医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


無駄なく無理なく人工心肺操作に自信がつく内容

実践 人工心肺
南淵明宏 著/茨木 保 絵

《書 評》伊原 正(鈴鹿医科大教授・臨床工学)

待望の「人工心肺」入門書

 本書は,初めての臨床工学技士向け「人工心肺」入門書であり,臨床工学技士をめざしている学生にとって待望の書である。最大の特徴は,初学者にとって取りつきやすいように最大限の配慮がなされており,しかも臨床現場で必要なこと,知りたいことが網羅され,あまり学術的に専門性の高い内容を省いて,無駄なく無理なく,「これなら自分も心肺回路を回せる」と自信をつけることができる点である。
 「バックグラウンド編」,「えむい君の一日」,「実践編」の3部構成となっている。「バックグラウンド編」では,「人工心肺の基本構造」,「人工心肺運転に必要な生体原理の知識」,「心筋保護」,「人工心肺中のモニター」,「人工心肺と薬剤」,「人工心肺と法律」が項目として取り上げられている。初めて人工心肺装置を見る学生は,4つないしは5つのローラーポンプを見てそれぞれ,左右の心房・心室に対応して心臓の各部屋ごとに回す物と考えてしまう者も多い。ここでは,人工心肺の基本をふまえた上で人工心肺運転中の血流分布,心筋保護液を流す際に使われる順行性灌流法・逆行性灌流法,人工心肺運転中のモニター項目などの重要な基礎事項が,イラストでわかりやすく書かれてある。また人工心肺の取り扱い上の事故責任と法律について,明確に書かれていることが,他の成書に見られない特徴である。

優れた説明方法-漫画人工心肺の実際

 しかし,本書の最大の特色は,第2部の「えむい君の一日」と題された漫画による人工心肺の実際である。
 これは息抜きのために設けた漫画ではなく,文章やビデオ,CD-ROMなどの他のメディアではわかりづらい現場の「空気」を,最も的確にかつ恐怖感なく納得できる優れた説明方法として活用されている。実際,初めて臨床実習に出る学生は,人工心肺の準備,運転の開始・停止以外は周りで何が起きているのかさっぱりわからないことが多い。人工心肺運転は,1人のオペレータが1つの装置を動かすだけの業務ではなく,医療機器の中でも最も高度なチームワークの要求される技術の1つである。「臨床工学技士は現場で何を考え,まわりのスタッフが何を求めているのか」がよくわかる点でも,写真やイラストより効果的なテキストとなっている。

他に例をみない人工心肺トラブル対策

 最後の「実践編」は,「冠状動脈バイパス手術と人工心肺」,「僧帽弁の手術と人工心肺」,「大動脈弁の手術と人工心肺」,「人工心肺運転中のFAQとトラブルシューティング」,「やってはいけないミス」,「ミッションにどう応える」,「人工肺の故障によるトラブル」,「人工心肺の限界」の項目からなり,現場のスタッフになった時に必要な知識が整理してまとめられている。心臓外科手術のテキストは,背表紙を見るだけでも圧倒されるボリュームであり,また手術は自分の仕事でないとして勉強をしにくい面がある。しかし,人工心肺運転時に術野で何が行なわれているかを知ることは,きわめて重要なことである。基本の手術手技について,要点が簡潔にまとめて書かれてある点も初学者に勧める理由の1つである。
 人工心肺運転中のトラブル対策や,術者からのリクエストへの対応方法については,きわめて実践的に説明されており,この点もいままでのテキストでは足りなかった部分である。エア抜きのさまざまなテクニックや「手術台を上げて心臓を小さく」するなど,教科書を読んだだけではわからないようなノウハウも紹介されている。
 操作者側のミスで起こりうるトラブルとその対策だけでなく,人工肺や機械側のトラブルとその対策について触れられている点でも他に類を見ない。また,本書を読み進むうちに,single cross clamp,steal現象,non-working beating heartなどの用語が自然に身についていくこともメリットの1つである。
 人工心肺の実習が行なわれる前,実習中,実習後に絶えず持参して勉強し,「本書からウィーニング(離脱)できれば,1人前のperfusionistになれる」との意気込みをもって読んでもらいたい1冊である。
A5・頁152 定価(本体3,600円+税)医学書院


求められる胃X線診断学の再構築に必携

馬場塾の最新胃X線検査法
馬場保昌 編集/佐藤清二,富樫聖子,坂東孝一,松本史樹 執筆

《書 評》八尾恒良(福岡大筑紫病院長)

 1年ほど前,馬場先生に3か月だけのトレーニングを受けたX線技師さんが撮影した集検フィルムを見せていただいて驚いた。私の病院で3年くらいトレーニングした医師が撮ったフィルムより,はるかに診断価値が高い写真だった。医師が撮影するルーチンX線検査も,何とか考え直さなければと思っていた矢先に,この本が出版された。

瞠目すべき新しい検査法の価値

 一読して感じるのは,新しい検査法を指導された馬場保昌先生の妥協のない学問に裏打ちされた,X線診断学に対する強固な信念と実力,そしてそのすばらしさを肌で感じて一途にX線検査に打ち込まれた多数の技師さん方の時間とエネルギーである。まさに現代社会では,ほとんど見られなくなった,“塾”の産物と言えよう。その成果もすばらしい。本書に示された資料によると,全国の職域検診における胃癌発見率は0.04%であるのに対し,東京都予防医学協会の新しい検査法による胃癌発見率は0.07%,しかも早期胃癌率は80%に達している。また,癌研健診センターの成績では,胃癌発見率は古い方法の0.14%から新しい方法では0.3%に上昇し,早期胃癌率も67%から92%と驚くべき成績の向上をみている。それにもまして新しい検査法の価値は,提示されたX線写真を見れば一目瞭然である。

おろそかにされている形態学

 今,分子生物学が花盛りである。しかし,早期胃癌の診断に関しては,胃癌とコントロールの遺伝子変異や多型の統計学的有意差に頼る手法では多くを望めまい。いずれにしても胃癌を見つけなければ始まらない。診断には,形態学が“血の道”に勝る。であるのに,最近の早期胃癌診断のほとんどは内視鏡検査と生検に頼り,形態学がおろそかにされいてる。X線診断学も内視鏡診断学もそのレベルは低下の一途をたどっている。今やよく観察しない内視鏡検査が全盛であるが,その責任は医師によるX線検査法のレベルの低下が一因ともなっている。
 低下の理由は,単純である。まず,大学の指導者が胃透視と血圧測定とは異なることがわかっていない。次に症例が少ない。トレイニーのルーチン検査は週に2-3例,これではいくら勉強熱心で優秀な医師でも,胃透視に自信を持った医師は育たない。胃透視に自信がない医師が外来を診ると胃透視の件数は減少し,結果的には仲間の腕も低下する。腕の低下した仲間同士ではいくらカンファレンスをやってもレベルは上がらない。現在の診断学の再構築には,本書の新しいX線検査法を取り入れ,簡単で綺麗なX線写真を撮ることから始めることが手っ取り早いように思える。
 本書は,すばらしい本である。もし改訂されることがあれば,定価の問題もあろうが,折角の写真をもう少し大きくしていただきたい。また,X線検査でチェックできず内視鏡で拾い上げられた症例や,X線検査でチェックしたのに内視鏡で見逃された症例の頻度を明らかにしていただきたい。それが,X線検査の重要性を再認識するきっかけになるであろう。
B5・頁228 定価(本体4,700円+税)医学書院


翻訳本としての工夫もされ読みやすい循環器の世界的名著

Bedside Cardiology
-診断のエキスパートを目指して

Jules Constant 著/井上 博 監訳

《書 評》室生 卓(阪市大大学院・循環器病態内科学)

 本書の原本である『Bedside Cardiology』(LWW)は,第5版を重ねる名著である。米国の大きな循環器関係の学会で書店を訪れると,だいたい平積みになっている。まず,このような名著を日本語で勉強できることを素直に喜びたい。

接することができる原著者の診断の実際

 著者のJules Constant氏は大変な親日家であり,20年以上にわたって毎年日本を訪れ,各地で熱心に教育活動を行なっている。氏が実際に患者を前にして見せる問診,触診,聴診という診断の過程は,ともすれば『当てもの』的な趣となってしまうことがあるが,氏の目的は自分の手や耳で信頼できる情報を得,それらを組み立てて科学的に診断していくプロセスを伝授することである。
 原本の内容は,まさしく氏が実際に行なっている診断そのものであり,本書では,原本に忠実に具体的な所見のとり方や,その意味が記載されている。翻訳本にありがちな不自然な日本語はほとんどなく,また随所に翻訳本としての工夫がなされていて,読みやすくなっている。学生,研修医のみならず,氾濫する検査データの中で日々診療している現役の医師にも推薦したい一書である。
B5・頁360 定価(本体13,000円+税)総合医学社


循環器疾患における自律神経機能に関する最新知見を詳述

循環器疾患と自律神経機能 第2版
井上 博 編集

《書 評》小川 聡(慶大教授・内科学)

循環器疾患の診療に必要な自律神経系の正しい理解

 本書は,1996年に出版された初版の改訂版である。自律神経との関連が注目される病態としては,心筋梗塞の発症,心不全での循環調節,不整脈,特に突然死や心房細動の発症,血圧調節,神経調節性失神なとがあげられ,自律神経系の正しい理解なくして循環器疾患の診療はありえなくなっている。特に,心不全例での血中カテコールアミン濃度と予後の関係が明らかにされ,さらにβ受容体遮断薬療法により心機能や生命予後改善効果が証明されたのと並行して,自律神経系の関与に関する研究が急速に展開してきたと言えよう。同時に,心拍変動解析,圧受容体反射,MIBG心筋シンチ,筋交感神経活動記録など,新しい自律神経機能の臨床的評価法の進歩が,この領域の研究の進展に大きく役立ってきた。
 本書はこうした最近の知見を集約したもので,「総論」では,自律神経系による循環調節,電気生理に関する基礎的研究から自律神経機能評価法までが網羅的に記載され,「各論」では,各種疾患における自律神経の関わりが詳しく記載されている。急速に展開してきたこの領域の研究を反映して,本改訂版は内容的に大幅に改変され,引用文献もアップデートされている。中でも,近年の発展著しいMIBGによる心臓交感神経イメージング法の種々の病態への応用が新たに追加されたことが特徴の1つで,国立循環器病センターでの豊富な症例を元にした新知見が,石田良雄博士によって紹介されている。これらの改訂によって,この領域の専門書としてきわめてよくまとまったものになったと評価したい。

循環器の臨床に携わる医師の必読書

 編者の井上博博士は,自律神経と不整脈の領域の世界的権威で,現在American College of CardiologyのPresidentでもあるDouglas P. Zipes博士のもとへの留学中に,心臓自律神経支配と不整脈・突然死の関連を研究する動物モデルを確立され,さらに現在に至るまでさまざまな手法で,心房細動を中心にした不整脈を研究してこられた自律神経関連でわが国の第1人者である。各章の執筆者にもそれぞれの領域で活躍中の最適任者が選ばれており,内容的にも充実している。そうした点からも本書は,完成された教科書として,循環器の臨床に携わる医師必読の1冊と言えよう。
B5・頁312 定価(本体8,200円+税)医学書院


新鮮なアイデアに満ちた精神医学教科書

標準精神医学 第2版
野村総一郎,樋口輝彦 編集

《書 評》山内俊雄(埼玉医大副学長)

 教科書『標準精神医学』は,1986年に初版が出たが,15年を経てこのたび改版された。とはいっても,初版本とは異なり,一新した体裁と内容で登場したのである。違いの1つは編者,執筆者が初版本とはまったく異なることである。異なるだけでなく,ほとんどがこの数年のうちに教授に就任したり,新しく教育に関して責任のある立場になった人たちばかりである。そのことは,これからどのようにして精神医学の教育をするかを考える立場に立った人たちが,新鮮なアイデアで執筆したことを意味している。

大きく印象を変えた魅力ある精神医学の内容

 初版と異なる第2の点は,その内容にある。まず,精神医学を医学の一分野としてわかりやすく,興味を持って理解してもらおうという編者のコンセプトのもとに,「精神医学は科学たりうるか」や「精神医学にはロマンの香りがある」といった見出しで精神医学の魅力が語られ,ついで,精神症状の発現や精神機能の異常が起こる生物学的,心理・社会的背景が述べられるなど,精神医学が抵抗なく,自然に理解できるように書かれている。そのことの意味は,大きい。これまで,精神医学は難解で,かつ曖昧模糊としてとらえどころのない,無味乾燥な学問とされていたものを,生き生きとした実体験のある読み物へと大きく印象を変えたものになっているところが,この教科書の特徴である。それぞれの章に「学習目標」,「キーワード」をつけて学習への導入を容易にし,章の最後には「重要事項のまとめ」をつけるなど,卒前教育において,学生が学習目標を立てやすくしたり,重要なポイントを身につけさせたりする細やかな配慮がされていることも大いに理解を助けている。
 また,精神分裂病をはじめとする各論も,これまでの教科書では得てして読者を当惑させる特殊用語(ジャルゴン)の羅列や解説が多かったが,この本ではそれぞれの書き手が,十分咀嚼して,かみ砕くように解説しており,そのことが無味乾燥な内容になることから救っている。
 分類や記述も従来の診断分類を混ぜなながら,ICD-10やDSM-IVをほどよく配して抵抗感なく,新しい分類法へと踏み込んでいけるところもよい。そのために,最近よく目にする「人格障害」とか「外傷後ストレス障害」といった新しい呼称の本当の意味や定義を調べるのにも適している。

卒前・卒後の学習に最適

 一方,面接法やコンサルテーション・リエゾン精神医学の章もあり,卒業後に精神医学的な面を学習しようとするものにとっても役に立つ。そしてまた,痴呆や頭部外傷,脳腫瘍などの脳の病気や内分泌疾患,膠原病,中毒性疾患で起こる精神症状についても他科の医師が折りに触れて繙くのに便利な本である。
 要するにわかりやすく書かれていれば,それは卒前にも卒後の学習にも立派に役に立つということをこの本は示している。
B5・頁504 定価(本体6,500円+税)医学書院


学習者本位に企画された組織学の図譜兼教科書

機能を中心とした図説 組織学 第4版
Barbara Young,John W. Heath 著/山田英智 監訳/山田英智,他 訳

《書 評》依藤 宏(防衛医大教授・解剖学)

判型が大型化し,学習者の理解を助ける手だてがいっぱい

 B. Young,J. W. Heath著,山田英智監訳による『機能を中心とした図説組織学』の改訂第4版が出た。この本は図説とあり,原著にもText and Colour Atlasとあるように単なる図譜ではなく,光学顕微鏡写真,電子顕微鏡写真および理解を助ける模式図にはそれぞれ要を得た適切な長さの説明がついている。また各章の始めには,その章の内容の理解に必要な事項の説明があり,細部にとらわれて全体を見失わないための配慮もなされている。そしてさらには「機能を中心とする」とあるように各部位の解説も形態のみの説明だけではなく,機能から構造を理解させようという試みが随所に盛られている。この本が今回改訂になって大きく変わった点は,まず,判型がB5からA4判へと大きくなったことである。これにより頁にゆとりができ,見出しも網掛けや線で囲むなどの工夫がなされ,大変見やすくなっている。加えて,説明文中のキーワードが太字に変わり,ある術語を索引から検索する場合にも短時間で探し当てることが可能となった。さらには模式図がカラー化されて一段と理解しやすくなり,また組織切片だけではわかりづらいところには,新たに概念図を挿入したり,まとめの表を追加するなど,いろいろの学習者の理解を助ける手だてが加わっている。

「組織学を機能とからめて楽しく理解」をモットーに

 第1部「細胞」の章では,総合的理解のため,以前章末にあった光学顕微鏡写真を電子顕微鏡写真と組み合わせて配慮しているほか,アポトーシスの機構など新たな分野の解説も取り入れている。このような学問の進歩も進んで取り入れる姿勢は,この種の本としては頻繁な改訂(原著で6-8年ごと)に現れている。もともとこの本は,組織学を機能とからめて楽しく理解できるようにとの意図の元に書かれた本であるが,今回の改訂で学習者にとりさらに使いやすい本となっている。
 ところで,医学教育は現在大きな転換点を迎えている。解剖学は従来のカリキュラムから大幅に時間数が削減される大学が多く,組織学も要点を要領よく短時間で身につけさせる必要がでてきているほか,器官別に病理学,臨床の科目と組み合わせた統合型のカリキュラムとなるところも多い。このような解剖学教育の現状からこの本を見てみると,本書は機能面を重視しながら構造を理解しようとしているので,統合型の学習にも向いており,さらには索引がこの種の本としては他に比肩するものがないほど充実している――項目数は和文,英文ともにそれぞれ2000以上――ので,学習の途中で疑問のでた項目を探したいという,例えばチュートリアルシステムのようなタイプの学習においても大いに役立つことを意味している。この本は,著者が学習者の理解を第1にして書き著し改訂した優れた組織学の図譜兼教科書であり,内耳などの特殊な部分を除いて光学顕微鏡写真は,すべてヒトを材料としていることから,学生のみならず組織学を再度見直そうという人には,ぜひ1度手に取っていただきたい本である。
A4・頁448 定価(本体9,500円+税)医学書院