第2492号 2002年7月1日


連載
第6回

再生医学・医療のフロントライン

  

骨の再生

大串 始  産業技術総合研究所 ティッシュエンジニアリング研究センター


 患者自身の未分化細胞を用いて臓器を構築する細胞へと分化させた後,生体外でその臓器を再構築できれば,臓器不全に陥っている種々疾患にこの生体外で再構築された臓器を用いることが可能となる。まさに,この方法は臓器移植を回避できる再生技術となり得る。このためには,未分化細胞を採取する技術的と,どの組織より採取するかという点で問題がある。用いられる細胞で有望なのは,自己複製能を有し,種々の細胞へと分化する能力を持った幹細胞(stem cell)である。当然,発生初期にこの幹細胞があり,embryonic stem cell(ES細胞)と呼ばれている。しかし,この細胞をこのような目的に用いるには,倫理的にあまりにも大きな問題がある。また,目的とする細胞への分化制御は困難である。このES細胞に比し,成人(adult)にも幹細胞の存在が知られている。特によく知られているのは成人の造血幹細胞である。この幹細胞は骨髄に存在するが,「間葉系幹細胞」と呼ばれる幹細胞も骨髄に含まれる。

骨髄間葉系幹細胞を用いた骨再生医療技術

 われわれは間葉系幹細胞を培養操作により増殖させ,その幹細胞を骨形成細胞である骨芽細胞へと分化させると同時に骨基質すなわち骨組織を種々の基盤上で再構築する技術を開発した。さらに,この再構築された骨組織が生体内でその機能を発揮することも確認している。以上のことは細胞培養技術を用いることにより,生体外(ex vivo)で骨組織(臓器)が再生可能であり,またこの再生組織が組織修復に応用できうることを示している。
 実際,筆者の所属するティッシュエンジニアリング研究センターでは,2001年から,この独自の技術をもって骨関節疾患の治療への応用を開始している。具体的には,患者骨髄からこの間葉系幹細胞を培養により増殖する。その培養幹細胞を骨形成能力のある骨芽細胞へと分化させたのちin vitro の骨も形成させる(再生培養骨の形成)。そして,この培養骨を再度病院へ搬送して移植治療を行なっている(図1)。

図1 ティッシュエンジニアリング研究センター内クリーンルーム
 病院にて採取された骨髄をティッシュエンジニアリング研究センターに輸送し,培養により間葉系幹細胞を増殖する。その後,この幹細胞を骨芽細胞へ分化させて再生培養骨を作製する。これらの過程において,数回の検査を行ない,無菌性ならびに安全性を保っていることを確認している。これらの培養は滅菌ガウンを着てヒト細胞専用のクリーンルーム内でのみ行なわれる

細胞の分化制御が鍵

 以上が,骨髄を利用しての骨疾患への応用であるが,最近この骨髄に含まれる幹細胞は思いもつかない他の細胞へ分化することが知られてきた。これらには,心筋細胞,神経細胞さらに肝細胞が含まれる(図2)。もし,このような細胞への分化を制御できれば,骨関節疾患のみならず,種々の組織再生治療へとつながり,まさに夢の医療となる可能性を秘めている。また,重要なことは,患者自身の細胞を利用するので,移植免疫などおこらず倫理問題も回避できる。近い将来,成人(患者)に含まれるこの体性幹細胞を用いることにより,骨関節疾患にかぎらず種々の難治性疾患の治療が可能であろう。重要なことであるが,この治療には培養プロセスを必要とする。すなわち,そのプロセスを安全に行なう施設,さらにその安全性の確認や培養された細胞のバリデーションを証明する新規の技術が必要となり,この再生医療の技術開発は,新規の医療産業創成へとつながることを意味する。

〔Reference〕
1)H. Ohgushi and A. I. Caplan, “Stem cell technology and bioceramics:from cell to gene engineering" J Biomed Mater Res.;48(6):913-27. 1999
2)H. Ohgushi. “Bioceramics", McGraw-Hill Yearbook of Science & Technology 2002(The McGraw-Hill Co., New York), pp24-27, 2002