医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


看護場面における人間理解のためのコンセンサスを集約

人間理解のための看護的アプローチ
小松美穂子,奥宮暁子,前田和子,堀内(巻田)ふき 著

《書 評》菱沼典子(聖路加看護大教授/看護学部長)

 平成に入ってから日本の看護教育は,急速に大学化が進行した。本書はそうした新興の大学の1つである茨城県立医療大学の創設期に,そこに集った教員が,領域を越えて学生に伝えていくべき共通点を見出そうと考え合い,コンセンサスを得られた結果である。
 新しく大学を作っていく過程で,教育内容である看護そのものについて,これだけの検討がなされたこと自体が,特筆に値することではないだろうか。著者らの大学創設への真摯な努力と熱気が伝わってくる書物である。

人間理解のための4つの概念

 本書は,看護場面における人間理解の心理社会的側面に関して,赤ちゃんからお年寄りまでに共通する視点を4つ取り上げ,その概念を解説し,さらに事例に適用してみせている。
 4つの概念とは,「自己概念」,「セルフケア」,「役割」,「ストレスとコーピング」である。この4つを抽出した過程が記されていないのは残念であるが,あらゆる看護場面に共通する人間の見方として,1つひとつが興味深い項目であり,またこの組み合わせがおもしろいと思う。
 大学における看護学教育は,各大学でさまざまな試みがなされており,定番がない現状であるが,少なくとも成長発達レベルのすべてを含むことには異論がないだろう。本書の4名の著者は,それぞれ小児看護学,母性看護学,成人看護学,老年看護学の専門家であり,どの領域でも使う概念を,豊富な幅広い年齢層の事例に適応させて解説している点で,1つの見方を学べるように工夫されている。たとえ同じ概念を使っていても,年齢別の各領域で強調点が異なるとバラバラにとらえがちなものであり,そこを原点に戻して年齢を超えた共通性を認識させることが,著者らのねらいと読み取れた。

期待されるさらなる展開

 人間の理解には,分析の過程と分析結果の統合の過程が含まれるであろう。心理社会的側面の分析に用いるこの4つの概念がどのように関係し合うのか,分析結果をどのように統合して1人の人間をみていくのかは,本書では未知数である。また,看護において人間を理解する上では,本書で焦点を当てた心理社会的側面と身体的側面との統合もぜひ試みていただきたいと,今後のさらなる展開を期待している。
A5・頁232 定価(本体2,600円+税)医学書院


小児看護のための待望のアセスメントガイド

〈最新看護ガイド〉
小児の看護アセスメント

ジョイス・エンゲル 著/塚原正人 監訳

《書 評》濱中喜代(慈恵医大助教授・看護学科)

 Joyce Engel著の『Pocket Guide to Pediatric Assessment』(Mosby)の第3版を山口大学の塚原教授が中心になって邦訳された。邦題は,『〈最新看護ガイド〉小児の看護アセスメント』である。アセスメントに関する解説書は,最近になって訳本を含め少しずつみられているものの,小児を対象としたものはこれまでほとんどみられなかった。その意味で,本書は小児看護に携わる者にとって,まさに待ち望んだ1冊と言えよう。
 本書の構成は,第1部が「健康歴のとり方」,第2部が「バイタルサインの測定」,第3部が「身体系統のアセスメント」,第4部が「一般的アセスメント」,第5部が「アセスメントの終了」となっている。原本は,その名のとおりポケットサイズであるが,日本版もA5変型サイズで292頁と手に持ちやすい大きさになっている。37点の図と57点の表がほどよく配置されており,読み手にとってたいへん理解しやすく工夫されている。

21世紀の小児看護を見据えた魅力満載の内容

 本書全体の内容の魅力や特徴について,頁を追って紹介しよう。
 第1部では,この第3版から新しく追加された子どもの家族のアセスメントに影響を及ぼす文化的な差異や,子どもと家族へのアプローチに関する情報が盛り込まれ,グローバルな視点が開かれている。また家族アセスメントでは,現在日本でも支持者の多いWrightとLeaheyによるカルガリーの家族看護アセスメントモデル(1984)が応用されており,理解が得やすい内容となっている。「家庭訪問」の章も新しく加わっており,在宅看護にも役立てることができる。
 第2部では,「バイタルサインの測定」の基本が実際的・具体的に紹介されており,活用しやすい形になっている。
 第3部の「身体系統のアセスメント」では,12系統に分けて,全体のほぼ半分の頁を使って解説しており,知りたい情報についてポイントを絞って調べるのにたいへん便利である。
 第4部では,小児の理解に欠かせない「発達」について,生後1か月から思春期後期までを10頁にわたって詳細に解説しており,何歳の子どもの発達は,どうなのかということはもちろん,子どもの発達を全体的にとらえるのに役立つ内容となっている。
 第5部は,シンプルに1頁だけであるが,第1部の最初のアセスメント開始と対応して,両親への対応の仕方や情報の整理,記録の仕方の注意点が解説され,終了時のポイントがよくわかる。
 この他に全体を通して,関連する疾患や看護診断の解説が随所に盛り込まれており,21世紀の健康問題に対処するべく看護者に求められるアセスメント能力を十分サポートしてくれる。

本書を今後いかに使いこなすかが問われる

 臨床,在宅それぞれの小児看護に携わるナースはもちろんのこと,看護教育を受ける学生にとっても本書が必携の書となることは間違いない。小児の看護アセスメントの基本を多角的に表現している本書の出版により,日本の看護教育が今まで必要性を認めながらも,実際には1歩踏み込めなかったアセスメント技能の教育の分野に光がさすことは疑いようもない。今後は,この本をいかに使いこなすかが,教育や臨床の現場にいる人々に問われることになろう。
 最後に,看護教育に多大なご理解を示され,本書の翻訳という価値あるお仕事にご尽力された塚原教授をはじめ翻訳に関係された方々に感謝を申し上げ,書評としたい。
A5変・頁292 定価(本体3,200円+税)医学書院


きわめて実践的かつ実用的な輸血医療の入門書

輸血のABC
Marcela Contreras 編集/池田久實 監訳/霜山龍志 訳

《書 評》佐川公矯(久留米大附属病院教授・臨床検査部)

 本書『輸血のABC』は,英国で輸血医療の第一線で活躍している人々によって分担執筆された『ABC of Transfusion, 3rd ed』(edited by Marcela Contreras, BMJ Books, 1998)の邦訳である。タイトルからわかるように,輸血医療の実践を学ぼうとする,英国の医師,看護職,検査技師のために編まれた入門書である。

輸血現場の要求に応え具体的にていねいに記述

 内容は,きわめて実践的かつ実用的である。理論的な説明は,むしろ意図して省略されていると思われる。「献血」から説き始めて,「輸血前の検査」,「赤血球輸血」,「血小板と白血球輸血」,「新鮮凍結血漿と血漿分画製剤の輸血」,「アルブミン投与」,「自己血輸血」,「新生児溶血性疾患の予防」,「輸血の免疫学的副作用」,「輸血の感染性副作用」,さらには「治療的アフェレシス」などまで,実際の輸血の臨床現場で必要になるであろうこと,また,疑問を抱くであろうことについて,具体的にそしてていねいに記述されている。
 カラー写真やカラーの図表が数多く,かつ適切に使われており,読者が理解しやすいように編集されている。また,本文中に適宜,重要事項を箇条書きにまとめたものが赤の囲みで示されており,読者の知識の整理に役立つよう配慮されている。時間の制約のある人は,このまとめだけ通読しても,輸血医療のおおよその流れは,把握できるであろう。
 本書は本来,英国の医師,看護職,検査技師を対象として書かれたものなので,当然のことながら英国の輸血医療体制を基盤にして記述されており,英国と日本との差異も散見されるが,訳者は,そのような英国と日本の違いについて訳者注を挿入して注意深く説明を加えているため,違和感はまったく感じられない。

さらに深まる日本の輸血医療への理解度

 日本における本書の対象読者としては,日本の輸血医療体制について基礎的な知識とある程度の実践経験を持った医師,看護職,検査技師が適当であると思う。そのような医療従事者が本書を読み進めば,英国の輸血医療事情が学べると同時に,英国と日本の違いがほとんどないことも知るであろう。またそのことを通じて,日本の輸血医療への理解度がさらに深まることになると思う。
 本書を読むことの楽しみの1つに,はたと膝を打つ記述にしばしば出会えることをつけ加えておきたい。1例をあげると,薬物摂取中の人が献血できない理由として,献血者血液中の薬物が受血者に有害な影響を与える可能性は,実際的というよりむしろ理論的な問題であり,薬物摂取は病気の存在を示すので,病気そのものが献血者を除外するのだと説明しており,言われてみればあたり前のことながら深く感心した次第である。
B5・頁120 定価(本体3,800円+税)医学書院


《新刊紹介》

JJNスペシャル No. 70
注射・点滴エラー防止
「知らなかった」ではすまない!事故防止の必須ポイント

編集:川村治子(杏林大学保健学部教授)

身についていますか?
注射・点滴事故を防ぐ最低限の知識

 看護職がかかわる医療事故の中でも,とりわけ重要なのが注射や点滴に関する事故ではないだろうか。注射・点滴は,業務の複雑さゆえに最もエラーを招きやすく,その上,エラーの結果が患者の身体に深刻な影響をもたらす可能性が高いからである。
 特に新人ナースでは,知識不足や危機意識の不足によるエラーが多く,これらは容易に重大事故につながってしまう。
 このほど医学書院から発行されたJJNスペシャルNo. 70『注射・点滴エラー防止-「知らなかった」ではすまない!事故防止の必須ポイント』は,重大な注射・点滴事故を起こさないために,ナースが最低限身につけておくべき事項をわかりやすく整理したものである。
 本書では,「口頭指示への危険な思い込み」,「内服薬の誤注入に注意」など,指示受けから実施までの各プロセスごとの留意点を示している他,「2規格ある危険な薬剤-キシロカイン2%と10%」のように,特に注意が必要な薬剤の取り扱い上のポイントなども記載し,「これだけは知っておきたい」必須知識を網羅している。
 1つひとつの項目は,設問に答える→事例に学ぶ→学びを深める→基礎知識という構成になっており,段階的な学習を可能にしている。特に事例は,膨大なヒヤリ・ハット報告の分析をもとに作成されており,現実にどのようなエラーが起こり得るかを実感することができる。
 新人および新人教育にかかわる看護職には,ぜひお勧めしたい1冊である。

AB判・2色刷・128頁・定価(2,200円+税)医学書院