医学界新聞

 

日本の医師国試に合格したアメリカ人

アダム・タッカー氏(東海大研修医1年)インタビュー



―――日本で医師をめざそうとしたきっかけは?
タッカー 日本とそこに住む人々が好きだからです。以前から日本の文化に関心があったのですが,特にオーバリン大学在学中に,東京芸術大学からの客員教授などから尺八を学ぶ機会があり,深く日本の伝統音楽,文化へと傾倒していきました。フルブライト奨学金を得て,九大にいた時には,尺八の奏法から派生して,禅宗の一派である普化宗の思想の思想と歴史についても研究しました。その滞在を通じて,日本という国,そこにある文化に深く惹かれることになりました。実は,他国も長く旅をしたりしたのですが,「ここで暮らしたい」「ここで働き,ここにいる人々の役に立ちたい」という特別な思いを感じたのです。

日本で医師になろうと思ったわけ

タッカー 健康や医療について言えば,アメリカでは人々が生活習慣に起因する多くの健康問題を抱えており,私も問題意識を持っていました。ですから,日本人の伝統的な食生活や生活・仕事での勤勉さ,あらゆることへの細やかな気配りや,治安のよい生活社会は,健康問題を考える上でも大きな刺激となりました。
 また,一方で日本の医学教育や医療は大きな転換期を迎えていて,自分が受けた国際水準での医学教育の経験を,日本で役立てることができるのではないか,という思いもありました。
―――わざわざ日本の医学部に入学し直し,医師国家試験にチャレンジするのは大変なことではなかったですか?
タッカー 確かに苦労もありましたが,これは1つのアメリカンドリームです。日本でパイオニアとして挑戦したいと思ったのです。また,日本の医学部に入り,日本の医師養成のシステムの中に入ることで,「インサイダー」として日本の医療を経験したかったのです。学生やその教育のあり方を十分に理解し,いつかその発展に貢献するためには,必要なことだと思いました。もちろん,東海大に在学中にもしばしば,提言を行なったり,学生たちにUSMLE(米国医師国家試験)のStep1の問題を教えていました。

日米医療の橋渡しに

―――日本の医学部で学んだ感想は?
タッカー 東海大は米国式のクリニカル・クラークシップを行なっており,学生は患者さんをしっかり診ながら,生きた臨床を学びます。また,約2割が学士入学者という点でもユニークで,学習に適した環境でした。
―――日本の医学教育の問題点は?
タッカー 一般論として言えば,ベーシック・サイエンスとクリニカル・メディスンの良好なリンクが取れていないことだと思います。東海大でも行なっていたことですが,それらを統合したもっと問題解決型のカリキュラムが必要だと思います。
―――最後にこれからの夢を聞かせてください。
タッカー 日米の医療の橋渡しとなるような仕事をするのが私の夢です。しかし,まずは医師としての臨床研修をしっかり行なっていきたいと思っています。また,いずれは東海大の外でも研修をしてみたいし,将来は,整形外科,神経外科,老人医学の専門領域,あるいは音楽療法や心療内科にも興味があります。研究も診療も,教育にも関わりたいですね。
 日本でどう研修したらよいか,何かアドバイスがあれば,読者の方にも教えていただきたいと思います。E-mailアドレスはadamtucker75@hotmail.comです。
―――ありがとうございました。



アダム・タッカー氏
オーバリン大卒,在学中から日本文化と伝統音楽に強い関心を持ち,フルブライト奨学金により九大へ留学,文部省奨学金で大阪外大,東京芸大でも研究を行なった。ワシントン大学医学部で学び。米国の医師国家試験にあたるUSMLE Step1,2に合格後,再度来日し,東海大学医学部へ入学。2001年同大卒。2002年4月日本の医師国家試験に合格,5月より東海大学研修医。尺八の名手で7月末にはCDも発売予定。