医学界新聞

 

<レポート> 川崎医大レジデントOSCE


学ぶもの多い充実したセミナー

齊藤裕之(飯塚病院・研修医1年)

 2002年3月16-17日,岡山県川崎医科大学総合臨床医学教室主宰の基本的臨床技能養成セミナー(通称「レジデントオスキー」)が行なわれました。今回,その内容と感想を述べさせてもらいます。
 これまで,川崎医大で毎年行なわれていたレジデントのためのOSCEも今年で第8回目になりました。今までは同大学の総合診療部内で行なわれていましたが,今回は初めて受験者を一般公募し,以下の参加者・内容で充実した2日間を過ごすことができました。
受講者:7名(卒後1-10年目)
講師:医師7名 検査技師2名 SP1名
内容
(1)適切な医療面接・身体診察とプレゼンテーション技法
(2)BLS/ACLS
(3)胸部レントゲン
(4)尿沈渣
(5)グラム染色
(6)家族カンファレンス
(7)医療倫理
(8)EBM
 (1)-(8)はそれぞれ1-2時間の講習があり,確認の意味でOSCEが最後に行なわれました。

レジデントOSCEとは

 現在,卒前教育で学生を対象としたOSCEはすでに多くの大学で行なわれていますが,レジデントを対象としたOSCEは未だ行なっているところは少ないように思います。このOSCEの目的を個人的な解釈で述べさせてもらいますと,学生時代にある程度医療面接や身体診察の基本をマスターしたレジデントが臨床の現場に立った時,そのパターン化した技法をそれぞれ問題の違う患者様に対してどうアレンジし臨機応変かつ効率よくその技法を使うことができるかを試されるものです。
 1人の医師または人間として医療の現場に立った時からわれわれは目の前にいる患者様やその家族と上手にコミュニケーションを取りながら診療を進めていきます。このもう1つの目的は,多忙な研修医が忘れがちなそのコミュニケーションの必要性を再確認すると同時に,医師として患者やその家族を上手に舵取りし治療へ結びつかせる技法を学ぶことにあります。
 プレゼンテーションのセッションでは,医療面接・身体診察をそれぞれ5分間でとり,それを3分間で簡単にプレゼンするといった,時間配分も現実的によくありうる想定で行なわれました。研修医が上級医に患者様の状態を電話で報告するといったよくある光景ですが,的確かつ手短に報告する技術は日常で必須となります。今回は最低限伝えなければならない項目を確認しました。
 BLS/ACLSは2000年に改訂された国際ガイドラインの講義を受けた後,人形を使ってシミュレーションを行ないました。
 胸部レントゲンでは基本的な読影方法を学び,開業医の先生が実際の写真を数枚提示されました。そこでは正常と思われる写真の中でも早期肺癌が潜んでおり,読影の慎重性を改めて認識しました。尿沈渣,グラム染色などの医師として基本になる検査手技を再確認し,川崎医科大学の検査技師の方々の協力もあり,専門家のコツや臨床的に結びつくような疑問に対してもお答えいただきました。

家庭医療レジデントOSCEのもう1つの目的を研修医の立場から

 また,今回のOSCEの特徴は,講義をしていただいた先生方の多くは家庭医という視点を持っておられ,医療倫理・EBM・家族カンファレンス等のセッションは他では体験できないものでもありました。家族カンファレンスは受講者が医師役となり,SPも加わり,家族単位でうまく患者様の治療をマネジメントしていく参加型のかたちをとりました。
 患者様,家族役の方は迫真の演技で切実に病気や家族環境の問題を訴え,それに対してマネジメントしなければいけなかったのですが,患者様側の言い分と医師側の言い分をどちらの満足度も満たし治療につなげることは難しかったように思えます。医療倫理は複雑な倫理的問題を4分割法(医学的適応,患者の意向,QOL,周囲の状況)を使い,頭の整理をする技法を学びました。今回よかった点は講義,OSCE,OSCE終了後にフィードバックを行なうことによって知識,技術を数回にわたり確認できたことでした。

 

なぜ研修医はストレスを感じるのか

 患者様の精神的な問題の解釈を系統的に学んだのですが,特に個人的にはこれらが今回のOSCEの肝だったように思います。
 それというのは,われわれ研修医は日々多忙な毎日を送り,医学的な知識を得るだけでも必死に過ごしています。そういった状況は研修医の精神的な余裕をなくし,ある程度の精神的なストレスを慢性的に抱えていることが多いようです。例えば,患者様との会話・関係にストレスを感じることがあります。私の経験ではそういったストレスは研修医同士で患者様の愚痴を研修医室で話すことで個人個人解消しているようです(もちろん私もその1人ですが……)。
 しかし,そこでいったんはストレス発散してもまた同じような患者様が来た場合,同じようなストレスを感じながら診療を続けてしまうでしょう。つまり,そういった患者様へ対するコミュニケーション技法を知らないのです。だからストレスを感じるのでしょう。もし,医師としての経験を積み,そういった患者様にうまく対応できるようになったとしても,それは慣れが生じているだけであり,うまく問題をすり抜け,患者様との関わりをなくしているだけなのかもしれません。それでは結局,医師側のストレスは解消できても,永遠にその医師にかかる患者様のストレスは解消されてはいないでしょう。

患者への接し方・コミュニケーション技法の大切さ

 今回のOSCEでは家族図・家族のライフサイクル・家族機能の評価を使い,その家族がおかれている環境を客観的に理解することをまず行ないました。その上で家族カンファレンスを開き,患者様・家族から病気に対する問題点を導き出せるような円滑な進行方法を学びました。またコミュニケーションを取りづらい例(何も話さない,話し過ぎる,本題に触れたがらない)に対してどう接していけばよいかを議論することで対応法を導くこともできました。これからの研修において,患者様への接し方・コミュニケーション技法を学ぶことの大切さを感じることができただけでも,今回このOSCEを受けた意味がありました。
 2日間という短い期間でしたが内容も充実し,明日の臨床に活用できるものばかりでした。今後,こういった活動が他でも展開していき,卒後教育がより系統的なものになり,研修医の基礎的臨床技能の向上につながることを期待します。


必ずおさえるべき基本がある

田中久也(川崎医大総合臨床部・研修医2年)

 さる3月16-17日,川崎医科大学総合臨床医学教室主宰の,主に卒後3年目までの研修医を対象とした基本的臨床技能のセミナーおよび客観的評価試験(OSCE)が行なわれました。毎年1度行なわれるこのセミナーは,今まで総合診療部に所属する医師が対象でしたが,今回は初めて広く一般に公募し,卒後1年目から10年以上の医師まで合計7名が参加して盛会に終わりました。会の内容については参加者である齊藤先生のレポートに詳しいのでここでは省かせていただきます。

日常診療に頻繁に用いる技能を評価

 さて,基本的臨床技能といってもその項目は多岐にわたり,したがってすべてをたった2日で網羅するのは不可能なわけですが,この会では日常診療において特に使用頻度の高い技能についての試験が行なわれます。特徴的なのはプレゼンテーション能力や胸写の読影能力などの試験ばかりでなく,患者様やその御家族に対する行動科学的なアプローチについても基本的臨床技能として試されることです。
 日常診療ではその現場が診療所であれ大学病院であれ,患者様はもちろんのことそのご家族にも接する機会は多く,そこで患者様の病気についてさまざまな話し合いがなされるわけですが,その方法については医師それぞれの資質によるところが大きく,対応はまちまちであるのが現状かと思います。しかし,その社会的な背景も含めてよく共感することでお互いの理解が深まり,よりよい医師-患者-家族関係の構築,さらにはよりよい医療の提供につながるのではないでしょうか。このような態度を医師がみな実践することは,医療の質の向上の助けとなることでしょう。行動科学的アプローチが基本的臨床技能として位置づけられるのは,このためだと感じています。

試行錯誤の成果

 医師として学ばねばならないことは非常に多く,すべてを身につけるのはもはや不可能ですが,基本としておさえておかねばならない知識や技能はあるだろうと感じます。では,どこまでが基本なのか,何をどのように身につけていけばよいのか,こんなことを考えながら初期研修を進めてきました。今回の「レジデントオスキー」で最優秀賞をいただくことができたのは,こうした考えで試行錯誤しつつ行なった研修の1つの結果が現れたものと満足するとともに非常に嬉しく思います。これを糧に,よりいっそうの努力を続ける所存です。
 最後に,私をここまで育ててくださった川崎医科大学総合診療部のスタッフの皆さん,そしてローテート先でお世話になった各専門科の先生方,コメディカルの方々に感謝いたします。