医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


代替療法の全体像が詳細に網羅されたガイドブック

看護職のための代替療法ガイドブック
今西二郎,小島操子 編集

《書 評》種池禮子(京府医大医技短大部教授)

 近年,代替医療・代替療法という言葉が注目され,日本においても急速に普及の傾向を示している。この背景には,現代社会における高度医療技術の進歩に伴う医療のひずみへの反省,人間の心と体と精神の調和を強調するホリスティックな医療観・健康観への変化などが反映されている。
 本書は,この急速に注目されてきた代替療法について,看護職者のために,その定義・種類・現状,看護と代替療法との関係,代替療法を実践する上での具体的な方法と留意点,そして科学的には未検証のものが多い代替療法の中から,できるだけ科学的根拠が明確にされ,その効果が認められているものを厳選し,それぞれの分野のエキスパートの人達がわかりやすく解説している。
 このように本書は,代替療法の全体像を詳細に網羅した初めての書であり,正しい知識とともに代替療法の基礎から専門分野までを一貫して学ぶことができ,看護職者をはじめ医療関係者の方々にとって非常に有益なガイドブックとなっている。

代替療法の基礎知識をわかりやすく解説

 代替療法の定義を歴史的な流れから解説するとともに,医師の視点から現代の西洋医学の問題点,すなわち疾患の病態解明やそれに伴う診断・治療法の開発などキュアにだけ力を注いできたこと,医療費の高騰など医療経済的な側面,そして現代における患者の権利意識の拡大などを浮き彫りにし,その欠点を補完する代替療法の重要性を明快に説明している。また,代替療法の問題点も同時に指摘し,今後,ますます発展する代替療法について,多くのメリットとともにそれぞれの項目に対する科学的根拠の有無の問題,正確な情報交換の必要性,実施時の安全性の確保,治療師の資格や治療施設の認定などの検討の必要性を示唆している。

看護独自の介入と日常の看護ケアに生かす厳選された代替療法

 看護職が代替療法を日常のケアの中に積極的に取り入れ実践していくためには,それに関連した知識と熟練した技術が必要である。すなわち,看護の視点で代替療法を吟味し,看護学の手法を用いて看護のアートとして,またサイエンスとして根拠づけ,看護独自の機能を発揮していくことが大切である。そこで,本書では代替療法を選択するためには,看護介入の観点から分類した代替療法と患者の状況から選んだものとを分類し,さらに,代替療法を用いる上での留意点などを具体的に説明しているため,実践する人々にとって非常にわかりやすく,興味をもって内容を選択できるようになっている。
 本書が選んだ代替療法は,多くの代替療法の中で,特に臨床で利用する可能性が高く,現場で受け入れやすいもの,また看護職者自身が実施できるもの,看護職者自身が実施できないが知識として知っておくと便利,あるいは有益であると考えられるもの,さらに科学的根拠のあるもので,アロマセラピー,イメージ療法など13項目を厳選し,おのおのの分野でのエキスパートが図表を駆使し,わかりやすく解説している。そのため,看護職者だけでなく他の医療関係者の人たちが,日常生活やあらゆる状況下において,患者にどのような情報を提供し,どのような場面でどんな内容が適応でき,どのような判断のもとにどんなケアができるかなどが手に取るようにわかり,これからの教育,実践に大いに役立つ貴重な書である。
A5・頁240 定価(本体2,800円+税)医学書院


保健・医療の領域で重要性増す質的研究を明快に示す

質的研究実践ガイド 保健・医療サービス向上のために
キャサリン・ポープ,ニコラス・メイズ 編集/大滝純司 監訳

《書 評》井上智子(東医歯大教授)

 本書は,「質的研究入門」と題して,1999年から「週刊医学界新聞」に連載された『Qualitative Research in Health Care』(BMJ社)の改訂第2版を翻訳,単行本化したものであるが,連載時からの反響も大きかったとのことで,ご記憶の方も多いだろう。原著初版も,「British Medical Journal」誌に連載されたものが好評を得て単行本化に至ったと記されているが,本書の発刊もよく似た背景を持っている。

驚かされる内容の豊富さ

 本書のおもしろさは,なんと言っても序文とそれに続く序章「ブラックボックスを開く」に見事に集約されている。それは,質的研究申請書を却下された社会学者と,医療分野の研究を統括する主任研究者(量的研究において優れた業績を持つ大規模な調査研究部門の主任)との架空の論議であるが,主任研究者の以下のような発言が続く。
 「どうして無作為比較研究にしないのか……」,「小規模で数量化できない研究は,担当官庁を納得させられない……」,「臨床家が敬意を払うのは科学なのである……」,「……プロセスに問題があることはわかります。ただそれだけのことでしょう……」,「私はあなた(社会学者)の立場で議論することはできません。私の方法しか知らないのです」
 これらに対して,社会学者は冷静に,しかし粘り強く主任研究者が抱く疑問に答え,最後には申請書の再提出の機会を勝ち取るのである。社会学者はどのように説得したのか? 詳しくは,もちろん本書に譲る。
 序章の紹介が長くなったが,本書は116頁のコンパクトな書でありながら,その内容の豊富さに驚かされる。目次を概観すると,「保健・医療分野での質的研究方法」,「質的面接法」,「フォーカスグループ」,「観察法」,Consensus Methodとしての「Delphi process, nominal group」,「事例検討」,「アクションリサーチ」,「質的データ分析」,さらには「質的研究の質」にまで言及しており,入門書としての役割のみならず,保健・医療で起こっている出来事や,数値では捉えきれない何かを考える上での大きな助けとなる。

質的研究の理解を促進

 また本書は,質的研究を取り巻く状況や,よくある疑問,懐疑(例えば,質的データは常に主観的であり,偏りがあり,再現性に乏しいなどの批判)を視野に入れた記述がなされ,決して質的研究を世界地図の中心には据えていない。著者らの「質的研究と量的研究は,互いに対立するものとしてではなく,補完しあうものとして活用すべきだろう」というスタンスが,結果的に質的研究の理解を促進する。さらに文章は平易で読みやすく,専門用語には欄外解説が付されており,各章の文献リストには,「もっと学びたい人のため」の文献がピックアップされている。

コンパクトにして手強く,魅力的な1冊

 これまでの保健・医療に関する研究は,量的研究による結果判定が大勢を占めていた。しかし,これからの患者主体の医療サービスでは,プロセスへのかかわりが不可欠となる。つまり,情報提供や意思決定支援,病とともに生きる,よりよい医療システムの構築など,プロセスという領域に分け入って,「ブラックボックス」の中で何が起きているのかを明らかにすることが求められている。量的研究がやろうとしなかったこと,できなかったことが,そのまま今日の医療の重大なテーマにつながっているのである。
 ただし,「質的研究にはしっかりとした技術,思考と実践の統合,そしてかなりの忍耐が必要だ(Dingwall)」との引用で本書は締めくくられている。コンパクトにして手強く,魅力的な1冊である。
B5・頁116 定価(本体2,200円+税)医学書院


身体機構を理解し看護に活かす有効な学習教材

身体のからくり事典
杉崎紀子 著

《書 評》杉下知子(東大教授)

 本書は,看護学生の学習のスタートをリードする有効な参考書である。楽しく読んでいるうちにいつのまにか身体の不思議について理解が深められていくように作られており,病院のスタッフに提示したところ「学生の時,このような本がほしかった。教科書とちがって読みたくなる。いいですね」と大変好評であった。

身体の“からくり”を親しみやすく楽しく理解できる工夫が随所に

 身体の“からくり”を知ることから人体・医療・健康への理解が深まるという視点にたって,看護の基礎となる内容をイラストと解説で見開きに収めている。特にオリジナルのイラストをすべての項目について作成し,総合的な理解に工夫を図っているが,イラストの持つ親しみやすい雰囲気は,楽しく読めるという特徴を作りだしているようだ。
 内容は,4種類の基礎知識として広くヒトを理解する分野を網羅している。「I.身体の基礎知識」は,解剖学・生理学・生化学に関連した58項目で,概要を把握しやすい解説とイラストのおかげで手持ちの教科書が理解しやすくなるであろう。「II.病気の基礎知識」では,病理学・微生物学・主要な疾病に関する初心者向けの66項目を解説しているので,看護学生が専門学習の基盤を習得しやすくなっている。「III.健康生活の基礎知識」と「IV.健康政策の基礎知識」では,健康の保持増進をめざした分野として栄養・薬・健康管理・保健・福祉・環境に関するものを,合計49項目扱っている。人々の暮らしと健康についての配慮は,看護において必要とされることなので知っておきたい要点である。

看護教育の面からも理想の教材

 看護教員の中には,学生を教えながら身体に関する基本をもっと理解しやすく解説する教材がほしいと思い続けてきた人も多いことと思う。本書は,この要望に応えることができるものと考える。著者は,身体について多面的に究め,かつ看護教育にもかかわってきており,自らその必要性を痛感して執筆にあたっていることを「まえがき」に述べていることも,これを裏づけているであろう。本来ならば,看護学生には看護の立場にたって身体を解説して,病院実習に活用できるように教育するのが理想であるが,この本にはその役割を期待できそうで,今までにないユニークな参考書なのである。
 解説には,理解しやすい例を多く取り入れて身体を身近なものとして扱っているだけでなく要点を優先させているので,この本は「わかりやすさ」を最大の特徴としてそなえている。関心に合わせて項目を選んで読めること,イラストだけでも十分に内容の把握ができること,副題を有効につけて関心と理解を図っていることなど,学生が利用しやすい構成となっていることも「わかりやすさ」につながるであろう。
 また,著者が「身近な知識が人間を総合的に理解する礎となる」と前置きをして特別に添えた「豆知識索引」は,興味を持って読みはじめる糸口であり,ゆとりを持った見方の必要性を示唆している。看護の視点から広く人間を理解し,ややもすると難解だと敬遠されがちな身体機構を理解して看護に活かすには,「学び方ナビゲーター」としてぜひ薦めたい1冊なのである。
A5・頁372 定価(本体5,600円+税)朝倉書店


《書籍紹介》

最上の編者,最上の訳者を得て伝えられるメッセージ!

看護の力 女性の力-ジョアン・アシュレイ論文・講演選集
編集:カレン・アン・ウルフ
監訳:日野原重明/翻訳:山本千紗子

 1冊の書籍は幾多の僥倖に恵まれてはじめて成就するのが常のようであるが,最近公刊された『看護の力 女性の力-ジョアン・アシュレイ論文・講演集』を読むと,特にその感を強くする。
 本書の監訳者日野原重明氏(聖路加看護大学名誉学長)によれば,ジョアン・アシュレイ(1939-1980)は,「ナースの地位獲得と人道的医療システムの達成のために予言的発言と行動に命をかけた教育家であり,社会運動家であり,フェミニストのリーダーでもあった女性」であるという。
 また,編者のウルフ教授(The MGH Institute of Health Professions)は,「老人を含む地域保健,女性問題,よきヘルスケアシステムの実現をめざすためのナースによる活動の推進に関心を持っていた方」であり,本書は生前の彼女の資料すべてを,看護史研究で有名なペンシルヴァニア大学看護学部看護資料室に保存しようと考え,全米看護連盟(NLN)から1997年に出版されたものである。

強烈な衝撃,アシュレイの言葉との出会い

 訳者の山本氏は,「初めて手にしたとき,彼女の強く訴えかける言葉に,胸が高鳴り,持つ手が震えました。誰に借り出されることもなく,図書館の棚にひっそりと眠っていたこの本との出会いの一瞬でした。25年も前に,声を大にしてはっきりと意見を述べるナースがいた。(略)さまざまな分野の学識を修めるナースがいた。そして,政治的な力を持つことの重要性を訴えるナースがいた――これらは,私にとって純粋な驚きであり,感動を覚えずにはいられない強烈な衝撃でした」と本書との出会いを語る。そして,「1人でも多くの方に,アシュレイの心からの言葉を伝えたい――という思いに突き動かされて,看護学2年目(第3年次)はその大半を,翻訳と病院実習に明け暮れました」と出版に至る動機と経緯を語る山本氏は,ご自身が,国内の大学で教育学,ペンシルヴァニア大学大学院で国際関係学を学び,さらに帰国後,子育てをしながら翻訳や英語指導に携わり,50歳を過ぎて聖路加看護大学第2年次に学士編入学した,というユニークなキャリアの持ち主である。

今なお今日的なアシュレイの主張の根幹

 「アシュレイの批判や糾弾は,25年という歳月を経て,女性を取り巻く社会状況も大きく変わったことから,時代的意味において多少異なる点もありますが,日本という社会に照らしてみた時に,彼女の主張の根幹は今なお今日的です。(略)ナースの専門性を社会に正しく認知してもらい,ナースの社会的地位を確立するには,ナース1人ひとりが自覚し,意識を高く持ち,自分の問題として考え,実現のための行動が必要でしょう。そのためには,政治的な力を増すことが必要です。情熱を持ってこれらの問題を提起し,論理的に訴えるアシュレイの叫びとも言える心の底からの言葉は,今なお新鮮で説得力があり,啓発的な力強いメッセージです(「訳者あとがき」より)」と言うように,本書は最上の編者と,最上の訳者と,そして最上の監訳者を得てはじめて誕生した書と言えよう。

B5・頁408 定価(本体2,800円+税)
日本看護協会出版会

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