医学界新聞

 

MDSの理解と普及・研究の推進のために

日本MDS学会設立総会・記念講演会開催


 日本MDS学会の設立総会および記念講演会が,さる3月16日に,東京・信濃町の慶應義塾大学医学部講堂にて,100名を超す参加者を集めて開催された。

介護の質の向上をめざして

 介護保険制度が始まり2年が経過したが,利用者本位を理念とする本制度において,とりわけ重要な役割を担うと期待されていた介護支援専門員(ケアマネジャー)が,十分に役割を果たしていないのではないか,と指摘する声は大きい。制度発足に際して,多数の支援専門員を必要としたため,資格要件を緩やかにしたことで,基本的な能力にバラツキが見られるといった問題の他,実務研修もオリエンテーションの域を出ていない,ケアプラン作成のためのアセスメント方式が選択できるのでかえって現場に混乱が生じている,多職種カンファレンスがほとんど開かれていない,などの問題が指摘されている。
 政府は,今年度の予算に「都道府県ケアマネジメントリーダー活動支援事業」を計上するなど,介護支援専門員の資質向上には前向きの姿勢を示している。このような中,全国の各都道府県では,自主組織として「介護支援専門員連絡協議会」が発足するなどの対応がみられ,その数は今年度中には40都道府県に及ぶと言われている。
 一方,昨年7月には「日本ケアマネジメント学会」が設立され,ケアマネジメントを,研究レベルで全国的に糾合していこうという機運も出てきている。

MDSの普及・研究のために

 今回新たに設立された「日本MDS学会」の設立趣旨(別掲表参照)には,ケアマネジメントの質の向上,会員相互の情報交流・研鑚が明示されており,その意味においては,これら一連の動きと共通している。ただ,大きく異なっているのは,現場あるいは教育・研究でMDS方式を「共通言語」として活用していることを前提にしている点であろう。
 MDSとはMinimum Data Setの略であり,高齢者総合評価(Comprehensive Geriatric Assessment)を精選された最少限のアセスメントで行ない,適切なケアへと導く手法を指すものである。つまり,「日本MDS学会」は“広く浅く”ではなく,この方式の理解を深め,普及や研究を推進していくための学会と位置づけられる。

アメリカにおける実態

 設立総会後に開かれた記念講演会では,(1)アメリカにおけるケアプラン(へブリュー高齢者リハビリテーションセンター キャサリン M.マーフィー氏,ナース),(2)介護の精神科学的側面(バーモント大 テリー R.ラビノビウィツ,精神科医),(3)MDS方式によるケアの質の評価-QIの考え方と日本における実例(慶大 池上直己氏,医学部教授)が行なわれた。
 この中の(1)では,その冒頭でマーフィー氏がMDSによるアセスメントが義務づけられている,アメリカにおけるナーシングホームでの実情を率直に紹介したのが印象的だった。ナースは重症患者のケアや管理業務に追われ,大半の直接ケアは補助者によって行なわれている。また80%の施設がMDSコーディネーターを配置。「行政に記録を提出するための方便としてMDSが使われている」と述べ,チームケアの質を向上させる本来の目的とは異なる使われ方をしていることに強い憂慮を示した。
 この発言は,連絡や記録,給付管理業務に追われ,アセスメント過程を飛ばしてのケアプランづくりが横行している日本の状況とも相通じるものだった。
 一方(2)では,うつ,せん妄,痴呆という,高齢者によく見られる精神科的問題について触れた。ラビノビウィツ氏は,身体疾患・症状に隠されたり,修飾されるために問題発見が難しいことなどをいくつかの具体例を呈示した。その上で,なぜ難しいのかの理解を促し,精神的問題のある高齢者に役立つケアプランを立てるためのMDS方式の活用について述べた。

MDSのもう1つの活用方法

 (3)は,世界各国の高齢者ケアの専門家で構成されるMDSの研究開発組織「インターライ」の理事であり,本設立総会で「日本MDS学会」会長に推挙された池上氏によって行なわれた。
 氏は,前2者の通訳も兼ねるなど,席を温める時間もない活躍ぶりだったが,アメリカからのゲストが,個々のケアプランの質を向上させる観点からMDS方式に言及したのに対して,施設・事業所全体の質の向上にも役立つという,MDS方式のもう1つの活用方法を示した。MDSのデータを各施設・事業所が蓄積していけば,平均との比較および時系列の変化をみていくことが可能であり,質の指標(QI:Quality Indicator)から,さらには,質の管理(TQC:Total Quality Control)へと展開していけるというのがその要旨。アセスメントデータの信頼性が高く,評価者によるぶれが少ないMDS方式ならではの利点を強調した内容だった。
 なお,本講演の要旨は「訪問看護と介護」第7巻6号(本年5月発行)に掲載される予定である。また,同学会では,会員を募集している。詳細は下記まで。
(文責:医学書院看護出版部 林田秀治)

◆連絡先:〒060-0004 札幌市中央区北四条西6-1 毎日札幌会館HIT内
 日本MDS学会事務局(寺下,五十嵐)
 TEL(011)222-3676/FAX(011)222-4105
 E-mail:interrai@mb.infosnow.ne.jp
 URL=http://www.infosnow.ne.jp/~interrai/mds.htm

表 日本MDS学会の目的および活動

【目的】
 ケアマネジメントに資するMDS方式に関する研究,普及,活用をめざす個人および法人によって構成され,会員相互の研鑚と交流を深める

【活動】
 1)会員相互の情報交換
 2)MDS方式地域勉強会の支援
 3)インターライ本部への疑問点の照会と提言
 4)研究会,講演会などの開催
 5)内外の関連機関,研究会,学会等との共同研究
 6)その他,本会の目的を達成するために必要な活動