医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


パーキンソン病の実地診療・介護に役立つていねいな記述

パーキンソン病治療ハンドブック
近藤智善,作田 学,山本光利 著

《書 評》柳澤信夫(国立中部病院長寿医療研究センター・名誉院長,信大名誉教授)

状況に応じたきめこまかい治療が求められるパーキンソン病

 パーキンソン病は,脳血管障害,アルツハイマー病についで多い神経疾患である。パーキンソン病には,L-DOPAをはじめとする有効な治療薬が数種類あり,また薬では難治性の進展期の症状に対して定位脳手術や深部脳刺激法も開発されて,難治性といわれる神経変性疾患の中で際立って治療に成功した疾患である。しかし原因である黒質神経細胞の変性を阻止する手段はまだなく,そのために長期的な薬物治療に伴う薬効不安定や副作用,そして病変の進展に伴う精神症状や自律神経症状などが患者を苦しめる。そこで初期から進展期にわたり,症状,薬物効果,社会的活動など1人ひとりの状況に応じたきめこまかい治療が求められることになる。
 本書の書評にあたり長々とパーキンソン病治療の現状を述べたのは,このような治療の工夫に対して,まさに的確にわかりやすく対処の方針を決めたユニークなハンドブックであることを示すためである。本書にはいくつかの特徴がある。
 著者の3氏は,パーキンソン病の治療に異なった立場から長年携わってきた第一線の専門家である。あらゆる症状を訴えて多彩な患者が殺到する東京の大医療センター,進展期のいろいろな問題に対処する公立の高名な専門病院,難治性の患者が集まる大学病院の専門診療科と,それぞれの活動の場と微妙な質の異なる患者を診てきた3人の著者が,分担執筆ではなく,はじめから終わりまでの共著としたところに本書の第1の特徴がある。

オーダーメイド・メディシンに応える

 第2に,本書の構成がアルゴリズムに沿って記載されている点がある。パーキンソン病治療のガイドラインにアルゴリズムを取り入れたのは,米国の神経学会(American Academy of Neurology)であり,1994年,1998年そして今年2001年と3回にわたり発表されて高い評価を得たが,本書はその特色を取り入れながら,さらに治療関係者が使いやすいように工夫が加えられている。
 アルゴリズムは,「ディシジョン・ツリー」とも呼ばれ,問題解決の方法が,パーキンソン病治療でしばしば遭遇する諸問題の1つひとつに対して,関連する病態や薬への反応の有無ごとに次の設問に進み,最終的に目的とする問題解決の答えを得るものである。これは,いわば本病の治療で求められる個人ごとのオーダーメイド・メディシンの実施法を示したものと言える。本書のアルゴリズムは,初期診療の患者や家族に対する教育から始まり,長期治療の諸問題,近年注目されるようになった精神症状や自律神経症状などについてきめこまかく記載され,実施診療上きわめて使いやすいものとなっている。
 最後に,本書の末尾には,これまでに出版された各種のパーキンソン病に関する書籍,全国の主な専門診療施設,パーキンソン病友の会の住所なども記載されている。
 このように本書は従来にない形式で,実地診療の役に立つようにていねいに記述されたハンドブックであり,医師のみでなくパーキンソン病の診療・介護に携わる医療従事者に推薦できる良書である。
A5・頁232 定価(本体3,400円+税)医学書院


ADLと生活環境学のリンクを目指して

〈標準理学療法学・専門分野 全8巻〉
日常生活活動学・生活環境学

奈良 勲 監修/鶴見隆正 編集

《書 評》前田哲男(鹿児島大教授・基礎理学療法学)

理学療法士教育の質的向上へ

 2000年12月の時点で日本理学療法士協会の会員数は,約2万3千名で,2001年4月に理学療法士国家試験に合格した約5千名と未加入者を加えると,現在の日本における理学療法士数は約3万名となり,量的には充実してきている。質的にはここ数年,理学療法士による研究のレベルが飛躍的に向上した。それはいくつかの大学で理学療法士の修士課程・博士課程ができ,そこでの研究が全体のレベルを押し上げているからだと考える。
 理学療法士養成校は,いまだに急増中で養成校間の質の格差が心配である。教育の質を向上させる方法の1つとして質のよい教科書を作ることは重要である。すでに,『標準理学療法学・作業療法学シリーズ(奈良勲,鎌倉矩子監修)』として専門基礎分野の教科書が刊行されている。これは卒前教育における必修科目に加え,最近の情報についても述べられている。
 本書は,この姉妹シリーズである『標準理学療法学・専門分野(全8巻)』の1冊として出版されたものである。

生活支援の視点から編集

 本書は,「ADLと生活環境学とをリンクした教科書を目指した」と編者の鶴見隆正先生が序に書いておられるが,理学療法士が対象とする人々の生活支援に何が必要か,という視点から編集されている。
 内容は,理学療法におけるADLの位置づけ,ADLの運動学的分析・評価の実際と疾患別のADL指導,社会保障制度,バリアフリーの概念と実際,住宅改造の要点,生活を支える福祉機器など,対象者の生活を考えた幅広いものになっており,図表を多用し視覚的にわかりやすく説明している。
 本書は,従来からのADLや生活環境に関する知識だけではなく,この分野が学問として着実に進歩してきたことを認識させ,今後さらに進歩していくことを確信させるものである。
 教科書として編集されている本書であるが,内容的にはADLと生活環境学の辞書的な側面も併せ持っており,理学療法室に置いておきたい書である。
B5・頁320 定価(本体5,400円+税)医学書院


明快かつ詳細な説明が随所に,ICU必携の図書

ICUブック 第2版
Paul L. Marino 著/稲田英一,唐澤富士夫,長谷場純敬 監訳

《書 評》橋本 悟(京府医大助教授・集中治療部)

 本書『The ICU Book』は,著者であるPaul L. Marino医師自身が初版の序でも述べているように,問題志向的なアプローチで日常ICU業務を説明したものである。確かにわれわれ臨床医が常日頃抱いている臨床現場での疑問点をよくとらえており,それに回答を与えてくれそうな明快かつ詳細な説明が随所になされている。

かゆいところに手が届くような内容

 目次にならべられた項目を一見しても,そのかゆいところに手が届くような内容に博学な著者の性格がみて取れる。取り上げられた項目は,かならずしも教科書のように整然とはしていない。が,まことに実用的である。さらに特筆に値いするのは,日々の回診での経験を基にPaul L. Marino医師が1人でこの全編を書き上げた点にある。であるから,時に彼の独断と偏見とも取り得るような記述も見受けられる。しかし,そのような箇所はごく数えるほどであり,そこここに著者の自信,患者に対する誠意,ウィットにあふれ,小説を読むような感覚で各章を読み進めることができる。
 各章末の参考文献は,キーワードごとに分類されており,文献をあたる時に便利である。また,各章の冒頭に設けられた歴史上の人物の一言は含蓄に富み,また文中にちりばめられた巧みな数字によるアナロジーは,読んでいて楽しいものである。さらに付録の単位換算表,参考値,スコアリングシステム一覧,米国における医療統計なども詳細なものであり,本書はICUに必携の図書と断言できる。
 本訳書は,日本のDr. Marinoとも言える稲田英一先生らの監訳により日本語としてもこなれた文章で読むことができる。もし1つだけ注文をつけさせていただけるなら,ぜひ次の第3版は,お忙しいことは百も承知してはいるが,稲田先生お1人で稲田風味つけをした和訳本を出していただければ,より読みごたえのあるものになるのでは,と愚考する次第である。

 「学習を妨げるのは,すでに知っていると思うことである」Claude Bernard(本書137頁より)

B5・頁772 定価(本体11,000円+税)MEDSi