医学界新聞

 

「21世紀に問う看護の倫理性」をテーマに

第21回日本看護科学学会が開催される


 第21回日本看護科学学会が,昨(2001)年12月1-2日の両日,片田範子会長(兵庫県立看護大)のもと,「21世紀に問う看護の倫理性」をメインテーマに,神戸市の神戸国際展示場,他において開催された。

初の30分演題発表セッションを実施

 今学会では,会長講演「21世紀に問う看護の倫理性」をはじめ,シンポジウム I「看護実践における倫理性-遺伝子診断・治療における看護の役割」(座長=神戸市看護大 高田早苗氏,兵庫県立看護大 内布敦子氏),同 II「看護研究の方法論と倫理」(座長=高知女子大 野嶋佐由美氏,兵庫県立看護大 近澤範子氏)の他,交流集会として(1)日本学術会議における看護学研究連絡委員会の意義と役割(運営責任者=日本赤十字看護大 樋口康子氏),(2)災害看護教育モデルの検討(同=兵庫県立看護大 山本あい子氏),(3)精神専門看護師の用いるスキル(同=熊本大病院 宇佐美しおり氏),(4)遺伝看護教育に向けての課題(同=日本遺伝子看護研究会 溝口満子氏),(5)質的研究に関する車座集会(同=信州大医療短大 麻原きよみ氏),(6)看護経済評価-看護経済研究会7年の歩みから(同=東女医大 金井Pak雅子氏),など13セッション他が行なわれた。
 また,一般演題発表は300題を数え,発表・討議形態を摸索すべく,今回初めて発表時間を30分とするセッションを企画。多くの参加者を集め,リスクマネジメントをテーマに3題の発表があった。さらに,一般市民参加型の市民フォーラム「遺伝子診断ってなんだろう?」(司会=兵庫県立看護大 野並葉子氏,講師=アイオワ大 ジャネット・ウィリアムス氏)も企画された。
 日本看護科学学会の会員は3469名(2001年9月現在)。今総会においては独立した事務所の設置や,研究論文表彰制度の創設が確認された。また,今回の評議員・理事改選により,新理事長に村嶋幸代氏(東大)が就任した(副理事長は片田氏)。

倫理的判断に必要な要素

 片田氏は会長講演で,日本における看護倫理の変遷を,保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則カリキュラム構造から考察。1947年には「看護史および看護倫理」として20時間の枠があり,1947年には30時間,1950年には「看護倫理」単独で20時間となったものの,1968年のカリキュラム改正で「看護管理」の1部として扱われるようになり,以後科目からは削除された経緯がある。その後,1997年の新カリキュラム制定により,「基本的な考え方」の項目に,「人々の多様な価値観を確認し,専門職業人としての共感的態度および倫理に基づいた行動ができる能力を養う」と定義づけていることを紹介した。また,現在は90%の学校が「看護倫理」を教えているとの調査結果を報告した上で,倫理的行為が困難になる状況について,(1)医師との関係,(2)患者への情報提供,(3)患者の思いと家族の思い,(4)看護者間の関係,(5)看護者自身の能力と業務の困難さをあげた。
 今後の課題としては,社会的状況を取り込みながらの教育や,医療者間での互いの理解が必要と指摘。また,組織としてエンパワーされた人格を育むシステムの開発の必要性を述べるとともに,日本人特有の個人と家族,双方向性の理解や,何が定着するのかなどの研究の必要性をあげた。

遺伝子診断・治療における看護職の役割

 シンポジウム I(写真)は,看護実践における倫理の問題を遺伝子診断から問い直し,遺伝子治療を受ける人々を看護専門職がどのように支えていけるのか,などについて考えることを目的に開催。シンポジストとして,武田祐子氏(慶大),安藤広子氏(岩手県立大),ウィリアムス氏(前述)が登壇。
 武田氏は,「個人の将来を予測するとともに,得られた遺伝情報は家系全体に共有されるという特殊性を持つが,遺伝子診断は100%予測できるものではない」とした上で,家族性腫瘍研究会が作成した「家族性腫瘍における遺伝子診断の研究とこれを応用した診療に関するガイドライン」から,その基本理念やインフォームドコンセント,被験者の支援体制を紹介。看護の役割は,(1)遺伝子診断が実施されている臨床に積極的にかかわる,(2)遺伝子診断実施の意思決定に至る過程を支える,(3)遺伝子診断実施後の状況を把握する,(4)診断後,医療の活用が円滑に行なえるように支援することとし,今後は遺伝学教育の充足とともに,専門的なカウンセリング技術を有する看護者による遺伝カウンセリングが必要になることを示唆した。
 また安藤氏は,出生前診断の倫理的問題に関して,(1)公正な医療へのアクセス,(2)診断法の安全性と信頼性,(3)母親の権利と胎児の権利,(4)プライバシーと守秘の観点などから考察。「看護婦は,看護ケアを提供する上で,何が行なわれたかについて,患者,専門職,雇用者,社会に対して責務がある」との見解を示した。
 一方,遺伝専門看護師であるウィリアムス氏は,国際遺伝看護協会(ISONC)による「遺伝看護実践のためのねらいと基準の声明」から,そのポイントは,「看護職は,遺伝的問題を抱えている患者の意思決定をサポートすること」にあると紹介。また,遺伝看護の実践における倫理的課題として,(1)プライバシーを守る,(2)真実を告げる,(3)害を与える可能性を避ける,などを指摘。情報はすべて患者に公開することを強調するとともに,「看護職によるサポート体制が重要」と説いた。

看護の経済評価を計るために

 一方,交流集会(10)(写真)では,「看護・医療・福祉をめぐるさまざまな変化が起こる中,理論的実証に基づく実践の中で,看護と経済の接点をさらに追究していくことは,看護としての追究に他ならない」(金井氏)との意向で開催。「看護経済研究会」メンバーである安川文朗氏(広島国際大)が,「整形外科における術後感染と入院費用の関係-入院費用増加の要因分析」を発表した他,同じくメンバーである坂梨薫氏(広島保健福祉大),水流聡子氏(広島大)らもモデル例を発表。その後,参加者間で,さまざまな立場や状況を踏まえ,看護が経済評価を受けるための,今後の展望,課題などに関する意見交換が行なわれた。