医学界新聞

 

日本看護協会看護師職能集会より

アメリカ医療制度に学ぶ日本の医療


 日本看護協会通常総会(参照)の3日目(5月31日)に行なわれた全国看護師職能集会(高嶋妙子委員長)では,午前中に活動報告や質疑応答が行なわれた。なお,会場からは「院内感染対策は,教育や意識のみでは不可能であり,診療報酬の再改定を望む」という声や,「准看護師の移行教育を,具体的な行動として早急に実行してほしい」などの要望が出された。

日本の医療の方向性が示される

 午後のシンポジウム「診療報酬と看護の質」(写真)では,李啓充氏(作家,前ハーバード大学)が,「医療の質と医療経済」と題して基調講演を行なった。李氏は,冒頭で「日本の医療はアメリカに対して80年遅れている」と指摘。その上で,日本がこれから取り組むべき医療改革の方向について,具体的事例をもとに述べた。
 まず米国の制度について,米国の医療機能評価機構にあたるJCAHOには,審査に不合格となった医療機関を公的医療保険の指定医療機関から排除する権限があるため,医療機関は質を向上させる不断の努力を強制されるとして,社会的に医療の質を保証する制度の存在を評価。一方で,米国において医療の効率と質の問題に回答する形で普及した医療保険制度であるマネジドケアについては,良質な医療が提供されるように保険会社が監視するといった建前とは異なり,コストを抑制する目的のために,過小診療等の数字に表れない患者や家族への負担が生じているとし,マネジドケアの導入によって質よりも価格の競争が優先され,医療へのアクセスが悪くなっていると批判した。
 また,現在日本と並んで医療費の少ないイギリスでは,政策として毎年7%ずつ医療費をあげている例を報告。先進国中では,日本が最も医療費の少ない国になるとした上で,“Cost,Access,Quality-pick any two”という言葉を紹介し,医療に求められる3要素すべてを同時に満足することは不可能であることを示唆した。加えてハーマン病院での医療過誤問題(強心剤の過剰投与により,生後2か月の乳児を死亡させた)の反省から,関係者が医療の文化を変える必要性を検討した事例を紹介し,「質の文化」を医療にとり入れる重要性を訴えた。
 終わりに,日本の課題として(1)社会に医療の質を保証する制度を作ること,(2)医療に「質の文化」を取り入れること,(3)社会的資源を惜しまないことの3点を強調し,「コスト削減からではなく,医療の質と患者の権利からの改革が必要」と結んだ。