医学界新聞

 

第1回日本再生医療学会開催


 第1回日本再生医療学会が,井上一知会長(京大再生研教授)のもと,4月18-19日の2日間,京都市の国立京都国際会館で開催され,約1900名の参加者を得た。
 本学会は2001年5月,再生医学の医療現場での応用を目的として,「細胞療法研究会」を母体に設立されたもので,今回が記念すべき第1回目の学会開催となった。
 プログラムは,井上氏による会長講演,米国の再生医療関連ベンチャーや研究者らによる招請講演,高久史麿氏(自治医大),水島裕氏(聖マリ医大),井村裕夫氏(総合科学学術会議)による特別講演,教育講演などが行なわれた他,シンポジウム「21世紀の再生医療の現状とその実用化に向けて」が,肝臓,骨・軟骨・歯周,感覚器,幹細胞・ES細胞,脳・神経,血管新生,膵臓,皮膚,心臓の9領域に分かれて行なわれるなど,充実した企画がなされた。また,再生医療の実用化におけるベンチャー企業の役割については,パネルディスカッション「21世紀の再生医療とベンチャーの創出」(司会=国立循環器病センター 北村惣一郎氏,東大 立石哲也氏)で議論された。この他,学会設立記念式典,市民および学生を対象とした市民講座も行なわれた。


 井上氏による「21世紀の再生医療-糖尿病に対する膵島再生医療の開発に向けて」と題した会長講演では,推定患者数690万人にのぼると言われる糖尿病患者の治療戦略として,カプセル化膵島細胞の移植治療を検討。ブタの膵臓から取り出した膵島を特殊な膜の中に入れた「カプセル化膵島」を開発し,糖尿病マウスの皮下に異種移植したところ,「インスリンを分泌させ長期間の血糖値の正常化に成功した」と報告した。さらに氏は,マウスのES細胞から膵島様細胞への分化誘導に成功したことも同時に報告。「ゲノムで日本は世界に立ち遅れたことを反省し,再生医療領域では,世界をリードしたい。そのためにも,特許取得などのハードを整え,ベンチャー創出に積極的に取組むことが再生医療実用化への課題」とした。さらに異種移植については,懸念されるウイルス感染症の危険性はきわめて低いことを示す論文を紹介するとともに,厚生労働省が進めている「異種移植の実施に伴う感染予防に関するガイドライン」作成過程の議論の内容にも触れた。

再生医療の実用化をめぐって議論

 再生医学研究の鍵となるES細胞と体性幹細胞については,シンポ4「幹細胞・ES細胞」(司会=東大 浅島誠氏,筑波大 中内啓光氏)で,6人の演者が話題を提供した。
 最初に中畑龍俊氏(京大)が,ヒト臍帯血CD34細胞を移植したマウスを用いて,可溶性IL-6受容体と,IL-6,stem cell factor(SCF)など種々のサイトカインを組み合わせ,新たな臍帯血中の造血幹細胞の体外増幅法を開発したことを明らかにした。一方,堀田知光氏(東海大)は,造血幹細胞の体外増幅を目的に,マウス骨髄由来ストローマ細胞(HESS-5)を用いた膜分離型培養系を開発。その成果をもって,本年2月に骨髄異形成症候群の50代女性に体外増幅による造血幹細胞移植を行なった国内初の臨床例に関して,その経過と,そこで浮かび上がった問題点を述べた。
 続いて,絵野沢伸氏(国立成育医療センター)は,羊膜上皮細胞を用いて,神経および肝細胞の分化を検討。ムコ多糖症やCriger-Niger病などの先天代謝異常症に対する羊膜上皮細胞移植の治療応用の可能性について言及した。
 仲野徹氏(阪大微生物研)は,造血幹細胞の増殖・移植を維持するストローマ細胞OP9上での培養により,マウスのES細胞から造血前駆細胞への効率的な分化誘導法を確立したことを報告。さらに,多田高氏(京大再生研)が,体細胞とES細胞を細胞融合させると,体細胞核が未分化様に再プログラム化され,ES細胞と同じような性質を獲得することに成功したとし,新たな方向性を提示。最後に岡野栄之氏(慶大)は,霊長類(マーモセット)の脊髄損傷モデルを用いてヒト神経幹細胞を移植したところ,握力回復などの効果を示したと報告。氏は今後の展望として,神経幹細胞を用いた脊髄損傷やパーキンソン病の治療の可能性を示唆するとともに,神経幹細胞の脳内移植によるリソゾーム蓄積症の中枢神経病変への臨床応用を検討中と述べた。

再生医療とベンチャー

 米国に比べてその遅れが指摘されている大学研究者による特許取得や,ベンチャー企業のあり方をテーマとしたパネルでは,行政の立場から,塚本芳昭氏(経済産業省生物化学産業課),日下英司氏(厚生労働省疾病対策課),高倉成男士(特許庁)が,今後の研究および特許のあり方を示唆。続いて,再生医療に携わる医師の立場から,塚田敬義氏(岐阜大),木下茂氏(京都府大),また自身の研究である皮膚の培養技術をベンチャー企業に移転した上田実氏(名大)が登壇した。
 さらに今後の日本のバイオベンチャーのあり方を,北川全氏(MBLベンチャーキャピタル),冨田憲介氏(アンジェスエムジー社),木村正弥氏(アイエムケー社)が,加えて今年設立され,同学会とも連携しているNPO法人「再生医療推進センター」の活動内容については,日裏彰人氏(京大再生研)が報告した。