医学界新聞

 

〔報告〕

ストップ児童虐待-看護からのアクション

上田礼子(沖縄県立看護大学長)


■「児童虐待」における看護職の役割

看護職の関心高い「児童虐待」

 沖縄県立看護大学の特徴の1つは,看護実践と研究教育が有機的に連携した活動を行ない,地域社会のニーズに応えることをめざして努力していることです。2000年には,大学の共同研究テーマの1つとして看護の質向上を目的とし,教員と本島内で活躍する保健医療看護関係指導者とのアクション・リサーチを開始しています。同大国際保健看護担当Beverly Henry教授が,実践現場で関心の高い問題を調べた結果,「虐待」が最も頻度が高いことがわかりました。この要望に応えるべく学内の研修,研究委員会が協力して,上記のテーマによる講演会およびアクションプランが実現しました。さる2月2日に,那覇市の同大学においてワークショップを開催し,約250人が参加しました。
 この会の趣旨は沖縄県内および国内における児童虐待に関する問題への理解を深め,保健医療福祉教育の現場においてこの問題への取組みの計画作成を看護の立場から支援し,さらに,看護教育と看護学生の立場から看護職に新しい戦略を提案することでした。
 当日のプログラムは,Henry教授による趣旨説明によって始まり,次のような構成で進行しました。第1部は,講演会:(1)沖縄における児童虐待(沖縄県立中部病院副院長 安次嶺馨),(2)看護からみた児童虐待(沖縄県コザ保健所 宮里明美),(3)児童虐待と児童相談(沖縄県中央児童相談所長 比嘉佑一郎),(4)保育所と児童虐待(那覇市立大名保育所長 金城成子)。第2部は,「児童虐待と看護教育:アクションプラン」1)小児保健看護,2)母性保健看護,3)成人保健看護,4)精神保健看護,5)地域保健看護。第3部は,児童虐待に取組む看護大学生による討論「子ども虐待について」でした。

10年間でおよそ17倍に増加

 Henry教授は,児童虐待がこの10年間でおよそ17倍にも増加していること,また,虐待を過去に受けた者が親になってから虐待する傾向にある事実を重視しなければならないこと,さらに,看護職者は病院,施設等で24時間ケアに従事し,あるいは家庭訪問によって虐待を早期に見つけやすい立場にあることなどの理由から,「この重大な社会的問題に他の専門家とともに積極的に取組むべきである」と趣旨説明を行ないました。
 医師の安次嶺氏と保健婦の宮里氏は,児童虐待を放置すれば,死に至ることもあることや,あるいは身体的,心理的外傷が残ることを報告しましたが,近年の家族への早期支援により,80-90%はリハビリが可能なことも述べました。
 比嘉氏は,虐待に早く気づくためのキーワードを5つ紹介しました。(1)虐待は,「いつでも」「どこでも」「どんな人でも」,(2)「変だな?」と思ったら虐待を疑え,(3)虐待は「白か黒」ではない,(4)「そんなはずではない」と思っていても疑ってみる,(5)発見の瞬間から援助は始まる,などでした。そして,最近の傾向として,被害者自身からの訴えが増加していることを特徴としてあげました。
 金城氏は,疑わしいケースがある場合には,「早期の発見と支援のために職員間で共通認識を持ち,対応していくことを改めて考えていくことにした」と報告しました。
 第2部では,看護教育者が,それぞれの看護領域における教育で,虐待を未然に防止する役割に重点を置いて述べ,看護職の関与を訴えました。例えば,「虐待を起こす危険性の高い子どもや家族への早期育児支援」などを教育の中で実施しているか否かを問い,さらに,「地域での親行動学習グループへの支援」など,今後の方向性にも触れました。

学生からの報告
――児童虐待について学びたい

 最も興味深い報告は学生によるものでした。10人の看護学生が今回のワークショップ運営担当の本学教員に相談しながら児童虐待に関する文献を読み,討論し,さらに,実習先の看護職者から現状の対応に関する情報を集め,看護職の役割拡大の必要性を,それぞれが自分の言葉で述べました。そして,現行のカリキュラムの中に選択科目として設定することまで提言したのです。
 学生たちは,「関心はありながらも,真剣に考える機会がなく,現状がわからないまま過ごしてきた。しかし,文献,討論,現場の看護職者からの意見を聞き,学習を通して自分たちの意識が変化し,看護職者にも役割があると考えるようになった」などと報告し,次のように結んでいます。「児童虐待においても,看護職者が1次予防に果たす役割は大きい。卒業後に現場に出てから虐待の現状を知り,学ぶのでは遅すぎる。学生時代に虐待について学び,深い知識,広い視野,適切な対応技術を身につける必要がある。看護職者は種々のライフステージの人を対象とし,疾患だけではなく全人的に捉えて対応することを特徴としている。近年クローズアップされてきた児童虐待にも,その特徴を踏まえて自ら積極的に支援していける立場にある。だからこそ,看護教育の中で児童虐待について学ぶ必要がある」と。

看護職の役割は1次予防と早期支援

 具体的にアクションプランを討論する中で,看護職は虐待の早期発見・対応だけでなく,親となる予備群としての青少年や妊婦とその家族の支援など,第1次予防と早期支援に果たす役割が大きいこと,また,看護教育の中にも,積極的に取り入れるべき内容であると認識を深めました。参加者それぞれが専門家として,次世代を育てる親,また,育てられた世代(高齢者)を世話する1人の大人として虐待予防のためにアクションを起こす必要性を確認しました。