医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


救急医学のゴールデンスタンダード

標準救急医学 第3版
日本救急医学会 監修

《書 評》明石勝也(聖マリアンナ医大教授・救急医学)

 初版からちょうど10年を経て,このたび全面改訂の第3版が刊行された。全項目について内容の見直しが図られている上に,新たな項目として「感染症」,「脳死」,「災害医療」が追加された。また心肺蘇生法については,2000年に発行されたAHA(アメリカ心臓協会)ガイドラインも取り入れられており,内容の質,量ともに第2版に比べて飛躍的な充実がみられる。執筆陣も実際に救急医療に専従する専門家がそれぞれの得意領域について分担しており,まさに日本救急医学会が総力をあげた監修と言えよう。

大変革をとげ,膨大な広がりをみせる救急医学

 日本の救急医療体制において,救急医学として対応すべき領域は,(1)救急外来を中心とした総合医学としての救急診療学,(2)救命センター,救急ICUを中心とした重症者病態とその管理,治療学,(3)プレホスピタルケアや災害医療も含めた社会医学である。
 一方,初版刊行からの10年間に救急医学・医療をとりまく環境は,阪神淡路大震災やサリン事件などの災害,救急救命士制度の発足,全国医学部・医科大学における救急医学講座の開設など,さまざまな要因により大変革をとげており,救急医学の3領域は膨大な広がりをみせている。

質,量とも充実した内容,医学生に限らず救急医療現場に常備

 本書はその膨大な領域について,要領よくまとめられている。総論的知識として救急医療システムや法的諸問題,救急診断学,必要な処置や手技,蘇生法や救急医薬品などについてわかりやすく解説されている。またショックなどの重症救急病態学や,外傷,熱傷,中毒など救急特有の傷病群については,専門性の高い最新の知見までが含まれており,充実度が高い。さらに各診療科が取り扱うような臓器別の救急病態についても,救急という時間軸の上で同列に各論としてまとめられており,実用性が高い。
 内容の質的,量的充実はすでに医学生を対象とした卒前教育用教科書のレベルを超えており,すべての救急医療の現場に備えられるべき救急医学のゴールデンスタンダードと思われる。
B5・頁624 定価(本体8,200円+税)医学書院


国内外で早期大腸癌の認識を一変,著者20年錬磨の結実

大腸内視鏡治療 Endoscopic Treatment of Neoplasms
in Colon and Rectum-New Diagnosis and New Treatment

工藤進英 著

《書 評》渡辺英伸(新潟大教授・病理学)

 『大腸内視鏡治療 Endoscopic Treatment of Neoplasms in Colon and Rectum-New Diagnosis and New Treatment』の書評原稿執筆依頼を受けて少し時間がたつ。本書著者工藤進英氏と出版元の担当者の顔を見るたびに執筆の遅延を心で詫びながら,困難さを感じてきた。それは,一病理医である筆者が「治療」という臨床医学第一線の仕事の集約点である本書を評価するという,一種の違和を感じていたからである。「病理医の立場から独自の書評を執筆せよ」と言うことであろうが,そして著者工藤氏と筆者の関係から担当者が私を指名したのであろうが,逡巡せざるを得なかったのである。しかしいったん引き受けた仕事である以上,お断りするわけにはいかない。

測り知れない腫瘍病理学への貢献

 氏は,大腸sm癌と大腸 II cの報告を「胃と腸」誌で精力的に行なった後,1993年に『早期大腸癌-平坦・陷凹型へのアプローチ』(医学書院)と,その英文版『Early Colorectal Cancer-Detection of Depressed Type of Colorectal Carcinoma』(Igaku-Shoin)を世に問うて以来,わが国だけではなく世界においても早期大腸癌をめぐる認識を大きく一変させた代表的人物である。1980年代中葉の“幻の癌”II cの相次ぐ発見と臨床上の定着は,われわれ消化器病理医の間にある種の混乱と激しい論争を巻き起こすことになった。評者は,長らくWHOの消化管腫瘍組織分類の委員長・委員を務めてきたが,細胞異型・構造異型度や浸潤の定義と判定法などをめぐり,欧米の病理医たちとの差を常に感じ続けてきており,国際的なレベルでも論陣をはってきた。とりわけ,大腸については粘膜下層に浸潤して初めて癌と認定するという,それこそ腫瘍学の本質,科学の本質からはほど遠い欧米の病理学者との論争に明け暮れてきた感がある。近年ようやく欧米の病理医も消化管腫瘍の組織学的分類の王道に立ち戻って(と念じたい),日本の主張も一部取り入れるかたちで,国際的合意形成がVienna ClassificationやIRACでの会議などを経て進みつつある(まだまだ道のりは遠い)。そのような一病理医として見た場合,本書の著者工藤氏の豊富な早期大腸癌の症例提示は,腫瘍病理学に対する貢献という意味でも測り知れないものである。まさに俊才,俊英と言うべきであろうか。

早期大腸腫瘍のpit pattern診断と拡大内視鏡検査

 本書では,発育進展をベースにした大腸腫瘍の肉眼形態分類の提唱(かつて丸山は,「肉眼形態分類試案」とすべきと記述したことがあるが,これはさておき),今や早期大腸腫瘍の診断に不可欠となったpit pattern診断の際の分類法が提示され,1990年代に発展させた氏の新しい境地とも言うべき結果が本書に示されている。評者自身には,一部異論はあるもののLSTの整理もなされている。そして,これらの新しい診断体系を踏まえた粘膜切除術を中心とする内視鏡治療の基本と具体的手技が,示されている。手技自体は,工藤らの先駆的な臨床開発も含めて,すでに以前から施行されている。したがって特に目新しいものではないにしても,巨大病変に対するpiecemeal polypectomyの手法は,臨床医にとって大いに参考になるものだろう。
 若干ここで注文を述べておくことも無駄ではあるまい。それは,工藤らの努力で普及した拡大内視鏡検査によるpit pattern診断である。その分類は,臨床家の間で現在進行形的に議論がなされている。大いなる議論を歓迎したい。他方,本書では「生検不用論」(記載の限りでは合理的ではあるが)から,ややもすれば拡大内視鏡万能論にいきかねない印象を与える表現も一部見られる。一病理医として望むことは,その議論の中で,「臨床所見と肉眼・組織病理所見との対比の中でものを視る」,「総合的診断」という観点をもっと重視してほしいことである。しかしこれらとても,全体として著者が主張する「New Diagnosis and New Treatment」への意気込みと本書の内容の高い価値をいささかも損なってはいない。本書は,刺激に富む良書である。
 このように,『大腸内視鏡治療』とタイトルは付されているものの,1993年に上梓した『早期大腸癌-平坦・陷凹型へのアプローチ』と1997年に出版した『大腸内視鏡挿入法』をより発展させるかたちで構成されていることに大きな特徴がある。まさにこの20年間にわたる発展の総括的文書とも言うべきものであろうか。臨床・病理を問わず大腸に関わるすべての方々にとって必携の一書である。たびたびあげる最初の名著の序文で,「形態学に眼を開かせて戴きさらに病理に関して御指導」という賛辞を評者は賜った。若き日の新潟大学時代の工藤氏を思い起こしつつ筆を擱く。
B5・頁180 定価(本体15,000円+税)医学書院


糖尿病患者に困った時にどうすればよいか,ズバリ即答

〈総合診療ブックス〉
糖尿病患者を外来で上手にみるための21のルール

吉岡成人,大西利明 編集

《書 評》川本龍一(町立野村病院・内科)

実践に密着した内容

 本書は,一口に言って実践に密着した内容である。テーマが具体的であり,理解しやすい。各所にあげられたケースは,われわれが現場で経験し,さまざまな思いを抱き悩まされた症例に似ている。糖尿病では,患者から多くのことを学ばされる。教科書通りにはいかない時にわれわれは悩み,文献をあさり,そして経験を積み重ねて対応してきた。従来の書物ではこのような経験があまり語られなかった。本書では,豊富な経験を有する第一線で活躍する著者らが,飾ることなく自らの失敗談や成功談を交えながら症例を提示し,困った時にはどうすればよいかなどがわかりやすく述べられている。例えば,インスリンや内服治療におけるちょっとした工夫やその原理が随所に書かれていて,改めてなるほどと納得させられる。今流行のEBMを交えた説明もみられる。

随所にカラーの文字や挿絵

 本書は,カラーの文字や挿絵が随所に挿入されており非常に読みやすいのも特徴である。一通り読み終わったら診察室の机にでも置いておき,同様の患者がきたらちょっと参考にするのもよいであろう。ただし,著者によってはかなり偏った教訓を述べている稿(例:糖尿病には食事療法と運動療法で経過をみてはいけない,速やかに薬物療法を開始することが重要)も見受けられ,それには自分なりの考えを持って解釈すべきである。ただし,そういう考え方をすべき場合も実際にはあるかも知れない。これまでの出版物とは一味違った企画での構成である。糖尿病診療に携わる人には,ぜひお勧めしたい書物である。
A5・頁224 定価(本体4,000円+税)医学書院


触診解剖学の新たな始まりを予感させる実用書

触診解剖アトラス 下肢
Serge Tixa 著/奈良 勲 監訳/川口浩太郎,金子文成,佐藤春彦,藤村昌彦 訳

《書 評》黒澤和生(国際医療福祉大助教授・理学療法学)

オステオパシーとは

 本書は,スイスのオステオパシーローザンヌ校のSerge Tixa教授が著された書籍を奈良勲先生が監訳した翻訳書である。
 Osteopathy(オステオパシー)とは,人体のホメオスタシスを増大し,自らの治癒力で病気を治していこうとする学問体系であり,手技による治療を主体とする療法である。徒手的治療手技に関心のある方であれば,マッスルエナジーや筋筋膜リリースなどは,オステオパシーの技術であるとご存じのことであろう。
 本書に書かれている内容の背後には,そうしたオステオパシーの治療上の必要性から,体表からの位置の確認だけにとどまらず,骨,筋,軟部組織などのそれぞれの組織の走行と触診の仕方を独自に積み重ねてきた歴史的な流れが息づいている。徒手的治療に興味を持っている理学療法士や作業療法士だけではなく,広く医療関連職種の方々にも臨床の現場に置いて,実際的な業務に役立ててほしい1冊である。就職して間もない頃,整形外科医のバイブル『Physical Examination of the Spine and Extremities』(Appleton)の原書を手に入れた時に大変感動し,しばらく持ち歩いていた記憶がある。本書は,そんな感動を覚えた1冊である。
 228頁より構成された本書は,385枚の写真と5つの章「股関節部」,「大腿部」,「膝関節周囲」,「下腿部」,「足関節」に分けられ,それぞれが「骨学」,「筋学(筋,腱)」,「関節学(関節および靭帯)」,「神経および血管」の項目で構成されている。

豊富な写真による触診法の親切な解説

 体表解剖学の成書や理学的所見の仕方に関する書籍ではこれまで,組織を体表から特定することを中心に説明されていたが,本書では,軟部組織をどのように触診していくかが大変親切に書かれている。筋に対しては,等尺性収縮により浮きあがらせ,靭帯,神経については伸張させる方向にストレスをかけるなど,基本的な触診の方法を一貫してわかりやすく写真を多用して示している。また,巻末の和文索引と欧文索引は,解剖学の履修や解剖学実習,触診の実習などで活用しやすいように工夫されている。詳細な解剖学を学ぶことは,医療職にとって必須であるが,実際に体表から骨,筋,軟部組織などを触診するとなると非常に難しい。理学療法士にとっても触診は大変重要な技術であり,学生時代より系統的な学習を取り入れていくことが必要である。
 本書は,理学療法士,作業療法士あるいは医療従事者にとって実用的な書となるだけでなく,卒前教育の解剖学と臨床との架け橋となる触診解剖学の新たな始まりを予感させてくれる。続編の『触診解剖アトラス-頚部,体幹,上肢』の完成が待ち遠しい。
B5・頁228 定価(本体4,800円+税)医学書院


患者の立場に立った見事な脊髄損傷入門書

脊髄損傷
日常生活における自己管理のすすめ 第2版

徳弘昭博 著

《書 評》柴崎啓一(国立療養所村山病院長)

 損傷脊髄の神経学的再建はなお困難な医学的現状にあって,脊髄損傷治療は,残存機能の可及的強化を目的としたリハビリテーションが治療の中心である。脊髄損傷の管理は,合併症予防も含めて受傷後早期には医療従事者により行なわれるが,亜急性期以降には,意欲的なリハビリテーション推進にまず患者本人の積極性が求められている。慢性期には,自己導尿などの排尿動作あるいは褥瘡好発部位の監視などの自己管理が加わり,さらに退院後の生活では,自己管理にゆだねられる動作が一層増加することになる。脊髄損傷者の自立には,好発する合併症も含めた脊髄損傷に対する当事者本人の正確な理解が必要である。インフォームド・コンセントが重視されるゆえんであるが,脊髄損傷の病態をいかに平易に本人へ説明するかが問題である。啓蒙を目的としたマニュアル作りも各施設で行なわれているはずであるが,脊髄損傷に関する医学的な諸専門的事項を簡潔に解説した啓蒙書は,きわめて少ない現状である。

きめ細かい脊髄損傷患者への指導内容

 本書は,序文に著者が示す通り,脊髄麻痺の身体に関する自己管理を目的として,患者本人を対象に書かれた書籍である。脊椎と脊髄の解剖学的基礎的事項および脊髄麻痺の概要紹介に始まり,好発する9つの合併症を平易な言葉で図を交えて解説している。中でも,呼吸障害に関する説明や骨の二次的変化に関する周到な,そして簡潔な説明は大変理解しやすい。そして本書の本題である日常生活上の自己管理に関しては,大変きめ細かく指導されている。従来はともすると簡単な説明ですまされていた排便指導の部分も含めて,随所に入れられているイラストも効果的である。ことに,いろいろの動作指導の図示は,本人および介助する家族にとってきわめて実用的である。
 本書で特に注目したのが,性機能に関して大きく取りあげた点である。従来は敬遠されがちで,われわれも患者さんへの説明を逡巡する場合もある問題であるが,オーストラリアの病院を例示しながら,性機能障害の概要を紹介している。紹介されている体験談には説得力があり,医学的な解説も男性の場合には,バイアグラの使用法に至るまで紹介されている。女性についても出産に至るまで,ていねいに紹介されている。身体能力維持のための具体的方法では,障害者スポーツの紹介も含まれており,車椅子や自助具に対する知識および家屋改造なども懇切ていねいに解説してある。社会福祉制度に関しても,いろいろな交付金から収容施設に至るまでが紹介されており,患者さんが情報を求めている諸点を網羅した著者にただただ敬服している。あえて注文をつけるとすれば,項目として社会生活あるいはスポーツの場におけるボランティアとの関わり方の一項の追加と,痙性の項目では,発現機序と治療法の解説に反射弓を示した図解がほしかった程度である。

十分配慮された患者と家族の視点

 本書の特徴は,対象をあくまで脊髄損傷者とその家族に絞っており,解説文は平易で大変理解しやすい。しかも,内容は脊髄損傷者の実生活に即しており,患者が当然抱くであろう疑問点について十分に配慮した構成となっている。海外も含めて脊髄損傷治療施設が作製したマニュアルや,筆者が当院の退院患者の互助組織が発行する機関誌に掲載した啓蒙記事と比較しても,患者の立場に立った見事な解説書である。脊髄損傷患者の治療を担当し,自己管理の推進に腐心している臨床医ならではの著作である。脊髄損傷者の社会生活上の自立度は,必ずしも残存機能の多少とは相関せず,むしろ自己管理意欲が大きく影響している。褥瘡などによる再入院例をみても,褥瘡発生率が高いと想定される車椅子スポーツ愛好者の入院例は意外に少ない。スポーツ継続意欲の高まりとともに,向上した自己管理能力の効果である。麻痺した身体の自己管理は,必ずしも特殊技能の修得を要するものではなく,麻痺に伴う身体的な弱点を認識した上で,うっかりミスを未然に防止 するなどの小さな注意の積み重ねである。脊髄麻痺の病態および好発する合併症に関する医学的事項が平易に書かれており,注意事項なども適切で,きわめて周到に紹介されている。脊髄損傷者全員に推奨するとともに,脊髄損傷入門書として医師および看護婦などのコメディカルスタッフにも一読を勧めたい1冊である。
A5・頁252 定価(本体3,400円+税)医学書院


微生物と感染症の最重要知識と治療原則がコンパクトに

一目でわかる微生物学と感染症
S.H.Gillespie, Kathleen B.Bamford 著/山本直樹,山岡昇司,堀内三吉 監訳

《書 評》畑中正一(京大名誉教授/塩野義製薬相談役)

 本書は,確かに一目で微生物学と感染症がわかるようにできている。イラストを中心にしているので見やすく,しかもわかりやすい。医学生はもちろんのこと,臨床医にも,いざという場合に,手っ取り早く診断して,適した治療の指針にもなる。感染症は早急に,的確な診断と治療が求められるからである。

見ればすぐわかる微生物と感染症の最小限の知識

 専門以外のことは,医師もすべてそらんじているわけではないが,微生物学と感染症に関して,最小限の必要な知識は,本書を見ればすぐにわかる。これが本書の持ち味と言える。看護学校の学生,ナース,コメディカルの方々にもこの程度の知識を持ち合わせていただければありがたいと思う。感染症は,医療機関につきものの病気だからである。
 現在,院内感染の問題が話題を呼んでいる。何か調べたいことがある時は,すぐに本書を開いてみよう。この中には院内感染の管理についても述べられており,具体的に,カラーの図入りで,骨や関節の感染症の場合や,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌すなわちMRSAの患者の例などが示されている。
 本書は,イギリスで出版されたものを翻訳したものであるので,抗生物質の中には日本で使われていない薬剤も載っている。しかし,類似の薬剤は臨床医にはすぐわかるから心配はない。とにかく具体的な治療法が書かれているのがありがたい。しかし実際の治療にあたっては,さらに専門的な知識を必要とすることは言うまでもない。
 本書は,微生物学と感染症の最も重要な知識と,治療の基本原則をコンパクトにまとめている。第一線の微生物学者が翻訳しているからと言えばそれまでだが,正確に訳されており,日本語として読みやすい。本書は,薄いが内容の詰まった本なので,医療に携わるすべての人の机に置いてほしい。それは,日本の患者さんのためにである。
A4変・頁136 定価(本体2,800円+税)MEDSi