医学界新聞

 

〔印象記〕第18回太平洋外科系学会日本支部会
 ――――台湾Chapter発足を期待して

鈴鹿有子(金沢医科大学耳鼻咽喉科助教授/同会事務局長)



後列最右は友田幸一会長,後列右から3人目,以降,草野満夫理事長,和田壽郎名誉理事長,筆者(事務局長),他
 
 第18回太平洋外科系学会日本支部(PPSA-JC)註)の学術集会が昨(2001)年11月1-3日に台湾大学医学部附属病院で開催された。正式には國立台灣大學醫學院(National Taiwan University College of Medicine)と称し,以前日本総督府の管理下にあった台北帝国大学が,台湾が1945年に中国に復帰した際に,新しく生まれ変わったものである。台北市の中心に位置する大学は,まさに権威を示すような建物の集合体で,附属病院は蒋介石総統を記念して建てられた中正紀念堂に隣接し,台湾医学の中枢である。
 支部会を台湾で,と以前よりお考えの友田幸一会長(金沢医大教授)が,台湾大学耳鼻咽喉科の林凱南教授を訪れご相談されたのは,インドネシア・バリで開かれた第17回太平洋外科系学会日本支部会(会長=北里大 柿田章氏)の帰路であった。出席者も演題数も豊富で,たいへん立派な第17回PPSA-JCに出席した後だけに,次回は何か違った試み,またPPSAと台湾医学界との新しい関係を期待して,大学を学会の場に提供してほしいとお願いをした。今までPPSAとのかかわりがなかったにもかかわらず,林教授にはその場で快く承諾していただいた。

テーマは最新のバーチャルリアリティやナビゲーション手術

 リゾート地ではないだけに,期待を裏切らないためには学会の中身が肝要である。共通の,また最新の話題としてバーチャルリアリティやナビゲーション手術がメインテーマとして掲げられた。
 学術集会は両日とも朝8時から開かれ“Image Guide and Navigation”では東京女子医大の先生方を中心に先端の技術に関する活発な討論が行なわれ,Plenary sessionでは“Computer-aided Surgery”のサブタイトルにふさわしく,各科,各大学にわたる最新のナビゲーション手術やバーチャルリアリティの臨床応用の実際が紹介された。高倉公朋氏(東京女子医科大学長)も自ら演台に立って講演された。特別講演として鈴木直樹氏(慈恵医大高次元医用工学研所長)が“Medical applications of virtual reality for computer aided surgery”と題して講演され,ヒトの運動機能や人体解剖を3次元,4次元で表現し,ドイツと日本で“tele-virtual surgery”として臨床応用が現実化しているという最先端の話を拝聴することができた。座長の草野満夫教授(昭和大/PPSA-JC理事長)も少々の驚きと期待に満足されていた。
 また2日目の特別講演では,Co-presidentである林教授が“Otologic program for the residents in Taiwan University Hospital”と題し,研修医教育の現状を講演され,座長の和田壽郎先生(PPSA-JC名誉理事長)にとっても非常に興味深いものであったに違いない。
 一般演題はイメージガイドとナビゲーション,一般外科,耳鼻科・脳神経外科,整形外科・婦人科,心臓血管外科の5つのセッションに分かれて発表,討論が行なわれた。
 ランチタイムには日本語が堪能な呉振吉先生(台湾大)にガイド役をお願いし,台湾大学病院見学コースを設けた。台湾の医療のみならず歴史や基質を垣間見たようで,印象深い一時であった。
 ポスター演題は講堂前のロビーにパネルを設置され,コーヒーを片手にリラックスした和やかな雰囲気の中で討論が行なわれた。特別講演2題,プレナリーセッション4題,一般演題28題,ポスター演題16題であった。

台湾の歴史,日-台の深いつながりを再認識

 役員会,ウェルカムパーティ,バンケットはLai Lai Sheraton Hotelにて滞りなく行なわれた。少々わざとらしいカンフー芸,ドラがやかましい獅子の踊り,台湾料理ではなく広東料理であったことはこの場を借りて陳謝したい。食事会も含めすべてのプログラムにおいて無事,盛会のうちに幕を閉じることができスタッフ一同安堵した。同時多発テロの影響で開催の不安やキャンセルは覚悟していたが,たった1人の取り消しもなく,主催者としてはたいへん満足している。感謝するとともに,「台湾」という隣国への信頼感がそうさせたのだと,今しみじみと感じている。
 また,台湾大学医学部長の陳定信先生も日本に留学された経験があり,日-台の深いつながりを実感している1人で,草野理事長,和田名誉理事長や友田会長との話し合いでPPSA-Taiwan Chapterの発足に強い関心を示された。この機会が今後の展開の足がかりになれば幸いである。
 ご参加くださった先生方,ご同伴の皆さま,そして何より台湾大学耳鼻咽喉科教室の林凱南教授をはじめとするスタッフの皆さまに,心から深謝いたします。
 最後に,次回第19回PPSA-JCは,昭和大学泌尿器科教室の主催により,ハワイでの開催を予定している。ご盛会を期待するとともに,いま一度台北を思い返してみてほしい。

註)本学会は,太平洋外科系学会(本部は米国)で学会長をされた和田壽郎教授により,外科専門分野の進歩発展のみならず,相互の理解と協力を企る学会の必要性を考えて,その日本支部会が創立された。主として日本に近い外国での開催を企画し,外科系医師の交流を目的として今日に至り,すでに第18回を数えた。関心のある方は,昭和大学第2外科PPSA-JC事務局(E-メール:surgery@med.showa-u.ac.jp)まで。