医学界新聞

 

看護技術の科学的検証と言語化をめざして

日本看護技術学会が設立される


 「日本看護技術学会」の発会式が,さる11月23日に,東京・築地の聖路加看護大において開催された。同学会は,1994年に,「日常生活行動を援助するために用いられている看護技術の科学的な裏づけをする」ことを目的に「看護技術研究会」として誕生。これまでに,さまざまな技術への疑問を提示するとともに,技術の科学的根拠を求める研究に取り組んできた。同研究会は,看護技術の根拠を求める声が大きくなってきたことを背景に,これまでの研究会活動を土台として,関心のある人たちとともに広く研究を進めたいとの意向から,「学会」としてのスタートとなった。
 同設立総会では,川島みどり氏(設立発起人代表,健和会臨床看護学研究所長)を初代理事長に選出。また,副理事長の任に就いた菱沼典子氏(同発起人代表,聖路加看護大)は学会設立に関し,「看護技術を科学的に検証し,看護職者が持っているさまざまな看護技術を,技術として言語化するとともに,受け手に提供する看護技術の原理と効果を明らかにする研究に取り組む学会にしたい」との考えを述べた。なお同設立総会において,会則等が審議されるとともに,20名の理事が選出された。


 同学会の設立総会に先立つ発会式では,川島氏による記念講演「看護技術の変遷と新たな挑戦」,および「発熱時のクーリングの是非-本学会がめざすスタイルで」をテーマとした研究発表が,櫻井利江氏(聖路加看護大大学院),松月みどり氏(日大板橋病院救命救急センター)の2氏により行なわれた。

看護技術の変遷にみる文化の違い

 看護の実践現場と研究職との連携を強調した記念講演で,川島氏は「技術と技能」に関して,技術を言語化することで知識として形づくられること,また技能は伝達不能で非言語的な「個人の技」だが,反復トレーニングをすることで修得できるものとし,「技術と技能が合併してこそ看護実践である」と定義づけた。
 また,安全性,安楽性,自立が求められてきた看護技術の変遷に関しては,その切り口を(1)人類史,(2)戦争と看護,(3)医学の進歩と医療技術の変化,(4)時代区分からの4視点からみることができるとし,「家庭看護」からはじまる歴史を,原始時代から概説した。なお,日本における変遷については,この100年を前期・後期に分けて考察。明治時代の看護教本である『看病要法』や『日赤看護人教科書』,大関和の著した『実地看護法』などの記述を提示し,清潔技術でもある「入浴」が患者にとって治療効果がみられるとの指摘があると報告した。この「入浴効果」については,第2次世界大戦後の占領下における日本の看護教育で使われた教科書『看護実習教本』の中には,その記述がほとんどなくなり,「西洋文化」との違いが如実に示されたとした。

新たな研究課題を示唆

 また川島氏は,「経験知」に関して,「対象との能動的なかかわりによって得た対象の反応と,自らの実践との因果関係を知ることを言う」として,「実践における客観的法則性」と位置づけた。さらに,新たな看護技術の研究課題として,副産物である効果の実証を含めた「全身清拭技術」や「安楽を図る技術の研究」をあげるともに,「医学の限界・無関心領域への挑戦」として,遷延性意識障害患者への意識覚醒アプローチ,痴呆性高齢者へのアプローチ,難病患者のQOL研究などをあげた。
 なお,同学会では,会員を募っている。入会金は4,000円,年会費6,000円。詳しくは下記事務局まで。また,同学会の第1回学術集会は,明年10月20日に,川島理事長を学会長に,東京・文京区の文京シビックホールで開催される。
◆連絡先:〒120-0022 東京都足立区柳原1-27-5 健和会臨床看護学研究所内 「日本看護技術学会」事務局
 TEL(03)5813-7395/FAX(03)5813-7396

【設立趣旨および学会の目的】

 21世紀を迎えた今日,少子高齢社会にあって,看護を必要とする人々は増加し,適切な看護を責任を持って提供していく看護職の責務が問われています。今日まで看護は,細かい観察と多くの工夫を重ね,人々の健康生活に貢献してきました。
 そこで,営々と積み重ねてきた看護技術について,その効果と根拠を明確に示すことが求められます。インフォームドコンセントの時代,看護の提供にあたっても,その目的,内容,効果等に関して説明する義務と責任があります。今,看護職者らが行なっているさまざまな技術について,その効果とメカニズムを科学的手法を用いて明らかにすること,また,経験的知識を発掘してその根拠を探索すること等により,さらなる看護技術の開発をめざして,本学会を設立しました。
 これらの研究活動を通して看護学の学術の発展に寄与するとともに,看護実践の向上に貢献することを目的としています。
(「日本看護技術学会」設立趣意書より)