医学界新聞

 

連載(25)  続・閑話休題

いまアジアでは-看護職がみたアジア

近藤麻理(兵庫県立看護大・国際地域看護)

E-mail:mari-k@dg7.so-net.ne.jp    


2471号よりつづく

【第25回】カウントダウン in NY

警戒態勢の中
2002年のカウントダウン

 2001年12月31日のニューヨーク(以下,NY)。マイナス気温の,凍える夜にタイムズスクエアに入りきれなかった群衆と私たちは,そこから数ブロック離れた大通りを彷徨していました。多くの観光客を含むその群は,規律正しく行動し,少しの混乱も起きなかったのです。やがてカウントダウンの時間が迫ると,1人の警察官が突然パトカーのマイクを取りました。そして, 「3,2,1,ハッピーニューイヤー!」
 街角で人々の歓声があがり,あちこちで抱き合って,新しい年を祝う警察官たちの歓喜している姿がありました。街には群衆の数に負けないくらいの警察官も動員されていたのです。
 NYにある日本の旅行会社の方から,「今年は日本人観光客が,例年の10分の1以下に減った」と聞きました。しかし,アメリカ国内や外国からの観光客もあり,街はいつもの年と変わることなく明るくにぎわっています。パトロール中の警察官とは,電車に乗っても,街のどこに行っても遭遇します。しっかりとした警戒態勢をとっていますから,以前訪れた頃の街とはかなり雰囲気が違っていました。

NYを愛する人たちに支えられて街は息づく

 3年ぶりで,日本から12時間の直行便で到着したJFK空港。その入国係官に,お決まりの入国の目的を聞かれ,「NY観光です」と告げた時の嬉しそうな表情と,「そうか,観光なのか。そうか。ようこそNYへ!!」と,心から歓迎しているように言った言葉が印象的でした。
 タイムズスクエアの「リンゴ」は観ることができなかったけれど,「NYへ来てくれてありがとう!」と言う,多くの人々に出会えたのです。そして,今まで短期間の観光目的での外国旅行を避けてきた自分を振り返ったのでした。その国の人々とともに暮らすことも大切かもしれないけれど,日本人として日本での生活基盤をしっかり作り,外国から日本を知りたいと訪問してくれる人たちを歓迎することが,いかに重要なことかを知ったのです。世界中から集まった人々がNYで暮らし,そこを愛する人たちに支えられて,街はきっとこれからも発展していくのでしょう。

真空地帯のような日だまり

 高層ビルからの夜景は,本当に宝石箱のように美しいものでした。そこから南の方角に目を向けると,サーチライトに浮かび上がる一角が見えます。そこは,復旧作業が24時間中行なわれている場所。そして,夜景全体からすると,とても小さな狭い範囲にすぎません。
 地上に降り,その明るい場所に近づきます。高層ビル群の中にある,その「ワールドトレードセンター」が存在していた場所は,昼間に行くと,そこだけ眩しく太陽の日が差しています。強大なツインタワーがそびえ立っていたところは,ぽっかりと静かな空間だけがあり,何もなくなっていたのです。「ぽかん」と口を開けて眺めているしかないような,そんなやりきれなさがこみ上げてきました。
 年末には,ワールドトレードセンターの跡地を見学する人のために,歩道橋のような足場が設置されていました。そしてそこには,何ブロックにも伸びた見学を待つ人たちの長い列がありました。列に並ぶ人に声をかけると,「3時間ぐらい並ばないと見られないよ」と言います。年末年始の観光客らしい人々も多くいました。
 前市長のジュリアーニ氏が,NYの観光を復興させようとテレビCMに出ているのを,繰り返し何度も見ました。ニューヨーク市庁舎は,まさに現場の目と鼻の先で,そこを訪れるジュリアーニ氏の姿が日本でも報道されていましたが,まさかこれほど近いとは思ってもいませんでした。

メディア・リテラシー

 テレビの映像は,映し出されたものが真実であるにもかかわらず,現場とテレビの前にいる私との距離感,そして現実感を失わせるのでしょうか。そこで涙する人々や,静かに祈る人々の心や感情は伝わりにくいのだと,その場に立ってみて思いました。私たちが日本に生活していて見たり聞いたりする情報は,現場の状況の一部をとらえているにすぎないとも。
 テレビや新聞などの報道による,客観性や公正さが問われている現在では,教育の中にも「メディア・リテラシー」という,メディアのあり方を通して情報社会を分析する実践が積極的に広がってきているようです。すべての現場に行くことができないのであれば,1つの出来事を理解する時に,私たちは本当に用心して慎重に情報を選び,それを理解する力をつけなくてはならないのかもしれません。そんなことを考えさせられた,NYのカウントダウンでした。


タイムズスクウェアの賑わいは,いつもと変わりなかった