医学界新聞

 

保健事業と介護保険の整合性を論議

第6回日本在宅ケア学会が開催される


 第6回日本在宅ケア学会が,さる1月26-27日の両日,大田仁史会長(茨城県立医療大)のもと,「地域を支える在宅ケアの課題と戦略」をメインテーマに,茨城県阿見町の茨城県立医療大学で開催された。
 今学会では,「退院後のリハビリテーションの重要課題」をテーマとした会長提言をはじめ,基調講演に「保健事業が在宅ケアに果たす役割」(厚生労働省健康局保健指導室 野村陽子氏)を据え,シンポジウム「保健は在宅ケアにどうかかわれるのか」に話題をつなげた。また,介護保険に独自の施策を取り入れている岩手県宮古市から,熊坂義裕市長が特別講演「保健と介護-介護保険をめぐる市政」を行なった他,パネルディスカッション「介護保険は在宅ケアをどう変えたか」が企画されるなど,在宅ケア現場での保健事業と介護保険の整合性に関する幅広い議論が交わされた。


終末期リハの提言・保健事業の役割

 大田会長は,「会長提言」と冠した講演で,廃用症候群予防の「急性期リハビリテーション(以下,リハ)」,リハ専門病棟での「回復期リハ」,社会的孤立予防の「維持期リハ」に加え,「自分の力で身を処し得ない人に対し,最期まで人間らしい姿を確保するために,医療・看護・介護の中で行なわれるリハ活動のすべて」を定義とする「終末期リハ」を提唱。その手法としては,(1)清潔の確保,(2)不動による苦痛の解除,(3)同一姿勢による廃用症候群の予防,(4)尊厳ある排泄手法の確保,などをあげた。
 基調講演を行なった野村氏は,2000年に示された「地域保健法の基本指針」に触れ,(1)介護予防対策の強化や高齢者の主体的な健康づくりを支援する,(2)介護保険被該当者への必要なニーズ把握とサービスの総合調整を行なう,(3)地域ケアのシステムづくりの推進,などが地域保健の役割であるとし,特に(3)は行政の重要な役割であると指摘。また,(1)寝たきり・閉じこもり,(2)生活習慣病,(3)支援を求めない人,(4)複数の問題を抱えた人,(5)被虐待者,などを対象者とする「訪問指導マニュアル」に基づく活動も保健婦の役割と述べるとともに,その予防の重要性を説いた。

「保健婦の役割」を論議

 一方,基調講演を受けて行なわれたシンポジウムには,鳥海房枝氏(北区特養老人ホームあじさい荘),吉永智子氏(高知県安芸保健所),廣末ゆか氏(高知県田野町保健福祉課),柳尚夫氏(大阪府池田保健所),森下浩子氏(広島国際大)が登壇(写真)。
 鳥海氏は,「120名の入居者(内106名が痴呆,平均年齢86.5歳)を有するあじさい荘は,開設当初より身体拘束をしていない施設」と強調。その上で,「保健婦は,住民が安心して寝つけ,呆け,死んでいける地域を作るために,楽しく『犯罪以外ならなんでもする』という心構えで積極的に在宅ケアに携わるべき」との考えを示した。
 吉永氏は,制度の狭間で閉じこもりとなりやすい,難病・精神・障害児(者)への支援活動を紹介。「地域の人々との触れ合い施策となった保健所と市の協働事業『めだかの学校サポート事業』には,市民の半数近い1万人の参加があった」と述べた。
 廣末氏は,65歳未満の脳卒中後遺症者による「友の会」などの障害者の会の組織づくりにかかわった経験を紹介。中学生の自発的なボランティア活動も支えとなり,その活動が「まちの家族会議」として町長への提言へとつながったことを報告した。
 精神科医である柳氏は,「地域リハの推進や公衆衛生活動の視点からの住・環境整備が,これからの保健所の役割」と強調。
 また,広島県沼隈町で在宅ケアシステムの構築に携わってきた森下氏は,「ゆりかごから墓場まで」を実践する沼隈町の保健・福祉対策を解説。その上で,「机に座り,電話を待っているだけの保健婦ではだめ。住民が納得する地域ケア確立のためには,医師と協働し仲間と手をつなぎ実践していくこと」と保健婦の課題を述べた。