医学界新聞

 

NURSING LIBRARY 看護関連 書籍・雑誌紹介


キラリ輝く医療改革に向けた具体論

医療改革の工程表
DRG & ICDは急性期病院の常識

川渕孝一 監修/川渕孝一,有馬秀晃 著

《書 評》飯野奈津子(NHK解説委員)

 増え続ける医療費をどう抑制するか,質の高い医療を望む国民の声にどう応えるか。来年度に予定されている医療制度の抜本改革に向けた議論が本格化している。
 これまで,厚生労働省や各関連団体から改革案が示されているが,どれも具体性に欠け,これぞ抜本改革と思われるものが見当たらない。その中で,本書が示す医療改革の工程表はキラリと輝いている。

DRG手法をいかに医療改革に生かすか

 本書のテーマは,DRGという手法をいかに日本の医療改革に生かしていくかという点だ。DRGというと,すぐに医療費の支払い方法と結びつけて考えてしまうが,そもそも病院の運営の無駄を省いて,生産性を上げるためのマネジメント手法として開発されたものだ。患者に使ったマンパワーや薬剤,医療材料,入院日数,コストなどのデータをできるだけ多くの病院から集めて,一定の疾患ごとに分析することで,それぞれの病院の改善点を明確にすることだという。
 本書では,DRGを使って,著者が試みてきた病院ベンチマーク事業が紹介されている。病院から集めたデータをもとに,疾患ごとに患者1人あたりのコストや,死亡率や再入院率,それに入院日数などを比較して,それぞれの病院が全体の中でどの位置にあるのか,一目でわかるよう分析されている。こうした情報があれば,医療提供側みずからコスト管理や医療の質を改善するきっかけとなり,また,患者の側にも情報が提供されれば,医療機関を選択するのに大いに役立つはずである。

必要な科学的根拠に基づく病院機能分析

 今,日本の医療界に必要なのは,こうした科学的根拠に基づく病院機能の分析ではないだろうか。どの病院がどれだけの症例数をこなし,どれだけコストをかけて,どのような治療成果をあげているのか。こうした情報分析があってこそ,「医療の効率化」と「医療の質の向上」に向けた具体的な改革が進んでいくのではないだろうか。
 総論ばかりの医療制度の改革案が目立つ中で,本書がキラリと輝いているのは,改革に向けた具体論が提示されているからに違いない。医療制度改革を考える人たちや病院を経営する人たちに,ぜひ読んでほしい1冊である。
B5・頁148 定価(本体3,000円+税)医学書院


ナースとがん患者をつなぐ本

希望としてのがん看護
マーガレット・ニューマン“健康の理論”がひらくもの

遠藤惠美子 著

《書 評》小西恵美子(長野県看護大教授)

探し求めていたがん看護のバックボーン

 2001年の日本がん看護学会で,遠藤氏はたくさんのナースに囲まれていた。ナースたちの真剣な表情にはある種の焦りの色が読みとれ,それは私が長い教育研究生活から病院の看護婦に転じて間もなく抱き始めたものと重なった。その焦りとは,ナースが患者の病気の部分だけ見て,あるいは見させられていたのでは,看護はいつまでたっても医学の手伝いでしかない,という焦りである。焦る心には,求めがある。看護は,医学とは違う何かであるらしいことはすでに身をもって感じているが,どう違うのかをはっきりとつかみたい,看護としての見方で患者とかかわり,仕事に希望がほしい,そういう求めである。
 本書の著者遠藤氏もかつて,苦悩するがん患者にナースとしての手だてがないことを痛感し,患者の苦悩体験をまるごと支えることができ,同時にナース自身も成長していけるようなケアのバックボーンを探し求めていた。そして出会い,心から共鳴したのがマーガレット・ニューマンの「拡張する意識としての健康」であった。以来一貫して,その理論を柱に日本で実践し研究し,米国で開発されたニューマンの理論が日本のナースの求めに十分応えてくれるものであることを実証している。その集大成が本書である。理論(theory)は,劇場(theater)と語源が同じで,「見ること」,「見方を与えること」と言う原意があり,したがって理論とは,「現象を見るためのレンズ」であると述べ,理論への向き合い方は明快である。

ニューマン理論によるがん看護の実践

 ニューマンの理論による著者のがん看護実践では,辛いがん体験の中でも人々は成熟し成長するという事実を見逃さない。「どんなに忌まわしいがん体験も,それを意味ある体験にする力がクライアントの中にある」との信念で,その力にクライアント自身が気づくことを支援するために,ナースはクライアントとパートナーとなって,その人の人生の軌跡をなぞる手助けをする。クライアントが困難な体験の中でその力を認識した時,質的な転換,トランスフォーメーションをとげる。著者はそれを「蛹が蝶になるような」と表現し,その変容を支援するナースの仕事を「なんと光栄な仕事であろう」と讚える。このように意識が拡張していくプロセスが,がんを持つ女性(第1章),死に行く患者とその家族(第2章),患者とともにがんを体験している家族全体(第3章)に光をあてて描かれる。「がんのことよりも,自分の人生にどう向き合うかという問題のほうが,今は大切になってしまった」,「誰にもしゃべったことはありません.…ああすっきりしました」というクライアントたちの告白は感動的であり,また,遠藤氏自身がいかに優れたナースであるかのメッセージでもある。氏が同僚たちと実践するこのような看護インターベンションでは,クライアントとナースは互いに影響を与えあい変化しあうパートナーである。矢印が,ナースから患者に一方向に向かうような関係ではない。したがって,ナースも意識の拡張を経験する。
 最終章は,そのようなナースたちが主題である。付章で概説されるニューマンの理論や用語はわかりやすく,抽象的でとっつきにくいと先入観を持っていた理論,概念が生き生きとこちらに近づいてくるかのようである。本書から,患者,家族,そしてナースへの希望のメッセージを受け取りたい。
 本書を読んでより拡張された意識で,ナースたちは次の学会でもまた遠藤氏を囲むであろう。
(「看護学雑誌」第65巻第12号より再録)

A5・頁168 定価(本体2,400円+税)医学書院


病院情報システムに看護業務システムを導入する手引書

看護業務のシステム化をめざして 第2版
坂部長正,中崎啓子,竹本敬子,漆山美知代,飯吉文美子 著

《書 評》坂本すが(NTT東日本関東病院看護部長)

 『看護業務のシステム化をめざして』の第2版が出版された。本書はすでに看護職だけではなく,医療情報システムを構築する職種の人々からも高い評価を受け,病院などで医療情報システムを導入する関係者に基本文献として用いられている。
 本書の特徴は,現在は鈴鹿医療科学技術大学医用工学部医用情報工学科教授の坂部長正先生と,埼玉県立大学保健医療福祉学部看護学科教授の中崎啓子先生と,JR東京総合病院の元スタッフと,竹本敬子副看護部長をはじめとする現職スタッフとの共同作業による,医療情報学,看護情報教育,看護実践の3分野の視点から看護業務のシステムを分析している点である。システムを構築する場合に必要なバランス(システム開発の視点,看護情報学の視点,看護実践の視点)が取れた内容になっている。

具体的かつ実用的な内容

 看護情報システムを導入する場合,用語の不慣れや実践状況をシステム開発の担当者にわかってもらうことは容易ではない。その理由としては,看護職自身も不明確に業務をしていたり,理解していなかったり,フローなどの分析に慣れていないことなどがある。本書では,システム開発や導入に際して問題となることが具体的に示されている。そして,その問題を解決するにはどうすればよいかを分析し,現実に使えるように示している。長年の医療情報学会や看護情報システム研究会での討議や研究プロセスも寄与しているのだろう。
 第1章は,医療情報システムと看護情報システムの定義から現在までの流れ,第2章では,システムとは何かをあげ,基本的な理解を,第3章では,看護情報システム導入の手順と諸条件として具体的に看護部門の内外のコンフリクトがあげられ,要因,対策が述べられている。第4章には,JR東京総合病院における病院情報システムとして,同病院が医療情報システムを導入してきた経緯,現状分析やフロー調査などが区分けされ,紹介されている。看護情報システムを導入する際に,解決しておかなければならない項目を詳細かつ具体的に展開しており,今すぐからでも役立つバイブル的に使用可能な本である。システムを導入すると言っても,何から手をつけたらよいのかわからなくなるが,この本を参考にすれば,スムーズに取り組んでいけるだろう。

求められるe-Japan戦略にそった看護業務のシステム化

 ITが,急激に医療界に入ってきている。政府は「e-Japan戦略」を打ち出し,情報システムを取り入れる方針を出した。診療録の電子化も推進され,電子媒体保存も政府は許可した。看護も電子媒体保存を視野に入れた動きが始まっているが,そのためには看護情報を整理し,記録の分析・標準化に向けた体制準備をしていかなければならないだろう。
 この本は,他の本には見られない具体的な情報が多く入っており,現実的な状況がわかりやすく書かれている。ここまでリアルに書かれた本はそう多くないだろう。
 初版は1994年に発行されたが,病院のシステムのバージョンアップを機に構成を整理し,内容を充実させた今回の第2版となった。看護支援システムを導入する予定がある病院の看護職や医療情報関連の方たちに,ぜひ入門書として勧めたい1冊である。
B5・頁116 定価(本体2,800円+税)医学書院