医学界新聞

 

医学生・研修医のための
BOOK REVIEW


臨床実習でためらう学生の背中を押してくれる1冊

小児プライマリ・ケア 虎の巻
医学生・研修医実習のために

日本外来小児科学会 編

《書 評》金子 芳(東京女子医大・5年)

 臨床実習において誰もが感じることの1つに「自分はどこまで参加していいのだろうか?」という疑問があるに違いない。ましてや相手が小児だったら,保護者の方の目もあるし,一度泣かせてしまってはその後の診察で医師やコメディカルの方々に迷惑がかからないとも限らない。かわいい子どもたちを目の前にしてためらわざるを得なかった。
 『小児プライマリ・ケア 虎の巻―医学生・研修医実習のために』(日本外来小児科学会編集)は,そんな学生の背中を押してくれる1冊だ。

小児と触れあってこそ,生きた小児医療を学べる

 この本には“正常値”の類のものはおよそ載っていない。「こんなことをやってみよう。あんなことはどうだろう」と終始“提案”の形で綴られている。私が本書を手にしたのは3週間の小児科実習の2週目で,そろそろ慣れがきていたころだった。一読した時は,「どうせなら,どんな反応が正常なのかや,年齢別の目安なども載っていたら便利なのに」と思っていた。しかし,本書で最も訴えたかったのは“小児と触れあう”ことだったのではないか,とある日患者さんと遊んでいてふと気づいた。
 人見知りをする子の下腿の筋力を診たかった時,私の掌を彼の足底に置いて,ただ「蹴ってみてくれる?」というよりも,「力比べしよう。キックしてみて?」と遊び心を交えたほうがスムーズにいった。生後8か月の患児を抱っこさせてもらいながら,お母さんから人見知りの時期や,体重の増加率,離乳食の移行や,歩行までの段階などさまざまなことを教わった。いきいきとしたお母さんの話しぶりは,成書よりも確実に発達についての知識をもたらしてくれた。そう気づいた時,残りの実習期間はぐんぐん充実していった。小児は個人差が大きかったり,症状が非特異的だったりする。だから,“正常値”や疾患そのものに縛られるよりも,あらゆる経験を1つひとつ,より多く積んで体で覚えていく必要性を感じた。

学生の好奇心と知識欲を刺激

 この本の“提案”のスタンスは,読者の自主性を損なうことなく,しかしそれでいて臨床小児科医の大先輩として具体的な方法やアイデアを示してくれていることだ。小児の診察の仕方や,保護者の心配の緩和,コメディカル(特にナース)や他科との協力,臨床検査,これからの小児科の展望まで,あらゆる方面から小児医療へのアプローチがなされている。大学病院の小児科しか知らない学生にとって,病院やクリニックの記述は,プライマリ・ケアに対する好奇心や知識欲を刺激してくれる。
 『医学生・研修医実習のために』というサブタイトルがつけられているが,比較的平易な言葉で書かれ,各章ごとにポイントがまとめられ,イラストなどもふんだんに取り入れられている。小児に常に触れ合っている保育関係者や,新米ママ・パパも興味を持って読めると思う。少子化の時代である,とか,医療費削減,経営合理化,とか,なかなか厳しい現実もある。しかしその一方で,小児プライマリ・ケアの必要性は今クローズアップされている。てらいのない先駆者たちの言葉は素直に心に届き,特に医療に携わる人間には科を越え,職種を越えて間違いなく一読の価値がある。
A5・頁176 定価(本体3,000円+税)医学書院


高齢社会に不可欠な,会心の診療ノウハウ

〈総合診療ブックス〉
高齢者の外来診療で失敗しないための21の戒め

宮崎 康,佐藤元美 編集

《書 評》川村亮機(五ヶ瀬町国民健康保健病院・院長)

 私たちの身の回りにはたくさんの医学書が溢れているが,それらは臓器別に記載されている。疾病を理解するには大変便利であるが,それを目の前の患者さんに当てはめるには隔靴掻痒の感があり,なかなか明快な解決を得ることは困難であった。最近,症候から疾病に到達する解説書が散見されるようになったが,高齢者を対象とした解説書は見あたらない。このたび,医学書院から,現在の高齢化社会に鑑み,時機を得たガイドブックが出版された。
 高齢者はともすると成人の延長として診療を受けがちである。しかしながら,高齢者は加齢に伴う生体変化と人生経験に基づいた自己の疾病概念(解釈モデル)を持っている。したがって,本書ではまず冒頭で「身近で良質な医療を提供するためのヒント21」をテーマに対談が組まれており,高齢者を中心に据えた総合診療の役目を詳述している。次いで,高齢者特有の症候・精神・身体所見を項目別に挙げ,それぞれに相当する具体的な実例を失敗例を含めて提示し,それを出発点としてわかりやすく印象づけるよう工夫され,項目の理解ができるようになっている。

QOLを重点目標とし,高齢者医療で最も大切な要素を示す

 各項目ごとの見出しにある「知っていますか? 高齢者外来の基礎知識」と「高齢者外来の質を高める」は,それぞれの症候・疾病のポイントを簡潔にまとめてあり利用しやすい。その項目は,高齢者診察の基本,コミュニケーション技法をはじめとして,薬物療法の基本,手術の適応の考え方が解説されている。また,症候にあたる項目では,食欲低下,嚥下障害,貧血,息苦しさ,胸痛,黄疸,急性腹症,転倒,腰痛,手足のシビレや歩行障害,尿閉,痴呆とうつ病,など高齢者特有の症候を詳細に分析し,対処方法を詳述している。さらに疾患では,生活習慣病,多臓器に障害が出る疾患や女性のエストロゲン欠乏症,感染症などが述べられている。また,生活習慣とその改善方法の具体的なノウハウが記載され,わかりやすい。これらはすべて患者さんのQOLを重点目標とするよう配慮されており,高齢者の医療では最も大切な要素である。
 本書は特に高齢者医療の第一線で働く医療者,総合診療医,研修医,僻地診療所で働く医師,看護婦,当直医などには欠かせない座右の書である。
A5・頁208 定価(本体4,000円+税)医学書院


基本技能だからこそしっかり身につけたい

レジデント臨床基本技能イラストレイテッド
第2版
 小泉俊三,川越正平,川畑雅照 編集

《書 評》田井綾子(東京厚生年金病院・研修医)

 『レジデント臨床基本技能イラストレイテッド第2版』の書評を頼まれたのですが,どのように書けばよいのか検討がつかず,私の言葉で表現させていただきます。

経験がなく不安な研修医を助ける

 まず,この本は研修医が一番不安であり,苦手としている実践手技について書かれています。もちろん単に文章のみでなくイラストつきであり,経験のない私たち研修医にとっては理解しやすい形となっています。
 さらに研修医として気になるのは,他の研修医がどの時点でこれらの手技をマスターしていくのかという点ですが,「Grade」と「必要経験症例数」でひと目でわかるように表わされています。
 他にも,“研修医メモ”“研修医ガイダンス”で,研修医がポイントとすべき点も挙げられ,さらに“後輩へのプレゼント”には先輩からのメッセージが込められています。特にこれらの文章が,実際の臨床現場の指導医の先生方によって書かれているので,大変わかりやすく,また研修医が陥りそうな危険性等についても書かれており,読みやすい手引書です。
 臨床現場で,1つひとつの基本技能をする前に,一読することをお勧めいたします。また,基本技能だからこそ,しっかり身につけたいと思っている研修医のために,ぜひ紹介させていただきたいと思います。
 雑文ではございますが,最後に私自身,研修医として今まで口頭で学んできた事柄をこの本で再チェックをしてみて,いかに自分が理解していなかったかを反省している次第です。研修後期の先生方も一度参照されてみてはいかがでしょうか。
B5・頁240 定価(本体4,500円+税)医学書院