医学界新聞

 

医療安全推進総合対策

医療事故を未然に防止するために

厚生労働省「医療安全対策検討会議」報告書(概要)   2002年4月17日


 頻発する医療事故に対し,医療安全対策のめざすべき方向性と,緊急に取り組むべき課題についてを検討を重ねてきた,厚生労働省の「医療安全対策検討会議」(座長=森旦日本医学会長,2001年5月設置)は,本年4月17日に,「医療安全推進総合対策―医療事故を未然に防止するために」と題する報告書をまとめた。
 なお厚生労働省は,本報告書の趣旨を踏まえ,国家試験の出題基準に「医療安全に関する事項」を位置づける他,特定機能病院・臨床研修病院のみならず,一般病院や診療所における相談窓口の設置,各都道府県に医療機関との仲介となる「医療安全相談センター(仮)」の整備を義務づけることになる。
 本号では,全3章から構成される本報告書の概要を紹介する。


●医療安全と信頼を高めるために

今後の医療安全対策

 本報告書は,第1章「今後の医療安全対策」,第2章「医療安全の確保に当たっての課題と解決方策」,第3章「国として当面取り組むべき課題」で構成されている。
 報告書は冒頭の「はじめに」の部分で,「医療安全の確保は医療政策における最も重要な課題の1つとなっている。本検討会議では,医療安全対策について,主として医療事故を未然に防止するためにはどのような対策を講じるべきかという観点から精力的に検討を行なってきた。この報告書を契機として,患者の安全を最優先に考えた『安全文化』が醸成され,国民から信頼される医療が実現されることを切に願うものである」と述べている。
 第1章では,「医療の安全と信頼を高めるために」で,「医療は,本来,患者と医療従事者の信頼関係,ひいては医療に対する信頼のもとで,患者の救命や健康回復を最優先として行なわれるべきものである。しかしながら,医療の現場において,医療事故により患者が死亡するなど痛ましい事案が発生しており,国民生活の安定・安心に最も密接なかかわりを持つ医療に対し,信頼が揺らぎかねない状況となっている」と指摘。このような背景から,「医療に対する国民の信頼を高めることが,現在,わが国の医療政策における緊急の課題」であると報告している。
 また,「医療安全の確保」の項では,「医療安全の確保は,これまで医師を中心とした医療従事者個人の責任において行なわれてきた。しかし,近年の医療の高度化・複雑化に伴い,従来の職種や診療科ごとの医療技術や知識に基づいたシステムでの医療安全の確保は難しくなってきており,安全対策のあり方を見直すことが必要となっている」として,さまざまな職種からなる「人」,医薬品・医療用具をはじめとする「物」,医療機関という「組織」といった各要素と,組織を運用する「ソフト」等を含めたシステムにより今日の医療は提供されていることを解説し,「このいずれが不適切であってもサービスは適切に提供されない」と強調している。その上で,他産業のシステム手法を積極的に取り入れる必要がある」と述べている。

医療関係者の責務

 一方,「医療安全を確保するための関係者の責務等」について,「行政,医療機関,医療関係団体,教育機関や企業,さらに,医療に関係するすべての者が各々の役割に応じて医療安全対策に向けて積極的に取り組むことが必要」とし,国をはじめとする,関係者の責務や役割についての考えをまとめている。
 その中では,国の責務としての基盤整備,地方自治体での,地域住民に対する保健所などを窓口とした教育,情報提供,相談業務などの実施,医療関係団体における取り組みの調整,指導,情報提供等を行なう必要性を指摘している。
 その他,関係者(医療機関,医薬品・医療用具関連企業等)の責務と役割に関して述べるとともに,「教育研修・研究機関」では,チームの一員として安全に医療を提供できる医療従事者を養成していく責務,広く国民,医療機関,医療関係団体等に情報提供を行なっていく必要性もあげた。また,民間レベルでの非営利活動を評価し,「今後とも促進が期待される。また,この活動を通じて患者の声が医療現場に反映されていくことも有益」と指摘している。
 さらに,「すべての医療従事者は,患者の安全を最優先し,安全に医療を提供する責務があることを認識して業務に当たる必要がある」と,「医療従事者個人の責務」などにも触れ,「患者に期待される役割」では,「医療機関は,患者に対する情報提供や話し合いを十分行ない,その上で患者は自ら治療方法等を選択して,医療に主体的に参加していくことが求められている」とした。

●医療安全確保の課題と解決方策

医療機関における安全対策

 「医療機関における安全対策」での基本的考え方として,「安全管理に関する体制を整備するなど,組織全体が適正に管理されていなければならない」と述べ,「組織的な安全管理のためには,他産業における標準化や工程管理などの品質管理の手法を医療分野にも積極的に取り入れることが必要」と指摘。「診療情報の管理や情報伝達のあり方,情報技術(IT)の活用が重要」の述べるとともに,医療機関内において1患者1番号(1 ID)を基本とした診療情報の構築,記録用紙,伝票類,指示書などの様式の統一化,記載方法の標準化の必要性も説いている。
 さらに,「卒業前後の教育研修の内容・方法を見直し,優先順位を考えて教育研修を行なっていかなければならない」として,「卒業前教育・卒業後研修の役割」「教育研修内容の明確化と国家試験出題基準等での位置づけ」にも触れ,後者では,「特に,卒業前教育において学生に医療安全について確実に学ばせるため,国家試験の出題基準や卒業前教育の内容に医療安全に関する事項を充実させることが必要である」とし,指導者の養成を図る研修や指導マニュアル作成の必要性を述べている。

環境整備

 「医療安全を推進するための環境整備」では,「ヒヤリ・ハット事例の収集・分析・結果の還元」の有効性を強調。また,「医療安全の観点からも,医療の標準化を進めるべきであることから,科学的根拠に基づく医療(EBM)も,積極的に推進する必要があるとした。なお,「第三者機能評価は,医療機関における医療安全への取り組みを客観的に評価し,その改善につなげていくためにきわめて有効」と触れている。
 さらに,「患者の苦情や相談等に対応するための体制の整備」として,「身近なところで医療に関する患者の苦情や相談等に迅速に対応するためには,医療機関に相談窓口を設けるとともに,地域においても相談体制を整備することが必要である。このため,患者や医療機関に身近な2次医療圏等に公的な相談体制を整備するとともに,都道府県には第三者である専門家等も配置した「医療安全相談センター(仮称)」を設置するなど,必要に応じて医療機関への問い合わせや,場合によっては指導等を行なう体制を整備することが必要である」と指摘するとともに,「全医療従事者,行政や医療関係団体,さらに企業など,医療に関連するすべての者が各々の役割に応じて対策に主体的に取り組むことが必要。このためには,関係する者全員に対する普及啓発活動に取り組まなければならない」と述べている。
 なお,これらを受けて「国として当面取り組むべき課題」を呈した第3章は割愛したが,報告書の「おわりに」では,「厚生労働省においては,これらの対策を確実に実施するために必要な予算等の確保,診療報酬上の措置,税制改正要望,規制等の見直し,教育啓発活動などに取り組まれたい」と結んでいる。報告書の全文は,厚生労働省のホームページ
http://www.mhlw.go.jp)に掲載されている。
◆問合せ先:厚生労働省医政局総務課「医療安全推進室企画指導係」