医学界新聞

 

STROKE 2002開催

日本脳卒中学会など4学会が一堂に会す


 さる4月24-26日の3日間,第27回日本脳卒中学会(会長=東北大 吉本高志氏,会期=24-25日),第31回日本脳卒中の外科学会(同 岩手医大 小川彰氏,25-26日),第4回脳出血学会(同 小川氏,24日),第18回スパズムシンポジウム(同 弘前大 鈴木重晴氏,26日)の4学会共同開催となる「STROKE2002」が,仙台市の仙台国際センターで開催された。

多岐にわたる研究者が一堂に会して

 初日の24日には,「脳ドッグ」など3テーマの脳卒中学会シンポジウムをはじめ,脳卒中・脳卒中の外科・脳出血学会の合同シンポジウム「高血圧up date」の他,脳出血学会シンポジウム「どう治療し,どう評価する 被殻出血」,および脳卒中学会長講演や3題の特別講演が行なわれた。なお,第27回日本脳卒中学会(両日)での一般演題発表は361題を数えた。
 また翌25日には,脳卒中学会のシンポジウム「脳卒中とクリティカルパス」など4題が行なわれた他,脳卒中・脳卒中外科学会との合同シンポジウム I「脳卒中データバンク」,II「最新の脳卒中画像診断」を企画。なお,第31回脳卒中の外科学会の全演題数(両日)は,293題に及んだ。
 さらに3日目の26日には,脳卒中の外科学会メインシンポジウム「EBM時代の脳卒中の外科」の他,同学会のシンポジウム「脳動静脈奇形の治療選択」など2題をはじめ,スパズムシンポジウムオープニングセミナー「Cerebral Vasospasm-What Is Known,What Is Not」(シカゴ大 Bryce Weir氏),スパズムシンポジウム2題,同一般演題発表などが行なわれた。
 その他にも,脳卒中学会によるサテライトシンポジウム「脳卒中再発防止の新たなる視点」や,脳卒中外科学会にナイトビデオセッション「内頸動脈瘤の手術-私の工夫」なども企画された。
 本号では,これらの中から,3学会合同シンポジウムを中心に報告する。

■大規模臨床研究から得られた成果

 合同シンポジウム「高血圧up date」(座長=岩手医大 東儀英夫氏,藤田保衛大 神野哲夫氏)には,藤島正敏氏(九大・病態機能内科),岡山明氏(岩手医大・公衆衛生学),今井潤氏(東北大・臨床薬理学),檜垣實男氏(阪大・加齢医学),松本昌泰氏(広島大・第三内科)の5名が登壇し,各々が専門分野からの発表を行なった。

脳卒中発症の危険因子と予防対策

 「高血圧と脳卒中の時代的変化-久山町研究」と題して口演した藤島氏は,追跡率が99.8%の前向きコホート研究を続けている福岡県・久山町の1961-69年(第1集団),1974-82年(第2集団),1988-96年(第3集団)からなる40歳以上の全住民追跡各8年間の,高血圧頻度と脳卒中発症率・死亡率を比較し,時代的変化を検討した。なお,久山町の住民は1960年当時6500人,1990年7500人であった。
 氏は,脳卒中の死亡率・発症率をそれぞれ脳出血,脳梗塞,虚血性心疾患から比較。その結果,脳出血による死亡は,第1集団2.0(1年間1000人あたりの人数)に対し,第3集団で0.2に減少。発症率は2.3に対し1.0。脳梗塞でも同様に約1/3に減少しているものの,虚血性心疾患では死亡率で同率,発症率は逆に2.1から2.3と増加していると報告した。また氏は,肥満,高コレステロール血症,耐糖能異常が第3集団で男女ともに急激に増えていることに注目。高血圧や代謝異常の時代的推移などから,「脳出血,脳梗塞の軽症化が時代推移でみられるが,最近の脳卒中発症には代謝異常の増加が関与している。糖尿病予備軍は大きな危険因子」と指摘した。
 「高血圧と脳卒中死亡-1980循環器疾患基礎調査14年の追跡結果から」を報告した岡山氏は,「1980年に実施された循環器疾患基礎調査は,全国から無作為抽出した300地区の住民で,30歳以上の男女約1万名を対象にしており,国民の代表集団の調査と言える」と解説。14年後の1994年に追跡し得た約9500名(追跡率92%)を対象者に,生命予後と死因別死亡率,高齢者のADLを調査した結果を報告した。氏は,「血圧レベルは,男女ともに脳卒中死亡の有意な危険因子である」として,弱年層では180mmHg以上の高血圧が危険性大であることや,血圧が10mmHg上がると発症率が1.2倍となることなどを述べた。また,耐糖能異常や喫煙も脳卒中死亡に大きく関与していることを指摘するとともに,血圧が2mmHg低下すると脳卒中死亡は8.5%低下すると予測。その上で,(1)血圧は脳卒中の最大の危険因子であるとともに,高齢者のADL低下の要因となっていた,(2)脳卒中発症をさらに低下させるには,国民全体の血圧低下をめざすべきである,(3)未治療者,低コンプライアンス者への対策も重要と考えられた,とまとめた。

急がれる治療基準の作成

 今井氏は,「新しい高血圧診療法と脳心血管疾患の予後」と題して口演。年間700万台が生産され,すでに3000万台が家庭に配備されていると見込まれている「家庭血圧測定装置」に注目し,これまで医療環境下で測定されてきた随時血圧と,自由行動下血圧,家庭血圧における高血圧診断の比較検討を行なった。
 氏は,1985年に岩手県・大迫町の全世帯に配布した家庭血圧測定装置のデータから,「家庭血圧は随時血圧より脳卒中発症,脳心血管疾患死亡の予測が明らかに有意」とした上で,「朝の血圧が,脳卒中発症などに何らかの要因を持つものと考えられるが,そのエビデンスは現在追跡中である」と述べた。また,「新しい脳卒中予防,高血圧診療には家庭血圧が重要」と示唆した。
 「高血圧・脳卒中の遺伝子疫学」と題する口演を行なった檜垣氏は,脳卒中のリスク遺伝子と日本人の特性に関して検討。岩手県・大迫町でのコホート研究などから,脳卒中の遺伝的相対危険度やアンジオテンシノーゲン遺伝子と食塩感受性の関係を,日本人と白人の比較などから明らかにし,「遺伝子から見ると,日本人は高血圧人と言える」と述べた。さらにレニン-アンジオテンシン系遺伝子と脳卒中とのかかわりを検討し,(1)高血圧と脳卒中のリスク遺伝子が数多く報告されている,(2)レニン-アンジオテンシン系遺伝子は重要な役割を果たしている,(3)遺伝子-遺伝子相互作用が存在する,(4)血圧と独立した遺伝的リスクが存在する,と結語した。
 松本氏は,「高血圧と脳卒中再発-PROGRESSより」と題して口演。世界の脳卒中に関する疫学から,(1)毎年500万人は脳卒中で死亡,(2)世界中の死因の第2位,(3)非致死的脳卒中は,毎年1500万人以上に発症,(4)脳卒中/TIAの患者数は5000万人,(5)脳卒中/TIAの患者の5人に1人は,5年以内に脳卒中を再発,などが導き出されたことを報告。また,昨年公表された,オーストラリア,ニュージーランド,中国,フランス,ベルギー,イタリア,日本,スウェーデン,イギリス,アイルランドの10か国,172施設の患者6105名を対象とした国際共同大規模臨床試験(PROGRESS:perindopril protection against recurrent stroke study)の結果から,脳卒中の再発率や年齢・性別・人種別に見た脳卒中再発リスクなどを報告。「ペリンドプリルを基礎的治療薬とする降圧療法を,脳卒中およびTIAの既往のある患者に行なった場合,脳梗塞と脳出血の再発,心筋梗塞,認知機能の低下,日常生活能力低下の予防に有用なことが証明された」と述べた。その上で,従来の脳卒中患者の最終降圧目標は140-160/90mmHg未満であったが,PROGRESSから示唆される目標値は130/80mmHg前後であることを,その推定根拠を含めて解説した。さらに,これからは,発症超急性期の降圧目標や,治療基準の作成,慢性期降圧目標および使用薬剤のクラスエフェクトの再評価が急務と指摘した。

■被殻出血の治療と各国のEBM研究

外科・内科・リハの視点から討議

 第4回脳出血学会シンポジウム「どう治療し,どう評価する 被殻出血」(座長=秋田県立脳血管研究センター 安井信之氏,久留米大 重森稔氏)では,外科的治療の面から本藤秀樹氏(徳島県立中央病院・脳外)が,CT定位血腫吸引術など侵襲の少ない手術が行なわれている現状や,中程度の意識障害で血腫量30ml以上の症例が手術適応などと報告。また,原田俊一氏(藤田保衛大・脳外)は,集学的治療戦略として高気圧酸素タンクを用いて手術適応を決定するなどの方法を示した。
 内科の立場から棚橋紀夫氏(慶大・神経内科)は,発症24時間以内の被殻出血での内科的治療群と血腫吸引術群を比較検討試みたが,優劣の議論をする十分なデータがないことを指摘した。岡田靖氏(国立病院九州医療センター・脳血管内科)は,脳血管外科・内科の連携による脳血管センター方式の脳出血救急医療体制を解説。140mmHgを目標とした急性期降圧や早期リハビリテーションなどの内科的治療方針を示すとともに,外科手術の長期予後への効果,DRG/PPS方式でのコストベネフィットの検討が今後の課題とした。
 石田暉氏(東海大・リハ)は,早期リハビリテーションについて,その効果をADLの自立度向上,在院日数の短縮,施設入所率の低下,社会復帰率の向上,死亡率の低下をあげた。また高次脳機能障害に関しては,宮森孝史氏(専修大・臨床心理士)が,被殻出血による高次脳機能障害の発現は高率であり,右半球関連症状のほうがADL,リハ効果への負の影響が強い傾向にあることから,右半球症状に対するリハ技法の開発が急務である,と指摘した。
 なお,日本脳出血学会は,今回の第4回をもって休会となることが,挨拶に立った小川会長から報告された。

欧米の代表的臨床研究を報告

 第31回脳卒中の外科学会メインシンポジウム「EBM時代の脳卒中の外科」(座長=京大 橋本信夫氏,東北大 高橋明氏)では,脳卒中の外科に関連する代表的欧米の臨床研究であるSTICH(Surgical Trial in Intracerebral Haemorrhage)に関してDavid A.Mendelow氏(英・ニューキャッスル総合病院)が,CREST(Carotid Revasculari-zation Endarterectomy versus Stent Trial)をRobert W.Hobson氏(米・ニュージャージー医大),COSS(Carotid Occlusion Surgical Study)をWilliam J.Power氏(米・ワシントン大)が解説。日本側からは,Japan Adult Moyamoya Trial(JAMトライアルグループ 宮本享氏),Small Unruptured Aneurysm Verification Study(国立病院長崎医療センター 米倉正大氏),MCA-Embolism Local Fibrinolytic Trial,Japan(東京警察病院 根本繁氏),Japanese EC-IC Bypass Trial(JET Studyグループ)が紹介された。