医学界新聞

 

特集

「第26回国際内科学会議」に参加して


今井裕一
秋田大学第3内科

吉田 聡
弘前大学老年科学

宮崎正信
長崎大学第2内科

高林克日己
千葉大学医療情報部


今井裕一
秋田大学第3内科

はじめに

 第26回国際内科学会議が5月26日から5月30日まで京都国際会館で開催された。
 この会議は,国際内科学会(International Society of Internal Medicine:ISIM)が2年ごとに開催するものであり,前回はメキシコ・カンクンで行なわれ,今回が京都,2年後はスペイン・グラナダと世界の有名な観光地で行なわれている。しかし,内容は観光をためらわせるほど密度の濃いものである。根底に流れるテーマは「細分化した内科学を,どのように理解し統合したらよいのか? 医学教育のあり方はどのようなものが望ましいのか? 世界で現在困っている医療問題は何か?」などである。
 今回の会議は,東海大学総合医学研究所長・黒川 清先生が組織委員長を務め,大阪大学大学院医学系研究科教授・堀 正二先生が副委員長,北里大学内科学教授・和泉 徹先生が総務幹事,慶応大学内科学教授・池田康夫先生がプログラム部会長として全体を企画された。

「開会式-懇親会」

 26日午後から開催された開会式は,天皇,皇后両陛下のご臨席を得て行なわれた。
 「医師は,患者1人ひとりの持つ心配や苦しみを心の交流を通じて分かち合い,理解することも切実に求められており,医師の苦労が察せられます。さらに世界の内科医が貴重な医学情報を共有しながら,医学の専門化と統合をともに進め,人々の健康で幸せな生活のためにさらなる貢献をしていくことを願います」と挨拶された。また第17回の同会議が,同じ京都国際会館で織田敏次先生(東大名誉教授)のもとで開催された時,皇太子として出席したことに特別の思いがあることも述べられた。
 開会式後のレセプションにもご出席なされ,多くの海外からの出席者とご歓談なさっていた。私自身,両陛下の1メートル以内に近づいたことは,これまでの人生でなかったことであり,感慨深いものがあった。
 その後,懇親会の会場で,国際内科学会の会長であるJoseph. E. Johnson先生に感想を聞いたが,「これまでの国際内科学会でこれほど盛大なものはなかったし,これほど素晴らしいものはない。大変うれしい」と喜んでいた。

Global Physicians Network

 翌27日は,午後から組織委員長の黒川先生と国際内科学会会長のJohnson先生の講演があった。黒川先生は,「世界に通用する医学的根拠(Globalized evidence)と同時に個別の事情に合わせて個々の判断(Localized decision)が重要であること,Global Physicians Network(世界内科医ネットワーク)を形成して21世紀に挑戦しよう」と呼びかけていた(写真1)。

「メジャー・リーグ」の招待講演

 会議の最大の特徴は,その分野の世界的リーダーが多数,特別講演に招請されていることである。残念ながらすべてを聞くことはできなかったが,印象的なものを幾つかまとめてみる。
(1)Weissmann博士(スタンフォード大)の「再生医療」
 再生医療という最先端の話を簡潔にまとめて話してくれた。
 2000個の骨髄細胞あたりに1個存在する本当の意味での造血幹細胞が約2000倍の増殖効果を有している。癌患者では,潜在する癌細胞を除外した造血幹細胞の自己移植が適し,一方,血液疾患での造血幹細胞では,Tリンパ球を除去した同種移植がよいこと,さらには造血幹細胞の中には神経細胞に分化しうる多能性幹細胞が存在しているが,他の臓器の幹細胞は検出できないこと,その神経多能性幹細胞が神経疾患に有望であることを発表していた。
 さらに,動物実験では,細胞核移植によるクローン動物の99.2%は,妊娠3か月で死産することが明らかとなり,臨床応用は期待できない。そのために受精卵から分化したES細胞を使用して各臓器幹細胞を臨床応用することが考えられているが,アメリカにはWeldon & Brawnback Billsという倫理規制がある。
 再生医療に関しては素人である私が聞いても,よくまとまっていて理解しやすかった。
(2)Fitzgerald博士(カリフォルニア大)の「医療倫理」
 Fitzgerald氏は,医療倫理の分野では全米で知らない医師はいないくらい有名な先生である(写真2)。
 前回のメキシコ・カンクンでは,「10歳の少年,学校の成績はよくなく,そのうち退学させられた。さてこの人は誰か? そうです。エジソンです。次は……? アインシュタインです。さて次は……? そうです。チャーチルです。さて,私たちは,この遺伝子は優秀で,こちらの遺伝子はだめであると判断することはできるのでしょうか?」そのような内容であった。
 今回は,「老齢化世界」についての話であった。「The trouble with getting old is that everything gets smaller」と言った彼女の母親の言葉で始まった。19世紀の産業革命では,若さとか苦痛に耐えることが経験や知識より優先される時代であった。20世紀は,新しく作り出された機器の使い方を若者が老人に教える時代であった。Successful ageingとは,孤立せずに社会との関わりを保った高齢者である。女性が男性より幸福な高齢者である理由の1つは,孫の世話ができるという家庭内での立派な役割があるからで,その役割のない男性高齢者は哀れなものである。これを「Grandmother Bonus」と呼んでいるそうだ。
 高齢になっても社会とどのようにかかわりを持つのか,まだ先のことではあるが私自身の問題でもある。
(3)Nobel博士(ボストン大)の「リスクマネージメント」
 「Hinohara-Sasakawa lecture」は,日野原重明先生(聖路加国際病院理事長)が座長としてNoble博士を紹介し,Noble博士もまた日野原先生を尊敬していることから話が始まり,どのようにして医療過誤を減少させるのかということは医師にとっての永遠のテーマであるが,万国共通する対策があることを強調した。
 そして,(1)オリエンテーションとトレーニング,(2)医療スタッフ間のコミュニケーション,(3)患者による評価などが重要であることを述べ,2つのパターンを紹介した。
 1つは悪循環パターンで,医療者が完全無欠であると考えると,1つのミスで自己嫌悪,罪悪感を抱いてしまう。そうすると問題を隠すようになり,周囲の医療者も非難するような態度をとる。結果としてミスが組織の共通問題とならずに,次のミスを誘発してしまう。
 もう1つはよいパターンで,医療者も人間でありパーフェクトではないと考えると,小さな間違いでも素直に謝ることができる.そうすると周囲の医療者も,もしかすると自分も冒す過ちかもしれないと考えることでミスを共有することになる。そのような組織は結果としてミスが少なくなる。「Patient's safty is the highest priority(患者の安全が最優先事項である)」とまとめていた。
 日本人の私にも理解できないHiri ho ken tenという日本の文献(1953年)を引用している点など,Nobel博士はかなりの日本通であるようだ。
(4)Narins博士(アメリカ腎臓学会)の「腎臓病教育」
 Narins博士は,アメリカ腎臓学会の教育担当係である。特に水・電解質・酸塩基平衡に関しては世界一である。
 日本医大の飯野靖彦先生が座長で,帝京大学の内田俊也先生が症例を提示して,Narins博士がこれにコメントをし,さらに会場と討論が行なわれた。「メジャー・リーグ」の腎臓専門医の話の進め方,論理の進め方が大変参考になった。
 日本人の先生方も多数発言し,実りの多いカンファレンスであった。

ポスターセッションの特徴

日本人の英語発表も結構上手である
 国際学会なので公用語としての英語をある程度理解できる人しか参加していないのではあろうが,多くの日本人が座長や口演,あるいは質問・コメントをしていた。全体的に英語を気軽に話している様子が見受けられ,数年前よりはるかにレベルアップしている印象を受けた。
 以前は,日本人が周囲にいるだけで話しづらい雰囲気があったが,今回の学会では,1人の海外からの発表者の周りで7-8人の日本人が英語で討論する姿もみられた。今後,日本の各学会が海外(特にアジア諸国)からの演題を積極的に受け入れ英語で討論する企画も実現できそうに思われた。
当日の発表を評価して「good speaker award」を直ちに掲示
 6人のポスター発表の中から,座長が1-2名を推薦し,最終的に各部門で1日当たり1-2名のgood speakerを選出し,その日の夕方までに会場の受付前に掲示された。アメリカの学会では普通のことであるが,日本での学会では斬新な企画であり,ここでも国際化を感じた。
アジアの若手医師との交流
 参加者の中から特にアジアの人に向けて「Young Investigators Awards」が設けられ,その受賞者達との交流が企画されていた。Eメールによるメーリング・リストを作成し,今後の新たなネットワークをめざしていた。

アフターファイブの交流

Dr. Ohl
 アメリカ・ノース・カロライナ州Wake Forest Universityで感染症を専門としている医師である。経歴がややユニークである。大学生の時に早稲田大学に留学し,帰国後アメリカで医学部に入学した。卒業後は横須賀米海軍病院に数年間勤務していたこともあり,日本語が堪能である。「ハリソン内科学書第15版」のPseudomonasの項目を書いた人物であり,今回はバイオテロリズムの特別講演を依頼され参加していた。
Dr. Wiese
 デトロイトにあるWayne State Universityで教育部門を担当している美人の女医さんである。レジデントのプログラム総責任者であり,一緒にきたDr Garciaは,「私は,この方の命令通りに研修を進めなければならない。私にとっては偉大な人です」と言っていた。
Dr. Garcia
 いろいろな経歴を経て医師になり,現在40歳でレジデントの2年目である。
 今回の学会には1人で8題の演題を応募している。第1日目に5題の発表がほぼ同時に行なわれ,3題は発表できたが2題は,Dr. Wieseに助けてもらったようである。症例報告をきちんと行ない評価されると,チーフレジデントになるチャンスが出てくるそうである。アメリカ内科学会でも症例報告を重視し,トレーニングの1つになっているそうである。幸いなことに,彼は第1日目のgood speakerに選ばれており,「わざわざ来た甲斐があった」と喜んでいた。

 3人と話していて,日米の卒後教育システムの相違点に気がついた。(1)内科(総合内科)を重要視していることと,(2)コンサルテーション・システムが確立されていること,(3)コンサルテーションが単にボランティアに終わっていないことなどである。
 アメリカのレジデントは,1人で40人くらいの患者を受け持つが,問題が生じると直ちに専門医にコンサルテーションをして専門医の知識を吸収するのである.また専門医は,コンサルテーションに応じながらレジデント教育を行なうのである。
 すなわち専門医は直接患者を受け持つのではなく,若い医師を指導することで医療に従事するのである。これをアテンディング・チーム(Aチーム:アメリカ型)としている。しかし,最近になり医療の効率・採算性を考えてレジデント教育にまったくタッチしないビジネス・チーム(Bチーム:日本型)が作られていることもわかった。日米の医学教育プログラムを検討する必要があるという意見に達し,今年中に視察に行くことが計画された。

Dr. Ali
 パキスタン出身で現在東海大学総合内科に研修にきている医師である。彼は,「歩くハリソン内科学書」とも言われるくらいによく勉強している。その知識以上に感服したことは,「Internal Medicine is mother, Specialities are sons or daughters. So Specialities never live before Internal Medicine」と言ってのける態度である。
 実は,秋田大学医学部の住所は,秋田市本道1丁目となっている。これは,「医学の本道は内科である」という中国の古語に由来している。しかし創立30年を経た現在では,その由来も忘れ去れられつつある。専門分野と内科学の関係についてDr. Aliの言葉に,「本道」を思い出し正直感動した。

おわりに

 今回,国内外の多くの優れた人々に出会え,個人的にも大変実りの多い会議であった。このような立派な国際内科学会議を主催した諸先生,事務局の方,そして参加者全員に感謝している。
 21世紀をどのように歩むべきなのか,少しみえてきたような気がする。


吉田 聡氏
弘前大学老年科学

「GOLD」が最重要テーマに

 私は,主に呼吸器病学に関して報告することにする。
 呼吸器病学の分野では,昨年発表された「慢性閉塞性肺疾患の診断・管理・予防のグローバルストラテジー」(Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease:GOLD)が,最重要テーマとして前面に取り上げられた(文献12)。
 このプロジェクトには日本呼吸器学会も参加しており,GOLD日本語版も作成されて普及に努めている。GOLDには慢性閉塞性肺疾患(COPD)の疫学に始まり,診断から治療まで幅広く記載されているが,COPDによる慢性呼吸不全の管理や,感染症合併などによる急性増悪への対応などについても非常にコンパクトにまとまっている。
 近年,米国国立衛生研究所(NIH)と世界保健機構(WHO)はさまざまな疾患の管理ガイドライン作成に取り組んでいるが,これは疾患の管理を厳格に行なうことが目的ではなく,むしろ教育や啓蒙に力点が置かれ,ガイドラインを普及させることによって予後の悪い疾患の死亡率や寛解率を改善しようという意図で展開されている。COPDは現在,世界の死亡原因の第4位であり,有病率および死亡率は,向こう数十年にわたってさらに高まると予想されている。国際内科学会議は発展途上国からの参加も多いため,GOLDをここで紹介することは非常に意義が大きい。会場では,中南米や旧ソ連邦諸国からの参加者からの質問が相次ぎ,大変な反響が寄せられた。
 他には,日本の得意分野である分子生物学領域が取り上げられ,東北大学の貫和敏博教授らによって「21世紀における呼吸器疾患の潮流」というテーマでシンポジウムが行なわれた。
 わが国の呼吸器病学における分子生物学的研究は,先進諸国でもトップレベルにあり,発展途上国からの研究者らは,共同研究などの形で自国に研究技術やノウハウを導入したいと,シンポジウム終了後も演者を取り囲んで熱心に質問を繰り返していた。
 サテライトシンポジウムでは,全世界的なガイドライン戦略の先駆けである「気管支喘息」や「呼吸器感染症」の最新の治療が取り上げられ,先進国と発展途上国の両方の状況を考慮した講演に会場が沸いていた。

「ACP-ASIM/FAJSIM」共同シンポとCase Study

 また,「日本内科学会認定内科専門医会」と「米国内科専門医会/米国内科学会(ACP-ASIM)」の共同シンポジウム,およびCase studyが開催された。
 共同シンポジウムのテーマは,「Global Impact on Drug-Resistant Infectious Organisms」で,日本からは聖路加国際病院感染症科医長の古川恵一氏,米国感染症専門医の青木眞氏,広島大学第2内科講師の中島正光氏が抗菌薬耐性菌対策と抗菌薬の適正使用,またそれに関連するテーマについて発表と質疑応答を行なった。このシンポジウムは,日米両専門医会による史上初の共同開催ということもあって,先進諸国を悩ませる多剤耐性菌への対処に関して国内外から多くの質問が寄せられ,大きな反響を巻き起こした。
 筆者とともに座長の労を取ってくださったJohnson国際内科学会(ISIM)会長は,多忙な合間を縫ってこのセッションに参加され,米国の耐性菌治療事情について約40分にわたって講演をされた。
 なお,ISIMの来年度からの会長は,英国Royal College of PhysiciansのCharls Hind氏に決定した。
 日本臨床内科医会と認定内科専門医会との共同セッションでは,信州大学第1内科教授の久保惠嗣氏より「腹部網状紅斑,四肢遠位部の感覚障害,筋力低下,肺高血圧を呈した症例」が提示され,臨床の第一線にある日本臨床内科医会からの先生方の豊富な臨床経験と,認定内科専門医会からの呼吸器専門医の先生方の専門性とが交錯するすばらしい議論が繰り広げられた。この企画は,これまでの歴史に新しい一石を投じるものとして,注目に値するものである。

「Young Investigators Award」

 さらに本学会では,主に発展途上国からの若手参加者を対象に「Young Investigators Award」が設けられた。優秀演題に選ばれた受賞者を対象に,本学会のテーマである「Global Physicians Network」の構築に関するミーティングが行なわれ,日本側から出席したtutorたちを囲んで,若手医師・若手医学研究者達のためのネットワーク作りについて議論が交わされた。
 インターネットの発達により,MEDLINEなどにE-mail addressが掲載されるようになったため,研究者に対しては比較的容易にアクセスが可能になったが,臨床家同士のネットワークがないためにコミュニケーションに後れを取っているのではないか等,切実な問題提起と新たな潮流への建設的な提案が交わされた。
 本学会は日本内科学会設立100周年記念事業として開催されたものであるが,伝統の上に立脚する新しい試みが多く盛り込まれた,わが国のみならず国際社会にとって大きな意義のある学会になったのではないかと思う。
〔文献〕
1)World health report. Geneva: World health Organization. 2000.UPI
URL=http://www.who.int/whr/2000/en/statistics.htm
2)Global Initiative for Chronic Obstructive Lung Disease.慢性閉塞性肺疾患の診断,管理,予防のグローバルストラテジー NHLBI/WHO WORKSHOP REPORT EXECUTIVE SUMMARY JAPANESE VERSION(日本語版監修:福地義之助).2000


宮崎正信氏
長崎大学第2内科

「内科医とは何か?」を問いかけるよい機会に

 今回の学会はひと口に言って,「内科医とは何か」を自らに問いかけるよい機会となった。
 日本では内科各専門領域の学会は盛んに行なわれている一方,内科学会は各専門分野の学会の集合といった感じが強く,「内科医とは何か? 何をめざしていくのか?」という論議は少ないように思える。内科医のアイデンティティを明確に描きうる内科医は少ないのではないだろうか?「内科医とは?」と聞かれて,「手術をしないドクター」とか,「何でも内科? 無い科?」程度の答えが返ってきそうである。
 Johnson 国際内科学会会長の会長講演では,遺伝子の解明が進み「遺伝子治療」「再生医療」の時代を迎えても,専門的知識だけでは対処し得ないのが「人間の病」であり,オスラー博士の時代から言われている全人的医療の実践,さまざまな分野をインテグレートできるドクターの必要がますます高まっていくことが示された。
 そして,21世紀を迎えた内科医として,黒川 清組織委員長が示された「グローバル・フィジシャン」は一つのあり方であろうと痛感した。

日本人のグローバル化を心強く思う

 症例検討のディスカッサントとなっていた世界的に有名なカリフォルニア大学のDr. L Tierneyは,前もって症例内容は知らされていなかったようで,どのように考えていくのかを興味深く,またユーモアを交えて「これぞ臨床医」といった感じで会を進行していた。結局彼の予想ははずれていたが,症例が「An unusual case」であり,大切なのは「物事を考える道筋」であることを示してくれた。
 彼と英語でやりとりする日本人ドクター(研究者ではなく,臨床に強い?!)がいたことは,今や日本もグローバル化により,世界標準の医療を展開できる,また世界標準のディスカッションができるレベルに一部は達しつつあるということであり,非常に心強く思った次第である。
 今後,医学生,研修医,さらには生涯教育がグローバルな見地からなされていくことが重要であり,このことを理解している教員の必要性を感じた。

「仮想クリニック」による教育に興味を感じる

 展示では,日本内科学会が作成したコンピュータ・ソフトが興味深かった。これは,実際の臨床現場をコンピュータを駆使して再現しようとする試みである。
 主訴が示された後,さらにどのようなことを問診で聞くべきか? いくつかの項目が掲げてあり,各々の項目をクリックすると,患者さんからの返答が示される。例えば,「発熱の有無」をクリックすると,「2, 3日前から38度台の発熱があった」という具合である。
 重要な問診項目であれば,診断や治療を進めるのにKeyとなる答えが得られるが,逆にあまり重要でないものをクリックすると,情報量が少ない答えが返ってくる。そして「診察内容」,「検査」と続く。診察の項目では患者さんの側面や背部,さらに臥位にして診察することがコンピュータ・グラフィックにより可能である。
 肺では湿性ラ音が聴取できたり,下腿前面の浮腫も実際の写真が出てきて,仮想患者を経験することが可能で,問診から診察,検査,治療までをシュミレーションしている。「何が大切な問診か?」,「診察上注意すべき点は何か?」,「重要な検査は?」を考えて診察していくことは,ますます重要視されていくと考えられ,コンピュータの進歩に伴い,「仮想クリニック」による教育は効率的で有用であると思われた。

ユニークな「症例検討会」

 今回の学会では,臨床内科医会との協同で日本語による症例検討も開催された。
 腎臓でも80分の症例検討が行なわれたが,いつもは用意周到に全員が解答を知った上で準備するのが「常識」であったが,症例の病歴が配られただけで,当日を迎えるという「非常識」な検討会となった。実際の臨床では,患者さんが来院してからいろいろなことを考えて診察に当たるわけで,それと同じ状況での症例検討となったのはきわめて有意義だった。
 コーディネータを務めた秋田大学の今井裕一先生は,年齢だけが異なっているほぼ同じ病歴を持つネフローゼ症候群の患者2例を挙げ,「何を考えるか」,「その際に最も有用な検査を行なうことはどんな意味を持つのか?」について明確な解説を展開した。
 最近「EBM」という言葉が聞かれるが,すべての状況で「EBM」が揃っているわけではなく,同じ病気であっても,その患者さんにとっての「インパクト」は異なるのが現実である。
 例えば,ステロイドの副作用で満月様顔貌があるが,患者さんが俳優である場合と学生である場合で治療方針は異なる場合もある。それをどのように客観的に考えるか,「臨床決断」の進め方を統計学的手法を用いて解き明かすという,これまでに類を見ないユニークな症例検討会であった。今後このような臨床決断手法が必要になると思われた。
 その他,膠原病,腎臓病の分野で増加している「ANCA抗好中球細胞質抗体関連腎炎」について,世界的に有名なCGM Kallenbergの講演が行なわれるなど,さすが「一流は一流」といった内容のプログラムが多く有意義な学会であった。


高林克日己氏
千葉大学医療情報部

開会式

 Opening Ceremonyがいきなり日本語で始まったのには驚いた。前回のメキシコでも多くのセッションがスペイン語で行なわれていたことを思えば,これでもよいのかとも思ったが,国際学会を「敢えて」日本語で始めなければいけないのだろうか?
 その後のレセプションは一転して英語の世界になった。天皇皇后両陛下が流暢な英語で,最後まで多くの参列者と丁寧にお話をされる姿が印象的であった。ただ警備の関係で参加者全員が一堂に会せないのは残念であった。

ポスター

 ポスターセッションではもちろん日本の発表が多かったが,まさに国際学会にふさわしく,さまざまの国がユニークなお国柄のあるポスターを展示していた(写真1)。展示してあるもののレベルは総じて高く,これらの中から優秀なものが連日選ばれて,最後に優秀賞が表彰されたのだが,発表者たちは毎日ノミネートされるだけでも十分に幸せであるように見受けられた。


(写真1)

(写真2)

リウマチの治療

 ACAのWalker(ミズリー大)女史に加え,Furst(カリフォルニア大) Kalden(エルランゲン大),竹内 勤教授(埼玉医大)といった強力メンバーでの講演であった(写真2)。
 しばらく前までほとんど欧米と差異がなかったはずのこの分野において,COX2に続き抗サイトカイン療法の臨床応用で日本が遅れをとってしまったのは否めない。薬剤の開発とともに,グローバル化による治験の短縮などを進めないとどんどん差が広がってしまう。竹内教授に続き,多くの臨床研究が本邦でも展開されることを期待させる講演であった。

日本語セッション

 ACP-ASIMのCase Studyは大変好評で多くの観客が集った。おかげで同時刻の他のセッションへの動員に影響を与えたほどである。このCase Studyに平行して,日本語セッションでは7題のCPCが行なわれた。今回は臨床内科医会と内科専門医会が合同でセッションを行なった。
 私が関係したのは住田孝之教授(筑波大)と柏葉光利先生(岩手県臨床内科医会)のSLEのセッションであった。難しい症例で専門医でも解答が得られない難問であったが,一般医が聞いても十分に意味のある内容に仕上がっていたと思う。
 3つのシンポジウムのうち,電子カルテの共有化に関するシンポジウムでは,昨年度行なわれた地域における電子カルテの共有化事業の代表的なものを5つ選び,提唱者の秋山昌範先生(国立国際医療センター)に総説をしていただいた。すばらしい企画をされた山本義久先生(山本内科)が残念ながら体調を崩された後を受けて,私と山崎俊司先生(市立東松戸病院)が司会を担当した。会場での参加者は決して多くはなかったが,その後インターネットをみての反響,質問の大きさには驚いた。このCPCとシンポジウムはインターネット中継され,今でもホームページからみることができる。
 その他,介護保険の現況と今後の展望(大分県内科医会・嶋田丞先生),日常診療でよく見られる疾患に対する漢方治療(金沢大・元雄良治先生,慶大・渡辺賢治先生)といったup to dateな話題のシンポジウムが開かれた。

晩餐会


(写真3)
 雨を心配しながら外へ設置したり,中にしまい込んだりで裏方の準備は大変だったが,結局は月の出る屋外での素敵な晩餐会になった。始まる前には会場が広いのでそれほど多数の参加者がいないのではないかと危惧していたが,いざ始まってみるとたくさんの人だかりで,また国際学会に相応しくさまざまな国の衣装やパフォーマンスを楽しめる,楽しい会になった(写真3)。

最終日の講演

 牧野荘平教授(独協医大)の気管支喘息の最新治療,Zinman先生(マウント・サイナイ病院)の食後血糖コントロールの重要性など臨床的に有用になる話が続いた後,最後の岸本忠三先生(阪大)は免疫疾患の治療と題して,国際的に高い評価を得ている阪大のサイトカイン研究を中心に話された。From Laboratory to Clinicの副題どおり基礎医学を包括した内科学としての格調の高い講演で,このような講演をまとめて聴くことのできる至福を感じたものである。岸本先生は最後にリウマチ学の進歩のみならず,内科学の未来を暗示される言葉で括られた
 LuncheonではGinkgo(銀杏)から抽出したEgb761によるアルツハイマー痴呆の治療などユニークな話題があった。
 ちょうど18年前の京都の国際内科学会の時にも同じ部屋で,同じドイツからの発表があった。それは骨髄移植で白血病が治るという発表で,当時一般の内科医にはにわかに信じられない話を「眉唾か」と思って聞いていたことを思い出し,隔世の感を覚えるとともに,今後の痴呆症の治療を考えるに感慨深いものであった。

(写真4)

Farewell PartyとYIA

 その後のFarewell PartyはWelcome Partyと同じ部屋で行なわれた。Welcome Partyの華やかさとは異なるものであったが,多くの旧き友人のみならず新たな友人たちとの語らいの場となった(写真4)。
 すべてが終わってからもYIA(Young Investigator Association)の会が開かれて,和泉徹先生,黒川清先生を中心にこれからのglobal networkを築くための話し合いが各国の若き内科医たちとなされた(写真5)。


(写真5)

 近日中にこれら100名を越える多数の国の内科医を結ぶメーリングリストが動き出し,内科専門医会のML-2(1000名以上が参加している)などのメーリングリストとの相互乗り入れをはじめる予定である。まさに真のglobal network communicationが今回の国際内科学会から拡がっていくことを切に祈念する。