるのでしょうか? 臨床実習に出た後のOSCEで,患者の上に立ったような態度の学生さんに出会うことがあります。また,研修医にはエライ人になられて,と感じることがたびたびです。いくら優れた教育を医学部で行なったとしても,そこで身につけた技術や態度を活かすことができないのが医療現場の実際だとしたら,その教育に意味はあるのでしょうか?

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