医学界新聞

 

不慮の死とその反応から学ぶ死

第25回日本死の臨床研究会が開催される


 第25回日本死の臨床研究会が,さる11月17-18日の両日,山室誠(東北大病院),清水千世(坪井病院ホスピス)両会長のもと,「ともに生きる」をメインテーマに,仙台市の仙台市民会館で開催された。

「先生」ではなく,「さん」づけを基調に

 今学会では,梅原猛氏(国際日本文化研究センター)による「死とあの世」と題した特別講演の他,教育講演は「チーム医療における看護の専門性と生命倫理-遷延性意識障害患者の看護を通して」(筑波大 紙屋克子氏),「笑いの臨床的意義と実践」(東北大 長谷川啓三氏),「スピリチュアルケアの原理と実際」(東海大 村田久行氏)をはじめ,臨死体験研究,代替療法,芸術療法などの分野から6題が企画された。
 また,シンポジウム「不慮の死とその反応-さまざまな死に学ぶ」(司会=東北大清水哲郎氏,仙台市立病院 大坂純氏)や,パネルディスカッション「遺言・葬儀・相続-いざという時の手続き」(司会=宮城県立がんセンター 日下潔氏,同 菊地かづ子氏)。研究会恒例の事例検討は,「達成不可能な希望を持つ患者を支えること」(上尾甦生病院 佐山朋子氏),「死に直面し医療者を拒否した患者へのかかわりについて」(かとう並木内科病院 松原史子氏)など全12題を発表。テーマによっては,会場があふれるところも見受けられ,活発な意見交換が行なわれた。
 さらに特別企画として,本研究会の創設者でもある河野博臣氏(同研究会顧問/日本サイコオンコロジー学会顧問),および松岡寿夫氏(同研究会世話人代表)による対談「医者ががんになって知った,さまざまなこと」(司会=同研究会近畿支部長 西森三保子氏)が行なわれた。
 なお,いずれのセッションにおいても,「本研究会が職種や立場の違いにとらわれない,開かれた研究会であることを考え,敬称を『先生』と呼ばずに『……さん』と呼び合ってはどうか」との会長の意向を受け,「先生」ではなく「さん」づけが実施されたのが,今大会の特徴となった。

先駆者たちが考える死

 特別講演を行なった梅原氏は,2度のがんを「動物的カン」で早期発見したことを吐露し,「現在76歳。あと20年は学問研究のために時間がほしいと思っているが,死は近いと考えなければいけないだろう」と述べた。また氏は,「あの世」の話や,ニューヨークで起きた同時テロから「神と宗教」の話へ発展させるなど,その独白に近い語りは参加者を魅了した。
 また,特別企画の「対談」が行なわれた会場には,多くの参加者が詰めかけ,満席となった。同研究会の場において,すでに「生前葬」を行なっている河野氏は,研究会の創設当時の思いやがんと向き合う現在の心境を語った。また松岡氏は,がんと診断された時の思いについて,「対象喪失,抑うつ,死生観の再構築化を実感した」と述べるなど,西森氏の進行による対談は,もの静かな雰囲気の中で進められた。

「不慮の死」をめぐるさまざまな問題

 一方,家族(身近な者)が突然に遺族となる,「不慮の死」における苦しみなどを論議したシンポジウムには,東嶋和子氏(ジャーナリスト),中村安秀氏(阪大),堤邦彦氏(北里大),西田正弘氏(あしなが育英会)の4氏が登壇。
 東嶋氏は,自身が世界を取材して回った経験から,「エイズによる死は時間がかかるが,地雷による爆死は即時であり,死のとらえ方の違いを痛感した」と語り,「死は,場所によって,人によって,個々に違う。また,1人ひとりの生き方が違うように,死のとらえ方も違ってくる」と述べた。
 小児科医である中村氏は,国際的な難民援助活動をしてきた経験から,宗教,文化の違いによる死の受け止め方の違いなどについてを語った。また,エイズ遺児は,1320万人(2000年)に達している現状を報告するとともに,差別を受ける遺児の人権を守ることなどが盛りこまれた「国際エイズ宣言」(2001年6月,国連エイズ特別総会で採択)を紹介した。
 堤氏は,「救急医療における不慮の死と家族」をテーマに,その特性と対応などを精神科医としての立場から述べた。氏は,救急の場における家族のニードとして,(1)患者の状態を知りたい,(2)患者のそばにいたい,(3)感情を表出したい,(4)医療者からの受容と支持と慰め,など8項目を提示した。さらに,「医療者が癒しのつもりで家族に伝えている言葉が,当事者には逆となり,不信感を募らせる場合もある」と述べ,「対応には十分な配慮が必要」と強調した。
 西田氏は,自殺で親を亡くした高校生や大学生に対し,奨学金を貸与し経済的支援をするとともに,心のケアを行なう民間団体である「あしなが育英会」の役割や活動内容を紹介。親の突然の死に,「なぜ止められなかったのか」「自分は棄てられたのではないか」などの思いが遺児にはあるとの実情を語り,遺族ケアの重要性を訴えた。
 なお次回は,明年11月23-24日の両日,斎藤龍生(国療西群馬病院),渡辺孝子(国際医療福祉大)両会長のもと,高崎市の群馬音楽センターを主会場に開催される。