医学界新聞

 

MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内


周産期医療現場での格好のマニュアル

〈Ladies Medicine Today シリーズ〉
臨床医のための周産期検査マニュアル
データの読み方から評価まで

岡井 崇 編集

《書 評》武谷雄二(東大教授・産婦人科学)

 診断学の要諦は,個々の状況に応じて過不足なく諸検査を駆使し,正確な診断に至ることである。周産期医療においても同様のことが言えるが,それに加えるに母児を対象とする固有の検査診断法が存在する。また一般診療において行なわれる検査であっても,妊婦に特有な生理的変化を考慮した解釈が必要となり,さらに妊婦に禁忌な検査法もある。したがって,周産期医療の検査診断法は,他科とは異なった独自の検査法ならびに診断技法が必要となる。

熟慮された企画編集内容

 これまで,周産期医学に関する数多くの成書が刊行されているが,検査・診断法に焦点をあてた解説書は希少と言える。一方,現実の診療では問診に引き続き,まずいかなる検査を選択するかが大切であり,確定診断を得るか否かは,適切な検査を行なったか否かによって決まるといっても過言ではない。その点で,特にプラクティカル・メディスンの立場からみると,本書は大変熟慮されて企画編集されていると言える。
 本書の構成として前半では,妊婦・新生児を対象とした各種検査法の意義やその解釈が妊婦特有の生理との関連で平易に解説されている。さらに妊娠週数に応じた検査値の変動なども示されており,いわゆる“データ・ブック”としての利用性もあわせもっている。このように前半の部分は,いわば周産期診療への横断的アプローチと言える。

検査法の位置づけと利用法が多面的に

 本書の後半の部分は,各種産科合併症や妊産婦の偶発合併症,母子感染症など妊産婦における諸疾患や病態における検査手順や実地診療を想定したかたちで縦断的かつ網羅的に説明している。前半の部分とあわせて周産期医療の検査法の位置づけと利用法が多面的に巧みに述べられている。臨床の現場でのマニュアルとしての活用はもちろんのこと,1つの成書として通読しても興味がそそられるものである。
 本書の執筆陣は,いずれも当該領域を代表される方々が名を連ねており,現在ほぼコンセンサスが得られている事項が細大もらさず紹介されており,不偏的かつオーソドックスなマニュアルと言える。周産期医療に携わる医師,助産婦,看護婦(士),検査技師など多くの方が診療の現場で適宜利用していただく格好のマニュアルであるとともに,看護や助産婦の教材としても利用価値が高いものと考えられる。
B5・頁240 定価(本体6,800円+税)医学書院


期待される標準化された治療・管理による成績の向上

重症頭部外傷治療・管理のガイドライン
日本神経外傷学会 編集

《書 評》中村紀夫(慈恵医大名誉教授)

 あれは,何年前のことだったか。親しい脳神経外科の後輩から,「先生,日本外傷学会で胸部外傷・腹部外傷を対象に臨床用のガイドラインを作っているのですが,しばしば合併して重症になる頭部外傷について一言入らないと具合が悪いと言っています。神経外傷ガイドラインはできませんか?」と提案された。この時,私はハッと胸を突かれる思いがした。
 神経外傷ガイドラインの編集は,「脳神経外科だけに必要な問題ではないのだ」,と。しかし私は常日頃,脳神経外科医は誰でも頭部外傷を勉強し経験してはいるが,それは脳腫瘍・脳卒中などと平行して頭部外傷に対処しているということであって,神経外傷関連の病態そのものを中心テーマに研究しているneurotraumatologistは,はなはだ少ないと思ってきた。そのような意味で,いわゆる知名の脳神経外科の大家にお願いして頭部外傷ガイドラインを編集した場合に,エビデンスと経験論とが混在してしまうことをおそれ,この提案はそのままになっていた。

最高の内容を持ったガイドライン

 しかしそうこうするうちに,オーストラリア(1992年),米国(1995年),ヨーロッパ(1997年)においてガイドラインが発表され,お隣の台湾でもそのためのデータバンクが進められる機運になり,日本神経外傷学会においても重症頭部外傷に対するデータバンクシステムの研究とガイドラインの新設とが提案された。
 そこで,重症頭部外傷治療・管理のガイドライン作成委員会の委員長として,現在この方面で押しも押されもせぬ第一人者である山浦晶・重森稔両教授が総括し,6名の有力脳神経外科教授が補助し,頭部外傷の臨床・研究について,特に造詣が深いと衆目の一致している第一線の教授・助教授・講師・部長12名が,多彩な項目を分担して執筆してくださることになった。でき上がった本書は,現在望み得る最高の内容を持ったガイドラインと期待できる。
 ガイドラインの利用に当たっては,重症頭部外傷に取り組む第一線の脳神経外科医,救急医とともに一般医,看護婦,救急救命士などにも理解しやすいように配慮してある。
 記載項目を列挙すると,次のようになる。
 「救急医療体制と脳神経外科(医)」,「脳保護のための初期治療」,「救急室からICU入室まで」,「ICU管理」,「手術適応とタイミング,手術療法」,「頭蓋顔面損傷への対処」,「新しい治療・管理法」,「小児と高齢者に対する治療,管理」である。
 本書を通覧してこれはよいと感じる特徴を2,3あげよう。
 見出しの字の大きさ・太さ・線引き,小見出しの枠づけ・ナンバーなどがいずれも工夫されていて見やすい。
 文章はできるだけ箇条書きで読みやすく,また文言の信頼度に従って,「望ましい」,「が多い」,「の傾向である」,などと表現を変えている。
 グラスゴーおよび日本式のコーマスケールを並べて表示してあり,内容を理解しやすい。
 後に26頁にわたって文献が載っている。この書の重みを感じさせ,また,読む側に好都合でもある。

常時ポケットに

 最後に,50頁の雑誌になるほどの内容を持つ1冊を,薄い110頁ほどの小冊子で胸ポケットに入る常時携帯可能にした発案は,誠に感服の至りとしか申し上げようがない最大の利点である。
 今後の本書の展開について,医学医療の発展とともに改訂されるとしているが,改訂によって冗長にならないことを熱望し,重症頭部外傷患者に少しでも関与する医師,コメディカルの方々が本書を熟読し,携帯してくださることを心からお勧めする。
三五変・頁112 定価(本体1,800円+税)医学書院


貴重な眼病理学の知識の共有を実現した名著

眼の組織・病理アトラス
猪俣 孟,他 著

《書 評》西田輝夫(山口大教授・眼科学)

 正常組織の形や動きとともに,病的な状態での形態や機能の変化を知ることは,診断と治療の出発点となります。その意味で病理学は,私たち臨床医にとってきわめて大切なものですが,残念ながら眼科領域では,生検材料や剖検材料がなかなか手に入らず,十分な情報を自分では手に入れられないのが現状です。

見事な文章とともに生きる九大眼科学教室の知恵

 猪俣孟教授は,九州大学医学部眼科学教室の伝統を継承され,わが国での眼病理学の領域を永年にわたってリードされてきました。このたびご退官されるのを機会に,1986年以来14年余りにわたり毎月,雑誌「臨床眼科」に掲載されてきた連載「眼の組織・病理アトラス」を立派な1冊の本にまとめあげられました。本書では,見開き2頁に1つの項目が見事にまとめられています。1冊の書物を最初の頁から通読することも大切ですが,興味ある部分から,あるいは日常診療で疑問に思ったところだけを読む,拾い読みも大切です。本書では,貴重な症例の写真を交えながら,光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡レベルでの代表的な美しい写真とともに明解で要領を得た記載により,1つひとつのトピックスについて学ぶことができます。簡潔な記述の中に大切な情報がすべて凝縮している,内容のきわめて濃いものです。九州大学医学部眼科学教室の永年の知恵が,篤学の猪俣教授による見事な文章とともにいきいきと生きていることを読者は感じられるでしょう。また,病理を理解するために必要な正常構造の記載にも多くの頁を割かれています。眼底検査や細隙灯顕微鏡検査により,私たち眼科医が毎日目にする病変の裏に,このようなミクロの世界の変化があることを学ぶことで,日々の診療がより深く楽しいものになることと思います。
 情報化時代の現代,病理組織を得にくい眼科領域でこそ経験や知識を共有することの重要性は議論の余地がありません。また,遺伝情報の科学がいちじるしい進歩を見せるゲノムの時代だからこそ,細胞・組織レベルでどのような変化を示しているのかを知ることの重要性がかえって増しているのではないかと考えます。このような時に,1冊の書物として刊行された猪俣孟教授の『眼の組織・病理アトラス』は,わが国における貴重な眼病理学の知識の共有を実現した名著であり,今後長く標準的な教科書となることは疑いもありません。
B5・頁384 定価(本体28,000円+税)医学書院


臨床に則した実践的内容の微生物学入門書

〈臨床検査技術学 全17巻〉
12 微生物学・臨床微生物学 第2版

菅野剛史,松田信義 編集/賀来満夫,他 著

《書 評》木下承晧(神大附属病院・中央検査部)

多様化した感染症

 わが国の感染症は,1999年4月に「感染症の予防および感染症の患者に対する医療に関する法律」(感染症新法)が施行されたように,非常に多様化している。病原微生物に対する抗菌薬療法は,コレラやチフスなどの体外性の感染症を減少させたが,これらの繁用や医療技術の進歩から常在および環境微生物による感染症を増加させた。ペニシリン使用からすでに半世紀以上を過ぎ,MRSAやPRSP(ペニシリン耐性肺炎球菌)など,多くの耐性菌を生じ,新しい感染症対策が求められている。
 微生物学検査は,臨床から感染症新法の新興・再興感染症,易感染者の感染発症,薬剤耐性菌,院内感染および細菌以外のウイルス・真菌・原虫などの幅広い分野と迅速性を要求されており,その対応を急ぐ必要がある。事実,病院などの医療機関では,細菌検査から微生物検査や感染症検査へ組織を変えたり,院内感染を制御しようという考えから感染制御検査の構築を進めている施設もある。
 このような中で,今回『臨床検査技術学・c02d・微生物学・臨床微生物学』の改訂が行なわれた。執筆には,検査部や臨床の第一線で活躍中の先生方が携わっておられる。本書は,臨床に則した実践的な内容であり,臨床検査学生のみならず,医学生,看護学生などの初めての微生物学入門書として推薦できる。

検査室に常備したい1冊

 本書は,「微生物学」,「臨床微生物学」,「実習」の3部で構成されており,原生生物を除く,細菌,ウイルスおよび真菌について基礎,臨床,検査法を明快に解説している。「微生物学」は,基礎的な各微生物の分類,遺伝子,代謝などの内容に加えて,従来の成書では手薄であった化学療法薬の種類,耐性および薬剤感受性が充実している。
 「臨床微生物学」は,臨床的に有用な細菌を中心に述べられており,生化学的性状が簡便に整理されている。各菌種ごとに示されている病原性や病原因子,抗菌薬の感受性・耐性頻度および診断法などは,分離菌の重要性や患者病態との関連を考える上でも有用である。臨床ウイルス学および臨床真菌学は,多くの医療機関でまだ十分な対応が行なわれていない中で,多くの図表を明記し,その解説,培養同定法,診断がていねいにまとめられている。
 「実習」は,病院検査室で実際に実施されている細菌検査に沿った形で進められており,微生物実習では微生物を取り扱う時のバイオハザード(業務感染防止)対策,染色,培地作成方法が記され,われわれがつい疎かにしてしまう菌株の管理や保存方法が述べられている。臨床微生物実習では材料別検査の進め方と分離菌の考え方および報告の方法について詳細に示しながら,同定に必要な形態・生化学的検査,免疫学的検査,PCR法などの分子生物学的検査,同定キットなど,最新の内容が解説されている。また,感受性検査の標準法,耐性菌の検索などの検査対応が必要な事項についても示されている。
 最近,病院などの医療機関では,検査室の再編や検査部内ローテーションなどを行なうことも多くなっている。他部門から新たに微生物検査を担当することになった技師諸氏の検査書としても高く評価でき,検査室にぜひ1冊は常備したいものである。
B5・頁424 定価(本体6,000円+税)医学書院


全人的診療能力向上のための問診技法を伝授

15分間の問診技法 日常診療に活かすサイコセラピー
Marian R. Stuart, Joseph A. Lieberman III 著
玉田太朗 監訳/佐々木将人,玉田太朗,玉田 寛 訳

《書 評》桂 戴作(LCCストレス医学研究所)

認められてきた全人的医療の重要性

 今回の医師法の改正で,厚労省は医療従事者の“全人的診療能力の向上”を指示しているが,全人的医療の重要性が認められてきたということであろう。しかし,学生時代にそのような教育を受けてない一般医師にとっては,具体的にはわかりにくい面もあるかもしれない。
 患者の心が和んで,不安やうつ気分が解消されるならば,いろいろな病気はよい方向に向くものであり,患者の心に配慮することはプライマリ・ケアにとってはかなり大事なことである。
 ちょうどそのような医療状況下に,本書は刊行されたのであって,時宜を得た出版と思うところである。
 監訳されたのは,自治医科大学名誉教授の玉田太朗先生であるが,学生たちに全人的医療の講義をするための教科書探しをされていて,この本を見つけられたとのことである。いわゆる心理療法の本と言うよりは,全人的医療の本と言ったほうがよいのかもしれない。
 全体の流れが,どのように質問し,どのように応答すれば,患者さんはどのように感じどのように安心するか,と言うようなことが多くの例を引いて説かれていて,本書のとおりに対応すれは,結果として全人的医療になるように配慮されている。
 その中でもBATHE法の項には,特に心惹かれた。Bは背景backgroundであり,「あなたの生活に何が起こっていますか」という質問に代表される。Aは感情affect,「それについて,あなたはどう感じていますか」,Tは悩みtrouble,「一番悩んでいることは何ですか」,Hは処理handling,「それをどう処理していますか」,そしてEは共感empathyであり,「それは大変難しい状況でしょうね」と応答し,患者の反応を正当化するものである。結果として共感したことになり,患者の気持ちを安心に導くように構成されていて,その全人的配慮は見事である。
 紹介したいところは多いが,紙数がないので最後の頁だけ少し触れておきたい。
 ここはもう付録であるが,いつでも使える“12のよい質問”と“3つのよい応え方”が示されている。交流分析的にみると,質問は相手のAとFCの自我状態の助長に役立つし,応え方は受容・共感の実践であり,相手にストローク(よろこび)をあたえるものである。
 Aは成人の自我状態-良識のある平静な判断のできる傾向,FCは自由な子どもの自我状態-自分の思いを自由に表現できる傾向を意味しているが,一般にA,FCの高い状態は心身症にはなりにくいものである。
 また,ストロークの交換が人間関係をよくすることは,よく知られたところである。
 したがって,これらの対応はそのまま患者の心を安定させる全人的対応であって,本書のエキスでもあろうが,大いに参考となった。

患者さんの心への最もよい対し方

 当然のことながら,患者さんは心のある人である。その心への最もよい対し方-それを全人的医療と考えたいのであるが-について,本書は実践的,具体的な手引き書となるであろう。
 しかしそれは,心身医学会,心療内科学会の理事,ことに女性心身医学会では理事長の立場にあられる玉田先生の心身医学に対する姿勢によるものかもしれない。
 われわれは,精神疾患患者を診るわけではない。また心理士の行なうカウンセリングだけをやるわけでもない。いわば心身相関の臨床を行なうのであって,その大部分が全人的医療であると主張されているように思う。筆者もそれに同感するものである。
 一般科のわれわれが,自分の臨床をよいものにしようと思うならば,本書にお目通しいただき,いささかの全人的医療の体験をしてほしい。必ずご自分の臨床に満足いただけると思い,ここに推薦する次第である。
A5・頁280 定価(本体3,000円+税)医学書院


無駄な記述をそぎおとした入院神経内科学

MGH神経内科ハンドブック
Alice W. Flaherty 著/服部孝道,福武敏夫 監訳

《書 評》秋口一郎(康正会武田病院神経脳血管センター長・ウイーン大学客員教授)

 本書の特徴は,その前書きにも記されているように以下のようにまとめられていることにある。第1に,能率的な診断と治療のためのレジメとアルゴリズム的記述。第2に入門書ではなく,医師に忙しい臨床場面で,すでに学んだことのある診断や処置の要点を喚起させることを目的としていること。第3に従来の臨床病理連関重視の記述でなく,臨床検査・神経放射線重視の診断学や投薬処置についての具体的な記述とそれらに関する的確な図表やレジメの採用である。

ユニークな項目の設定と実践的なレジメ

 また,何よりもこの本の目次から明らかなように,項目の設定が実にユニークである(「I.入院時診察」,「II.成人神経学」,「III.小児神経学」,「IV.薬物」,「V.画像」,「VI.内科疾患」,「VII.処置」)。しかし,この一見,脈絡なくならんでいるようにみえる項目は,実はこの本がいかに従来の冗長で無駄な記述をそぎおとし,実践的なレジメ作りに徹しているかを物語っている。他にもMRIとCTの使い分けについての記述が実に的確であるし,実践的薬物学に関する多くのレジメや表,また,電解質・内分泌異常,心生命維持のためのプロトコールやフローチャートもユニークで有用である。
 神経内科ほど多くの顔を持つ科は他にない。それらは,(1)中核領域である神経難病・痴呆疾患など,(2)主に入院神経内科を形成する神経学的緊急症や脳卒中など,(3)主に外来神経内科を形成する慢性頭痛・疼痛や軽症脳血管障害・パーキンソン病など多岐にわたる。日本ではまた,精神神経疾患の領域も外来神経内科患者の多くを占める。これからの神経内科学書は,これらの全体を単に網羅するのでなく,何らかの焦点や特色を持った教科書が要求される。本書は,主に入院神経内科学を標的とした実践的な教科書としてきわめて優れている。多くの神経内科医,神経内科関連医がこの書を読まれることを望む。
B6変・頁288 定価(本体3,800円+税)MEDSi